強化合宿二日目。A組とB組たちは地獄の個性強化訓練を耐え抜き夕方の時刻、A組とB組はマタタビ荘の調理広場に集められていた。
「さあ昨日言ったね!『世話やくのは今日まで』って!」
「己で食う飯くらい己で作れ!カレー!」
「「「「「イエッサ....」」」」」
テーブルに広がるのは大量の米、野菜、肉、調味料そして調理器具。今日から夕飯は自分たちで作るようにしなくてはならないようだ。しかし、皆クタクタで料理を作る気力もないほど疲れ切っている。それを見ていたラグドールは大笑いする。
「ニャハハハ!全員全身ブッチブチ!だからって雑なねこまんまは作っちゃダメね!」
「確かに...。災害時など避難所で消耗した人々の腹と心を満たすもの、救助の一環...。さすが雄英!無駄がない!世界一美味しいカレーを作ろうみんな!!!」
「「「「「オ.....オオ〜.....」」」」」
どんなことも真面目に捉える飯田に先導されA組はB組と一緒にヨロヨロとカレー作りを開始した。
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「轟ー!こっちにも火ぃちょうだーい!」
個性を使っても構わないようで、轟は芦戸に呼ばれて目が死んだ状態で火をつけていた。その様子を見ていた緑谷は巧に何があったのか尋ねる。
「たっくん。轟君、上の空だけどどうかしたの?」
「知らない方がいい」
緑谷の質問に対して巧ははぐらかし、そのまま調理を続けた。
「爆豪、爆破で火ぃつけれね?」
「つけれるわクソが!」
「皆さん!人の手を煩わせてばかりでは、火の起こし方も学べませんよ!」
「........」
「わーありがとー!」
「燃やろー!燃やし尽くせー!!」
「尽くしたらあかんよ」
瀬呂に言われて爆豪は爆破で火をつけようとしたが、消し飛んでしまいせっかく常闇と瀬呂が積み上げた炭が消し炭になったり、火の起こし方も学べないと言っておきながら個性を使う八百万は轟と同じなのではと唖然する耳朗。轟に火をつけてもらってテンションが上がる麗日と芦戸。皆カレー作りに勤しんでいる中、巧にはある重大な場面に直面していた。それはこのカレーは甘口ではないということ、とどのつまり、巧はこのカレーを食べることができないということ、猫舌の巧にとって辛い物が大の苦手であり、そしてこのことがバレれば一生爆豪や轟たちに馬鹿にされ続けるだろう。
巧ぃ!お前中辛も食えねぇのかよ!強がってるくせして中身はただのお子様だなぁ!!
お前は体は成長しても中身はただのクソガキだと思っていたが、まさか本当だったとはな、呆れてものも言えねぇぜ
巧は爆豪と轟が自分のことを馬鹿にしているところを想像してしまい、やり場のない怒りが込み上げ、その怒りから人参を高速で切り捌いて行った。
「おお!乾包丁捌きスゲェ!!」
「こんぐらい俺でもできるわクソが!」
巧の包丁捌きに対抗心を燃やした爆豪も負けじと人参を高速で切り始めた。互いの才能を全力で発揮した包丁捌きに周りは感心の目を向けていた。
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「「「「「いただきまーす!!」」」」」
なんやかんやあってカレーが完成し、その頃にはもう辺りは暗くなっていた。しかしそんなことよりも完成したカレーにありつくために皆席につく。
「店とかで出たら微妙かもしれねーけど、この状況も相まってうめー!」
「言うな言うな野暮だな!」
皆完成したカレーを口の中にいっぱいにかき込み空っぽの胃の中を満たしていった。しかしその中でいまだにカレーに手をつけていない者が一人、巧は中辛のカレーを前に神妙な目つきをしていた。今このカレーを自身のプライドを守るために覚悟を決めて食べる準備をしていた。すると隣にいた緑谷が巧に声をかけてくる。
「たっくんこれ、中辛だけど食べられるの?」
「食べるしかねぇんだよ。覚悟を決めるしかねぇんだよ...!」
そろそろ覚悟が決まったのか、巧は掬い上げたカレーに息を吹きかけて冷ました後、ゆっくりと恐る恐る口の中に入れた。その瞬間、巧の口の中にカレーの味が広がるが、それ以上に舌にくる辛さが巧を苦しめる。巧はなんとかポーカーフェイスを保つが額から脂汗が流れ、今にも吐き出しそうになるがここはなんとか堪えて飲み込み、すぐにコップの水を飲み干した。巧にとってこの夕飯は個性強化訓練よりも辛いものとなった。
「あんまり無理しないでね...」
それとは対象に、八百万はカレーを口の中にかき込んでいく。
「ヤオモモガッつくねー!」
「ええ。私の個性は脂質を様々な原子に変換して創造するので、沢山蓄えるほど沢山出せるのです」
「ウンコみてぇだな」
瀬呂の何気ない発言に、八百万は突然立ち上がり、少し離れた場所でうずくまった。女性に対して、ましてや15歳の多感な少女に対してあまりにも不適切な発言をしてしまった瀬呂の頭に耳郎が鉄拳制裁をくらわした。
「謝れ!!」
「すみませぇん!!」
こんなふうにさっきまで疲れ切った生徒たちも、いつもと変わらない和気藹々とした会話をしている。しかしそんな光景を洸太は憎悪の混じった目で睨みつけていた。
「何が個性だ...!本当....くだらん...!」
その場から立ち去った洸太の後ろ姿をおかわりを装っていた緑谷の目に入り、緑谷は心配そうな目を向けていた。
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夕飯も食べ終わった後、皆マタタビ荘に戻って露天風呂に入り、疲れをとってそれそれの場所に戻った。巧は体の熱さを冷ますために外に出て行く。今日の夜も空一面に星空が見えていた。白鳥座、琴座、鷲座の3つもはっきりと見える。空を眺めていると、自分はものすごくちっぽけな存在なんだと思って自分が抱えている悩みも大したことない小さなことだと考え始めるといよいよ気分が悪くなってくるので空を見るのをやめる。巧は視線を前に戻すと、その先に緑谷が立っていた。巧は緑谷の方に近づき、緑谷も巧の存在に気づく。
「あ、たっくん。いたんだ」
「ちょっと涼みにな。お前はなんでここに?」
巧の質問に対して緑谷は少し間を置く。そして巧に対してゆっくりと口を開いた。
「........たっくん。僕、洸太君と話したんだけどさ。ヒーローの“ウォーターホース”って知ってるかな?」
「その.....出久、悪ぃんだけど...」
「そ、そうだよね。ごめん、わかんないよね...。川や海で溺れた人を救出したりする水を操る個性を持ったヒーローなんだけど、ウォーターホースは夫婦でさ、子供がいたんだ。その子が洸太君なんだよ」
「じゃあ、あいつの親は今何したんだ?」
「殺されたんだ。
「........」
緑谷の発言に巧は黙ってしまう。今の洸太は両親を殺した
「僕、洸太君に言ったんだ。個性に対して色々な考えがあって一概には言えないけど、そこまで否定してると苦しいだけだって...」
巧は黙って緑谷の話を聞いていた。巧も洸太と同じように両親を失った身だ。その寂しさや孤独感は計り知れないものだ。緑谷の言葉を受け、巧は自身の思いを語る。
「俺も、親が死んだからあいつの気持ちはわかる。最初は全てがどうでもよくなっていたし、あの時は楽しそうにしてる家族を見てると、羨ましくって、無性に腹が立って、寂しくなって...。けど、お前や引子さんのおかげでそんな気持ちも自然になくなってさ。あのガキにも何か大切なものが、きっかけが必要だと思うぜ。今は痛ぇかもしんねぇけど、いつかは乗り越えられる。お前が俺を助けてくたようにな」
「たっくん....」
人間は見えなくても、気づかなくても、お互い支え合って生きている。誰かが倒れれば、誰かが手を差し伸べる。誰かが挫けそうになれば、誰かが肩を貸す。人間はそうやって生きてきたのだ。巧の言葉に緑谷は笑顔をになる。
「助けられてるって、僕の方がたっくんに助けられてばっかなんだけど...」
「いや、俺の方が助けられてばっかだよ」
「あはは、嘘だ」
「本当だ」