進化する人々   作:奥歯

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仮免試験
学生寮


巧たちはその後、自分たちの家へと戻った。戻ってきた直後に親たちからものすごく心配されて、何も言わずに無事に帰ってきてくれたことを喜んでくれた。そして久しぶりの家族水入らずの夜を過ごし、あっという間に時間が過ぎて翌日になった。

 

「たっくん、これ待って行くべきかな?」

 

「持っていきたいなら持ってけ」

 

「じゃあこれはどうかな?」

 

「いいんじゃねぇか」

 

「じゃあこれとかは?」

 

「勝手にしろ」

 

「じゃあ...」

 

「黙れ」

 

「ごめん」

 

巧は黙々と荷物をまとめ、緑谷も何をもって行くか迷いながら荷物をまとめていた。巧たちは今から雄英高校の学生寮に行くのだ。そのためにある程度の準備をしている。その時、緑谷はふと、窓から外を眺めると、人だかりができていた。噂を聞きつけてきた野次馬たちが自分たちを一目見ようと群がっているのだ。

 

「人がいっぱいだ...。これじゃ外に出られないな」

 

「チッ」

 

巧は外の野次馬たちに対して舌打ちをすると準備を途中で止め、窓を開けて怒鳴り声を上げた。

 

「おい!見せもんじゃねぇんだぞ!!さっさと向こうに行け!」

 

「チョッ...!?たっくん!?」

 

巧の怒鳴り声に驚いた野次馬たちはそそくさと蜘蛛の子を散らすように走ってどこかに行ってしまった。確かに巧たちは人間とは違う珍しい存在だが、だからといって他人のプライベートを覗こうとするのは犯罪者と同じだ。おそらく爆豪と轟の家でも同じことが起こっているはずだ。巧はイラつきながらも準備を済ませ、いよいよ出発の時間となった。

 

「それじゃ、気をつけてね」

 

「うん。行ってきます」

 

「行ってきます」

 

「待って」

 

「「?」」

 

「2人とも愛してるわ」

 

「...うん。僕も」

 

引子の言葉に緑谷は返し、巧は小さく笑みを浮かべた。そして巧と緑谷は玄関を開け、雄英に向かうための電車まで歩いて行こうとしたその時、一台の車が巧と緑谷の前で止まった。そして車の窓が開くと、サングラスをかけた男が顔を出した。

 

「送りますよ。あなたたちは今有名人ですからね。通学するのは困難でしょう」

 

巧と緑谷は少し呆気に取られるが、確かにこのまま行ってしまえば、街の人々に邪魔されて通学は困難になるだろう。巧と緑谷はその言葉に甘えて車に乗り込んだ。

 

●●●

 

雄英高校に到着した2人は車から降りる。車はその直後、何も言わずに立ち去って行った。久しぶりの雄英高校を前に巧と緑谷は様々な思いが駆け巡る。思えば今まで様々なことが起こった。平和の象徴の消失。オルフェノクの存在。これから世界は大きな変化が現れるであろう。そんな不安のがある中で、この先への期待も大きかった。緑谷はその期待に胸を高鳴らせ、一歩を踏み出した。しかし、巧はその場で立ち尽くしたまま動こうとしない。緑谷は動こうとしない巧に気がつき、後ろを振り向く。

 

「たっくん?」

 

「.....あいつらは、俺たちのこと、受け入れてくれるのか...?」

 

巧はオルフェノクである自分が本当にあの時のように生活できるのか不安だった。11年もの間、巧はずっと自身の正体を隠し通してきた。その姿を公の場に晒し、世界中に知れ渡ったのだ。今までの生活はもう2度と戻ってこないんじゃないかと不安になる。赤井が言ったあの言葉が、巧の頭の隅っこにずっと残っているのだ。

 

○○○

 

お前らは!俺たちを倒したところでどうにもなんねぇんだよ!!お前らは怪物!人間にとって害でしかない醜いバケモンなんだ!!誰もお前らを受け入れるわけがない!蔑んで、恐れ、差別する!人間ってのはそういう生き物なんだぜ!!お前らにはもう夢も希望もないんだよ!!

 

○○○

 

緑谷はそんな不安そうな巧に近づき、巧の手を取る。

 

「大丈夫だよたっくん!」

 

なんの根拠のない緑谷の大丈夫という言葉に巧の不安は少し和らぐ、巧は悩んでも仕方がないと思い、緑谷とともに一歩を踏み出した。

 

●●●

 

巧と緑谷は雄英敷地内にある"ハイツアライアンス"という豪華な建物の前に来た。そこには何人かの生徒たちが集まっていた。その中には、爆豪と轟もいた。

 

「お!乾!緑谷!」

 

「2人とも久しぶりー!」

 

巧と緑谷に気づいた上鳴と葉隠が手を振ってくる。みんなの変わらない態度に巧は少しあっけに取られ、緑谷はそんな巧の顔を覗き込む。

 

「ね!大丈夫だって言ったでしょ!」

 

緑谷の笑顔に巧は一息ついて安心する。何も心配しなくても、自分たちはいつも通りにしても大丈夫なのだと安心する。その時、学生寮の扉が開き、そこから相澤が現れ、生徒たちは静まり返り整列する。

 

「おはよう、とりあえず1年A組。無事にまた集まれて何よりだ」

 

「皆許可降りたんだな」

 

「私は苦戦したよ…」

 

「フツーそうだよね…」

 

「葉隠はガスで直接被害あったもんね」

 

あの事件のせいで直接的な被害にあった者は何人もいる。彼らの親たちも、親御心として雄英に自分たちの子供を預けるのは少し不安なものもあったはずだ。何人かの生徒たちは顔を曇らせる。全員助かったとはいえ、それで丸く収まったとは言えない。

 

「無事に集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」

 

「うん」

 

「....俺もびっくりさ。まぁ…色々あんだろうよ。さて...!これから寮について軽く色々と説明するがその前に1つ」

 

「そういやあったなそんな話!!」

 

「色々起きすぎて頭から抜けてたわ...」

 

「大事な話だ。いいか?」

 

話を始めようとする相澤よそに、生徒たちは騒ぎ出すが、相澤はすぐに黙らせる。

 

「轟、切島、緑谷、八百万、飯田、耳朗。この6人はあの晩あの場所へ、乾と爆豪の救出に赴いた」

 

名前を呼ばれた6人に視線が集中する。それもそうだ。彼らは無断で巧と爆豪の救出という危険な行為をした上、信用を無くしたのだ。他のみんなも巧と爆豪の救出について話をしていた。

 

「その様子だと、行く素振りは皆も把握していたわけだ。色々棚上げした上で言わせてもらうよ。オールマイトの引退がなけりゃ俺は、乾、爆豪、葉隠以外全員除籍処分にしている」

 

除籍処分という言葉に周りは動揺する。

 

「彼の引退によって暫くは混乱が続く...(ヴィラン)連合の出方が読めない以上、今雄英から人を追い出すわけにはいかないんだ。行った6人、後B組の長田はもちろん、把握しながら止められなかった12名も理由はどうあれ、俺達の信頼を裏切った事には変わりない」

 

相澤の放つ威圧感と巧と爆豪の救出に赴いた緑谷たちに対する責任にが重なり、重く苦しい空気が漂っていた。

 

「まあ、何にせよ...お前らは正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。以上!さっ、中に入るぞ、元気に行こう」

 

(((((いや待って、行けないです...)))))

 

これほどまでに重苦しくなった空気の中で切り替えようとするのは流石に無理があるのか、生徒たちに気まずい雰囲気があった。そんな時、爆豪が突然上鳴の方に近づいた。

 

「来い」

 

「え?何?ちょ、怖い!やだ.......」

 

爆豪は怯える上鳴を茂みの中に連れ込んでいく。すると茂みの奥から電気が放電された。どうやら爆豪が無理やり上鳴に個性を使わせているようだ。しばらくして、爆豪と上鳴が戻ってきた。

 

「ウェ〜〜〜〜〜〜イ......」

 

「バフォッ!」

 

「何?爆豪何を...」

 

戻ってきた上鳴は爆豪から無理やり大量の放電したおかげで頭がショートして呆け面になり、ゲラな耳朗は吹き出してしまった。そして爆豪は、次に切島を捕まえる。そしてポケットから五万円ぶんの金を取り出し、切島に渡した。

 

「えっ怖っ、何カツアゲ!?」

 

「違ぇ、俺が下ろした金だ!いつまでもシミったれられっと、こっちも気分悪ィんだ」

 

「あ...え!?おめーどこで聞い.....」

 

「いつもみたいに馬鹿晒せや」

 

「うェい?うェイうェうェウェイ!?」

 

「だめ...ウチ、この上鳴...ツボッフォ!!」

 

「ふぇ...ふぇ、ふぇいだウェイ!」

 

爆豪は自分なりに周りを明るくしようとしているのだろう。それを察した上鳴は周りを笑わせようとする。暗かった雰囲気も多少明るくなったところで、切島は爆豪から渡された五万円を握りしめる。

 

「......わりィな。.....よしっ。皆!すまねえ...!!詫びにもなんねえけど...今夜はこの金で焼き肉だ!!」

 

「ウェーイ!」

 

「マジか!」

 

「買い物とか行けるかな?」

 

「俺鶏肉食いてー」

 

切島は今夜、焼肉を食べることを提案し、皆それに賛同する。爆豪のお陰で和やかな雰囲気に包まれた。巧はこの雰囲気に、いつもの様な他愛もない生活が少しだけでも戻ってきたような気がし、小さな笑みを浮かべた。その直後、和やかな雰囲気に邪魔にならないように陰に隠れていた相澤が顔を出した。

 

「乾、ちょっと来い」

 

「?」

 

呼ばれた巧は相澤の方に駆け寄り、何を聞かされるのか少し怪しみながらも、取り敢えず話だけは聞くことにした。

 

「まずは、お前に渡したいものがある。着いてこい」

 

巧は相澤に言われるがまま黙って着いて行き、とある大きな倉庫の前で止まった。

 

「なんだこれ?この中になんかあんのか?」

 

「ああ、お前がよく知るものがある」

 

相澤はそう言って倉庫に近づき、シャッターの扉を開いた。倉庫の中は外との明暗の差もあってよく見えなかったが、すぐに目が慣れるとその中には巧がよく知るものがあった。

 

「オートバジン!」

 

それは林間合宿以降、行方がわからなかった巧のバイクであるオートバジンがそこにあった。オートバジンはクロコダイルオルフェノクことトゥワイスとの戦いでかなりの損傷を負い、森のどこかに投げ捨てられてしまっていたが、まるでその傷など最初からなかったように新品同様の姿で戻って来ていた。オートバジンは巧の声に答えるようにエンジンをふかし、ヘッドライトを点滅させた。

 

「あの事件の後、そのバイクが落ちてたのを見つけてな。スマートブレインが回収して修理してくれたらしい。そのバイクはお前の大切なものだろ?」

 

「ああ、俺の相棒だ」

 

「.....そうか、相棒か」

 

巧はオートバジンとの再会に喜び、巧の心は徐々に明るくなっていった。

 

「さぁ、戻るぞ。あと最後に...」

 

「?」

 

「クラス全員からの伝言だ。『たとえお前らが人間じゃなくても、お前らは俺たちのクラスメイトだ』...。緑谷たちにも伝えといてやれ」

 

「.....ああ」

 

巧は笑みを浮かべ、相澤と共に学生寮へと戻って行った。

 

●●●

 

「1棟クラス、右が女子棟、左が男子棟と分かれてる。ただし1階は共同スペースだ。食堂や風呂・洗濯などはここで」

 

「広!キレー!!そふぁああ!!!」

 

「おおおおっ」

 

「中庭もあんじゃん!」

 

「豪邸やないかい」

 

「うららかくん!!」

 

相澤が寮の一階のフロアの説明をしている中、生徒たちはその豪華さに興奮していた。寮の中には、大型液晶テレビや巨大なソファーやテーブルなど、巧たちが以前スマートブレインの豪邸のような部屋に寝泊まりしたことがあり、そこまでの豪華さは無いが、それでも豪邸といっても差し支えないほどだった。

 

「聞き間違いかな...?風呂、洗濯が共同スペース?夢か?」

 

「男女別だ。お前いい加減にしとけよ」

 

「はい」

 

息を荒げる峰田に、相澤はドスのきいた声で峰田を黙らせた。次に2階のフロアに移動し、そこで相澤は歩きながら説明を続けた。

 

「部屋は2階から。1フロアに男女各4部屋の5階建て。1人1部屋エアコン、トイレ冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ」

 

「ベランダもある、凄い!」

 

「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね...」

 

「豪邸やないかい」

 

「部屋割りはこっちで決めた通り。各自事前に送ってもらった荷物が部屋に入ってるから、とりあえず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上、解散!」

 

「「「「「「はい先生!!!」」」」」」

 

一通り説明を終えた相澤はその場を後にした。因みに部屋割りはこのようになっている。

 

2階

男子 峰田実 青山優雅 緑谷出久 常闇陰踏

女子 全て空室

 

3階

男子 口田甲司 上鳴電気 飯田天哉 尾白猿夫

女子 耳郎響香 空室 空室 葉隠透

 

4階

男子 障子目蔵 切島鋭児郎 爆豪勝己 乾巧

女子 麗日お茶子 空室 空室 芦戸三奈

 

5階

男子 空室 砂藤力道 轟焦凍 瀬呂範太

女子 八百万百 空室 空室 蛙吹梅雨

 

このように部屋が割り振られており、この部屋割りを見た巧は怒りに満ち溢れていた。なぜならば自身の部屋の隣が爆豪の部屋となっていたからである。これは巧とって由々しき事態である。そのことは爆豪も気づいていた。

 

「なんで俺が勝己と隣なんだよ....!」

 

「それはこっちのセリフだわ!テメェと隣になるぐらいなら豚と暮らした方が100倍マシだぜ!!」

 

「俺だってテメェと隣になるぐらいならゴキブリだらけの部屋で暮らした方が1000倍マシだ!!」

 

「あんだと!?じゃあ俺は一万倍だ!!」

 

「俺は二万倍!!」

 

「三万!!」

 

「五十万!!」

 

「一億!!!」

 

「お前ら何で競ってんだ?」

 

「「ああん!!?」」

 

2人が子供のような取っ組み合いの喧嘩をしている最中に巧と爆豪と同じ階の部屋で暮らすことになった切島と障子が顔を覗かせていた。

 

「おい障子!俺と部屋変われ!こいつと隣なんて俺は御免だからな!!」

 

「クソ髪!部屋変われや!!こんなやつと隣なんて俺は御免だ!!」

 

「そんな事言ったってよぉ。お前ら俺たちと部屋変わっちまったら結局お前ら隣同士になっちまうじゃねぇか」

 

「それに、勝手に部屋は変えられないぞ。部屋変えの相談がしたいなら先生に相談しろ」

 

切島と障子に最もなことを言われた巧と爆豪は取っ組み合いを止め、お互い睨み合いながら職員室へと向かった。それを見送った切島と障子は呆れたようにため息を吐き、自身の部屋へと戻っていった。

 

●●●

 

「部屋変えしたい?」

 

「そうだ!っていうかなんで俺と勝己が隣同士なんだよ!?」

 

「どうにかしろよ先生!」

 

職員室に来た巧と爆豪は相澤に部屋変えの依頼をしていた。怒鳴り声をあげる巧と爆豪に職員室の教師たちはその様子を黙って見ていた。相澤少し考えるような仕草をすると、ため息を吐いた。

 

「はぁ、確かにこの部屋割りは問題があるな。仲の悪いお前らが隣の部屋となれば、面倒事しか起きなさそうだし、これに関しては校長室に...」

 

相澤が校長室の根津校長に相談しろと言おうとした時には巧と爆豪の姿はなく、既に校長室に向かって行ったようだった。

 

「....ったく」

 

●●●

 

場所は変わり校長室。そこでは根津校長は優雅に紅茶を飲んでいた。(ヴィラン)の襲撃。平和の象徴の消失。オルフェノクの正体など様々な事件が立て続けに起こり、まだまだ山積みとなっているが、その合間にあるささやかな平和を静かに堪能していた。

 

「静かなのさ...」

 

直後、校長室の扉がものすごい轟音とともに勢いよく開かれ、根津校長は驚いて椅子から転げ落ちてしまい、紅茶をこぼしてしまう。

 

「あっつあああああ!!何事なのさああああ!!?」

 

「「校長おおお!!俺の部屋を変えろおおお!!」」

 

勢いよく開いた扉から現れたのは怒りの形相の巧と爆豪の2人。根津校長は状況が把握できず、戸惑いながらもなんとか立ち上がる。

 

「君たち!部屋に入る時はノックくらいしなさい!いくら子供だからって最低限の礼儀は弁えて...」

 

根津校長は勢いよく入ってきた巧と爆豪に説教をしようとするが、2人の顔つきを見て萎縮してしまう。

 

「「部屋...。変えろ」」

 

「わ、わかりました...。なのさ」

 

無事部屋を変えることができた巧と爆豪。といっても、部屋を変えたのは巧だけで、交代したのは青山となった。交代してもらう代わりに巧は青山の荷物を移動させ、自身の荷物を2階の部屋へと持って行った。こうして巧はやっと自身の部屋を手に入れ、荷解きを始めたのだった。

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