ウォルフラムを倒した巧は変身を解き、今にも倒れそうな緑谷を支える。
「大丈夫か?」
「うん。やっぱり、たっくんはすごいや...」
「デク君!」
「メリッサさん...!」
その直後、メリッサがデヴィットを抱えながら駆け寄ってくる。メリッサは緑谷の安否を確認すると笑顔になった。
「君たちのおかげだ.....。まさか、ケイタロウとマリの発明品によって救われるとは、最後の最後まで敵わないな...」
デヴィットは空を見つめながらそう呟く。そんな中、オールマイトが煙の中から現れる。しかも半分トゥルーフォームになっていた。デヴィットはメリッサから離れると足を引き摺りながらオールマイトに近づく。
「オールマイト....私は、君という光を失うのが、築き上げた平和が崩れていくのが怖かった。だが私の考えも、あの装置も、所詮は現状維持の産物でしかない。未来が、希望が、すぐそこにあるというのに、私はそれに気づかなかった....。メリッサが、私の後を継ごうとしているように、ミドリヤ・イズク...彼が、君の跡を継ぐ者なんだな」
「まだまだ未熟さ。しかし、彼は誰よりもヒーローとして輝ける可能性を秘めている」
「私にも見えるよ、トシ...。君と同じ光が、ヒーローの輝きが....」
その時、戦いの終わりを告げるように朝日が登り始める。その輝きに照らされた少年少女たちは未来をつなぐ平和となるのだ。
「おい勝己!テメェ勝手に俺のベルト盗みやがって!ぶっ飛ばすぞゴラァ!」
「ああ!?上等だコラァ!」
「みんな二人を止めろー!!」
●●●
若きヒーローたちによって事件が解決し、巧たちは日本に帰国した。巧はやっと家に帰り、ベッドで横になっていた。あの時は80階の高さから落ちたり、超高速で走ったりと普通に生きていれば中々体験できないようなことを体験した。林間合宿まであともう少し、巧は重たい体を起こしてCDプレイヤーに音楽をかけた。流れる曲は夏に相応しい曲。The Beach BoysのGood Vibrationだ。巧はこの曲を聴きながら目を瞑ると自分がビーチでくつろいでいる光景が浮かぶ。なんとも気持ちが良く、リラックスできる。しばらくこの状態でいると、突然電話がかかってきた。一体なんだと気分を害した巧だったが、音楽を止めて取り敢えずスマホをとり、誰が来たのかと見てみると耳朗からだった。巧はこの前耳朗と電話番号を教え合っていたのだ。
「なんだ?」
『あ、乾?あのさ....ウチの家来てくんない?』
電話の向こうで妙に恥ずかしそうに話す耳朗に巧は少し怪しみながらも話を聞く。
「急になんだ?」
『いやぁ、なんというか....その....退屈でさ。その......わかるでしょ?』
「......」
巧は耳朗が何を言いたいのかはわからないが、巧としても少し暇を持て余しているので行くことにした。
「わかった」
●●●
オートバジンで耳朗の家に向かい、家の前に着くと玄関の前に耳朗が立っていた。
「なんでお前そこにいるんだ?」
「連れてって欲しいとこがあるから」
「は?」
耳朗はそう言ってヘルメットを被り、オートバシンの後ろに乗る。
「案内するから。早く行って」
「はあ?」
「いいから早く!」
耳朗に急かされ、巧は仕方なく耳朗の案内の元、オートバジンを発進させた。しばらく道路を走っている内にいつのまにか人気の少ない路地に来た。その路地はどこかレトロな雰囲気が残っており、まるでその時代にタイムスリップでもしたかのようだった。
「あ、ここで止めて」
耳朗に言われ、巧は停車する。その場所は看板のない小さな喫茶店だった。巧はオートバジンを喫茶店の側に停める。耳朗はオートバジンから降りると、喫茶店の扉を開けた。
「こんにちは、おじさん」
「ん?ああ、久しぶりお嬢ちゃん....と、もしかして彼氏君かな?」
喫茶店の店主は今コーヒー豆を挽いている最中だった。店主は耳朗の他に巧の方を見て、冗談混じりに答える。
「は!?いやいや違う違う!ただの音楽仲間だし!」
わかりやすいほどに動揺する耳朗に喫茶店の店主は微笑む。巧は喫茶店の中に入るとその中は物静かな雰囲気で、客は巧と耳朗以外は居ない。コーヒーの香りがほのかに香ってくる。店主がコーヒー豆を挽く音もなんとも心地よかった。しかも今の時代にまだ残っているのかもわからないジュークボックスがあった。
「お前ら、知り合いなのか?」
「うん、この人はウチの父さんの高校の時の友達なんだ。ここの喫茶店を経営してるの」
「誰もいねぇけど、いつも暇してんのか?」
「ああ、いつも暇だよ。だけどそれがここの魅力だ」
店主はコーヒー豆を挽きながら答える。すると耳朗は店主にあること聞いた。
「ねぇおじさん。今日もいい?」
「ああ、いいよ」
そういうと店主は懐から鍵を取り出し、耳朗に渡す。
「ありがとうおじさん!乾早く来て!」
耳朗はカウンターの中に入り、そばにあった扉に鍵を差し込み中に入って行った。巧は耳朗について行かずにただここに立ち尽くす。店主は黙ってコーヒー豆を挽いている。
「なぁ、アレまだ動くのか?」
巧はジュークボックスに指差すと店主はその方を見る。
「まだ動くよ」
「マジか....」
巧はまだあのジュークボックスが動くことに驚く。巧は昔こういうレトロなものに憧れていた時期があった。初めての、しかもまだ動くジュークボックスを見て巧は少し感動を覚えていた。巧はこのレトロな雰囲気が気に入り始めていた。
「ちょっと乾!早く来てよ!」
扉から耳朗が顔を出し、早く来るように急かす。巧はもう少しこの感覚に浸っていたかったが、仕方なく耳朗について行くことにした。扉を開けると目の前に階段があった。しかも下りであり、地下に続いている。さっきのレトロな雰囲気とは打って変わって少し不気味な雰囲気が漂っていた。巧はゆっくりと階段を降り、階段の一番下にある重い扉をゆっくりと開けた。
「うお....!」
扉を開けた先には沢山のギターやドラム、アルバムなど、ロックに関する様々なものがあった。巧は辺りを見渡すとKing CrimsonやBlack Sabbath,The Kinksなどがあった。部屋もかなり広く、まさか小さな喫茶店こんなに広い地下室があるとは巧は思いもしなかった。
「ここは元々地下ライブをやってたところなんだけど、おじさんがここを買い取って喫茶店にしたんだって」
どうりでこんなに広い地下室があるのかと納得する巧。すると耳朗あるところを指差した。
「ねぇ見て見て!このギター!」
巧は耳朗が指差すところに目をやるとガラスケースに入れられたエレキギターが飾ってあった。巧はよく見える位置まで近づき、そのエレキギターを見る。
「これね、ブライアン・メイとそのお父さんが自作した"レッド・スペシャル"と全く同じメロディを出せるんだ!」
「スゲェ....!」
「しかもしかも!クイーンのサイン入り!四人ともある!」
Brian MayのギターであるRed Specialはシンセサイザーを使用していないのにも関わらず、まるでシンセサイザーを使ったかのようなメロディを奏でることができる。まさに世界に一つだけのギターが存在するのだが、それを完全再現したギターが存在するとは巧も思っても見なかった。しかも、Freddie Mercury, Brian May, John Deacon, Roger Taylorの本人サイン入りのギターだ。巧はそのギターを見て今までに無いほどに目を輝かせていた。
(乾、こんな顔するんだ....)
耳朗はいつも顰めっ面の顔しか見ていなかったが、まるで少年のような顔をしている巧の顔に少し見惚れていた。
「このギター、あの店主が作ったのか?」
「うん。ブライアン・メイのギターソロを何度も聴いて10年ぐらいかけて作ったんだって。父さんもおじさんに何度も押しかけて『いくらでもやるから売ってくれー!』って言ってるみたい。今もらしいけど」
巧は響徳の気持ちがわかった。もし自分も同じ立場だったら必ず手に入れたくなるはずだ。
「あの店主、クイーンが好きなんだな」
「ううん。おじさんが好きなのはU2だよ」
「そうなのか?」
「うん。ほらあれ見て」
耳朗が指差す方向に目をやるとまた別のガラスケースが六つあった。そのガラスケースの中身は旧メンバー〜含めた計6人のサイン色紙が綺麗に飾ってあった。
「これ全員のサイン色紙貰ったのかよ....しかも写真付きで...」
「全員分集めるのに苦労したって言ってた。私もAC/DCのメンバーのサインとツーショット写真撮りたいなー....ってこれ!?」
耳朗は今のままではできないことをぼやきながら辺りを見渡すとあるものを発見した。
「これって...!ローリングストーンズの新譜!ハックニー・ダイアモンズ!?どこのお店にも売り切れてたのに!!これ買えただなんてマジでおじさんスゴすぎじゃん!!」
耳朗がRolling Stonesの新アルバムを発見し興奮している中、巧もあるものを発見し驚愕する。
「おい、まさかこれもじゃねぇか?ビートルズの....ナウアンドゼン...!」
「ウッソ!?これもあるの!?益々おじさんやばすぎなんだけど...!」
まさかの伝説的ロックバンドであるRolling StonesとBeatlesの新アルバムが二つともあるとは夢にも思わず、二人は興奮しっぱなしだった。今の二人にとってこの二つのロックバンドは過去に伝説を残してきた偉大なる存在だった。彼らが紡いできた跡を追うことしか出来なかった二人だったが、まさか自分たちと同じ時代に新曲を聴けることができるだなんて夢にも思って見なかったことなのだ。
「この曲聴いてみたい....!ちょっとおじさんに聞いてみる!」
耳朗はそう言って階段を駆け上がり店主のところに向かった。巧はその間、興奮している気持ちを落ち着かせる。まるで楽園のようなこの場所に巧は思わず叫びそうになるが、その直後に耳朗が戻ってきてすぐに抑えた。
「いいって!早く聴こう!!」
耳朗は急いで、かつ慎重にアルバムからレコードを取り出し、レコードプレイヤーにセットして再生した。
●●●
二つとも聴き終わり、耳朗はレコードをそっとアルバムに戻した。
「最高だったね...」
「ああ...」
最早言葉が見つからない。二人はそれほどまでに感動したのだ。
「ハックニーダイアモンズ。まさかベースのポール・マッカートニー、ピアノのスティーヴィー・ワンダー、デュエットにレディガガがいるなんて....豪華すぎる...」
「ああ....」
「ビートルズの新曲、ナウアンドゼン....もう泣きそうになっちゃった...」
「.....ああ」
巧はもう相槌しか打てないほどに放心状態になっていた。その時、上から店主がコーヒーをと洋菓子を持って降りてきた。
「どうだった?最高だったろ?」
「うん!ほんっとにすごかった!っていうか二つ買えただなんておじさんどこで買ったの!?」
「そりゃもう頑張って手に入れたんだよ。はいどうぞ。乾君だったかな?アイスコーヒーは飲める?」
「ああ、飲める」
「よかった。それじゃここに、ミルクと砂糖とガムシロップとそして俺のオススメ。自家製ハチミツレモンのシロップだ。好きなものかけて飲んで。因みにこのお菓子も私の自家製だ。ゆっくりして行って」
そう言って店主は颯爽と地下室から出ていった。巧は店主にオススメされた店主自家製のハチミツレモンのシロップをアイスコーヒーに入れてよくかき混ぜる。そして少し口に含むとコーヒーの香りと、ハチミツレモンの甘味とコーヒーの苦味が合わさり、その旨味が口の中に広がった。
「うま....」
思わず声が漏れてしまう巧。そしてもう一つの自家製洋菓子も食べてみる。硬すぎず、しかし柔らかすぎずのちょうどいい食感と甘味がアイスコーヒーによく合う。少し堪能した後、耳朗は立ち上がり、巧の方に振り向いた。
「ねぇ乾!今度はエレキギター弾いてみない!?」
「エレキギター?」
「うん。乾アコギしか弾いたことないんでしょ?ちょっと体験として弾いてみようよ。ウチが教えてあげるし」
そう言って耳朗は近くにあったエレキギター二つを持ってきて片方を巧に渡した。
「いい?まずはアコギとエレキの違いからなんだけど——」
●●●
かなり時間が経ち、時計を見るともう夕方近くになっていた。そろそろ帰ろうと思い、巧と耳朗はお盆を持って地下室から出ていく。店の方に出ると店主は暇そうにしていた。
「ん?もう帰るのか?」
「うん。コーヒーありがとう。また来るね。あ!お金は...」
「いいよ別に、君たちがロックに心を踊らせる気持ちが伝わってきただけで十分だよ」
店主はお金はいらないと言って巧と耳朗を帰らせた。巧は耳朗を家に送り届け、家の前に停車する。耳朗はオートバシンから降りて玄関の前に行き、巧の方に振り返った。
「じゃあね乾」
耳朗はさよならを告げ玄関を開けようとしたその時、巧が後ろから呼び止めた。
「おい耳郎」
「何?」
「......楽しかったぜ。じゃあな」
巧はそのままオートバシンを発進させて家に帰って行った。耳朗はさっきの言葉に少し唖然とするも、嬉しくなって少し顔を赤くした。