進化する人々   作:奥歯

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試験を終えて

試験が終わった後、外は夕暮れになっていた。A組たちは雄英に帰るためのバスへと向かう。この試験に受かった者たちの手には、仮免許が握られていた。

 

「デク君泣いとらん!?」

 

「いや....なんかね、こうね。色んな人に迷惑かけてきたから...だから、何て言うんだろ...成長してるな!って証みたいで、なんか嬉しいんだ。お母さんとオールマイトに早く見せたい!」

 

緑谷は今まで無理だと思っていたヒーローという夢に一歩近づけることができたことに、感激で涙を流しているのだ。皆も試験での緊張も解かれて、安心や高揚感に満ち溢れていた。巧も自身の仮免許を見て、一安心し、バスに乗り込もうとした時、向こうから大声で走ってくる者がいた。

 

「おーーい!!」

 

「あら、士傑の人」

 

それは士傑の夜嵐だった。夜嵐は轟に近づき、耳が痛くなるほどの大声で話しかける。

 

「轟!!また講習で会うな!!けどな!正直まだ好かん!!先に謝っとく!!ごめん!!」

 

「どんな気遣いだよ」

 

「そんだけー!!」

 

「善処する」

 

夜嵐はそれだけを轟に伝えると走って戻って行ってしまった。その後、A組たちはバスに乗り込み、それぞれ自分の席に座る。巧も自分の席に座ると、隣に耳朗が座ってきた。

 

「お疲れ乾。仮免試験も受かったことだし、これからますます頑張らなくちゃいけないな」

 

「そうだな...」

 

耳朗の会話に適当に返事する乾。すると後ろの席に座っていた芦戸と葉隠が話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ乾!あの時の続き!話してよ!」

 

「続き?なんのことだ?」

 

「とぼけないで!好きな女子のタイプ聞かせてよ!」

 

「聞かせろ聞かせろ!」

 

遂には葉隠まだも参加し、巧はため息をつく。あの時は思わずポロッと出てしまった言葉だったため、もっと言葉を選ぶべきだったかと後悔する。しつこく付き纏ってくる芦戸と葉隠に巧は無視を決め込むが、気づいたら人数が増えて周りの席から声が飛んでくる。

 

「言えよ乾〜。どんなやつがタイプなんだよ〜?」

 

「胸はやっぱりでかい方がいい感じ〜?」

 

「うっせぇな!!人の好み聞いて何が楽しいんだよ!!」

 

「「「「「きーかせろ!きーかせろ!」」」」」

 

怒鳴る巧だったがそんな怒鳴りは通用しない芦戸たちは声を合わせて手を叩く。隣にいた耳朗は興味がないふりをしていたが、ものすごく耳をそばたてていた。

 

「だーー!!わかった!!言えばいいんだろ!?言えば!!」

 

鬱陶しくなった巧は怒鳴り声をあげてやけになり、自分の好みのタイプを喋ろうとする。芦戸たちは静かに耳をすまして巧が喋るのを待つ。巧は少しバツが悪そうな顔をしながらさっきまだの勢いが全くない小さな声で答えた。

 

「趣味の合うやつだよ...」

 

「「「「「お〜〜〜」」」」」

 

周りはいいことを聞いたとニヤけた顔をする。巧は恥ずかしさの余り顔を俯かせて項垂れる。あの時、あんな発言をしてしまった自分をぶん殴りたいと思っていた。そして隣にいた耳朗は今までのことを思い返して、もしかしてと思い顔を赤くしていた。

 

●●●

 

その後、巧はバスの中で散々茶化されたが相澤からの注意が入り、これ以上茶化されることはなかった。しかし巧の怒りは収まらないのか寮に帰った後、すぐに自分の部屋に帰って行った。

 

「ちょっとやり過ぎちゃったかな〜?」

 

「後で謝りに行こうか」

 

不機嫌な巧に芦戸と葉隠は少しやり過ぎたかなと反省する。その後、A組たちは夕食をとったのだが、結局巧はその時間になっても降り来ず、緑谷が呼びに行こうとしたが、結局降りてくることはなかった。巧はこうなると変に意地を張って融通が効かなくなる。緑谷はそんな性格を理解していたため、諦めて夕食を食べたのであった。

 

「明日からフツーの授業だねぇ!」

 

「色々ありすぎたな!」

 

「ねえねえチョコチョーダイ」

 

「一生忘れられない夏休みだった...」

 

様々なことがあった夏休みだったが、過ぎてしまえば思い出となる。A組たちが気の抜けた会話をしている中、緑谷は1人携帯を見つめていた。

 

「メール?」

 

「うん!」

 

緑谷は携帯で仮免試験の結果をオールマイトに伝えていたところだ。しかし中々返信が返ってこず、返信が帰ってくるまで携帯と睨めっこをしていると突然爆豪から声をかけられ、緑谷は驚く。

 

「後で表出ろ。てめェの個性の話だ」

 

●●●

 

緑谷が爆豪に呼び出されたすぐ後、談笑しているA組たちの中から抜け出した耳朗は巧の様子が気になっており、少し様子を見に行こうとしていたところであった。耳朗は巧の部屋がある2階に向かおうとした時、突然後ろから声をかけられた。

 

「あの...」

 

「ヒャアッ!」

 

突然声をかけられた耳朗は驚いて変な声が出てしまい、振り返るとそこには結花が立っていた。結花は手に何か大きな袋を二つ持っていた。

 

「びっくりした...。あんた、B組の長田だっけ?なんでこんなところに?」

 

「ああ、実はこれを焦凍さんに届けようと思っていて...」

 

結花は大きな袋の中身を耳朗に見せる。その中には大量のサンドイッチが入っていた。耳朗はこの大量のサンドイッチを見て流石に多すぎではないかと内心思っていたが、口には出さないようにした。

 

「焦凍さん仮免試験で落ちてしまったじゃないですか?だから元気を出して欲しくてランチラッシュさんに頼んで材料を貰って作ったんですけど、ちょっと張り切りすぎちゃって...」

 

結花は少し照れながらことの詳細を話す。耳朗は納得しながらもこの量は流石に2人では食べきれないのではないかとも思っていた。そこで耳朗はあることを思いつく。

 

「あのさ、多く作りすぎたんなら半分くれないかな?実は乾のやつ、なんか変な意地張ってさ、帰ってから何も食べてないんだよ。試験の後でお腹空いてるだろうし」

 

「そうだったんですか!?それならお構いなく半分持っていってください」

 

結花は事情を聞き、すぐにサンドイッチの袋の半分を耳朗に渡した。

 

「それじゃあ私は焦凍さんのところに行きますので。あ、そうだ焦凍さんの部屋って何階にあるんですか?」

 

「5階だけど...」

 

「ありがとうございます」

 

結花は耳朗にお礼を言って階段を駆け上がって行った。耳朗も巧に貰ったサンドイッチを渡すべく、2階へと向かった。

 

●●●

 

耳朗にサンドイッチの袋の半分を渡した結花は5階に着き、轟の部屋を見つける。そして扉を軽く叩いてしばらく待っていると扉が開き、轟が顔を覗かせた。轟はまさか結花がやってくるとは思っておらず、驚いた顔をする。

 

「結花...!?なんでここに...?」

 

「焦凍さん、仮免試験で落ちちゃって落ち込んでるかなって思って、だから元気付けるためにサンドイッチを作ったんです!」

 

結花の整った顔から放たれる笑顔に、轟はその姿が聖母マリアのような神々しさを感じ、自然と涙が流れ落ちた。

 

「焦凍さん!?どうしたんですか!?」

 

「いや、なんでもねぇ」

 

突然涙を流した轟に結花は驚き心配するが、轟はなんでもないと涙を拭う。

 

(焦凍さんのあの涙...。やっぱり相当悔しかったのでしょう。こんな時こそ!従姉妹である私がなんとかしなくちゃいけない時です!)

 

(こんなに俺のことを気にかけてくれるなんて...。やっぱり結花は俺の女神だ)

 

結花は轟が仮免試験で落ちてしまったことを気に病んでいると思っているが、当の轟はその逆で内心ウハウハだった。轟は結花を部屋を案内し、結花は一礼して部屋の中に入る。内装は和風テイストに仕上げられており、結花はすぐ実家の雰囲気を真似ていると気づいた。

 

「焦凍さんの部屋、実家と同じ雰囲気がありますね」

 

「ああ、この方が落ち着くんだ」

 

「わかりますその気持ち」

 

結花は轟の家で居候しているため、轟の気持ちがわかった。結花は近くにあったテーブルにサンドイッチの袋を置いて腰を下ろし、轟も隣で腰を下ろした。そして結花は袋の中からサンドイッチを取り出し、それを轟に渡した。

 

「はい、これを食べて元気出してください!」

 

「ありがとう」

 

轟は渡されたサンドイッチを見る。サンドイッチの中には薄く切られたゆで卵が挟まれており、轟はそのサンドイッチを頬張る。パンはフワフワとした食感とほんのり甘味を感じ、ゆで卵も茹で加減も丁度よく、とても味わい深い仕上がりとなっていた。

 

「どうですか?上手にできているでしょうか?」

 

「当然だ。君が作る物はなんだって美味しいよ」

 

「よかった...」

 

轟は多少の贔屓も入っているが、実際に美味いのは事実である。轟は次々とサンドイッチを食べていき、あっという間に半分ほど平らげてしまった。その様子を結花は嬉しそうに見て、元気を取り戻したとわかり安堵した。その後、結花も一緒にサンドイッチを食べていると轟がふとある質問をしてきた。

 

「結花、君はあいつらと馴染むことができたのか?」

 

「はい。皆さんは私を信じて受け入れてくれました。私も同じクラスメイトだと言ってくれて...。焦凍さんの方は?」

 

「俺も同じようなもんさ。みんな受け入れてくれた」

 

「そうですか...」

 

ここで少し沈黙が入り、お互い黙ったままでいると、突然轟がソワソワした様子で結花に質問をしてきた。

 

「結花...。俺のことはどう思っているんだ?」

 

「え?」

 

「だから、その...。なんというか......」

 

少し言葉に迷いながら話す轟に結花は聞かなければならないことだと思い、黙って轟の言葉を待った。

 

「結花は俺のことをどういう目で見てるのかなっ....て思ってさ」

 

「どういう目でって...。それは勿論家族ですよ」

 

「そ、そうか...」

 

結花の返事に轟は少し悲しそうな目をして項垂れる。轟は結花のことが心から好きだ。それは家族としてではなく、異性として愛しているのだ。だが結花は轟のことを異性としてではなく家族として愛している。この認識の違いが轟の恋心を苦しめているのだ。結花はそんな悲しそうな目をした轟に対して、優しく抱きしめた。

 

「ゆ、結花!?」

 

轟は突然の結花の抱擁に顔を真っ赤にして、パニックになって動けずにいた。結花はそんな轟に対して徐々に強く抱きしめていき、お互いの体を密着させていく。

 

「焦凍さん。あなたが周りからどんな風に見られていても、焦凍さんは焦凍さんなんですよ?私はいつでも側にいます。いつでもあなたを癒してあげます。だから悲しまないで、泣きたくなった時は私があなたを支えてあげます」

 

「結花...!俺は...ただ...!」

 

結花は慈愛の心で轟を強く抱きしめていたが、轟にとっては愛する異性の体が自身の体に密着して、今にも爆発してしまいそうなほど鼓動が早くなっていた。轟の体は徐々に熱くなり、心臓の音がはっきりと聞こえてくるほどうるさく、轟の頭の中にある理性と本能がせめぎ合っていた。

 

「私があなたの全てを受け止めます」

 

「————!」

 

その時、轟の中にあったなにかが切れ、結花の肩をつかむとそのまま押し倒してしまった。

 

「焦凍.......さん...?」

 

「ハァ...!ハァ...!」

 

結花は何をされたのか理解出来ずに轟のまるで獣のような目を見つめる。轟は今まさに何をしようとしているのか理解していなかった。ただ目の前にある異性の体を気の済むまで貪りたいという気持ちだけがあった。轟は結花に顔を近づけたが、途中で動きが止まる。

 

(何やってんだ...俺...)

 

轟はようやく自分が結花に対して何をしようとしていたのかを理解した。そして轟は急いで結花から離れて距離ををとる。

 

「ごめん...結花...俺...!」

 

押し倒された結花は起き上がり、轟の方を見る。すると結花は目に涙を浮かべて立ち上がり、玄関へと向かった。

 

「ごめんなさい焦凍さん...!」

 

「待ってくれ!」

 

そう言って振り返らず結花は轟の呼び止めにも応じずに部屋を出て行った。1人残された轟はこの世の終わりのような絶望を味わっていた。

 

「完全に嫌われた...!もう終わりだ...!」

 

轟は頭を抱え、床に頭を打ちつける。何度も何度も打ちつけ、頭に血が流れてもやめずに打ちつけ続けた。自身が犯した過ちを戒めるように、自身に罰を与えるように、後悔の念が轟を絶望のどん底へと突き落としたのだった。一方轟の部屋を出て行った結花は自身の部屋に戻り、涙を流しながら項垂れていた。

 

「焦凍さん...。あんなに怒って...。私には焦凍さんの悲しみを受け止められないのでしょうか...」

 

結花は轟の悲しみを受け止めることができないのではないかと、自身の無力さを嘆いでいた。どうしたら轟の悲しみを癒すことができるのだろうか、どうすれば苦しみから解放することができるのだろうか、そんな考えが頭をめぐっていた。そして2人の盛大な勘違いが起こっていた。

 

●●●

 

時は少し遡り、2階に向かっていた耳朗は巧の部屋の前に立っていた。以前巧の部屋に勝手に足を踏み入れて怒られたことがあり、部屋に入れてもらえないのではないかと思うが、そんな考えは捨て、耳朗は扉を叩いた。しばらく待つのだが、いつまで経っても扉は開かず、耳朗はもう一度扉を叩く。それでもまだ扉は開かず、だんだんとイラついてきた耳朗はさっきよりも強く扉を叩いた。

 

「うるっせぇな!誰だ!?」

 

突然扉が開いたかと思うと、巧が怒声を上げながら現れた。巧は目の前にいる耳朗と目が合い、黙り込む。

 

「よ、よぉ...」

 

「.........」

 

耳朗はぎこちなく挨拶をしたが、巧は黙ったまま耳朗を見ていた。少し気まずい空気が流れて耳朗は冷や汗を流す。そしてその空気を破るかのように巧が口を開いた。

 

「何しにきた?」

 

「え!?ああ、えと...。こ、これ渡しにきた!乾帰ってから何も食べてないからお腹空いてるだろうと思って...」

 

耳朗は考えていた。これはチャンスだと。耳朗の考えではこの結花から貰ったサンドイッチで巧と一緒に食べれば、親密な関係を築けるはずという算段だった。

 

「そうか...。ありがとな」

 

巧は耳朗から渡された袋を受け取るとそのまま扉を閉めようとする。しかしそうはさせまいと耳朗は扉に手をかけた。

 

「待って!一緒に食べない?屋上でさ...」

 

「....おう」

 

巧は耳朗の必死な様子を見て、何かあるのではないかと察し、取り敢えず耳朗の言う通りに屋上へと向かった。屋上に着いた2人は地面に腰掛けて袋をの中身を見る。中には結構な量のサンドイッチが入っており、巧は多いなと思いつつも一つ手に取る。サンドイッチの中身にはハムが挟まれており、そこにマヨネーズやレタスなどが入ったそれらしい作りとなっていた。巧と耳朗はそのサンドイッチを食べる。

 

「美味いなこれ」

 

「ほんとだ」

 

「お前が作ったんじゃねぇのか?」

 

「ああいや、B組の長田ってやつから貰った...」

 

巧はどんなやつにも以外な一面があるものだなと思いながらサンドイッチを頬張った。しばらくいくつかのサンドイッチを食べていると、耳朗があることを巧に質問した。

 

「乾の好きなタイプって、あれほんとなの?」

 

「その話はやめろ」

 

「...ごめん」

 

耳朗は思い切って巧にあの事に対する質問をするが、巧は嫌そうな顔をして断る。耳朗は他に何か話すことはないかと必死に頭を巡らせていると、巧が先に話し始めた。

 

「オアシス再結成するらしいな」

 

「え、えあ!知ってる知ってる!来年10月に日本でライブやるんでしょ!?」

 

「ライブやんのか?そうか、ライブやるのか...調べてなかったな...」

 

巧が話したのはオアシスが再結成するという話だった。そして耳朗はこれだと思いつく。2人に共通している音楽が好きだというこの部分が、距離を縮めるのに最適な話題だと思いついたのだ。

 

「じゃあさ、オアシスの中で一番好きな曲なに?」

 

「そうだな....。まぁベタだが、ホワットエバーが好きだな。お前は?」

 

「ウチはやっぱりワンダーウォールかなぁ。アルバムはディフィニトリー・メイビーの方が好きだけど」

 

「俺はモーニング・グローリーだな」

 

そんな他愛のない会話をしながら2人はサンドイッチを食べていく。巧はお腹が空いていたこともあってか食べるペースが早く、かなりあったサンドイッチも数が減っていった。そんなこんなで時間が過ぎていき、しばらく音楽について談笑していると耳朗はここであることを決意する。ここで自分の巧に対する想いを伝えるのだ。

 

(けど、ストレートに言うのは流石に怖いし...。どうにかやんわりと伝えられないかな?)

 

耳朗は確信していた。自分は巧のことが好きなのだということを、この思いを巧に伝えるのだ。この前もここと同じ屋上で伝えようとしたが、結局怖気ついてしまい伝えることが出来なかった。今度こそと今こうしているのだが、やはり怖気付いてそのまま言うことができない。どうしたものかと考えていてふと、空を見上げた。今日は雲ひとつない天気で、月が綺麗に輝いていた。

 

「(これだ!)今日は月が綺麗だね...」

 

「ん?おおそうだな」

 

(なんで気づかない!?)

 

耳朗は言葉の意味を変えて想いを伝えてみたが、巧には全く伝わっている気配はなかった。なんとか別の言葉で伝えることができないものかと頭を巡らせ、次の言葉を伝えてみる。

 

「ウチ、乾といるとなんか安心するかも(流石にクサ過ぎる!)」

 

言葉を選び間違えてしまったかと後悔する耳朗だったが巧から帰ってきた言葉に耳朗は固まった。

 

「俺も、お前といると安心するよ」

 

「え....?」

 

「他の奴らとは違う感じがするんだ。上手く言えねぇけど...。こんな気持ちになれんのは出久とお前だけなんだよ」

 

「え....、えっ...!」

 

そう言ってこっちを見てくる巧に耳朗は顔を真っ赤にして戸惑ってしまう。思わぬ回答に耳朗はどう答えたらいいのか分からず慌てふためいていると、突然巧は何も言わずに耳朗に顔を近づけた。

 

「ちょっ...!?乾...」

 

耳朗は自分に顔を近づけてくる巧にもしかしてと思い、恥ずかしさと緊張の中で覚悟を決めて目を瞑り、口を尖らせる。しかし、いつまで経っても口に何かが接触する感覚がやってこなかった。

 

「何やってんだお前?」

 

「........む?」

 

耳朗が恐る恐る目を開けると右手に何か持った巧がこちらを怪訝そうに耳朗を見ていた。何が起こっているのか理解できない耳朗は口を尖らせたまま巧の手に持っているものを見る。それは何か小さなゴミのようなものだった。

 

「このゴミ、お前の頭についてたからな。とってやったんだが、なんだ口なんか尖らせて?」

 

「.....へ?」

 

耳朗は自分の思い違いだったことに気づいて、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした。耳朗はいてもたってもいられなくなり、早くこの場から立ち去りたくなり、立ち上がった。

 

「じゃあ乾!また明日ね!」

 

「あ!おい!」

 

巧が呼び止める間もなく耳朗は走って屋上を降りていった。1人取り残された巧は耳朗のことを変に思いながらも残りのサンドイッチを食べたのであった。

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