進化する人々   作:奥歯

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仮免試験

時間が流れ、いよいよ仮免試験当日となった。

 

「全員降りろ、到着だ。『試験会場国立多古場競技場』」

 

生徒たちはバスから降りて目の前の建物を目にする。その迫力に、何人かは緊張の汗を流していた。巧は辺りを見渡すと、自分たちに視線を向ける者が何人かいるのが見えた。オルフェノクである巧や緑谷たちは今や世界規模の有名人だ。

 

「なぁ、あいつらあのオルフェノクとか言う奴らじゃない?」

 

「ほんとだ。こえぇ〜」

 

「噂じゃ人を食べるみたいだよ」

 

「えぇマジでこわぁ。ヤバっこっち見てる!」

 

巧たちを見ている仮免受験者たちは口々に語る。中にはありもしない噂まで話している者もいた。生き物と言うものは未知の物に出会うとそれを恐れてしまうものであり、当然の行動とも言える。特に人間というものはありもしないことを平然と語り、遠ざけようとするものだ。

 

「僕たち見られてるね...」

 

「チッ、ウゼェな」

 

「モブがジロジロ見てんじゃねぇ」

 

「...........」

 

巧はその視線が鬱陶しく思い舌打ちをし、爆豪は睨みつけ、轟はただ黙ってまま無視をする。こう言う視線を貰うのは、致し方のないことなのだが、まるで珍動物でも見ているかのような目で見られるのはあまりいい気分ではない。

 

「緊張してきたァ」

 

「多古場でやるんだ」

 

「試験て何やるんだろう。ハー仮免取れっかなァ」

 

「峰田、取れるかじゃない。取ってこい」

 

「おっ!?もっモロチンだぜ!!」

 

不安がる峰田に相澤は軽く喝を入れる。仮免の試験は運ではなく実力で取りに行かなくてはならない。取れる取れないと言う次元では取れるものではないのだ。

 

「この試験に合格し仮免許を取得できれば、お前ら志願者(タマゴ)は晴れてヒヨっ子...セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」

 

「っしゃあ!なってやろうぜ、ヒヨッ子によォ!!」

 

「いつもの一発決めていこーぜ!」

 

「せーのっPlus...!」

 

「Ultra!!」

 

A組たちが雄英高校の校訓を叫ぼうとしたその時、突然後ろからものすごい大声が聞こえてくる。あまりに突然のことであったため、A組たちは硬直してしまう。

 

「勝手に他所様の円陣に加わるのは良くないよ、イナサ」

 

「ああしまった!!どうも大変!!失礼!!致しましたァ!!!」

 

(((((ヒィィ!!!)))))

 

イナサと言う男のあまりの大声と勢いにA組たちは怖気ついてしまう。その直後、この男のほかに似たような格好をした三人の男女が現れた。

 

「なんだ、このテンションだけで乗り切る感じの人は!?」

 

「切島と飯田を足して二乗したような...!」

 

「待って、あの制服...!」

 

「あ!マジでか」

 

「ほら!西の!!!有名な!!」

 

すると何人かがその4人の格好を見て、あることに気づく。その答えに、爆豪と緑谷が答えた。

 

「東の雄英、西の士傑(しけつ)

 

「数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵するほどの難関校。"士傑高校〟!!」

 

士傑高校とは、雄英高校と肩を並べる名門校である。その校風は規律が非常に厳しく、曰く男子は制服。女子はブレザー。制帽の着用が義務付けられているらしい。正に自由が売りの雄英とは正反対の高校だ。

 

「一度言ってみたかったっス!!プルスウルトラ!!自分雄英高校大好きっス!!!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス!よろしくお願いします!!」

 

「あ、血」

 

「血スか!?平気っス!好きっス血!」

 

「行くぞ」

 

大男は勢いよく謝罪したとき、地面に頭をぶつけていたため、頭から血を流していた。その直後、目つきの鋭い生徒に呼び出され、大男は向こうに行ってしまった。

 

「...夜嵐(よあらし)イナサ」

 

「先生知ってる人ですか?」

 

「すごい前のめりだな。よく聞きゃ言ってる事は普通に気の良い感じだ」

 

「ありゃあ...強いぞ。いやなのと同じ会場になったな。夜嵐、昨年度...つまりお前らの年の推薦入試、トップの成績で合格したのにも拘わらず何故か入学を辞退した男だ」

 

「え!?じゃあ...1年!?っていうか推薦トップの成績って...」

 

推薦トップ。つまりあの夜嵐と言う男は、轟以上の実力があると言うことだ。

 

「雄英大好きとか言ってた割に入学は蹴るってよくわかんねぇな」

 

「ねー...変なの」

 

「変だが本物だ。マークしとけ」

 

雄英の推薦を蹴ってしまうという変わった男ではあるが、推薦をもらっていると言うことは相当な実力なのは間違いない。相澤は、生徒たちに注目しておくよう注意する。

 

「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!」

 

その直後、突然相澤が声をかけられ、相澤はその声の方に振り返ると、嫌悪感剥き出しの顔をした。

 

「テレビや体育祭で見てたけど、こうして直接会うのは久し振りだな!!」

 

「あの人は...!」

 

相澤に気さくに話しかけてくる女性は、相澤に対して思いがけない言葉を発した。

 

「結婚しようぜ」

 

「しない」

 

「わぁ!」

 

「しないのかよ!!ウケる!」

 

「相変わらず絡みずらいな、ジョーク」

 

彼女の冗談に対して相澤は冷たく受け流し、彼女はそんな相澤の態度に吹き出した。

 

「スマイルヒーロー『Ms.ジョーク』!個性は『爆笑』!近くの人を強制的に笑わせて思考・行動共に鈍らせるんだ!彼女の(ヴィラン)退治は狂気に満ちてるよ!」

 

緑谷は興奮気味に彼女のことを事細かく説明する。彼女の名はMs.ジョーク。見た感じでは、相澤とMs.ジョークには長い付き合いがありそうに見える。

 

「私と結婚したら笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ?」

 

「その家庭幸せじゃないだろ」

 

2人の付き合いを見て、巧は発目のことを思い出し、相澤の気持ちが痛いほど伝わった。

 

「仲が良いんですね」

 

「昔事務所が近くでな!助け助けられを繰り返すうちに相思相愛の仲へと...」

 

「なってない」

 

話を盛るジョークに相澤はすかさず否定する。ヒーロー活動からの付き合いらしく、相澤にとっては苦手な相手に見える。

 

「何だお前の高校(とこ)もか」

 

「本当いじりがいがあるんだよなイレイザーは。そうそう、おいで皆!雄英だよ!」

 

Ms.ジョークが誰かを呼び込むと、4人の生徒がやってきた。黒髪の男子。ツインテールの女子。ロングヘアの男子とスキンヘッドのゴツゴツした男子の4人を筆頭に、ゾロゾロと現れた。

 

「おお!本物じゃないか!!」

 

「すごいよすごいよ!テレビで見た人ばっかり!」

 

「1年で仮免?へぇー随分ハイペースなんだね。まァ、色々あったからねぇ。さすがやることが違うよ」

 

傑物学園(けつぶつがくえん)高校2年2組!私の受け持ち、よろしくな」

 

傑物学園高校とは雄英や士傑と比べると、そこまで知名度は無いものの、ヒーロー育成の評価は高い。かなり多くの実績を残しているとの噂だ。その生徒たちは巧たちを見るなり、ヒソヒソと何か話している。さっきも同じことをされた巧は舌打ちをする。その直後、黒髪の男子が緑谷の手をとる。

 

「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね」

 

「えっあ」

 

「しかし君達はこうしてヒーローを志し続けているんだね。素晴らしいよ!!不屈の心こそこれからのヒーローが持つべき素養だと思う!!」

 

真堂という男は、友好的な態度で次々とA組たちと握手をする。A組たちは真堂の態度に戸惑っていた。

 

「ドストレードに爽やかイケメンだ...」

 

すると真堂は乾と爆豪の方に振り返る。

 

「中でも神野事件を中心で経験した乾君、爆豪君」

 

「「あ?」」

 

「君達は特別に強い心を持っている。今日は君達の胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」

 

真堂は巧と爆豪に握手を求めるが、巧と爆豪は真堂の顔を見るなりその握手を拒否した。

 

「目つきが気に入らねぇ」

 

「フカしてんじゃねぇ。台詞と顔が合ってねぇんだよ」

 

「こら、おめーら失礼だろ!すみません無礼で...」

 

「いいんだよ!心が強い証拠さ!」

 

真堂は気にしていない様子だったが、密かに口角を上げたところを巧は見逃さなかった。

 

「ねぇ轟君、サインちょうだい。体育祭カッコ良かったんだあ」

 

「やめなよミーハーだなぁ」

 

「はあ...」

 

「オイラのサインもあげますよ」

 

ツインテールの女子は轟にサインを求めようとし、轟はその反応に困っているとロングヘアの男子が止め、かわりに峰田がサインをしようとするが無視をされた。

 

「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

他校と盛り上がっていたところで、相澤がA組たちを呼びかけ、全員返事をする。

 

「何か...、外部と接すると改めて思うけど」

 

「イヤハヤやっぱ結構な有名人なんだな、雄英生って」

 

雄英体育祭や幾度も(ヴィラン)の襲撃に合うなど様々な出来事をテレビて取り上げられたためか、雄英高校の知名度は良くも悪くも高い。そんな時、Ms.ジョークがあることに気づいた。

 

「ひょっとして...言ってないの?イレイザー」

 

Ms.ジョークの質問に対し、相澤は何も答えずに試験会場へと入って行った。

 

●●●

 

コスチュームに着替えたA組一同は、説明会場へと向かう。そこでは見渡す限りの受験者たちで埋め尽くされていた。その試験会場でもやはり巧たちに視線が集まる。流石に鬱陶しい巧は周りの受験生たちを睨みつけ、受験生たちは慌てて目を逸らす。その直後、壇上に物凄く眠そうなスーツを着た男、目良(めら)善見(よくみる)が現れた。

 

「えー...ではアレ.....仮免のやつを、やります。あー...僕は、ヒーロー公安委員会の目良です、好きな睡眠はノンレム睡眠。よろしく」

 

目良は最近寝ていないのか、気怠そうに自己紹介をする。

 

「仕事が忙しくてろくに寝れない...!人手が足りてない...!眠たい!そんな信条の下、ご説明させていただきます」

 

本音がただ漏れの目良に対して、受験生たちは反応に困っていた。

 

「ずばり、この場にいる受験者1540人一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます」

 

「まじか」

 

「ざっくりだな」

 

目良の適当な説明に、会場の生徒たちはヒソヒソとざわつき始める。

 

「現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません」

 

目良の言うように、ステインが逮捕されて以降、このヒーロー飽和社会に疑問を呈する者が現れ始め、『ヒーローとは見返りを求めてはならない』『自己犠牲の果てに得うる称号でなくてはならない』という考えが現れ始めた。その当事者であった巧、緑谷、轟、飯田の4人は真剣にその言葉を受け止める。

 

「まァ...一個人としては...、動機はどうであれ命懸けで人助けしている人間に『何も求めるな』は...現代社会に於いて無慈悲な話だと思うわけですが...。とにかく...、対価にしろ義勇にしろ多くのヒーローが救助・(ヴィラン)退治に切磋琢磨してきた結果、事件発生から解決に至るまでの時間は今、ヒクくらい迅速になってます。君達は仮免許を取得し、いよいよその激流の中に身を投じる。そのスピードについて行けない者、ハッキリ言って厳しい」

 

ヒーローにとって迅速な対応は極めて重要な能力。今回の試験はその迅速な動きができるかどうかにかかっているのだろう。

 

「よって試されるはスピード!条件達成者先着100名を通過とします」

 

「「「「!?」」」」

 

「待て待て1540人だぞ!?5割どころじゃねぇぞ!!?」

 

「まァ社会で色々とあったんで...。運がアレだったと思ってアレして下さい」

 

「マジかよ...!」

 

最早5割ですらない合格率に会場はどよめき出す。そんな受験生たちを他所に目良は続ける。

 

「で、その条件というのがコレです」

 

目良が取り出したものは幾何学的なデザインをした的とピンク色の球体だった。

 

「受験者はこのターゲットを3つ、身体の好きな場所、ただし常に晒されている場所に取り付けて下さい。脇や足裏などはダメです。そしてこのボールを6つ携帯します。ターゲットはこのボールが当たった場所のみ発光する仕組みで、3つ発光した時点で脱落とします。3つ目のターゲットにボールを当てた人が倒した事にします。そして2人倒した者から勝ち抜きです...。ルールは以上」

 

「6個...だけだったら、おいおい無くなれば終わりじゃないか....」

 

「馬鹿が、誰かからぶん奪れば良いだろ」

 

「えー...じゃ、展開後にターゲットとボール配るんで、全員にいきわたってから1分後にスタートとします」

 

「展開?」

 

その直後、会場の天井が展開され、そこから工場、街、山々など様々な地形が現れる。

 

(((((無駄に大掛かりだな!)))))

 

そのあまりに大掛かりなセットに、ツッコミを入れざるを得なかった。多古場全体を会場にしたとはいえ、ここまで大掛かりだと逆に感心してしまう。

 

「先着で合格なら... 同校で潰し合いはない...。むしろ手の内を知った中でチームアップが勝ち筋...!皆!あまり離れず一塊で動こう!」

 

「ケッ、フザけろ、遠足じゃねぇんだよ!」

 

「バッカ、待て待て!!」

 

「かっちゃん...!」

 

「切島君!」

 

1分しか時間がない中、緑谷は冷静に指示を出していくが、爆豪はそれを無視し、1人で行ってしまい、それに続いて切島と上なも行ってしまった。その直後、巧と轟も走り出した。

 

「すまねぇ出久。チームプレイは性に合わないからな」

 

「大所帯じゃ却って力が発揮できねぇ」

 

「たっくん!轟君!!」

 

「緑谷時間ねえよ!行こう!!」

 

「う、うん」

 

まさかの5人が抜けてしまい、焦る緑谷だったが止める余裕も無く、すでに時間が迫っていた。

 

●●●

 

『5.....4.....』

 

時間が迫る中、単独行動をとった巧は走りながら思考を巡らせていた。

 

(まず俺たち雄英の手の内はもう既にバレている。あの体育祭があったからな。ってことは真っ先に狙われるのは俺たち雄英って訳だ。この場合、単独行動をとるのは危険だが、俺の個性を考えればこっちの方が有利だ)しな)

 

巧が単独行動に出たのは自分たちの立場を考えてのことだ。巧の持つ個性を考えれば、一人で動いた方が有利でもある。それに巧は雄英体育祭意外にも、神野区での騒動で一躍有名人だ。そうとなれば、巧を狙う人間は多い。巧はファイズフォンを取り出す。

 

『3......2......1』

 

『5 5 5』

 

『Enter』

 

Standing by

 

「変身!」

 

Complete

 

『START!!』

 

巧がファイズに変身した直後、試験開始の合図が鳴る。その合図と同時に巧におおよそ数十人の受験生たちが襲いかかってきた。

 

「雄英の乾巧!まずはお前からだ!」

 

一斉に襲いかかってくる受験生たちに動じず、手首をスナップし、巧は拳を握りしめる。そして拳に衝撃を纏わせ、巧は地面を殴りつけた。

 

インパクトクラッシュ!!

 

その直後、巧を中心に凄まじい衝撃波が受験生たちやその周辺の建物を吹き飛ばした。辺りを一掃した巧はゆっくりと2人の受験生に近づき、持っていた6個のボールを的に当てた。これで第一試験を開始数秒でクリアした巧はそのまま控え室へと向かった。

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