フィールドから退場した巧は目良に色々と質問をされた。不正をしなかったのかだとか、どうやってあのようなことをしたのかだとかを質問され、巧は包み隠さず全てを話した。納得してくれたような納得してくれていないような反応を示されたが、とりあえず巧は無事解放され、相澤の隣で第二試験が終わるまで待機ということとなった。隣の相澤に怒っているのかこちらをずっと見てくるが、巧は余り気にしていない。
「...お前は合理的な行動をした。お前の判断は正しい」
急に相澤はいつもの似つかわしくない態度で巧を褒め、巧は少し驚きも混じった目で相澤の方を見た。
「救助を迅速に対応するのはヒーローの基本的な事だからな...。なんだその目は」
巧のあの行動を褒めるのは普通ならしない、巧自身も少しやりすぎたと反省はしている。そこは相澤なりの考えがあるのだろう。巧としては他人のらしくない行動に耐性がないため、少し鳥肌が立つのだが褒め言葉であれば、黙って有り難く受け取ることにした。巧は試験場の方を見ると、99人の候補生たちが試験を着々と自分自身のやり方で上手くやっていた。待機という名の見学をする事で巧はその他候補生たちの救助の様子を見て、参考になりそうなものがないか見ていた。その時、巧はあるものが目に止まる。それはあの時、自分が控え室に入った数分後に入ってきた21人の生徒たちだった。
(あいつら、あの時の...)
その21人の生徒はまるで流れ作業かのようにスムーズに救助を行い、迅速な対応をしていた。何人かヘラヘラとしているものも見受けられる。救助でヘラヘラとしているのはいかがなものかというところもあるが、それでもやはり、素人目から見ても完璧な動きをしていた。あの笑いは余裕から出る笑いなのだろう。巧はあの生徒たちは一体どこの者なのかが気になり、隣の相澤に質問をした。
「なぁ、あいつらどこの奴らだ?」
巧が指を指す方向に相澤が目を向けると、相澤は徐にタブレットを取り出し、今回の仮免試験参加者の一覧を見る。何度か画面をスクロールしていると、一つの受験校が目に留まった。
「
「またスマートブレインかよ...」
巧はまたこんな所にもスマートブレインが関わっているのかと少し鬱陶しく思っていたが、それほどまでに大きな組織という事なのだろう。巧は試験の見学の間、ずっと流星塾の塾生たちの動きを追っていた。何故かはわからないが、少し気になる所があった。
●●●
『えー、只今を持ちまして配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。誠に勝手ではございますが、これにて仮免試験全行程終了となります!!!』
候補生たちの迅速な対応によりHUCが全員救助され、それと同時に試験が終了のアナウンスが流れた。
『集計の後この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ...他の方々は着替えてしばし待機でお願いします』
試験が終了したタイミングで巧は再びフィールドへと向かった。巧がフィールド内を歩き回っていると、その道中で流星塾生たちを見つけた。流星塾生たちは、あの時と同様に余裕そうな態度で雑談をしながら試験の結果を待っていた。巧は少し話しかけたくなったが今はやめておこうと、A組たちが集まるフィールドへと向かった。しばらく歩いていると、A組たちが集まる場所を見つけ、巧はそこに向かって歩く。すると巧が近づいてくるのに気づいた上鳴が巧に向かって手を振った。
「ウェーイ乾!こっちだこっち!!」
巧は大きく手を振る上鳴を見てその方向に向かって歩く。すると隣から切島が巧向かって得意げな顔で話しかける。
「どうだ乾!これがチームプレーってやつだ!俺たちの勇士を見てたか!?」
「いや、全然見てねぇ」
「はぁ!?」
実際本当に見ていなかった巧は、正直に答えて切島はショックを受けていた。そんな切島をよそに巧は緑谷の方に駆け寄る。
「あ、たっくんどうだった?僕、大丈夫かな?」
「さぁな。見てなかったからわからねぇ」
「え?」
素っ頓狂な声を上げる緑谷だったが、巧は黙って試験の結果がどうかだけが気になっていた。
「どうかなァ...」
「やれる事はやったけど...どう見てたのかわかんないし...」
「こういう時間いっちばんヤダ」
「「わかる」」
「わかります。人事を尽くしたならきっと大丈夫ですわ」
A組たちは自分たちができることをやり切ったつもりだが、それでも不安な気持ちが大きい。受かっていることを祈りながら、試験の結果を待っていた。
●●●
『えー...皆さん、長いことお疲れ様でした。これより発表を行いますが...その前に一言。採点形式についてです。我々、ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる、二重の減点方式であなた方を見させてもらいました。つまり危機的状況の中でどれだけ間違いのない行動を取れたか審査しています。とりあえず合格点の方は五十音順で名前が載ってます。今の言葉を踏まえた上でご確認ください...』
目良の説明が終わると、モニターから合格した受験生の名前が五十音順に映し出されていく。巧は上からから数えて行き、自身の名前を見つけた。巧自身勝手な行動をとった為に受かっていないのではないかと思っていたのだが、無事に受かっていたことに顔には出していないが、内心安心していた。
「結構、受かってるな!」
「あ! 私あったぁ! やったぁ!!」
「み、み.......み........み...........」
「みみみみみみみみみみ」
巧は、A組たちの方を見ると、皆緊張しながら自身の名前を探していた。そして不安と緊張の中で最初に名前を見つけたのは緑谷だった。そして次々と連鎖するように名前を見つけていき、喜びの声をあげた。しかし、その中で二人だけ、その喜びに入れなかった者がいた。
「...ねぇ!!」
「.........」
それは爆豪と轟の2人だった。A組の中でもトップの実力を有しているあの二人が試験に落ちてしまうという予想外の結果になり、周りは驚いていた。その時、後ろから轟を呼ぶ大声が聞こえてくる。
「轟!!」
迫ってくるのは士傑高校の夜嵐だった。夜嵐は轟に近づき、身長差も相まって見下ろすように轟を見る。休憩時間にあったいざこざもあったため、なにが起こるのかわからない状態であり、辺りに緊張が走るが、夜嵐のとった行動は予想外のものだった。
「ごめん!!」
夜嵐は大声で轟の目の前で地面に頭を打ちつける勢いで頭を下げる。その予想外の行動に周りや轟本人は呆気に取らる。
「あんたが合格逃したのは、俺のせいだ!!俺の心の狭さの!!ごめん!!」
先ほどの試験でなにがあったのかは、わからないが何か轟と夜嵐との間で何かがあったのだろう。そのせいで轟が試験に落ちてしまった。あの様子だと夜嵐も落ちてしまったのだろう。巧はモニターを見てみても夜嵐の名前はなかった。
「元々、俺が蒔いた種だし...よせよ。お前が直球でぶつけてきて、気付けた事もあるから」
轟自身も非があると感じているのか、夜嵐の謝罪を止めようとする。巧はA組たちの動向を全く見ていなかったため、なにがあったのかはわからず、緑谷に聞いた。
「出久、あいつらなんかあったのか?」
「うん...。ちょっと喧嘩というか...」
「なにやってんだよ...」
巧は轟に呆れつつ、爆豪の方を見る。爆豪は震えながら拳を握りしめていた。相当な悔しさを実感しているのだろう。
「轟...落ちたの?」
「うちのスリートップ!2人も落ちんのかよ!」
「暴言改めよ?言葉って大事よ。お肉先パイも言ってたしさ、原因明らか」
「黙ってろ殺すぞ...!」
「両者ともトップクラスであるが故に、自分本位な部分が仇となったわけである。ヒエラルキー崩れたり!」
合格した上鳴と峰田は調子に乗って爆豪と轟を煽りまくる。爆豪は上鳴を本当に殺しそうな勢いで睨みつけていた。そんな様子をただじっと見ていた巧に後ろから耳朗が声をかけてきた。
「乾は合格してたんだな」
「ああ、まぁな」
その直後、目良からアナウンスが流れ始める。
『えー、全員ご確認頂けたでしょうか?続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますので、しっかり目を通しておいて下さい』
候補生たちに採点内容の書かれたプリントが配られていき、候補生たちはそのプリントに目を通していった。
「切島君」
「あざっス!」
「よこせや...!」
「そういうんじゃねぇからコレ...」
「上鳴君見してー」
「ちょ待て、まだ俺見てない」
『ボーダーラインは50点、減点方式で採点しております。どの行動が何点引かれたか等、下記にズラーっと並んでます』
次々とプリントが配られて行き、巧もそのプリントを受け取る。まず採点結果としては、90点。合格のボーダーラインはギリギリというわけでは無く、しっかりと超えている。そしてその点数の下に書かれている文ではこう書かれていた。
『人命救助に置いて連携やコミュニケーションは非常に大事になだけくるため、減点となります』
この文に巧自身も最もな意見だと思った。アクセルフォームは超加速によって一瞬にして救助活動を行うことができるが、あのフォームは変身して一回きりの姿であるため、そう無闇矢鱈に使うことはできない。そういった場合に備えて他との連携は重要となってくるだろう。
『合格された皆さんはこれから緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使出来る立場となります。すなわち
オールマイトがいなくなった今、平和の抑止力は無くなり、犯罪率は高くなってくるであろう。このような社会から、命を守って行くのがこれからヒーローになっていく若者たちの務めなのだ。
『そして...えー、不合格となってしまった方々』
次に流れてきたアナウンスに、爆豪、轟、夜嵐のなどの不合格者が顔を上げる。
『点数が満たなかったからとしょげてる場合じゃありません。君達にもまだチャンスは残っています。3ヶ月の特別講習を受講の後、個別のテストで成績を出せば君達にも仮免許を発行するつもりです』
「「「!!?」」」
思いもよらない挽回のチャンスに爆豪たちは驚く。もう終わりだと半分思っていた矢先にこのようなチャンスは何がなんでも手に入れなくてはならない。
『今私が述べたこれからに対応するには、より質の高いヒーローがなるべく多くほしい。一次はいわゆるおとす試験でしたが、選んだ100名はなるべく育てていきたいのです。そういうわけで全員を最後まで見ました。結果決して見込みがないわけではなく、むしろ至らぬ点を修正すれば合格者以上の実力者になる者ばかりです。学業との並行でかなり忙しくなるとは思います。次回4月の試験で再挑戦しても構いませんが——.....』
「当然...!」
「お願いします!!」
当然こんなチャンスを逃すわけがなく、爆豪たちの気合いは十分だった。
「やったね轟君!」
「やめとけよ、な?取らんでいいよ楽に行こ?」
「...すぐ、追いつく」
皆が喜びの声を上げる中、巧はただ一人、また一歩目標に進めたことに小さくため息をつくのだった。