数時間が経過した頃、巧の部屋が出来上がろうとしているところだった。外はすっかり暗くなり、巧は荷解きの疲れが溜まり、軽く伸びをして首や肩を回した。巧の部屋は、まず簡易的なベットとテーブルと椅子。そして一番巧にとって重要な部屋の装飾。棚には沢山のCDレコード。そして隣にはCDプレイヤー。そして壁にはQueenやThe Beatlesなどのポスターを貼り、巧の大切なギターを壁に掛け。筋トレ用のダンベルなどを揃え、自分好みの部屋を作り上げた。
「ザッとこんなもんか」
●●●
巧はその後、A組の全員で焼肉を食べ、皆荷解きの疲れでぐったりとしている。巧は荷解き程度で疲れはせず、部屋の隅でスマホをいじっていた。
(何!?オアシス再結成するのか!?)
巧は顔には出ていないが、心の中で驚いていた。そんな巧を他所に切島たちは満腹感と疲れで少し眠気に襲われていた。
「はー、疲れたぁ...」
「切島、荷解き終わったのか?」
「ようやくな!」
「お疲れ様」
「経緯はアレだが、共同生活ってワクワクすんな!」
「だね」
「共同生活...これも協調性や規律を育む為の訓練...!」
「キバるなぁ委員長」
男子たちが寛いでいたその直後、蛙水を除いた女子たちが現れた。
「男子ー。部屋できたー?」
「うん、今寛ぎ中」
「あのね!今女子で話ててね!」
「提案なんだけど、お部屋披露大会しませんか!?」
「「へ?」」
●●●
男子部屋2階。そこで緑谷は大声を上げて止めようとしていた。
「わああああっっ!!!ダメダメダメちょちょょちょっ待っ待っ待ぁあああ!!!」
しかし無慈悲にも扉は開かれ、緑谷の室内が露わになる。露わになった緑谷の部屋は至る所にオールマイトのグッズが並べられており、正にオタク部屋と言うべき部屋となっていた。
「オールマイトだらけだ!オタク部屋だ!!」
「あ...憧れなんで.......恥ずかしいィ...」
緑谷は恥ずかしさのあまり机に突っ伏し、皆は予想通りと言わんばかりの反応を示した。
「やべぇ、何か始まりやがった...!」
「でもちょっと楽しいぞコレ...」
少しづつ楽しくなってきた男子たち。他人のプライベートを覗くのはいかがなものかとは思うが、それでも覗きたくなるのが人間のサガというものなのだろう。
「フン、下らん...」
一方常闇は自分の部屋の扉にもたれ掛かり、興味が無いという態度をとっていた。そんな常闇に対し、芦戸と葉隠は強引に扉を開いた。
「「黒!!怖!」」
常闇の部屋は薄暗い照明だけが照らされ、部屋全体は黒を基調としたつくりとなっており、所々に人や鹿などの髑髏や見えている。常闇は慌てて止めようとするが、既に何人か部屋に入ってしまい常闇は怒りと恥ずかしさで震えていた。
「貴様ら...」
「このキーホルダー、俺中学ん時買ってたわあ」
「男子ってこういうの好きなんね」
「出ていけ...」
「ハッ...剣だ...カッコイイ...」
「出ていけ!!」
耐えられなくなった常闇は怒鳴り声をあげ、これ以上覗くのはまずいと思ったのか、全員部屋を出た。そして次は巧の部屋だ。A組の二大イケメンである巧の部屋となるとどんな部屋が待ち受けているのか少し気になるところ、特に耳朗はその様子が気になっており、轟は非常に嫌悪感剥き出しの顔をしていた。そんなこんなで皆ワイワイと騒ぎながら巧の部屋を開ける。
「お、意外と普通」
「なんだお前ら揃いも揃って」
部屋の中では巧はCDプレイヤーで音楽を流しながら机の上で何かを書いており、突然扉を開けられたと思ったら芦戸たちが立っていたという状況に巧は驚いていた。因みに今流れている音楽はThe Bugglesの
「みんなでお部屋披露大会しようって話してたじゃん!乾も聞いてたでしょ?」
「そんな話してたか?」
巧はあの時、オアシスが再結成するというニュースを見てその衝撃で周りの話など全く聞かずに自分の部屋に戻ってきたのでお部屋披露大会の話は知らなかった。
「何書いてんの?」
「反省文だ」
「なんで?」
「まぁ色々とな」
巧が今書いているものは、相澤から課せられた反省文だった。巧は数時間ほど前に爆豪と一緒に勢いよく校長室に入り、根津校長を驚かせて火傷させてしまったことについての反省文を10枚書かされていたのだ。巧自身悪いことをしたと反省しているのでこの罰を甘んじて受けている。因みに爆豪も同様の罰を受けている。
「ていうかお前ら出て行け、気が散る」
「まあまあもうちょっと待って!ちょっと乾の部屋を拝見してから!」
「おいお前ら!」
そういうと芦戸たちは無理やり入ってきた。巧は嫌がるが、面倒くさくなり、ため息を吐いた。芦戸たちは巧の部屋の中にあるものを見ていく。緑谷は申し訳なさそうに巧に謝罪し、耳朗は巧の部屋をまじまじと見ていた。
「CDがいっぱい。ねぇこれなんのバンドのCD?」
「あ?ああ、それは"ガンズアンドローゼズ"の"アペタイトフォーディストラクション"。ガンズアンドローゼズのデビューアルバムだ」
「このすごい勢いの顔のやつは何?」
「それは"キングクリムゾン"の"インザコートオブザクリムゾンキング"だ。邦題は"クリムゾンキングの宮殿"。それもキングクリムゾンのデビューアルバムだ。お前らちゃんと元の場所に戻せ、アルバムのリリース順に並べてんだぞ!」
「へぇ、乾ってロック好きなんだな。あ!俺このバンド知ってる!確かビートルズだっけ?アメリカのバンドのやつでしょ?」
「このギター乾の?乾ギター弾けんだな」
皆がワイワイと騒ぐ中、上鳴がポツリと呟いた言葉と、巧の大切にしているギターを勝手に触る瀬呂に巧の頭に血管が浮かぶ。皆は気づいていないが、この状況に気づいていたのは耳朗と緑谷の2人。緑谷は冷や汗を流し、耳朗は呆れてため息をついた。巧はとてつもない殺気を放ち、その殺気に気づき始めた皆は黙ってしまい、巧の方を見る。そして巧は上鳴と瀬呂に近づき、自分が標的であると気づいた上鳴と瀬呂は恐怖で体が震え、顔が引き攣ってしまう。そんな上鳴と瀬呂に、巧は力強く胸ぐらを掴み、自身の顔に引き寄せた。
「ビートルズはアメリカのバンドじゃねぇ。イギリスのバンドだ。メンバーはボーカル・ギターの"ジョンレノン"。ボーカル・ベースの"ポールマッカートニー"。ギター・ボーカルの"ジョージハリスン"。ドラムス・ボーカルの"リンゴスター"。音楽業界に多大なる影響を与えた偉大なバンドだ。そのビートルズがアメリカのバンドだと?適当なことぬかしてんじゃねぇ。ふざけんのも大概にしろ。そしてお前、俺のギターを勝手に触るな。俺の、大切な、ギターなんだよ...。そこのお前らもそうだ!勝手に部屋に入って来て他人のプライベートを覗いて勝手に人のもん触りやがって、何様のつもりだ?ああ!?お前らさっさと出ていけええええ!!!」
巧は怒声を上げ、上鳴と瀬呂を持ち上げ、怒りから体に模様が浮かび上がり、オルフェノクへと変身した。
「「「「「すみませんでしたぁああ!!!」」」」」
恐怖を覚えた芦戸たちは慌てて外に出て、全員出て行ったことを確認した巧は、最後にオルフェノクの姿のまま芦戸たちを睨みつける。
『次にまた俺の部屋入ってきたり、勝手に俺のものに触ったら...。殺す』
オルフェノクの影から巧の姿が浮かび上がり、完全に怒っていることが丸わかりだった。巧は勢いよく扉を閉めたと思ったらまた扉が開き、巧は葉隠が持っていたCDアルバムを取り返した。
「全員灰にしてやるからな...。わかったならさっさと消え失せろ」
そして巧また扉が壊れる勢いで扉を閉めた。静寂に包まれる中、緊張が解けて全員大きく息を吐く。葉隠は啜り泣いて蹲りながら芦戸に慰められており、上鳴と瀬呂に至っては恐怖で縮こまり、泣くことも忘れて震えていた。
「ヒグッ、グスッ」
「よしよし。泣かない泣かない」
「俺一瞬走馬灯見えた...」
「俺も...」
「俺たちも反省しないとだな...」
「うん。無闇矢鱈に人のプライベートを覗くもんじゃ無いね」
緑谷と飯田はこれに懲りてお部屋披露大会も中止になるだろうと思った矢先、芦戸は立ち上がった。
「よし!気を取り直して続き続き!!」
「あの、反省は?」
「おい芦戸君!君さっきのことを忘れたのか!?」
さっきのことは水に流そうとする芦戸に緑谷と飯田は止めようとするが、芦戸は聞く耳を持たず、次の部屋へと移動して行った。皆もさっきのこともあってあまり乗り気ではなくなってしまったがやはり楽しいのか、そんなことも忘れてしまい、あっという間に時間が過ぎてお部屋披露大会は幕を閉じた。
●●●
その後、やっと反省文を書き終えた巧はCDを止め、軽く伸びをする。そして巧はギターを手に取った。つい先ほど瀬呂が勝手に触っていたが、特に傷もついておらず、少し指紋で汚れていたのでナプキンで綺麗に拭く。そして巧はそのギターをマジマジと見る。少し古い色褪せたギターだが、巧が音楽を好きになるきっかけとなったとても重要なものだ。巧はこのギターを渡してくれた木場勇治という男を思い出す。彼はあまり多くを語らない謎めいた男だった。幼い時の記憶であるため、顔も声もあまり思い出せないが、あの優しいような悲しいような目だけは、ハッキリと覚えている。巧はそんな彼から譲り受けたギターを持って部屋から出てこの寮の屋上へと移動した。夜ということもあって外は涼しく、巧には丁度いい気温だ。巧はこの静かな空間を感じながら座る。そしてギターを構えてあの音楽を弾いた。それは耳朗の家で弾いた「夢のかけら」だ。巧はあの時、耳朗の部屋で聞いた歌を思い出しながら演奏する。
「夢描いた遠い空は 茜色の雲のまま 旅人には優しく 続きを魅せてるのだろう...」
夢のかけらを演奏している時、巧の心は少し安らいでいく感覚があった。しかし途中で巧の手が止まってしまう。歌詞を思い出せずにいたのだ。その時、後ろから歌声が聞こえてくる。
「夢のかけら 風に揺られるから...」
巧は声のする方に振り向くとそこには耳朗が立っていた。巧は呆気に取られて耳朗の方を見ている。耳朗はそんな巧に対して演奏の続きをするように催促した。
「続き、演奏しないのか?」
「あ、ああ」
巧は耳朗に言われて演奏を再開する。その演奏に合わせて耳朗も歌いだした。
「夢のかけら 風に揺られるから 逃げないように手を伸ばす勇気もなく ただ立ちすくむだけの窓 明日はこの風も止むだろう...」
巧は静かに演奏し、耳朗も静かに歌う。2人の演奏はここにいる巧と耳朗だけの空間を作り上げていた。そしてその演奏は終わりを迎え、2人は一息着く。
「あの時はごめん。勝手に部屋に入ってきて」
「俺の方も、あれはやり過ぎた」
「いや、あれはあの2人が悪いから別に謝らなくていい」
耳朗はあの時のお部屋披露大会の件について謝罪し、巧の方もその件について謝罪した。そして少しの沈黙が流れ、2人は黙ったまま空を見上げていた。この街の中心のような場所では星一つ見えない。見えるのは光り輝く月だけだ。巧はあの林間合宿の時に見えた星が恋しく思えた。そしてこの静寂を破るように巧は耳朗に話しかける。
「怖くないのか?俺のこと」
「え?」
「俺はオルフェノクだ。人間じゃねぇんだぞ?もしかしたら人を襲う怪物かもしれねぇ」
巧は耳朗に対して自分ご怖くないのかと質問した。耳朗はUSJの
「あははははは!」
「なにが可笑しいんだよ!?」
巧さ耳朗は笑い転げる耳朗に対して怒鳴る。そして耳朗は笑い止むと、巧の方を見る。
「乾は人を襲う怪物なんかじゃない。それぐらいウチにだってわかる。乾は何度もウチを助けてくれたから。乾は不器用で、無愛想で、子供っぽい所があるけど、それでも強くて優しい奴だってことはみんなわかってるし。それに...」
「それに。なんだよ?」
「...ううん。なんでもない」
顔を赤くした耳朗は何か言おうとするが、言い出すのをやめた。その直後、耳朗のさっきまでの笑みが消え、少し真剣な表情で巧の方を見た。巧はその表情を見て何かを察し、耳朗を見つめる。
「ウチ、乾に謝らなくちゃいけないことがあるんだ。あのオルフェノクと戦ったあと、あんたは
「んなこと気にすることねぇよ」
「え?」
あの時の後悔から泣き出しそうになる耳朗を横目に巧はそんなことかと気にもとめていなかった。
「
巧はそう言って立ち上がる。その顔には決意のようなものがあった。
「お前はいつも通りでいいんだよ。俺もそのつもりだしな。今日は疲れた。そろそろ寝る」
巧は後ろを振り返り、自分の部屋に戻ろうとする。すると耳朗が巧を呼び止めた。
「乾!」
呼び止められた巧は振り返り、耳朗の言葉を待つ。耳朗は少し言葉に迷っているような様子だった。
「う、ウチ!あんたのこと!その...........」
何かを伝えたい耳朗に、巧はただ黙って待っていた。
「えっと...。す......ずっと!友達だと思ってるから!ウチと同じ音楽仲間だからさ!」
「.....ああ、そうだな。音楽仲間だ」
巧は笑顔で返し、そのまま自分の部屋へと戻って行った。取り残された耳朗は大きくため息をつき、肩を落とす。
「はぁ、言えなかった...」