緑谷たちは爆豪を救出した後、八百万たちの元に駆け寄る。その直後に結花が爆豪の傷を治し、
「たっくん...!助けないと...!」
緑谷は最後に見た巧のあの穏やかな顔を思い出す。巧はこの後、殺されてしまうことを緑谷は確信する。絶対にそうはさせない、そんなことになってしまったらこれから一生自分を許せなくなってしまう。大切な幼馴染みであり、親友である巧がこの世から消えてしまうことが緑谷とって最大の恐れだった。動かずにいられなかった緑谷は巧の元に向かおうとした時、それを飯田が緑谷の前に出て止める。
「緑谷君!もうこれ以上は無理だ!俺たちは十分よくやった!俺たちにできることはもう何もない!」
「ダメだ...!たっくんを助けなきゃ!殺されちゃうんだよ!!」
「乾君のことはプロに任せて...!」
「プロがどうにかできる相手じゃないんだ!だから退いてよ!退けよ!!」
焦りと恐怖で我を忘れてしまっている緑谷を飯田は必死に食い止める。巧を助けたい気持ちは皆同じだ、しかしこれ以上の行為は確実に戦闘になってしまう。それだけは避けなければいけなかったが、もはや規則や法律などどうでもいい緑谷は涙を流しながら巧の元に向かおうとし、飯田がそれを必死に止める。その様子に八百万と轟、切島、結花の4人は俯き、耳朗は体を震わせ、今にも泣き出しそうになっていた。なんとしてでも巧を助けたい緑谷の肩に誰かが手を置く。緑谷は後ろを振り向くと手を置いたのは爆豪だった。
「行くぞ....デク....!」
「なんでそんなっ....!?」
突然何を言い出すのかと緑谷は爆豪の方に振り向くと、あることに気づいた。爆豪が握りしめている手から血が流れていたのだ。爆豪も緑谷と同じように巧を助けたい。しかし今助けに行けば今よりもっと状況が悪くなりかねないのだ。その葛藤が現れた手に緑谷は力無く膝から崩れ落ちる。
「今のうちに行きましょう...」
もう自分たちにできることは何もない。八百万の一声により緑谷たちはこの場から立ち去った。
●●●
「可哀想に、仲間に見捨てられちまったな」
「.......!」
ファイズフォンを構えてゆっくりと近づいてくる赤井に巧は冷や汗を流しながら後ずさる。撃たれた左腕にはダラダラと血が流れ、右手で押さえてはいるがその程度で血は止まることはない。
「そういえば俺、前に言ってたよな楽に殺してやるって、今ちょっと気が変わったんだ。やっぱりお前を痛ぶってから殺してやろうかなってな」
赤井の目に光のない不気味な笑みに巧は更に冷や汗を流す。今この絶望的な状況で逃げると言う選択肢はさっきの緑谷たちの作戦が最初で最後のチャンスでもう後がない。
「ふざけたこと抜かしやがって...!」
その直後、赤井はファイズフォンで巧の右足を撃ち、巧は膝から崩れ落ちてしまう。
「ぐあああああああ!!」
「自分の立場分かってんのか!もうすぐお前は死ぬんだぜ?少しは絶望しろよな...」
巧の右足からは血が流れ、痛みで立つことができない。赤井は先ほど言ったように巧をこのように少しずつ痛みをあたえ、苦しめながらながら殺すのだろう。その邪悪さに巧は背筋が凍る思いをした。
「乾少年!!」
その様子をAFOと戦っていたオールマイトは巧を助けようと飛び出すが、そうはさせまいとAFOがオールマイトの邪魔をする。
「君の相手は僕だよオールマイト。それに、君にも見てほしいからね、未来ある若者が目の前でなぶり殺される様をね...」
「貴様ぁ....!!」
オールマイトがAFOに足止めされている間に赤井は巧のそばまで近づき、見下すように目を向ける。巧は赤井を睨みつけ、少しでも一矢報いようと立ちあがろうとするが、赤井に顔面を蹴り飛ばされて倒れてしまう。
「抵抗はやめなさい!苦しみが長引くだけだぜ....?いや待て、そうかそれでいいのか」
赤井は屈むと、巧の髪の毛を掴んで無理やり目線を合わせる。
「俺は、こうやって相手を痛ぶるのが好きなんだ。まあそうゆうことしてたらいろんな奴らの恨み買って今こうなっちまったわけだから少し反省してる。けどやっぱりこうゆうの好きでやめられないんだよ。自分の趣味を我慢するのは体に悪いからなぁ、だからサンドバッグになってくれよ!!」
赤井は巧の顔を地面に叩きつけ、そして無理やり顔を上げさせる。巧の口や鼻から血が流れ、かなり痛々しい姿になっていた。しかし、これほどまでの傷を負った巧の目は赤井を睨みつけていた。その態度に赤井の額に血管が浮かび、何度も巧の顔面を地面に叩きつける。
「なんだその目は!?ああ!?泣けよ!恐怖で歪んだ顔が見てぇんだよ俺は!!分かるか!?俺を楽しませろよ!!」
何度も何度も強く地面に叩きつけ少し疲れたのか手を離し、一息つく。地面にうつ伏せている巧の顔の周りには大量の血が飛び散っていた。イラついている赤井は立ち上がり、ファイズフォンの銃口を巧の後頭部に向ける。
「ハズレだな。お前にはガッカリだ。せっかくこの状況になるまで楽しみにしてたのに萎えちまった。もういい、殺す」
そう言って赤井がファイズフォンの引き金を引こうとした時、突如何者かが赤井の顔面に向かって蹴りを入れようとし、赤井は咄嗟に防御を取りその正体を見る。
「んだよ、増援か」
巧を守るように現れたその正体はグラントリノだった。グラントリノは倒れている巧の前に立ち、あたりを確認してこの戦況を確認する。
「子供相手に酷いことしやがる。反吐が出るぜ」
「よく言われる!」
赤井は瞬時にファイズフォンをグラントリノに向けて引き金を引こうとするが、グラントリノはそれよりも早く赤井に近づき、ファイズフォンを蹴り上げ、回し蹴りで赤井の顔面を蹴り飛ばした。
「ぐあっ!!」
赤井を蹴り飛ばしたグラントリノは巧に駆け寄る。まだ息はあるが、かなりひどい状態で血を多く流している。足を怪我しているせいで自力で逃げることは不可能であろう。
「おい、立てるか?」
グラントリノは巧に手を差し出し、辛うじて意識があった巧は血で前が見えない中、その手を取る。グラントリノに支えてもらいながらなんとか立ち上がった巧はふらつきながらも地に足をついた。
「その状態じゃあ自力で逃げるのは無理そうだな。お前はここでじっとしてろ」
グラントリノは巧にそう告げると
「相手を必要以上に痛めつけるところ、お前の悪い癖だ。少しは我慢ぐらいしろ」
「悪い悪い、努力はしてるんだけどな....。いってぇなクソ.....」
赤井は立ち上がるとグラントリノに蹴られた首を押さえ、軽く首を動かす。
「で、どうする?」
「あ?」
「あのガキだよ、お前がさっき痛めつけてきたやつ」
「あーあいつか、そうだなぁ、殺すか」
赤井は巧の方を見て何食わぬ顔で殺すと決めた。巧の方は血を流しすぎて力が入らず、立つことで精一杯だ。力が入らない足を震わせながらこちらにゆっくりと歩いて迫ってくる赤井たちを睨みつける巧。今の巧は逃げる気力もなく、抵抗する力もない。オールマイトはAFOとの戦闘に手一杯、グラントリノもこの距離ならすぐに間に合いそうだが、赤井たちは巧のすぐ目の前まで迫っていた。
●●●
オールマイトとAFOが戦う激戦地から離れていた緑谷たちは、彼らは巧を助けられなかった後悔と罪悪感に苛まれ、走ってあの激戦地から離れていた。その中で一人、緑谷はボロボロと涙を流しながら走っていた。巧はあの戦いで死ぬ。本人はそのことをわかっていたため、緑谷に別れを告げたのだろう。それを理解していた緑谷は巧を助けられなかった自分を責める。もっと自分がしっかりしていれば、あの時もっと手を伸ばしていれば、そんな後悔だけが心の中を駆け巡っていた。しかし後悔したところでもう助けることはできない。飯田が言ったように、自分たちにできることはもう何もないのだ。そんな時、1人立ち止まる者がいた。それに気づいた轟は後ろを振り返る。
「結花?」
「........私、乾さんを助けに行きます」
「!?何を言って...!?」
「分かってます。乾さんを助けるということは戦闘行為となって法に触れてしまうということ....。しかし、それでも!乾さんを助けたいんです!ずっと一緒に頑張ってきた友達なんです!友達を助ける理由なんていりません!」
「ま、待ちたまえ!」
飯田の制止を無視して結花は後ろを振り返り、巧がいる場所へと走って行った。その後ろ姿に轟も向かう決意をした。
「悪いが、俺も行かせてもらう」
「轟さんまで...!」
轟も巧のいる場所に向かい、それに続くように爆豪も走り出した。
「俺も行くぜ、あいつには借りがあるからな」
「爆豪!」
ついには爆豪も行ってしまい、緑谷たちはその場に取り残されてしまった。その中で1人この中で誰よりも巧のことを助けに行きたい緑谷は過ぎゆく爆豪たちの後ろ姿を見て俯き、強く拳を握りしめた。
「僕も...行くよ。行きたい。見捨てるなんて出来ない...」
「緑谷...」
「だから...僕は戻る!」
「緑谷君!」
そう言って緑谷は走り出し、飯田たちも緑谷たちの後を追った。
●●●
目の前に赤井たちが巧を嘲笑うように見下す。もう動く力も気力もない巧は最後の悪あがきのように赤井たちを睨みつけしっかりと両足でたった。
「死ぬ準備はできたか?それじゃあお前をご両親の形見で頭を撃ち抜く刑に処す。異論はないな」
赤井はファイズフォンの銃口を巧の頭に向け、指をトリガーにかける。その様子を見たオールマイトはすぐに巧を助けようとするがAFOに阻まれてしまい、向かうことができず、グラントリノも全速力で向かうが、間に合いそうになかった。もはやこれまでと巧は目を瞑り、いままでのことが走馬灯のように流れる。これでやっと両親の元に行けるのか、それとも命を奪った自分は地獄に落ちるのか、そんなことを考えながら迫り来る死を待っていると、どこからともなく赤井に向かって飛び蹴りをする者がいた。
「ハァ!」
「グオッ!?」
思わぬ攻撃に赤井は防御出来ず、胸からモロにくらい、吹き飛ばされて地面を転がる。その直後に緑川と青木に向かって炎と爆破が炸裂した。突然の状況に巧は何が起こったのか分からず、戸惑っていると巧のそばに緑谷が駆け寄ってきた。
「たっくん!」
「出久...!勝己、轟、長田...!お前ら...なんで戻ってきやがった...!?」
「友達だからです!」
「結花が心配だからついてきただけだ。勘違いすんなよ」
「お前には借りがあるからな。それを返しにきただけだ」
この場から逃げてきたはずの緑谷たちがなぜ戻って来たのか、巧は疑問を投げかけ、それぞれ適当な理由を述べる。
「見捨てるなんて出来ないよ...。こんなことしたらヒーローになれないことはわかってる....。それでも!たっくんは僕にとって大切な家族で、仲間で友達なんだ!だから助けたいんだ!それ以外に理由なんてないよ!!」
「馬鹿野郎...せっかく俺の努力を無駄にしやがって...」
巧は力が抜けて倒れそうになるが、緑谷が巧を支える。その後すぐに結花が駆け寄ってボロボロになった巧の体を治し、朦朧としていた意識と残りわずかな体力が元に戻る。
「おいお前ら!一体どうするつもり...!」
「じじいはすっこんでろ!あんたが手に負える相手じゃねぇことぐらい自分でもわかってんだろ。さっさとオールマイトのとこに行け。あんたに責任はねぇからな」
「だが...!」
何かを察したグラントリノが巧たちの元に駆け寄ろうとするが、巧が大声で止める。巧の言うとおり、オルフェノクに人間であるグラントリノが敵うわけもない。それならばオルフェノクの巧たちが相手をした方が合理的だ。それでも納得がいかないグラントリノが何か言いかけた時、赤井が割って入る。
「感動的だなぁ。すごく尊い友情だと思うぜ」
巧たちは赤井たちの方に振り向き、睨みつける。赤井はそんな巧たちの目を見ても動じることはなく淡々と話す。
「いてて...結構いい蹴りだなお嬢ちゃん...。じいさんのやつと違ってまだ優しい...、今のセクハラか?」
自分で言った発言が少し気になった赤井は青木に問題ないか聞いてみるが、青木は適当に肩をすくめる。
「まあいい。お前らがこいつを見捨てとけば死なずに済んだのにせっかくのチャンスを無駄にするとは学が足りてないんじゃないか?」
「さっきらかウルセェぞテメェ、二度と口がきけねぇようにしてやんぞ」
「威勢がいいね。痛めつけがいがあるよ」
そういうと赤井たちはベルトを巻き付け、それぞれファイズフォン、カイザフォン、デルタフォンを取り出す。
『5 5 5』
『Enter』
Standing by
「変身」
Complete
『9 1 3』
『Enter』
Standing by
「変身」
Complete
「変身」
Standing by
Complete
それぞれファイズ、カイザ、デルタに変身した赤井たちは巧たちを殺そうと歩き出す。今の巧たちはカメラで生中継されている中でオルフェノクへと変身することができない。もし変身してしまえば自分たちの立場は危ういものとなってしまうであろう。しかし、今の彼らにはそんな悩みは些細なことだった。巧たちはもう、戦う覚悟を決めているのだ。
「緑谷君....!どうしてあんなことを...!」
「ていうか、なんでファイズが3人も...?あれ、乾だけしか変身できないはずじゃ...」
「俺にもわかんねぇけど、爆豪がファイズに変身したんだ。他の誰かが変身できるのかも知れねぇが、そんなことよりどうにかして助けねぇと」
「助けに行くには危険すぎますわ。私たちにはどうすることも...」
この激戦地で助け出すことは飯田たちには最早不可能。切島は自分の無力さに悔しさを露わにする。
「俺たちが何しようとするのかお前らわかってると思うが、逃げ出すなら今の内だぞ」
「乾さんを助けようと思った時には覚悟はしています」
「今更やめようだなんて思っちゃいねぇよ」
「誰が逃げるかよクソがッ」
「一緒にやろう。あいつらを倒して、みんなで帰るんだ」
皆それぞれ覚悟は決まっているようだ。それを再確認した上で巧は赤井たちの方に振り向き、睨みつける。そして巧たちの体に模様が浮かび始め、徐々に体が変化していき、オルフェノクへと変身を遂げた。