緑谷たちは電車から降りて、しばらく歩くと目的地に到着した。ここ神野区の何処かで巧と爆豪が囚われている。
「着いた!神野区!」
「この街のどこかに潜んでいるのか」
「人多い...!」
「さあどこだ八百万!」
「お待ち下さい!ここからは用心に用心を重ねませんと!私たち
気合い十分な切島に八百万が待ったをかける。八百万の言う通り、緑谷たちは今顔がバレている状態。もしこのまま救出しに行ったとしたらすぐに見つかってしまう可能性が高い。
「うん、オンミツだ」
緑谷は腕を交差して顔を隠すようなポーズを取る。
「...しかしそれでは偵察ままならんな」
「もし見つかったしまえば救出も出来ませんからね」
「そこで私!提案がありましてよ!」
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八百万が提案したこと、それは変装。緑谷たちは"激安の王道
「オッラァ!コッラァ!」
「ちげぇ、もっと顎をクイクイやるんだよ」
「オッラァ!」
「そーそー!」
「成る程、変装か」
ヤンキーのような格好をした緑谷と切島。なぜか右頬に大きな手形がある真っ黒なカツラを被ったホスト風の轟、ストリート系の格好でバケットハットを被った耳朗、セレブ嬢風の服装にサングラスと結んだ髪を解いた八百万、水商売でもしてそうな飯田、少し怒り顔の結花はスーツにポニーテールで眼鏡をかけている。それぞれ、バレないように普段とはかけ離れた格好での変装をしていた。
「轟、顔どうしたの?」
「気にすんな」
因みに轟の顔の跡は轟が変装の時に結花にバニースーツを強く勧めたことで思いっきりビンタをくらってできた跡らしい。緑谷は切島にアドバイスを受けながら普段の自分とは違う自分をぎこちなく演じ、飯田は真面目に水商売の演技をしている。
「夜の繁華街!子供が彷徨うと目立ちますものね!」
そうとは言っても逆に目立ちそうな格好に満足そうな八百万。耳朗は本当にこれで大丈夫なのかと心配だった。
「八百万、創造で作ればタダで済んだんじゃねえか?」
「そそソレはルール違反ですわ!私の個性で好き勝手に作り出してしまうと流通が...そう!国民の1人として...!うん、回さねばなりませんもの!経済を!」
「そうか」
「ドンキ入りたかったんだな、あのピュアセレブ」
「めちゃくちゃはしゃいでたもんね」
轟の最もな疑問に苦しい言い訳をする八百万。ただ自分が行きたかっただけなのだがそれはそうと取り敢えず変装した緑谷たちは次に行こうとする。
「お?雄英じゃん!」
急に聞こえてくる雄英の単語に緑谷たちは驚き、体が硬直する。なんとかしようと緑谷は切島に言われたように咄嗟に振り返って威嚇しようとする。
「オッ、オッラ...!」
しかし緑谷の威嚇は空振りに終わる。理由は築かれたと思っていたその視線は緑谷たちではなくその上の方に向いていた。緑谷たちも同じように上を見上げると大きな液晶画面があった。それを見た緑谷たちは驚愕する。
『——では、先程行われた雄英高校謝罪会見の一部をご覧下さい』
それは記者たちに向かって深々と頭を下げる雄英の教師陣たち。その中にはブラドキングや、身なりを整えた相澤までいる。
『この度、我々の不備からヒーロー科一年生26名に被害が及んでしまったこと、ヒーロー教育の場でありながら、敵意の防衛を怠り社会に不安を与えたこと、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした』
「メディア嫌いの相澤先生が...!」
この状況に驚きを隠せない緑谷たちだったが、映像は淡々と流れ続ける。
『NHAです。雄英高校は今年に入って4回、生徒が
「悪者扱い....かよ....」
雄英の姿勢は以前にも説明したにもかかわらず、白々しくも質問をする。雄英を悪に仕立て上げるために。それに対して根津は淡々と答える。
『周辺地域の強化、校内の防犯システムの再検討、強い姿勢で生徒の安全を保証する...と説明しておりました』
「は?」
「全然守れてねーじゃん」
「何言ってんだこいつら」
根津の説明に世間の声は冷たい。過程がどうであれ、結果が出せなければ意味がない。結果が出せなければ評判は地に落ち、信用をなくす。この普遍的な仕組みに緑谷はその場で黙って立ち尽くすしか無かった。
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死柄木たちのバーでも、テレビに流れる雄英の謝罪会見の映像を見ていた。
「不思議なもんだよなぁ...なぜ奴らが責められる!?奴らはすこーし対応がズレてただけだ!守るのが仕事だから?誰にだってミスの1つや2つある!お前らは完璧でいろって!?現代ヒーローってのは堅っ苦しいなぁ。なぁ爆豪君よ!」
「守るという行為に対価が発生した時点で、ヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!」
「人の命を金や自己顕示に変換する異様。それをルールでギチギチと守る社会。敗北者を励ますどころか責め立てる国民。俺たちの戦いは問い。ヒーローとは、正義とは何か。この社会が本当に正しいのか、1人1人に考えてもらう!俺たちは勝つつもりだ。君も、勝つのは好きだろ?」
爆豪を見つめ、説得を試みる死柄木。スピナーは自身の思想を仰々しく語る。それ以前に何故死柄木は爆豪を連れ去ったのか、巧は明確な理由があるが、爆豪には死柄木とも大した接点もない。にも関わらず死柄木は爆豪を
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一方、別の死柄木たちがいた場所より更に薄暗い部屋では巧は爆豪とは逆に尋問に近い行為を受けていた。
「なぁ、どこにあるのかを教えるだけでいいんだ。難しいことじゃないだろ?俺たちに残り2つのベルトの在処を教えてくれば、楽に殺してやるからよ」
「何の話だ...?残り2つ...?どういう意味だ...?」
ファイズのベルトしか知らない巧にとって赤井の言っている意味がわからなかった。すると赤井が二つのアタッシュケースを持ち出し中身を見せる。
「見ろ。これはお前が持っていたファイズギアと同じものだ。こっちがカイザでこっちがデルタだ。この二つのベルトとお前が持っていたファイズギア、そして残り2つのベルト、正直この3つだけでも十分なんだが、あと二つ揃えば、俺たち
巧はカイザギアとデルタギアの二2つを見て、自分が持っていたファイズギア以外にも別のベルトが4つもあるとは思いもよらず、驚いていた。初めて聞く残り2つもベルトの在処など知る由もない。巧は何も答えることができなかった。
「知らねぇよそんなの、聞く相手間違えてんじゃねぇのか?」
威勢を張る巧に苛立ってきたのか緑川が巧の髪の毛を掴む。
「とぼけんじゃねぇ...!さっさと答えろよクソガキ!!」
「落ち着け緑川」
怒りが湧き出てくる緑川を青木が制止する。そして前に出て巧の目を凝視してゆっくりとさっきと同じ質問した。
「本当に知らないのか?」
「何度も言わせんじゃねぇよ」
「........」
青木は巧の目を黙ってじっと見る。しばらくじっと見て、青木は巧から目を離す。そして小さくため息をついた。
「本当に知らねぇみたいだ」
「チッ...!んだよ...!」
「そうか、しゃーね。リーダーに伝えてくるわ」
そう言って赤井は巧の胸ぐらを乱暴に掴み部屋から出て行き緑川と青木も続いて部屋から出て行く。そして死柄木たちがいる部屋に着くと何やら爆豪が拘束具を外して何か言っているようだった。
「俺はオールマイトが勝つ姿に憧れた。誰が何言ってこようが、そこはもう曲がらねぇ!!」
どうやら爆豪が拘束具を外した直後、死柄木は攻撃を受けていたようだ。その時、死柄木がつけていた手のオブジェが取れてしまい、死柄木は落ちた手のオブジェを見てポツリと呟いた。
「お父さん...」
この状況に唖然としていた赤井はとりあえず巧を地面に投げ捨て、足で巧の顔を押さえつける。その様子を見ていたトゥワイスが赤井に話しかける。
「おい、赤井?どうだった?」
「知らねぇとよ。当てが外れた」
「はぁ!?ふざけんなよ!なら仕方ねーな」
「じゃあ残り2つはどうするんですか?」
「心配すんなお嬢ちゃん。3つだけでも十分強力だし、大丈夫だろ。多分」
トガの疑問に赤井はやけに楽観的である。ふと、赤井はテレビの方に目を向ける。映像には記者たちが相澤に質問をしていた。
『生徒の安全...と仰りましたが、イレイザーヘッドさん。事件の最中生徒に戦うよう促したそうですね。意図をお聞かせください』
『私共が状況を把握できなかったため、最悪の事態を避けるべくそう判断しました』
『最悪の事態とは?25名もの被害者と2名の拉致は最悪と言えませんか?』
記者の最悪の事態とはまさしくそうだ。しかし、
『....私があの場で想定した最悪とは、生徒がなす術なく殺害されることでした』
『被害の大半を占めた毒ガス攻撃。敵の個性から催眠ガスの類だと判明しております。拳藤さん、鉄哲君、長田さんの、迅速な対応のおかげで全員命に別状はなく、また...生徒らのメンタルケアも行なっておりますが、深刻な心的外傷などは今のところ見受けられません』
『不幸中の幸いだと?』
『未来を侵されることが最悪だと考えております』
『ほお、なら攫われた爆豪君や乾君についても同じことが言えますか?』
記者の発言にあたりは静寂に包まれる。それをわかった上での発言であろう、記者はそのまま続ける。
『爆豪君は体育祭2位、ヘドロ事件では強力な
明らかに挑発的な質問にブラドキングは息を呑む。相澤がメディア嫌いと分かった上での発言であろう。その様子に赤井は嘲笑の目で見ていた。
「可哀想に、悪いのは俺たちなのにヒーローたちが悪者に仕立て上げられようとしている。ものすごく、滑稽だなぁ。クフフ...」
思わず吹き出しそうになる赤井。押さえつけられている巧はここにいる
『行動については私の不徳の致すところです。ただ...、体育祭での彼らの理想の強さに起因しています。誰よりもトップヒーローを追い求め...また、誰よりも夢を守ろうと...もがいている。あれらを見て隙と捉えたのなら、
相澤の冷静な対応に記者は少し動揺する。巧と爆豪の担任である相澤であるからこそ言える発言だ。意外な反応に記者は顔を歪ませる。
『根拠になっておりませんが?感情の問題ではなく、具体策があるのかと伺っております』
『——我々も手を拱いている訳ではありません。現在警察とともに捜査を進めております。我が校の生徒は必ず取り返します』
記者の質問に対して根津も冷静に答える。その中継を見ていた爆豪は不敵な笑みを浮かべる。
「ハッ!言ってくれるな、雄英も先生も...!そういうこった!クソカス連合!」
声高らかに笑う爆豪だが、この状況を冷静に見ていた。自分の立場的にすぐに殺されることはないだろう。しかし、隣にいる巧は当てが外れたという赤井の言葉から考えるに用済みとして自分より先に殺される可能性が高い。隙をついて逃げ出すことはできない。そこで爆豪は一か八かある作戦に出た。
「言っとくが、俺たちゃあまだ戦闘許可解けてねぇぞ...!そうだろ巧ぃ!!お前はこんな奴らにやられるような雑魚なのかぁ!?」
それは巧に対する挑発。今の巧の心の中は、導火線に火がついて今にも爆発しそうな爆弾と同じだ。そこに巧にとって一番嫌いな爆豪の挑発という油を注げば、どうなるかは明白だった。赤井によって押さえつけられていた巧の怒りは最高潮に達する。
(巧...!切れた時のお前が一番強ぇっことぐらい、俺が一番知ったんだぜ!!さぁ起きろ巧ぃ!!)
「自分の立場、よくわかってるわね...!小賢しい子!」
「刺しましょう!」
「いや...馬鹿だろ」
「その気がねぇなら懐柔されたフリでもしときゃいいものを...、やっちまったな」
爆轟の行動に呆れるコンプレスと荼毘。その様子を見ていた赤井も同じことを思っていた。その時、押さえつけていた巧が突然赤井の足を掴みそのまま立ち上がる。
「ぬおっ!?」
「うおりゃああああ!!!」
「どわああああああ!!?」
体制を崩してしまった赤井はそのまま巧に足を掴まれたまま緑川と青木に向かって投げ飛ばされ、三人は倒れてしまう。
「どうした!?」
投げ飛ばされた赤井を見てスピナーは一体どうしたのかと巧の方に振り向くとすぐ目の前に足が見えた。それが足だと認識する前にスピナーは顔面にドロップキックをくらい、吹き飛ばされてしまう。巧はスピナーを蹴った勢いで爆豪の隣に着地する。
「したくねーもんは嘘でもしねぇんだよ俺ぁ。こんな辛気くせーとこ、長居する気もねぇ...!」
「どいつもこいつもムカつく奴ばかりで反吐がでる...!全員まとめてぶっ飛ばしてやる...!最後にテメェもだからな勝己!!」
「上等だこの野郎!!」
一色触発の中、黒霧は死柄木の方を見る。死柄木は落ちた手のオブジェを見つめていた。その様子に黒霧はハッとする。
「いけません!死柄木弔!落ち着いて...!」
黒霧が死柄木を落ち着かせようとすると死柄木は巧と爆豪を睨みつける。その視線に警戒する巧と爆豪。
「手を出すなよ...お前ら。こいつらは...大切な駒だ」
妙に落ち着いた死柄木は手のオブジェを拾い上げてもう一度取り付ける。
「出来れば、少し耳を傾けて欲しかったな...君とは分かり合えると思ってた」
「ねぇわ」
「仕方がない。ヒーローたちも調査を進めていると言っていた...。悠長に説得してられない」
死柄木はテレビの方に徐に振り向くと、先ほどのテレビの画面が急に乱れる。
「先生....。力を貸せ」
『.....良い、判断だよ...死柄木弔』