翌日、恥ずかしいところを見られた巧は部屋の隅で身を屈めていた。そんな巧に緑谷と結花は励ましの声をかける。
「たっくん...。別にそんな恥ずかしがる事ないよ、すごく歌上手だったよ?」
「そうですよ!もう、ほんとにプロ顔負けでしたよ!」
「ほっといてくれ...」
緑谷と結花の励ましにも動じず、巧は一生物の黒歴史ができてしまった。何より爆豪と轟に見られてしまったのだ。巧にとってこれ以上の恥はない。塞ぎ込んだ巧をどうしたものかと緑谷が悩んでいると突然、部屋の扉が開き、スマートレディが顔を出してきた。
「みなさんおはようございまーす♪今から記者会見を開くのでみなさんついてきてくださーい♬」
スマートレディに呼ばれ、巧たちは全員この部屋を後にした。この後、世界中に自分たちの存在を知らしめる時が来たのだ。
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場所は変わり、耳朗家の自宅では耳朗が部屋で音楽を聴きながら耽っていた。流している音楽はQueenのRadio Ga Gaだ。耳朗は巧が好きな曲を流しながらあの時のことを考えていた。どうして巧はあの灰色の怪物に姿を変えたのだろうか、巧は人間ではなかったのか?そんな疑問が頭に浮かぶが、一つ言えることはある。それは巧は巧であることに間違いないということだ。それだけは確信している。あの時の巧は、耳朗たちに危害が及ばないように逃げろと言ったのだ。今まで会ってきた他の怪物とは違うことはハッキリしている。
「乾...」
耳朗は巧の安否を心配しながらふと、スマホの画面を開いたとき、とあるネットニュースが目に入った。その内容はスマートブレインの社長があの怪物の正体について今日話すと書かれていた。それを知った耳朗は急いで一階に降りて、テレビをつけた。そこではスマートブレインの本社の中で沢山の記者たちがいる中で、スマートブレインの社長である村上とその後ろで爆豪、緑谷、巧、結花、轟の順番に入り、村上を真ん中にして記者たちの前に座った。記者たちは入ってきた巧たちに向かって大量のフラッシュで巧たちを照らした。
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記者たちの前で座る巧たち、緑谷はこの状況に緊張し、結花は不安気な顔をし、巧、爆豪、轟の三人は動じずに座っていた。村上は黙ったまま会場が静かになるで待つ。そして会場が静寂に包まれたことを見計らって村上は口を開いた。
「まず初めに、ここにお集まりいただきありがとございます。みなさんがここに集まって貰った理由は、ご存知の通り近頃、巷を騒がしている未確認生命体についてです」
村上が未確認生命体という言葉を発した時、あたりは騒然としはじめる。村上はその中で右腕をあげた。
「みなさんお静かに」
村上の一言で、あたりは一瞬で静まり返る。まるで全員が村上の命令を聞くロボットのようだった。村上は全体を纏める圧倒的なカリスマ性があるのだろう。村上はもう一度口を開く。
「では、そのことについて何かご質問は?」
村上がオルフェノクについて何か質問がないかを聞いたとき、大勢の記者たちが一斉に手を挙げた。村上はその大勢の中で1人の記者を指差した。指名された記者は村上に対して質問する。
「NHAです。村上社長が未確認生命体について公表しようとした経緯と理由についてお答えください」
「私が未確認生命体について公表しようと決断した経緯については、彼らが大勢の目の前であの姿を晒したことにより、存在が知られてしまって隠すにもに隠せなくなってしまったという経緯があり、その理由としては、今まで存在を隠し通してきた彼らについて理解と関心を深めてもらうために、勝手な憶測や偏見で彼らが差別を受けないために、公表すると決断したからです」
村上は世間にオルフェノクが危険では存在ではないということを知ってもらうために、この記者会見を開いた。この記者会見はリアルタイムで世界中に発信されている。世界中の人間が巧たちを見ているのだ。そして記者たちが手を挙げる中で村上は指差す。
「今まで未確認生命体を隠してきた理由は?」
「それは彼らの存在が世間に混乱を巻き起こす可能性があり、そうなれば彼らにも、あなたたちにも危険が及ぶと考えていたからです」
「それは彼らが危険な存在だからですか?」
「全くもって違います。危険なのは一部の存在。個性犯罪を犯す
村上は記者たちの質問に対して、冷静に淡々と説明する。物怖じしない態度はまさに上に立つ存在だ。
「村上社長の周りにいる未確認生命体は一体何者なのでしょうか?世間では人間に化けた宇宙人や怪物などと噂されていますが、その正体をお聞かせください」
「彼らは侵略宇宙人や化け物などというくだらない存在ではありません。彼らはあなたたちと同じように感情があり、食欲があり、睡眠欲があり、性欲があるれっきとした生き物なのです」
「私たちと同じということは、彼らは人間だと言いたいのですか?」
「その通り」
未確認生命体である巧たちが人間であるという発言にあたりはまた騒然とする。その中で先ほど質問した記者がもう一度質問をしてきた。
「では彼らのあの姿は一体なんですか?人間であるとするならば、あの灰色の姿は到底人間には見えません。個性と呼ぶにはあまりにも恐ろしい姿をしていますが?」
記者の言葉に巧、爆豪、轟の三人は苦虫を噛み締めたような表情をする。彼らは巧たちをただの醜い化け物と決めつけているような発言だった。その記者の質問に村上は表情一つ変えずに冷静に答える。
「あなたは彼らの姿が恐ろしい姿に見えるのですか?それはいわゆる差別というものではありませんか?記者というものはそういった偏見や偏った情報を垂れ流しするような愚かな職業でしたかな?私はそのような差別的な方にはお答えできかねます」
「いや、それは...失礼しました」
村上は記者の質問に威圧的な態度で返す。周りはその威圧感に圧倒され、冷や汗を流す者もいる。記者はその威圧感に萎縮してしまい質問を取り消した。気を取り直し、村上は他の質問に対しても答えていく。
「それでは、彼らが我々と同じ人間としたうえで、改めてあの姿についてお聞かせ下さい」
もう一人の女性記者が、オルフェノクとはどういった存在なのか村上に対して改めて質問する。
「そうですね、まず彼らは未確認生命体という名前ではありません。彼らの名はオルフェノク。所謂、人間の進化系と言うべきでしょうか」
「オルフェノク...。それが彼らの名前なんですね。進化系というのはどういった意味でしょうか?」
「言葉通りの意味ですよ。彼らは死を経験することによって人間からオルフェノクへと進化を遂げたとても稀な存在なのです」
「死を経験することによって?それじゃ彼は...」
「死体ではありません。死は進化するためのただのきっかけでしかないのです」
「それでは、彼らと同じ様な存在が世界中にいるということですか?」
「その通りです。オルフェノクとは誰しもが持っている素質ではありませんが、誰が持っていてもおかしくない力です。その力は個性よりも強力で、無限の可能性に満ちている」
村上は立ち上がり、両腕を大きく広げて声を上げる。まるで世界に轟かせるように大きく声を上げた。
「人類は知性という唯一無二の力を手に入れ、超常黎明期により個性という新たな力を手に入れた!そして人類は更なる進化を遂げた!超常黎明期ならぬ、超人黎明期!我々はオルフェノクという新たな段階に足を踏み入れた!」
段々と感情が昂ってくる村上に巧たちや周りは呆気に取られる。そして村上は正面のカメラを見据えた。これはカメラを見ているのではない。世界を見ているのだ。村上は世界の人間たち、そしてまだ見ぬオルフェノクたちに向けて大きく声をはりあげた。
「世界よ!人類よ!我々の存在をしっかりと目に焼き付けろ!」
突然、村上の顔に模様のような物が浮かび上がったと思った瞬間、村上の姿が変わった。その姿は全身が純白で、頭はガラスのような物に覆われて透けており、その中では薔薇の花びらのようなものが入っていた。その姿は正しくオルフェノクであった。その名もローズオルフェノク。隣にいた巧たちはオルフェノクに姿を変えた村上を見て驚き、あたりはオルフェノクに変身した村上を見て、会場はパニックになり、悲鳴を上げる者、逃げ出そうとする者、この瞬間を逃すまいと写真を撮る物など様々だ。
「まさか、テメェも...!」
「さあ、君たちも立ち上がりなさい。君たちの姿を世界に見せつけるのです」
巧たちは少し状況が掴めずにいたが、言われるがままに立ち上がり、全員はオルフェノクへと姿を変える。この姿を世界に知らしめる。オルフェノクという存在が、自分たちという存在が確かにいることを見せつけるのだ。そして村上はパニックになっている会場に向けて大きく声を張り上げた。
「鎮まれ!!!!!」
村上の声にパニックになっていた会場は一瞬で静まり返る。記者たちは村上に視線を向け、一体何を言い出すのかと息を殺し、音を立てないように待つ。
「我々はただあなたたち人間と共存を望んでいるのです!そのためには、あなたたちが我々を理解して貰わなくてはならない!我々は敵ではない!我々は人間と同じように愛し、喜び、悲しみ、怒り、笑うのです!どうか我々を理解してほしい!」
巧たちはオルフェノクを世界に知らしめた。これが共存の道へと繋がるのかはわからない。しかし大きな一歩であることは間違いないなかった。
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あの記者会見から数週間が経過した。あの騒動により、世間ではオルフェノクの話題で溢れかえり、テレビをつけてもオルフェノクに関するニュースでもちきりだ。巧たちはスマートブレインが用意してくれた部屋で何不自由ない生活をしていたが、巧たちは家族のことが気がかりだった。きっと心配しているのだろう、緑谷の母親は心配のし過ぎで倒れてしまっているかもしれない。巧たちは軽いホームシックになっていた。ただぼーっとするだけの日々が続いていた頃、突然扉が開いた。巧たちが扉の方に振り返ると、そこにはスマートレディが立っていた。
「こんにちわー♪皆さんにお客様ですよー♫」
一体誰が来たのかと、巧たちは身構えているとスマートレディの後ろに現れたのは巧、緑谷、爆豪、轟の担任教師である相澤と長田の担任教師であるブラドキングだった。
「先生...」
「なんでここに?」
「なんでも何もない。お前らを連れ戻しにここに来ただけだ」
「連れ戻しにきた?」
「その通りだ。お前たちは明日からこの部屋ではなく、雄英の学生寮で生活してもらうのだ。すでにお前たちの親にも許可は貰っている」
「学生寮...ですか...?」
ブラドキングが言った学生寮と言う言葉に結花は頭に疑問が浮かぶ。何故今から学生寮で生活をすることになるのだろうか。
「なんで俺たちが?」
「わかっている。何度も
「いや、そういうことじゃねぇ」
「?」
相澤は今まで三度も
「なんで俺たちもなんだ?俺たちはオルフェノクなんだぞ。あの時、俺たちのことを理解してほしいとは言ったが、化け物の俺たちを学生寮に入れれば、それこそ世間の信用がなくなるぞ」
「.........」
巧の最もな疑問に、相澤は黙ったまま巧の方を見据える。あの時、村上がオルフェノクと人間の共存を唱えたが、それでもオルフェノクを恐れる人間は多い。そんな状態で巧たちを学生寮に入れれば、世間の目はどういう風に見られるのか一目瞭然だ。巧の疑問に対し、相澤はため息を吐いた。
「信頼ってのは勝ち取るもんだ。たとえヒーローに対する世間の目が冷たくても、たとえ世間がお前たちを恐れたりしても、それを覆すほどの信頼を勝ち取るんだ」
「お前たちは恐れられる存在ではない。俺たちは充分に理解している。みんなもそう思っている。だから戻ってこい。お前たちは醜い怪物ではない。俺は断言する」
「先生...」
相澤は信頼とは勝ち取るものだと言い、ブラドキングは巧たちを醜い怪物ではないと自信を持った声で断言した。巧たちはその言葉に立ち上がった。
「どうなっても知らねぇからな」
「改めてよろしくお願いします!」
「私もよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
「フンッ」
巧と爆豪はわざとらしく冷たい態度をとり、緑谷、轟、結花の三人は頭を下げた。相澤とブラドキングは口角を上げる。
「それでは、色々とウチの者がお世話になりました」
「全然構いませんよ♫皆さん凄くいい子でしたし♪」
こうして巧たちは相澤たちに連れられてスマートブレインを後にした。
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社長室では、村上が1人椅子に腰かけて考え方をしていた。その後ろにスマートレディが近寄ってくる。
「みなさん行ってしまいました♬」
「そうですか。まぁ、ここにいてもらっても仕方がない。彼らにはもっと過ごしやすい環境で成長していくことが1番だ。王を守護するためにもね...。それから雄英高校の学生たちにも、彼らに会わせてあげましょう。きっと良い刺激になる」
「それは名案ですね♪」
村上は不敵な笑みを浮かべる。これは新たな出会いと戦いの予兆でもあった。