『えー!?もう通過!?まだ開始数秒しか経っていないのに!?』
アナウンスでは目良があまりにも早いクリア者に驚いた声を上げる。控え室と向かった巧は、周りを見てみるがまだ誰もいない。それもそのはず。巧はつい先程開始数秒で試験を突破したのだ。巧は変身を解除し、体につけた的を返却棚に返して近くの椅子に座る。この試験をクリアできるのは1540人中100人。かなり狭い門であるため、全員クリアできるのか不安なところだ。そんなことを考えている時、突然アナウンスが流れた。
『同時に21人通過!?残り78名です!』
突然驚く声が響くアナウンスが流れた直後、控え室に21人の受験生が一気に入ってきた。
「イェーイ!余裕だったぜィ!」
「よし、全員いるな」
「楽しかっな!」
「ねー!」
静かだった控え室は一気に騒がしくなり、巧は一体なんだとその生徒たちを見ていた。その時、1人のピンク色の髪色をしたツインテールの女子が視線に気づき、巧の方に振り向いた。
「あ、あれ最初に通過した人じゃない?」
「あいつ確か英雄とかいうとこのやつだったっけ?」
「雄英な。確か名前は乾巧だよな?」
そこにいる21人が一斉に巧を見る。またあの時のようなまるで珍動物を見るような目で見てくるのかと思いきや、そうではなかった。その生徒たちは、まるで自分のことを見慣れているかのような目でこちらを見ていたのだ。
「なんだお前ら?」
「ああ、ごめんなさい。邪魔だったら私たち向こうに行きますから。ゆっくりしててください」
「あんたたち早く行くわよ!」
「ねー喉乾いた」
「あそこにジュースあるよ」
巧は謎の生徒たちが向こうの控え室に向かって行くのを後ろで見ていた。少し変わった人間たちだったが、ものの数分で、しかも全員同時にクリアするとは相当な実力を有しているのかもしれない。
●●●
しばらくして、少しずつクリアした者が控え室へと入ってくる。その中には勿論雄英の者たちもいる。最初に通過してきたのは轟だった。轟は巧が先に通過していたことを知ると、わかりやすいように舌打ちをした。
「チッ!」
「遅かったな」
巧の煽り返しに轟は黙って中指を立て、巧も同じように中指を立てた。その後も次々とクリアしていくものが現れ、その中に、八百万、蛙吹、障子、耳朗の4人もクリアしてきた。
「乾さんと轟さんも無事に通過できてたんですね」
「まぁな」
「ああ、何とかなった...」
「流石乾ちゃんと轟ちゃんね」
「他校の生徒も侮れなかったな」
「確かにね...。乾も無事でよかった」
「おう」
耳朗はどこか安心した顔で巧の方を見ており、巧はその表情に気づくことはなかった。
「とりあえず...。他の奴らが来るまで休んでろよ...。あそこにターゲットを外す鍵があるから、そこで外してボールバックと一緒に返却棚に戻せば良いらしい」
轟が指を指す方向には、軽食や飲料水が置かれており、八百万たちは的を返却口に返し、休憩に入って行った。
●●●
数分が経過し残り20人を切ったころ、爆豪、上鳴、切島、緑谷、麗日、瀬呂の6人が入ってきた。
「お!?お前ら先に来てたんだなッ!」
「皆さんよくご無事で!心配していましたわ」
「ヤオモモー!ゴブジよゴブジ!つーか早くね皆!?」
「爆豪も絶対もういると思ってたけど、なる程!上鳴が一緒だったからか」
「はァ!?おまえちょっと、そこなおれ!」
上鳴をからかう耳朗を他所に、爆豪は不服そうな顔で巧の方を見ていた。緑谷は巧の隣に座り、労いの言葉をかける。
「たっくんもお疲れ様。勝手に1人で行っちゃった時はびっくりしちゃったけど、無事に通れたんだね」
「ああ、こんな楽だとは思わなかっがな。次は救助とかそんなどこだろうな」
「うん。確実にね。最初の試験は所謂、
先ほどクリアしたこの第一試験は、緑谷の読みでは
「お疲れ様みんな、ターゲットを外すキーが奥にあるわ。ボールバッグと一緒に返却棚に戻せって」
やってきた6人に、蛙吹が的の返却の説明をし、上鳴たちは早速返却棚へと向かった。
●●●
その後、アナウンスから残りの人数も通過し、これで雄英生全員が無事に揃うこととなった。
「おぉおお〜〜〜.... しゃああああ!!!」
「スゲェ!!こんなんスゲェよ!」
「雄英全員一次通っちゃったあ!!!」
A組全員がここを通ることができたことに大いに喜びの声を上げる。だがこれで終わりというわけではない。100人通過できた候補生に向けてアナウンスが流れる。
『えー、100人の皆さんこれ、ご覧下さい』
目良がそう言うと、目の前にモニターが映し出され、皆それに注目する。
「フィールドだ」
「なんだろうね...」
モニターに映し出されたのは巧たちが先ほど第一試験で通ったフィールドだった。一体これがなんだというのかと思っていたその時、突然そのフィールドにあった建物が次々と爆発していき、崩れ去っていった。
(((((————何故!!)))))
あまりの突然の出来事に、候補者たちは動揺を隠せない。そんな候補者を他所に、目良は淡々と続ける。
『次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』
「やっぱりな...」
先程の巧の勘は的中していた。最初の試験は救助とは、ヒーローにおいて欠かせない仕事。ヒーローとはあくまでも
「「パイスライダー?」」
「バイスタンダー!現場に居合わせた人の事だよ。授業でやったでしょ」
「一般市民を指す意味でも使われたりしますが...」
『ここでは一般市民としてではなく仮免許を取得した者として——.....どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』
目良がざっくりと第二試験の説明をした後、モニターを見ていた障子があることに気がついた。
「人がいる...」
「え...あァ!?老人に子供!?危ねえ、何やってんだ!?」
『彼らはあらゆる訓練において今引っ張りダコの要救助者のプロ!!』
「要救助者のプロ!?」
『"HELP・US・COMPANY"略して"
「色んなお仕事あるんだな...!」
「ヒーロー人気のこの現代に則した仕事だ」
候補者たちがHUCについて感心していると、目良が説明を続ける。
『傷病者に扮した HUCがフィールド全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救出を行ってもらいます。尚、今回は皆さんの救出活動をポイントで採点していき、演習終了時に基準値を超えていれば合格とします。10分後にスタートしますので、それまでにトイレとか済ましといてくださいねー...』
目良の説明が終わり、アナウンスから声が消える。巧はあのフィールドの様子を見て、神野区のことを思い出していた。あの時は必死になって戦っていたが、巧たちが戦っている間に多くの犠牲者が出た筈だ。今度はそうさせない。そうならない為に、巧が手に持っているファイズの力を存分に発揮するのだ。多くの夢を守る為に。試験開始まで10分。そろそろ準備をしたほうがいいと考えた巧はファイズギアを手に取る。だがその前に、試験前に用を足そうとトイレに向かった。
●●●
用を済ました巧は、控え室へと向かおうとした時、1人の生徒とすれ違った。それは士傑高校の女子生徒で、一度試験会場の外で見かけたことがあった。巧はこんなやついたなという気持ちで無視してすれ違おうとした時、突然その女子生徒の話しかけられた。
「ねぇ君、確かあのオルフェノクの子だよね」
話しかけられた巧はまたかと、鬱陶しそうに女子生徒の方を見る。女子生徒は巧に顔を近づけ、ジロジロと舐めるように見る。巧は少し気味が悪かったが、特に顔には出さずに睨みつける。
「君。あの赤く光るやつに変身するんでしょ?どんなのか教えてほしいなぁ」
「知ってどうする?お前には関係ないことだろ」
「いや、私は興味ないんだけど、知りたがっている人がいるから、どんなのか教えて欲しいなぁって...。ねぇ、教えてよ」
女子生徒は巧に体を密着させるほど近づき、張り付いた笑顔でこちらを見てくる。巧はそれでも動じずに、女子生徒の要望を拒否した。
「悪ぃが急いでんだ...。お前、なんか変だぞ?」
巧は最初に見た印象とはまるで別人のような様子に少し怪しむが、そろそろ時間が迫っているので、無視をして控え室へと向かった。
●●●
控え室では、試験が始まる前に生徒たちが会話で賑わっていた。少しでも緊張をほぐすためでもあるのだろう。そんな中で、瀬呂が峰田と上鳴に話しかけてきた。
「なァなァすげー事あってさァ、聞いてくれよ」
「Rは?」
「18」
「聞こう!」
話に興味を示した峰田と上鳴。そんな2人に瀬呂はことの事情を話し始めた。
「士傑のボディスーツいるじゃん?あの女の人」
「いる」
「『良い』...という話なら甘い。オイラはもうさっきからずっと彼女を視...」
「素っ裸のまま緑谷と岩陰にいたんだよ!!」
「「緑谷ァ!!!」」
瀬呂の話を聞いた途端に、峰田と上鳴は鬼の形相になり、緑谷に詰め寄る。
「何してんだてめェはァ!?俺たちが大変な時にてめェはァ!?」
「試験中だぞ!ナメてんのか人生を!!」
「わ、痛いやめて、何!?」
急にこっちに迫ってきた峰田と上鳴に緑谷はあまりに突然のことで戸惑ってしまう。
「とぼけんじゃねえ、あの人と!お前は!何をして...」
峰田が指を指す方向に先ほどの女子生徒がいた。女子生徒は視線に気づくと、三人と目が会う。そして緑谷に軽く笑顔を向けて手を振った。
「良い仲に進展した後男女がコッソリ交わす挨拶のヤツをやってんじゃねーか!!」
「見損なったぜナンパテンパヤローー!!!」
「あ...ああ成る程!瀬呂君か!違うよ!そういうんじゃないってば!個性の関係だよ!ていうか!わけわかんなくてめちゃ怖かったんだよ!」
必死に訳を説明する緑谷に峰田と上鳴は聞く耳を持たず、麗日は緑谷をジッと見ていた。そしてその話を聞いていた巧もあの女子生徒について話す。
「俺もあいつと話したぜ。変なやつだったな...」
「テメェもか乾ィ!!」
「なんだよええ!?イケメンだからって調子乗ってんじゃねぇぞおい!!」
「うるっせぇな。大体あいつ俺のタイプじゃねぇし」
「え!?乾好みの女子とかいんの!?教えて教えて!」
「私も知りたい!」
「離れろテメェら!」
思わずポロッと口に出してしまった発言に、芦戸と葉隠が詰めかかり、巧は怒鳴り声をあげた。そんな巧に耳朗は少し不満気な顔でこちらをジッと見ていた。
「...ん?おい、士傑がこっち来てんぞ」
ふと、切島が士傑の生徒たちがやってくるのを目撃する。その1人である全身が毛で覆われた生徒の1人が、爆豪に話しかけてきた。
「爆豪君よ」
「あ?」
「
「ああ...ノした」
「やはり...!色々と無礼を働いたと思う。気を悪くしたろう。あれは自分の価値基準を押しつける節があってね、何かと君を見て暴走してしまった。雄英とは良い関係築き上げていきたい。すまなかったね」
「良い関係...!?」
「良い関係...とてもそんな感じではなかった...」
どうやらこの生徒は、爆豪と対戦した肉倉という男の無礼を謝罪にしにきたようだ。お互い競い合う者同士ではあるものの、良い関係を築いていきたいというあたり、そこまで素行の悪い者では無いようだ。
「それでは...」
「おい、坊主の奴」
士傑の生徒たちが立ち去ろうとした時、突然轟が夜嵐を呼び止めた。
「俺、なんかしたか?」
「....ほホゥ」
振り返った夜嵐の顔は、敵意や憎悪にも似た顔をした表情で轟を見ていた。最初に会った時より雰囲気がまるで違う夜嵐は、周りは一体何があったのか、緊張が走る。
「いやァ、申し訳ないっスけど...エンデヴァーの息子さん。俺はあんたらが嫌いだ。あの時よりいくらか雰囲気は変わったみたいスけど、あんたの目は...エンデヴァーと同じっス」
エンデヴァーという名前に、轟は顔を顰める。夜嵐はハッキリと拒絶の意思を示し、轟は目を見開いた。
「夜嵐、どうした」
「何でもないっス!!」
生徒の一人に呼ばれた夜嵐は生徒たちの後について行った。その場に張り詰めていた緊張感が切れ、緑谷は心配そうに轟の方を見る。
「轟君...」
その直後、突然警報のような音が会場に鳴り響いた。候補者たちはその音に驚き、騒然とする。
『
「演習の
「え!?じゃあ...」
『規模は◯◯市全域、建物倒壊により傷病者多数!』
「始まりね」
何の合図もなしに始まることに、巧は入学試験のことを思い出す。巧はすぐにベルトを取り付けてファイズフォンを開いた。
『5 5 5』
『Enter』
Standing by
「変身!」
Complete
巧はファイズへと変身をとげ、その姿を初めて見た候補者たちは何人か驚いていた。巧はそんな候補者たちを他所にミッションメモリーをファイズポインターにセットして右足のエナジーホルスター取り付けた。
Ready
その様子を隣で見ていた緑谷は一体巧は何をする気なのか気になった。そして巧はアクセルメモリーを取り出し、ファイズフォンにセットした。
Complete
巧はアクセルフォームへと変身し、緑谷は巧が一体なにをするのか察してしまう。それは何人かのA組たちにも理解していた。そして巧は合図を待つかのように、ファイズアクセルのスイッチに指を置く。
『道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着するまでの救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮を執り行う。1人でも多くの命を救い出す事!!!START!!』
「ちょ、たっく...!」
Start Up
緑谷の静止も虚しく、巧は天井と壁が開かれたと同時にスイッチを押して超加速で走り去って行った。そして巧はあまりにも広大なフィールドを一瞬で行き来し、瓦礫などで負傷している被害者たちを次々と救出していく。そして最後の一人を救出したあと、巧は先ほどいた場所に戻ってくる。この一連動作時間は僅か5秒。巧は残りの数秒の時間をただジッと眺めて終わるのを待っていた。
3 2 1
Time Out
Reformation
巧は元のファイズへと戻り、変身を解除した。その様子を黙って見ていたA組たちを含めた候補者たち。試験の様子を見ていた試験官。そして巧により救出されたHUCの人たちがなにが起こったのか理解が追いついていなかった。そんな様子に気づかない巧はヒーローとしてすべきことをしたという満足そうな顔をしていた。
「よし」
「「「「「「『よし』じゃねぇよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
盛大に突っ込まれた巧は、驚いて後ろを振り向く。そして怒りの顔の爆豪や切島、呆れた顔をした轟や耳朗、その他諸々に巧は詰められてしまった。
「なにやってんだ巧ぃ!!一人で全部やってんじゃねぇぞ!!」
「俺たちはどうすんだよ!!俺たちは!!」
「お前、正真正銘のバカだろ」
「なにやってんだよ乾...」
「たっくん!!これは流石にダメだよ!!」
一体どうしてこう詰められるのか少し戸惑う巧。巧としては、被害者や一般市民を助けるというヒーローとして当然のことをしただけなのにどうしてこんなに怒られてしまうのかが理解できなかった。
「いやぁでも...一人でも多くの市民を救出するのがヒーローの役目だろ?俺はそれをしただけだ」
「そうだけど!そうなんだけど!これはあくまで演習だから!試験だよ!?一人で全部解決しちゃったら他のみんなが試験受けられないじゃん!!もー!たっくん自分勝手なとこあるけどこれはないよ!!」
少したじろぎながらあのような行為にでた理由を話す巧。それはそうなのだが、色々と程度というものがあるのだ。巧自身には、少し個人主義な部分があるためか、このような行動に出たのだろう。
『もう終わり!?もうお終い!!?もう終了!!?』
目良はなにが起こったのか理解が追いつかず、余りの慌てように眠気も吹き飛んでしまう始末。この試験では被害者、及びHUCの人たちが全員救助された場合、試験終了となるため、この試験が僅か5秒で終了したということになる。こんな試験結果は前代未聞だ。驚きに驚きまくっていた目良だったが、息を整えて一旦落ち着く。
『えー、取り乱してしまい大変申し訳ございません。試験につきましては、開始5秒で終了してしまうという前代未聞の新記録が出てしまったため、一旦皆さん控え室に戻って下さい。そして乾巧君は係員の指示に従ってフィールドから退場して下さい』
流石にまずいことをしたと理解し始めた巧は、周りからの嫌な視線を受けながら、係員に連れられてフィールドから退場したのだった。