合宿も三日目に突入し、今日も朝から地獄の強化訓練を行い、休憩を挟みながら限界に限界を重ねてぶっとうしで続けた。そして夕食の時間になり、昨日と同じように自分たちで調理する。今日の夕食は肉じゃがだ。皆それぞれ任された担当をこなし、前回ものすごい包丁捌きを見せつけた巧と爆豪の再戦が始まり、白熱しすぎて包丁で斬り合いになるというかなり危なっかしい喧嘩にまで発展してしまったが、それはそれとして肉じゃがは完成する。そして夕飯を食べ終えた後、食器などを片付ける。その時にはもうすでに夜になっていた。
「さて!腹も膨れた!皿も洗った!お次は...」
「「肝を試す時間だー!!」」
今日は待ちに待った肝試し、寝ることと夕飯くらいしか楽しみがない合宿において肝試しはまさに唯一の娯楽だ。芦戸と上鳴は大いに盛り上がるが、相澤から無慈悲な現実を突きつけられた。
「その前に大変心苦しいが、補習連中は...これから俺と補習授業だ」
「ウ!?ソ!?だ!?ろ!?」
せっかくの楽しみが補習という更なる地獄によって突き落とされてしまう補習組。自業自得ではあるのだが、せっかくここまで頑張ってきたのに肝試しという唯一の娯楽を楽しむことができないことがなんとも哀れだった。相澤は芦戸、上鳴、切島、砂藤、瀬呂の5人を無理やり連れ出した。
「すまんな。日中の練習が思ってたより疎かになったので、こっちを削る」
「うああ!堪忍してくれぇ!!」
「試させてくれぇ!」
「嫌だぁ!俺たちにも天国を見させてくれぇ!!」
補習組の悲痛の叫びも虚しく、相澤に引きずられていった。5人がいなくなったことで人数は丁度16人。2人1組で肝試しができるようになっていた。
「はい!というわけで脅かす側の先攻はB組。もうスタンバってるよ。A組は2人1組で3分おきに出発。所要時間は約15分!ルートの真ん中に名前が書いてあるからそれを持って帰ること!」
「闇の狂宴...」
ピクシーボブが説明している中、常闇がポツリと呟く。ムードメーカーたちがほとんどいないためか、なぜか神妙な雰囲気になっていた。
「脅かす側は接触直接禁止で、個性を使った脅かしネタを披露してくるよ。創作工夫でより多くの者を失禁させたクラスが勝者だ!」
「やめて下さい。汚い」
「なるほど!競争させることでアイデアを推敲させその結果、個性に更なる幅が生まれるということか。流石雄英!」
言いたいことはわかるが、おそらくそこまで考えてやっているわけではないので、飯田の勘ぐりすぎなのではないかと思う。相当なポジティブ思考だ。
「さあクジを引いてパートナーを決めるよ!」
ピクシーボブは右手に人数分のクジを出し、生徒たちはそれぞれクジを適当に取りパートナーが決まる。
1番目 常闇&障子
2番目 爆豪&轟
3番目 巧&耳朗
4番目 青山&八百万
5番目 麗日&蛙水
6番目 尾白&峰田
7番目 口田&飯田
8番目 緑谷&葉隠
巧は3番目でパートナーは耳郎となった。巧は耳朗の方を見ると耳朗はその視線に気付き、耳を赤くして目を逸らした。
「おい尾白...代われ...!代われっつったんだよ...!」
「青山ぁ...オイラと代わってくれよ...」
「俺はなんなの...?」
(結花が...俺を脅かしにくるのか...)
轟と組むのが嫌な爆豪は峰田とのパートナーを尾白と変わろうとし、峰田は八百万とパートナーだった青山と変わりたがっていたが青山は全力で拒否していた。轟は幽霊の格好をしている結花の姿を妄想して誰も見ていないところで1人いい気分になっていた。
●●●
「それじゃあ3組目!イヌイキティとイヤホンキティGO!」
ピクシーボブの合図で巧と耳朗は出発し、暗い森の中を進んでいく。森の中は一寸先も見えないほど暗く、気をつけて歩かないとすぐにつまづいて転んでしまいそうだった。肝試しをするにはもってこいの場所だが、まだ脅かしにくる気配はない。巧はたかが学生のチープな脅かし程度だと思っているため全く恐怖などなかったが、隣にいる耳朗は巧の腕をつかみ、分かりやすいほどに震えていた。
「お前、まさかビビってんじゃねぇだろうな?」
「し、仕方ないじゃん!怖いもんは怖いんだよ!」
「だったら適当に紛らわしたらいいだろ」
「たとえば...?」
耳朗の質問に巧は一瞬黙る。そんなことは自分で考えろと言いたいところだったが、そんな無責任なことは言えないので少し考えてゆっくり答えた。
「......歌って見るとかか?」
意外な提案に耳朗は少しキョトンとするが、耳朗は震えながらも小さな声で歌い始めた。
「.....In the town where I was born lived man who sailed sea」
耳朗が怖さを紛らわすために歌い始めたのは、The BeatlesのYellow Submarineだった。耳朗は歌の途中で巧の方を見る。耳朗に見られた巧はなぜか自分も歌わなくてはいけない雰囲気になり、渋々歌い始めた。
「And he told us of his life in the land of submarine...」
2人は森の夜道を歩きながら歌を歌う。少し気が紛れ始めたのか、耳朗の体の震えは治まりつつあった。しばらく歩きながら歌っている間にもう直ぐ中間地点に入る。すると地面が液体のように動き始めた。
「ヒッ!え!?なになに!!?」
驚いた耳朗は巧の後ろに隠れる。液状化した地面の中から少しづつ何かが姿を現し、そのおどろおどろしい姿をした小大唯が現れた。その姿に耳朗は鼓膜が破れそうなほどの叫び声を上げた。
「ぎぃやあああああああああああああ!!!!?」
「いだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!?」
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!?」
叫び声を上げた耳朗は反射的に巧の腕を爪が食い込むほど握りしめた。そして同時に耳たぶを小大に突き刺し、体に爆音を流した。二名が耳朗に思わぬダメージくらい小大は倒れ、巧の腕には爪の跡が深くつき、血が流れていた。
「テメェ!血が出てんじゃねぇか!!何しやがんだこの野郎!!」
「ごめん!マジごめん!!」
「小大さん大丈夫ですか!?」
巧が耳朗に怒鳴っていると草むらから幽霊の格好した結花が現れた。結花はすぐに小大を治し、そして巧の腕も治した。
「小大さんは私が見ておきますので、二人は先に行ってください」
「わかった」
「本当にごめん...」
●●●
巧と耳朗は目的地まで進む。耳朗はさっきの脅かしでまた怖がってしまい、巧の腕にしがみついて震えていた。そうこうしている内に中間地点に辿り着き、自分の名前の書いてあるお札を手に取った。
「よし、俺の名前だな」
「ウチのもある...けど...」
耳朗はある違和感に気がつく、それは巧も同じだった。
「ラグドールがいない...」
嫌な予感がしてきた巧は少し周りを警戒する。すると頭の中からマンダレイの声が聞こえてきた。
『皆!!
「
耳朗はまさか
(
「ここ場所にいたら危険すぎる!一旦施設に戻るぞ!」
「う、うん!」
●●●
少し時間を遡り、脅かし役で物陰に隠れていた結花と拳藤、骨抜、小大は巧と耳朗が行った後、次の脅かしの準備に入っていた。今は小大が倒れているため、しばらくは結花が脅かし役になることになっていた。
「怪我はないようですが、一応安静にしておいてください。次は私が脅かしの担当をします」
「大丈夫?さっきの小大のようになったら...」
「問題ありません。その時はその時です」
そう言って結花が脅かしの準備に入ろうとした時、妙な違和感を感じた。それを先に感じ取ったのは拳藤だった。
「ねぇ、ちょっとさ、さっきから微妙に焦げ臭くない?」
「そう言われてみれば、なんでしょうかこのピンク色の煙...」
気がついたら微かにピンク色の煙が漂っていることに気がついた。脅かしの演出と言ってもこのような個性を持った者はB組にはいない。仮に脅かしに使うとなったとしてもピンク色の煙は雰囲気に合っていなかった。
「爆豪たち、ビビって個性ぶっ放しちゃったんじゃ...」
この煙は爆豪たちの仕業だと推測した骨抜は突然地面に倒れ伏してしまった。
「骨抜さん!?」
突然倒れた骨抜に結花が驚いた直後、拳藤は声をあげる。
「吸っちゃダメ!」
拳藤は咄嗟に個性で拳を巨大化し、周りに壁を作って煙を吸わないようにした。拳藤は骨抜が倒れた瞬間この煙は人体にとって有害なものだと直感で理解したのだ。
「この煙...有毒!」
●●●
施設に向かっていた巧と耳朗は途中、ピンク色の煙が見えてきて毒ガスだと直感で理解した巧は一緒に走っていた耳朗に伝える。
「絶対にこの煙を吸うなよ!」
「うん!」
服を口と鼻に当ててなんとか煙を吸わずに戻ってきた巧と耳朗は施設に入って相澤たちのいるところに向かおうとした時、突然後ろから壁を突き破る破壊音がした。振り向いた巧と耳朗は壁を突き破った正体を見て目を見開く。目の前にはワニのような姿をし、両腕には牙状の突起がついたバックラーを身につけたオルフェノク、クロコダイルオルフェノクが立っていた。巧は咄嗟に耳朗の盾になるように前に立つ。最悪の予感がまたしても的中してしまったことに苛立ちを感じる巧だったが、今心配なのは後ろにいる耳朗だった。耳朗はUSJの時の恐怖が蘇り、体が肝試しの時よりも震えていた。巧は耳朗を安心させるために耳朗の肩を掴む。
「いいか耳郎。このまま走って逃げろ。絶対に後ろを振り向くな」
「で、でも乾は...!?」
「俺は心配すんな。必ず戻る」
耳朗は巧の言葉に少し落ち着く。震えが止まったことを確認した巧は耳朗に言う。
「行け!」
耳朗は巧に言われた通りに後ろを振り向かずに走り去っていった。姿が見えなくなったことを確認した巧はクロコダイルオルフェノクの方に振り返る。
「狙いはベルトだろ?欲しかったらついてこい」
巧はクロコダイルオルフェノクを誘き寄せるためにファイズギアが置いてある男子部屋まで向かい、クロコダイルオルフェノクも巧の後を追いかける。男子部屋におびき寄せられたクロコダイルオルフェノクはすでにベルトをつけて変身の体勢に入っていた巧と対峙する。
「ここでお前を倒す」
『5 5 5』
『Enter』
Standing by
「変身!」
Complete
巧はファイズに変身し、クロコダイルオルフェノクに突っ込んでいった。
●●●
必死に逃げてきた耳朗は補習をしている切島たちがいる場所にたどり着き、扉を勢いよく開けた。
「先生!みんな!
「響香ちゃん!よかった無事だったんだ!マンダレイから聞いて心配だったんだよ!」
部屋の中では補習組の芦戸、上鳴、切島、砂藤、瀬呂とB組の物間と教師の相澤とブラドキングがいた。全員無事で今は耳朗を含めた9人だ。
「そ、それよりも!怪物が...!」
耳朗がオルフェノクのことを言いかけた時、突然壁を何かが突き破ってきた。
「何!?なになになになに!?」
「今度はなんだ!?」
突然の出来事に物間は驚きを隠せず慌てふためいていた。煙が晴れると吹き飛んできたのはファイズに変身した巧だった。
「クソ....!なんて馬鹿力だ...!」
「乾!?」
「お前なんでここに!?」
何が起こっているのか状況が掴めないでいると大きな穴が空いた壁からクロコダイルオルフェノクが現れた。さっき巧がクロコダイルオルフェノクに殴られて壁を何層も突き破り、この場所まで吹き飛ばされてきたのだ。
「か、かかかかかかか怪物ううううう!!?」
「こいつが未確認生命体....!」
物間は初めて見るオルフェノクにビビり散らかし、ブラドキングもその禍々しさに冷や汗を流す。A組の生徒たちもUSJやIアイランドで見慣れているはずなのだが、やはりその姿に体が震えてしまう。
「ブラド!生徒を守れ!」
相澤の声に我に帰ったブラドキングは怯えている物間の前に立ち戦闘体制に入る。果たしてこの怪物相手に対処できるのか不安しかなかったブラドキングだったが、今はなんとしてでも生徒たちを守り抜かなければならない。今はそれだけしか考えないようにした。
「お前ら...!こっから逃げろ...!こいつは俺が...!」
「何を言っている!生徒のお前を守るのが我々の役目だぞ!」
「ウルセェぞボケ!こいつを倒せんのは俺だけなんだよ!それに個性は使ってねぇから違反じゃねぇしな」
ブラドキングの言い分も聞かず、巧はクロコダイルオルフェノクの前に立つ。しかしさっきのダメージが相当応えたのか、かなり息が上がっていた。
「乾!そんな状態じゃいくらお前でも勝てねぇって!逃げるしかねぇだろ!」
「逃げたところでこいつはどこまでも追いかけてくる。今ここで倒す!俺が全員守って見せる!」
上鳴の制止を無視し、巧はクロコダイルオルフェノクに突っ込んでいった。そしてクロコダイルオルフェノクに掴み掛かりそのままの勢いで壁を突き破り外に放り出た。放り出された巧とクロコダイルオルフェノクは地面を転がり体制を立て直した後、すぐに攻撃に入った。先手を取ったのは巧の方で巧はクロコダイルオルフェノクに何発をもの攻撃を繰り出すが、相手は全く効いていないのか、ビクともしていなかった。
「どんだけカテェ体してんだ...!」
次は自分の番だとクロコダイルオルフェノクは巧に攻撃を仕掛けてきた。巧はなんとか連続で繰り出される攻撃を避け続けるが相手の動きが中々に早く、ギリギリで避けるのが精一杯だった。すばしっこく避ける巧に果敢に攻撃をくりだすクロコダイルオルフェノクは一瞬の隙を見つけて巧の首を掴み持ち上げる。巧はなんとか首を掴む腕を振り解こうともがくがビクともせず、そのまま投げ飛ばされ木に激突してしまう。地面に倒れたところをクロコダイルオルフェノクは畳み掛けるように攻撃をしようとした瞬間に巧はファイズフォンを取り出した。
『1 0 3』
『Enter』
SINGLE MODE
巧はファイズフォンをクロコダイルオルフェノクに向けて撃ち、突然の攻撃に対処できなかったクロコダイルオルフェノクは腹に命中し、吹き飛ばされてしまう。その隙に巧はミッションメモリーをファイズポインターにセットしてエナジーホルスターに装着し、エンターキーを押した。
Ready
『Enter』
Exceed Charge
巧は姿勢を低くし、ファイズポインターにフォトンブラッドが流れる。そしてエネルギーがチャージされたと同時に走り出して飛び上がり空中前転をしながらクロコダイルオルフェノクに向かって両足を突き出す。そしてファイズポインターからポインティングマーカーが射出される。クロコダイルオルフェノクは咄嗟に片腕のバックラーで防ぐ。ポインティングマーカーで動きを捉えた巧は右足を突き出し、クリムゾンスマッシュを繰り出した。
「ヤアアアアア!!」
クリムゾンスマッシュはクロコダイルオルフェノクに激突するが、なんとクロコダイルオルフェノクはクリムゾンスマッシュを片腕で耐えいた。
「何っ!?」
渾身の必殺技が塞がれてしまったことに驚いた巧はなんとか押し通そうとするがそれでもバックラーを突き破ることはできず、クロコダイルオルフェノクはもう片方の腕で巧を吹き飛ばしてしまう。巧は地面を転がりもう一度体制を立て直す。完全に塞がれてしまった巧は絶体絶命の窮地に陥っていた。このままでは負けてしまう。巧は迫り来るクロコダイルオルフェノクを前になす術がなかった。