時を同じくして緑谷たちは記者会見を見終えた後、巧と爆豪を救い出すべく、八百万の受信デバイスを頼りに、道を歩いているとしばらくして人気の少ない暗い路地裏まで来ると前を歩いていた八百万が立ち止まる。
「ここが発信機の示す場所ですわ」
「これがアジト...いかにもだな!」
「耳朗、頼む」
「うん」
切島が見上げるのは誰も使っていない廃倉庫。ここには人は殆ど通らず、人目につかない場所であるため、
「誰もいない....けど、水みたいな音が...」
「水?」
「うん、なんか、ぶくぶくって...あと、機械みたいな音が何個か聞こえる」
「確かに...何か聞こえてきます。水槽、でしょうか?」
「...?ウチがやっと聞こえるくらいなのに、なんで聞こえんの?」
「え!?あ!わ、私耳がいいんですよ!」
結花はオルフェノクの力で耳朗と同じように水の音と機械音を聞き取る。耳朗はそれを不思議に思うが、結花は咄嗟に誤魔化した。オルフェノクというのは五感が人間よりも遥かに鋭く。かなりの距離でも意識して聞けば他人の話し声がはっきりと聞こえてくるほどなのだ。それは緑谷と轟も同じだ。
「....確かめる価値はありそうだな」
耳朗の言う音の正体を探るため緑谷たちはその音の正体を確かめにいく。しばらく廃倉庫の周りを歩いていると、その廃倉庫の正面玄関であろう門が現れたが、当然中に入ることはできなくなっていた。
「正面のドア、下に雑草が茂ってる...ほかに出入り口があるのか?どうにか中の様子を確認できないものか...」
緑谷がどうにか廃倉庫に入る方法を模索していると、突然後ろから声をかけられる。
「おい」
まさか見つかってしまったのか、緑谷たちは慌てて振り返るとそこには仕事終わりの2人の酔っ払いがいた。
「ホステス〜!何してんだよホステス〜!俺たちと飲みましょうよー!そこの君たちもさー!」
「キャッ!?」
「やーめとけバカ!」
酔っ払いの1人が八百万、耳郎、結花の三人に、突っかかってくる。結花は酔っ払いに肩を触られ、それを見た轟は酔っ払いを殴り飛ばそうと乗り出すが切島が咄嗟に羽交締めにし、代わりに緑谷がつい先ほど切島に教えてもらった威嚇をする。
「オッラァ!?」
「パ、パイオツカイデーチャンネー!?」
「おい一旦離れんぞ!!」
緑谷内閣に乗じて飯田も同じようにするがパニックになっているのか意味のわからないことを言ってしまう。切島はここにいてはまずいと思い、この場から離れることにした。結花も酔っ払いの手を振り解き、その場から逃げた。
●●●
酔っ払いから逃げた緑谷たちは人通りの少ない場所に移動する。切島は怒る轟を落ち着かせながら周りを確認する。
「まだ人通りが多いな...。落ち着けって轟」
「あんた大丈夫?」
「はい、肩を触られただけなので...」
「目立つ動きは出来ませんわよ。どうされますの?」
「....裏に回ってみよう。どれだけ細かくても、この中を調べる必要性があることは変わらない」
そう言って緑谷たちはもう一度廃倉庫の中を調べることにした。どんなに小さなことでもいい、何か手がかりが見つけることができれば、巧と爆豪を救い出す鍵になるかもしれない。緑谷たちは裏を通る。途中、人一人通るのがやっとな狭い道に来て、八百万のキツそうな姿に耳朗が悔し涙を堪えていたのが、それはさておき裏に回ってきた緑谷たちはどこか中を覗ける場所を探す。
「安全を確認できない限り下手な行動はできない...。ここなら人目はないし...」
緑谷が周囲を見渡していると廃倉庫のとある物を見つけた。
「あの高さなら中の様子見れそうだよ!」
緑谷が指を指した先には大いにおよそ3mほどの高さにある鉄格子の小窓だった。
「この暗さなら見えなくも...いや、見えねぇか」
「だったら俺、暗視鏡買ってきてよ...」
「ええすごい!何で!?」
「アマゾンにはなんでもあってすぐ届くんだ。一つしか買えなかったけど、やれること考えた時に...いると思ってよ」
「それメッチャ高い奴じゃない!?僕もコスチューム考えた時、ネットで見たけど確か5万くらいしたような...」
「値段はいんだよ、言うな」
かなり値のはる代物だが、巧と爆豪を助けるためならばと後悔はしていない切島。
「よし、じゃあ緑谷と切島が見て、俺と飯田が担ごう」
行動に取り掛かった緑谷たちは轟が言ったように轟と飯田が緑谷と切島を担ぎ、2人は小窓の中を覗いた。
「うお!?」
「切島君!?」
「っべぇ!!」
小窓を覗いた切島は突然驚き、その勢いで体勢が崩れそうになるがなんとか堪える。
「おい!どうした!何が見えた!?切島!!」
「クッソ...!耳朗が聞いた音ってこれか...!緑谷左奥!見ろ!」
切島が言う方向に向いた緑谷は切島に渡された暗視鏡でその視線の先の正体に気づき驚愕する。
「ウソ、だろ...!?あんな...無造作に...!アレ、全部...脳無...!?」
緑谷が目にしたのは巨大な水槽に眠る、大量の脳無たちだった。
●●●
一方死柄木たちのバーではモニターに映るオール・フォー・ワンに全員が視線を向けていた。
「先生ぇ...?テメェがボスじゃねぇのかよ...!白けんな」
初めてその姿を見る巧と爆豪、爆豪は威勢を張っているが冷や汗を流していた。オール・フォー・ワンの姿に只者ではないことをモニター越しでも実感できた、それは巧も同じであった。
「赤井、緑川、青木。また眠らせておけ」
死柄木は巧によって吹き飛ばされた赤井たちに命令する。赤井は文句を言いながら立ち上がる。
「怪我人に仕事任せるなんてリーダーも鬼だな...!そこの2人も大人しく話を聞いて欲しいんだけど」
「それはこっちのセリフだ」
「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」
吠える巧と爆豪であったが、この状況をどうにかして抜け出そうと頭の中をフルで回す。この絶望的な状況で逃げようなどほぼ不可能に近いが、かといってこのままでは確実に殺されるのは明白。その間に赤井と緑川と青木の3人が2人の前に立つ。
「そんじゃお寝んねの時間だ」
そう言って三人の体から模様が浮かび上がり、オルフェノクの姿になろうとした瞬間、突然バーの扉の向こうから扉を叩く音がする。
「どーもぉ、ピザーラ神野店ですー」
緊張した空気の中で気の抜けた声にバーの中が唖然とする。オルフェノクに変身しようとしていた3人も扉の方に向く。
SMAASH!!
すると次の瞬間、壁が勢いよく破壊される。その壁の向こうから現れたのは、堂々と佇む筋骨隆々の男。オールマイトであった。
「黒霧!ゲート...!」
死柄木が黒霧にゲートを出すよう命令し、すぐに黒霧がゲートを開こうとするがそうはさせまいと、シンリンカムイが前に出る。
「先制必縛!ウルシ鎖牢!!」
シンリンカムイは爆豪と巧意外の
「木ぃ!?んなモン...!」
「逸んなよ」
荼毘が炎で燃やそうとするとすかさずグラントリノが後頭部に蹴りを入れ、脳震盪が起きた荼毘は気絶してしまう。
「大人しくしていたほうが身のためだぜ」
「流石若手実力派だシンリンカムイ!!そして目にも止まらぬ古豪グラントリノ!!もう逃げられんぞ
これほどまでの実力派揃いで攻め込まれては、並の
「ここで変身しようってんならここで殺してもいいぜ」
「変身の最中に一瞬でここにいる全員の心臓を貫くのはそう難しいことじゃねぇんだぞ」
完全なる形勢逆転にもはやなす術がなく、赤井は笑うしかなかった。そんな中、扉の隙間からエッジショットが現れる。
「攻勢時ほど、守りが疎かになるものだ...。ピザーラ神野店は俺たちだけじゃない。外はあのエンデヴァーをはじめ手練のヒーローと警察が包囲している」
エッジショットが扉を開くと、そこには武装した警察とエンデヴァーを筆頭にした様々なヒーローが待ち構えていた。
「ハハッ...後でレビューに星一つけとこ...」
こんな状況でも笑いながら冗談を言うのは焦りを誤魔化すための赤井なりのやり方なのだろう。オールマイトは巧と爆豪に駆け寄る。
「怖かったろうに...よく耐えた!ごめんな...もう大丈夫だ乾少年!爆豪少年!」
「こ、怖くねぇよ!ヨユーだクソッ!」
「怖かったのか...」
「あんだとゴラァ!?」
相変わらず喧嘩する2人にオールマイトは苦笑いしながらも同時に安心する。その様子を死柄木は憎悪の目で見つめていた。
「せっかく色々こねくり回してたのに...。何でそっちから来てくれんだよ。ラスボス」
死柄木が倒したいと望んだ男。その男が今目の前にいるのに何も出来ないことに不満が溜まるがこの怒りは一度抑える。
「仕方がない....俺たちだけじゃない....そりゃあ、こっちもだ。黒霧!持ってこれるだけ持ってこい!!」
死柄木が黒霧にそう命令する。もってこいというのは脳無のことであろう。何体か持ってこればこの状況を突破できるはず。そう言う考えだ。しかし黒霧はいつまで経っても脳無を連れてこなかった。
「すみません死柄木弔...。所定の位置にあるはずの脳無が...無い...!」
「!?」
「やはり君はまだまだ青二才だ!死柄木!」
「あ?」
どうして脳無がいないのか困惑する死柄木にオールマイトが声を上げる。
「
さらに困惑する死柄木をよそに1人の警察がオールマイトに駆け寄る。
「連絡です!ベストジーニスト率いるヒーローたちが倉庫にいる脳無を鎮圧!ラグドールも保護したとのこと!」
「!?」
「おいたが過ぎたな、これで終わりだ死柄木弔!」
倉庫にいた脳無たちは八百万の発信機を頼りにベストジーニスト、ギャングオルカ、Mt.レディ、虎の4人が制圧した。もはやなす術がない死柄木にオールマイトは更に圧をかける。
「終わりだと...?ふざけるな...始まったばかりだ。正義だの...平和だの...あやふやなもんで蓋されたこの掃き溜めを、ぶっ壊す...。そのために
そして死柄木は黒霧にワープゲートを作るよう命令しようとするが、その瞬間に黒い線のようなものがが黒霧の胸を貫き、黒霧は気絶してしまう。
「うっ...!」
「!?」
「....え...!?キアアア!!やだぁもお!見えなかったわ!何!?殺したの!?」
突然現れた黒い線にマグネは黒霧が死んだのかと慌てふためく。黒い線は徐々に人の形に戻ると、その黒い線の正体はエッジショットだった。
「中を少々いじり気絶させた。死にはしない。忍法千枚通し!この男は最も厄介...眠ってもらおう」
最後の手段である黒霧もが気絶してしまいいよいよ追い詰められてしまった死柄木はその場で黙る。
「さっき言ったろ。大人しくしといた方が身のためだって。
「!?赤井お前!本名じゃねえのかよ!?」
「あたりまえだろ!!」
トゥワイスこと分倍河原仁は赤井こと尾針勝之に赤井が本名ではなかったことに驚き、赤井は盛大にツッコんだ。
「お前さんらはもう、逃げ場ぁねぇってことよ。なぁ死柄木弔。聞きてぇんだが、お前さんのボスはどこにいる?」
「.........................」
グラントリノの言葉は届いていないのか死柄木は黙ったまま頭の中で自分に起こった過去の出来事が、走馬灯のように流れてくる。
「奴はどこにいる!死柄木!!」
「お前が!!嫌いだ!!」
突然死柄木がオールマイトに向かって叫んだかと思うと死柄木の背後から黒いタールのようなものが出てくると、その中から2体の脳無が現れた。
「!?」
「脳無!?何もないところから...!あの黒い液体はなんだ!?」
突然現れた黒い液体と脳無にシンリンカムイは驚き、それを出したと思われる死柄木本人も驚いていた。
「エッジショット!黒霧は...!」
「気絶している!こいつの仕業ではないぞ!」
「どんどん出てくるぞ!!」
誰も状況が把握できないまま、黒い液体の脳無たちが次々と現れる。
「シンリンカムイ!絶対に離すんじゃないぞ!」
オールマイトがシンリンカムイにそう告げた瞬間、思わぬ事態が発生した。
「お"!?」
「オェ!?」
死柄木から現れた黒い液体が巧と爆豪の口から溢れ出し、体を飲み込んでいった。
「2人とも!!」
「クソッ!んだよこれ...!?」
「身体が...!飲まれ...!?」
オールマイトはなんとか2人を押さえるが健闘虚しく、巧と爆豪の2人は飲み込まれてしまった。その他の
「ウボァ!臭ぇ!」
「気持ち悪ぃ!死ぬ...!」
「グッ...!」
「まずい!全員持ってかれるぞ!」
「おんのれ!わたしも連れて行け!」
オールマイトは黒い液体に手を伸ばすが、届く前に黒い液体と死柄木たちは姿を消してしまった。