敗北の翌日
林間合宿の
「
雄英高校会議室。ここには重苦しい空気が漂っていた。今回行われた林間合宿では一部の人間にしか知られていない。万全の体制であるにも関わらず、先日の事件が起きた。雄英としてはこれほどまでの失態はない。
「認識できていたとしても防げていたかどうか...。これ程執拗に矢継ぎ早な展開...オールマイト以降、組織立った犯罪はほぼ淘汰されましたからね...」
「要は知らず知らずのうちに平和ボケしてたんだ俺ら。備える時間があるっつー認識だった時点で」
ミッドナイトやプレゼント・マイクの言うように、オールマイトの登場により、殆どの大きな犯罪は全て阻止されてきた。しかし完全に消え去った。そう思い込んでいた時には既に驚異が、ゆっくりと且つ確実に迫っていたのだ。その状況に気づくことができなかったトゥルーフォームのオールマイトは自責の念に駆られていた。
「己の不甲斐なさに心底腹が立つ...。彼らが必死で戦っていた頃、私は...半身浴に興じていた...!」
死柄木率いる
「襲撃の直後に体育祭を行うなど...、今までの『屈さぬ姿勢』はもう取れません。生徒の拉致、雄英最大の失態だ。奴らは乾と爆豪、同時に我々ヒーローへの信頼も奪ったんだ」
「現にメディアは雄英の非難でもちきりさ。爆豪君や乾君を狙ったのもおそらく体育祭の2人の粗暴な面が少なからず周知されていたからだね。もし2人が
根津が取り出した新聞の芽出しには大きく『雄英大失態』と題名が記載されている。そこには誘拐された巧と爆豪のことが書かれていた。そこには2人の気性の荒さについて言及されていた。
「それと、乾君のことで、今回の件もそうですが、USJや保須市、I・アイランドに突如として現れた未確認生命体と遭遇し、交戦もしているそうです。どの事件にも必ず乾君と未確認生命体がいます。奴らは乾君と何か関係が...?」
「恐らく、乾少年が持っているファイズギアが目的なのでは...」
「ファイズギア?」
「ああ、亡くなった乾少年の両親が開発したサポートアイテムでね、スマートブレインから提供されて、今彼が使っているのだが...、あのベルトは、銃火器が全く効かない未確認生命体を倒せてしまう程の力を有している。私はあのファイズの力を間近で見たことがあるが、あれ程までに強力なサポートアイテムは見たことがない。乾少年が攫われたのも、ファイズギアについて何か聞き出そうとしているのではないか...」
ミッドナイトの疑問にオールマイトが応える。巧の持っているファイズギアは元々、オルフェノクを倒すために作られたベルト。オルフェノクを圧倒的で当然の代物だ。それが
「まぁ、信頼云々って事でこの際言わせてもらうがよ...。今回で決定的になったぜ。いるだろ、内通者」
プレゼント・マイクの発言で、重い空気が更に重くなる。皆考えないようにしていたことなのだが、ここまで来ると裏切り者ががいると考えるしか、この事件に説明がつかない。
「合宿先は教師陣とプッシーキャッツしか知らなかった!怪しいのはこれだけじゃねぇ!ケータイの位置情報なら使えば生徒にだって...!」
「マイク、やめてよ」
「やめてたまるか!洗おうぜ!この際てってー的に!!それに未確認生命体だってそうさ!奴らがもし!人間に擬態できる能力があるなら!俺たちの中に既に潜んでいるかも知れねぇんだぞ!!」
「お前は、自分が100%シロという証拠を出せるか?ここの者をシロだと断言できるか?」
声を荒げるプレゼント・マイクにスナイプが割って入る。
「お互い疑心暗鬼となり内側から崩壊していく。内通者探しは焦って行うべきじゃない」
スナイプの反論にプレゼント・マイクは黙ってしまう。すると根津がゆっくりと口を開いた。
「少なくとも私は君たちを信頼している。その私がシロだとも証明しきれない訳だが、取り敢えず学校として行わなければならないのは生徒の安全保障さ。内通者の件も踏まえ、かねてより考えていた事があるんだ。それは...」
『でーんーわーがーー来た!』
根津が何か言おうとした瞬間、オールマイトの電話から着信音が鳴り響く。
「すみません、電話が」
「会議中ッスよ!電話切っときましょーよ!」
この重苦しい空気にかなり場違いな着信音にプレゼント・マイクはキレ気味にツッコみ、ミッドナイトとスナイプは心の中でダサいと思っていた。オールマイトはそそくさと会議室から出て行き、小さくため息を吐く。オールマイトは悔やんでいた。平和の象徴などと言われていたが、生徒たちが危険な目にあっているにもかかわらず、自分は休日を満喫して何も知らなかった自責の念から自分に対する怒りが込み上げてくる。やり場のない怒りが残る中、オールマイトは携帯を開くと電話をかけてきたのは塚内からだった。
「すまん、なんだい塚内君?」
『今イレイザーヘッドとブラドキングから調書を取ってきたんだが、思わぬ進展があったぞ!
「!」
気持ちが沈んでいたオールマイトに希望の光が差し込んだ。助けることができる。そう思うと、やる気が沸々と湧き上がってくる。
『2週間ほど前、顔中ツギハギだらけの男がテナントの入ってないはずのビルに入っていったと言う情報を入手していた。20代くらいだと言うので過去の犯罪者を漁ってみるも目ぼしい者はいない。また、ビルの所有者の隠れ家的なバーがちゃんと入ってると言う話だったため、捜査に無関係だと流していたんだが、今回生徒を攫った
「.........」
『オールマイト?』
「....私は、素晴らしい友を持った.....」
オールマイトはそう呟くと全身に力を入れて筋骨隆々のマッスルフォームへと姿を変える。その姿は人々に勇気を与え、そして幾つもの悪に正義の鉄槌を下してきたまさに平和の象徴が今、動き出す。
「奴らにあったらこう言ってやるぜ。私が反撃に来たってね...」
●●●
あの事件から2日後、重軽傷を負った生徒たちはすぐに病院へと搬送され、軽傷者は軽く手当をしてもらった後すぐに帰宅し、緑谷も結花の修復のおかげで殆どの傷が治っていたため、大したことはなかったのだが、精神的、そして体力的な疲労が限界を超えていたため、緑谷は入院していた。隣の机には綺麗にカットされた林檎が置いており、『起きたら食べて連絡ください』という母の字で書かれた紙が置いてあった。緑谷はまた母親を心配させてしまっていると考えるが、それよりも洸汰のことが心配だった。
「洸汰君。無事かな...」
「あー緑谷!目ぇ覚めてんじゃん!」
「え?」
突然病室のドアが開くと上鳴が顔を覗かせていた。その後ろには砂藤やメロンを持った峰田などA組の面々と結花も来ていた。
「テレビ見たか!?学校今マスコミでやべーぞ」
「春の時の比じゃねー」
「メロンあるぞ!みんなで買ったんだ!」
「具合はどうだ?」
「迷惑をかけたな、緑谷...」
「何とか...。ううん...僕の方こそ、A組みんなできたの?」
緑谷の質問に飯田は少し躊躇いながら答える。
「いや、葉隠君は
「ごめんなさい...。傷は治せても、毒を消すことはできないんです...」
長田は深く謝罪する。長田の個性は傷や壊れたものを修復する個性であり、物理的な害だけしか治すことができないのだ。
「だから、来ているのは2人を除いて...」
「.....17人だよ」
「爆豪と乾がいねぇからな....」
「ちょっ轟....」
轟の発言に芦戸が止める。今の緑谷にとってその名前は禁句だ。その時、生気がなかった緑谷の目に光が戻る。
「オールマイトがさ、言ってたんだ。手の届かない場所には救けに行けないっ.....て。だから手の届く範囲は必ず救け出すんだ。僕は、手の届く場所にいた....。かならず救けなきゃいけなかった...!僕の個性は....そのための個性、なんだ。相澤先生の言った通りになった...!体....動かなかった....!」
あの時の出来事に緑谷は体を震わす。どうして手が届くのに救けられなかったのか、どうして自分には力がないのか、そんな後悔だけが緑谷の心に渦巻いていた。
「じゃあ今度は助けよう」
「「「「「へっ!?」」」」」
切島の突然の提案に轟と結花以外のA組の面々が驚く。
「実は俺と.....轟のB組の長田とさ、昨日来ててよぉ」
昨日、切島は極力自宅で動かないように言われていたのだが、動かずにはいられずにこの病院に来ていた。その時偶然受付けで轟と結花に遭遇し、一緒にお見舞いに行こうとしていたところ、八百万が病室でオールマイトと警察が話しているところを見かけた。
○○○
B組の泡瀬さんに協力いただき、
この前相澤君は君を咄嗟の判断力に欠けると評していた。素晴らしい成長だ!ありがとう!八百万少女!
級友の危機に...、こんな形でしか協力できず、悔しいです
その気持ちこそ君がヒーローたりうる証拠だよ。後は私たちに任せなさい!
○○○
「つまり、その信号デバイスを....八百万君に創ってもらう、と?」
飯田は切島が何をしたいのか要約する。巧と爆豪を救けたいのだろう。しかし、飯田は保須のことを思い出し、激昂する。
「オールマイトの仰る通りだ。プロに任せる案件だ!
「んなもんわかってるよ!!でもさぁ!なんっにも出来なかったんだ!!ダチが狙われてるって聞いてさぁ!なんっっも出来なかった!!しなかった!!」
切島はあの時、期末試験で赤点を取った者の補習で肝試しに行けず、騒動が起こった時には動くことが出来なかった。しかも、巧がオルフェノクと戦っているところを見て、恐怖で更にで動くことができなかったのだ。切島はその時のことを悔やんでいたのだ。
「ここで動けなきゃ俺ぁ!ヒーローでも男でも無くなっちまうんだよ!!」
「切島落ち着けよ病院だぞ!?こだわりはいいけどよ、今回は...」
「飯田ちゃんが正しいわ」
「飯田が!みんなが正しいよ!」
叫ぶ切島に上鳴と蛙水が止める。切島の言い分もわかる。しかし、まだ学生の身分である自分たちは他のプロと一緒に戦闘の参加もできない。自分たちには何もできないのだ。しかし切島は諦めずに緑谷に問う。
「なぁ緑谷!まだ手は!届くんだよ!!」
切島の声が病室内に響き渡った。その悲痛さが感じ取れる。
「つまり、ヤオモモから発信機のやつもらって、それ辿って...自分らで乾と爆豪の救出に行くってこと....!?」
「
「大切な仲間を目の前で攫われたのに、ヒーローの資格もまだないから救けに行くことは出来ないと言われて、はいそうですかと黙って引き下がるわけには、行かないんです...!」
無謀なことなのは分かっている。しかしだからといって、危険に晒さられいる仲間を見捨てるわけにはいかないのだ。轟と結花の決意は堅かった。しかし飯田は、保須事件のこともあり、これ以上同じ過ちを繰り返す訳にはいかなかった。
「ふ...!ふざけるのも大概にしたまえ!!」
「待て、落ち着け」
激昂する飯田に障子が待ったをかける。
「切島の何もできなかった悔しさも、轟の目の前で奪われた悔しさもわかる。俺だって悔しい。だが、感情で動いていい話じゃない」
障子の意見に三人は黙る。障子の言うとおり、感情だけで動いてしまえば、今後の学生生活に支障をきたすかもしれない。
「オールマイトに任せようよ...。戦闘許可は解除されているし、やれる事はやったよ...☆」
「青山の言う通りだ...。救けられてばっかりだった俺には強く言えんが...」
「みんな、乾ちゃんと爆豪ちゃんを攫われてショックなのよ。でも冷静になりましょう。どれ程正当な感情であろうと、また戦闘を行なうと言うのなら、ルールを破ると言うのなら、その行為は
皆、巧や爆豪を救いたい気持ちは同じだ。しかし、このままヒーローたちの戦闘に加わるとなればそれは法を破ることになり、
「お話し中ごめんね。緑谷君の診察時間なんだが...」
「い、行こうか。葉隠の方も気になっし...」
緑谷の担当医が診察に入ってきて全員緑谷の病室を後にした。その時、切島が小声で緑谷に話しかける。
「八百万には昨日話をした。行くなら即効、今晩だ。重症のおめーが動けるかは知らねぇ。それでも誘ってんのは、おめーが1番悔しいと思うからだ。今晩....病院前で待つ」
そう言って切島は病室に出ていった。