タワー内部へと侵入したAチームは最上階で囚われている人質を救出するべく、上へ上へと階段を駆け上がっていた。もちろんエレベーターなど使えるはずがないので、こうして走って駆け上がっているのだが、かなり長い階段を登ってきていて何人か息があがってきていた。
「ハァ...!ハァ...!今何階だ...!?」
「今50階だよ!もう少し頑張って!」
最上階は60階。その道中で数多くのホログラムたちが立ち塞がってきたが、全て掻い潜り、残り10階へと迫っていた。
「結構スムーズに進んでるみたいだね。このまま行けばすぐにゴールできそう」
「そう言うダルい考え方はやめとけ、常に気を引き締めろと先生から言われているはずだ」
「ごめん」
軽く談笑するくらいの余裕がありそうな神道と青沼。その様子に塩崎は疲れていないのかと疑問に思う。
「ハァ...!ハァ...!皆さん疲れていないんですか...!」
「もちろん疲れてはきているよ。でもこれくらいでへばってちゃ!ついていけないよ!」
直後、突然目の前に三体のホログラムが奇襲をかけてきたが、西田は回し蹴りで吹き飛ばし、青沼は顔を掴みそのまま地面に押し付け、神道は攻撃を受け流して後方へと投げ飛ばした。まさに疲れ知らずというようなこの身のこなしに雄英生徒たちは唖然として見ていた。
「あともう少しだ。急ごう」
そうしてAチームたちは階段を登り、最上階へと目指した。
●●●
しばらく階段を登った後、最上階の目の前まで来ていた。そこでAチームは立ち止まり身を潜める。
「最上階までは来れたけど、ここにきて何が潜んでいるかわからない。ここは慎重に行こう」
そう言って西田は壁に体を隠したまま最上階の様子を確認すると、そこには数は少ないものの、先ほどのホログラム達よりも武装したホログラムが立ち塞がっていた。周りには身を隠せそうな大きな箱がいくつか置かれており、何やら機械のようなものが置かれていた。
「数は少ないですが、今までより武装が強固ですね。どうしますか?ナインティナイン....えっと...」
「ナインティでもハーフでも短く略してくれていいよ。確かに。これは一筋縄では行かないかも」
塩崎は西田のヒーロー名の長さに少し言い辛そうになるが、略してもいいと西田は言う。そんな中、最上階の様子を見ていた蛙吹があることに気がついた。
「ケロ?人質はどこにいるのかしら?」
蛙吹の発言に皆、視線をホログラムの方に向けるが、武装したホログラムばかりで人質らしき姿がない。
「人質はどこかに隠してあるのか。面倒くせぇ。これじゃあスペースディストーションじゃ助けられねぇな」
「そう簡単にはゴールさせて貰えないみたいだね☆」
青沼はスペースディストーションで人質を救出しようと考えていたが、人質の姿が見えないのであればその技は使えない。一体人質は何処にいるのか、辺りを詳しく観察していると神道があることに気がついた。
「あそこ。階段が見える?多分屋上に向かう階段だと思う。もしかしたらあそこに人質がいるかもしれないね」
「なるほど屋上ですか。確かに最上階ですね」
神道は自分たちが今いる場所から最も離れた場所に上に行く階段があることに気がついた。おそらくあの階段を上がった先に人質がいるのではないかと神道は推測する。
「それじゃあこの部屋をどうやって突破するか...」
屋上まで向かうにはこの部屋を通るしか道はなく、その部屋には武装したホログラムたちが待ち構えている。もしここで一気に走り出したら、ホログラムにバレて人質が危険に晒されてしまう可能性がある。ここは隠密行動をとった方がベストだろうと考えていたその時、目の前に大きな穴が現れる。突然現れた空間の穴に皆驚き、青沼の方を見る。
「ダル...」
青沼は何食わぬ顔で空間の穴を通り抜け、一歩踏み出しただけで屋上に行く階段に辿り着いた。その様子に皆唖然としていると青沼は気怠い声で話す。
「何ボサッとしてんだ。早く行くぞ。ハァ...ダルッ...」
青沼に言われ、他の全員も空間の穴を通り抜けた。最上階の突破はあまりにもあっけなく終わってしまった。
●●●
屋上へと進んだAチームは辺りを見渡す。すると屋上広場の真ん中あたりに人質らしきホログラムがいるのが見えた。
「いた!あれだ!」
Aチームはすぐに人質に駆け寄る。後は触れるだけでこのステージはゴールとなる。そして泡瀬が人質に触れようとした瞬間、西田が待ったをかけた。
「待って!まだ触っちゃダメだ」
「え?」
西田はこの状況にある違和感を感じていた。それは青沼と神道も同じことだった。
「ここに人質がいるなら、必ず見張りもいるはずだ。なのに誰もいないだなんておかしい」
「確かに。あまりにも無防備すぎるね」
西田の予想が正解だというように突然下の階にいたホログラムたちがAチームを囲うように現れ、先ほどまでいた人質の姿が消えてしまった。
「ハァ...。罠か」
「もしかして...!全員倒さなきゃダメな感じ...!?」
Aチームは戦闘体制に入り、いつでも反撃ができるようにしていた。その時、Aチームを囲うホログラムたちの後ろから一体のホログラムが前に出てくるのが見えた。そのホログラムは他のホログラムよりも重装甲であり、雰囲気が全く違った。
「あれ。大ボスかな?」
「総攻撃を仕掛けてきたみたいだな」
重装甲を纏ったホログラムは手にガトリングガンを持っており、その銃口はこちらを向いていた。そして次の瞬間ホログラムたちが一斉に引き金を引き、Aチームに向かっていくつもの銃弾が襲いかかってくる。
アクアウォール!
神道はすかさずアクアウォールを作り出し銃弾の雨を防ぐ。しかし先ほどとは違いホログラムたちには強力な武器が多くあった。一旦攻撃が止むと、一体のホログラムが箱から何かを取り出す。それはロケットランチャーだった。ロケットランチャーを構えたホログラムはアクアウォールに向かって発射する。するとロケット弾が水の壁に激突した瞬間に爆発を起こし、その衝撃でアクアウォールが消滅してしまった。
「おっと!まずいね」
その直後、ガトリングガンを構えたホログラムがAチームに向かって銃弾を浴びせてくる。次の防御が間に合わないと判断した神道は西田に声をかける。
「
「わかった!」
西田は右手を上に掲げると大きく叫んだ。
メタルーダ!!
すると西田の目の前に眷属が現れる。鳥の頭に人間の体。背中には大きな翼を持ち、全身が金属の鎧を身に纏っていた。このガルーダのような姿をした新たな眷属であるメタルーダは大きな翼を広げ、Aチームを銃弾から守る。
「みんな怪我ない!?」
「また新しいやつ!?」
「なんと神々しい...!」
メタルーダは銃弾を浴びながらも微動だにせず、大きく広げた翼を力強くはためかせた。するとその翼から生まれた強風が吹き荒れ、ガトリングガンを持ったホログラムもろとも吹き飛ばした。
メタルハルバード!
西田はメタルーダの金属の翼から一本の羽を取り出し、それが柄の長い斧のようなものに変化した。そして西田はそのメタルバルバードを左右に振りながら回転させる。
「一気に決める!」
西田はメタルハルバードを回転させながら上に掲げ、それを中心に強大な竜巻が発生し、その竜巻は次第に大きくなっていく。
メタルストーム!!
西田は勢いよくメタルハルバードを投げ、周囲のホログラムたちを巻き込んでいく。そして巨大な竜巻が晴れる頃には一体もホログラムの姿はなかった。
「これで全部かな?」
「手間が省けたな」
「あの数を一瞬で...」
「すごい...!」
西田の活躍により危機を脱したAチーム。西田が繰り出した必殺技の威力に雄英生徒たちは唖然としていた。これでクリアだったようで、Aチームのすぐ後ろに人質が現れた。
「これでゴールみたいだね」
そう言って神道は人質に触れると人質の姿は消え、ゴールという文字が目の前に浮かび上がった。その直後、Aチームは光に包まれ、どこかへ消えた。
●Bチーム●
Bチームはゴールである塔へと向かっていたが、先ほど戦闘したホログラム以降、全く姿を現していない。皆周囲を警戒しながら進んでいる中、巧が流星塾生たちに話しかける。
「お前ら、いつからオルフェノクになったんだ?」
巧の質問に太田、徳本、木村の三人は互いに顔を見つめる。少し間が開くとその質問に木村が答えた。
「えーっと...。すみません。それがよく覚えてなくて...」
「覚えてない?」
木村の答えに巧は疑問符が浮かんだ。巧自身、いかにして死んでオルフェノクになったのかは覚えている。緑谷と爆豪もそうだ。
「ああ、俺たち全員なんでオルフェノクになったのか覚えてないんだ。物心ついた時には既にって感じでな。多分、死んだ時に記憶も一緒に抜け落ちたんだろう」
木村に続けて太田が答える。流星塾生の全員がなぜオルフェノクになったのかは覚えていないようだ。
「オルフェノクになった理由などどうでもよい。くだらん質問はするな」
徳本はそもそもこの質問自体無意味だと言っていた。その態度に巧は少しイラッとするが、気にしないようにして先に進んだ。
●●●
しばらく道なりに進んでいくと、遂に塔の前まで辿り着いた。ここに来るまで、ホログラムの姿は一体も見ていない。あとはこの塔を登ってゴールするだけだ。ふと、円場がある立て看板を見つけた。
「『三人の挑戦者を選べ』だって」
「三人か。そうだな。ここはさっさと行きたいから。挑戦者は俺たちでいいか?」
挑戦者となったのは太田、徳本、木村の三人だ。太田の提案に誰も何も答えなかったが1人、爆豪だけが納得していなかった。
「おい帽子野郎!何か勝手に仕切ったんだ!挑戦者なら俺を出せ!」
相変わらず誰彼構わず突っかかる爆豪に巧は呆れ、緑谷は申し訳なさそうな顔をしていた。睨みつけてくる爆豪に太田は全く動じず、爆豪のギラついた目を見る。
「俺の名前は太田慎吾。ヒーロー名はデスペラードだ。帽子野郎じゃない」
太田はそれだけを言うと、振り向いて塔の中へと進み、徳本と木村も続いて行った。
「待ちやがれ!テメェ無視すんなや!」
軽くあしらわれてしまった爆豪は舐められていると思い、太田の後を追いかける。その後すぐに巧たちも後を追いかけた。塔の中に入ると、中は外の光が入っていないため、少し暗く、代わりに中の灯りで、すぐ目の前の闘技場のような広場が照らされていた。
「この中で戦うのか...。最初は誰が行く?」
「私が行く」
最初の挑戦者を名乗り出たのは木村だ。木村は闘技場の広場に降りる。挑戦者として名乗り出た木村に巧は少し不安があった。
「あいつ...。大丈夫なのか?」
木村は先ほどのホログラムの戦闘時に少し注意力に欠けている印象があり、この塔の挑戦者に相応しいのかいささか疑問が残った。しかし、そんな心配を払拭するように徳本が答えた。
「ペニーレインを舐めるな。あいつはお前たちよりずっと強いぞ」
その直後、木村の目の前に上空から一体の巨大なホログラムが飛び降りてきた。そのホログラムは大きさは見たところ巨大仮想
「デカッ!?」
「試験にいた仮想
皆、ホログラムの大きさに驚く中、木村は構える。そしてホログラムは手に持っていた棍棒を振り上げ、木村目掛けて振り下ろした。木村は即座にバックステップで避けると指先から糸を出した。
ストレッチスレッド!
木村は伸ばした糸を天井の電灯に巻き付け、ストレッチスレッドの伸縮を利用してホログラムの真上へと飛ぶ。そして両手を広げ、周囲に糸を伸ばした。
バインドスレッド!
四方八方に伸びた糸はホログラムを巻き付け、身動きを封じる。その隙に、木村は右手の指から出した糸を束にし、槍のような形にする。そしてホログラム目掛けて糸の槍を放った。
スピアスレッド!
放たれた糸の槍はホログラムを貫き、消滅した。一分足らずで倒してしまった木村に皆、唖然としてしまう。
「グッドだペニーレイン」
「グッド!」
太田が木村に向けてサムズアップすると木村も同じくサムズアップをする。第一関門突破したBチームは次の階へと進んだ。
●●●
Bチームが進んだ先にはプロレスやボクシングなどで使うリングだった。これを見た時、名乗り出たのは徳本だ。
「俺が行こう」
そう言うと徳本は飛び上がってリング内に着地する。その直後、一体のホログラムが姿を現した。第一関門に現れたホログラムと比べるとかなりかなり小さく、徳本と同じ体格と身長をしていた。徳本とホログラムは互いに構えをとり、戦う体勢に入る。そしてどこからともなく、試合のゴングが鳴り響いた。先に動いたのはホログラムの方で、ホログラムは腕をあげて徳本の首に目掛けてラリアットを放った。しかし、徳本は避けようとはせずに、ホログラムのラリアットをモロにくらい、リングのコーナーに吹き飛ばされた。
「えっ!?なんで避けないんだ!?」
全く避けようとするそぶりも見せなかった徳本に周りは驚く中、ホログラムは続けて徳本をリバースフルネルソンでホールドした後、そのまま後方に体を大きく反らしてリング上に叩きつけた。
「何やってんだアイツ...!?」
ダブルアームスープレックスをモロにくらった徳本はそのまま地面に仰向けに動かずじっとしていた。その隙にホログラムはリングのコーナーの上に立つとそのままジャンプし、徳本にボディプレスをくらわした。
「なんで反撃しねぇ!テメェ俺と変われや!」
「まぁ待て。すぐにわかるさ」
「ああ!?」
反撃をしようともしない徳本に怒りが湧いてきた爆豪は自分と交代させようと前に出るが、太田がそれを制止する。周りは一体何の狙いがあるのか全くわからなかった。その間にホログラムは徳元を背後から胴体をホールドし、そのまま大きくのけ反ってジャーマンスープレックスをくらわした。これを最後にホログラムの攻撃は一旦止まる。一方的に攻撃を受け続けた徳本は相当なダメージを受けたはず、しかしそんな攻撃など一切効いていないかのように軽々と立ち上がった。
「なるほどな。それが貴様の実力か...。期待外れもいいとこだ。まぁ、ただのホログラム相手に言っても無駄か」
その直後、徳本は一瞬にしてホログラムの背後へと回った。そのあまりの速さに周りは目で追うことが出来なかった。徳本は背後からホログラムの胴体をホールドする。
「今から貴様のプログラムに刻め。ジャーマンスープレックスとは、こうやるのだ!!」
そして徳本はホログラムを抱えたまま天井近くまで飛び上がり、体を大きく反らし、リング上へと落下する。
グラビティ!
ジャーマンスープレックス!
すると突然、落下の速度が加速し、ホログラムを勢いよくリング上へと叩き付けた。その勢いは凄まじく、リング上激突した瞬間の衝撃がBチームへと伝わる。衝撃が止み、皆、リングへと目を向けるとそこには腕組んで仁王立ちしていた徳本ただ一人が立っていた。その直後、試合終了のゴングが鳴り響き、第二関門を突破することに成功した。勝利した徳本はリングから降りる。今までホログラムから受けたダメージは全く無く、平然としていた。
「全く。遊びすぎだぞ」
「遊んでなどいない。相手の力量を測っていただけだ」
そういうと徳本はさっさと次の階へと向かい、他のものも続いて進んでいった。
●●●
最後の階にたどり着いたBチームの目の前には剣道場のような場所だった。広さはそれなりにあり、外の灯りもあるため明るかった。最後の挑戦者となったのは太田だ。
「俺が最後だな」
そう言って太田は前に出ると、一体のホログラムが現れる。手には刀を持っており、その立ち姿には隙がないように見えた。そしてホログラムが戦闘に入るために構えを取ろうとした瞬間、突然ホログラムが意識を失ったかのように倒れてしまった。
「え?何バグ?」
「どうしたんだろう?」
皆、突然の出来事に少し戸惑っていると、これに対して太田が答えた。
「もう倒した」
「え!?倒したって...!まだ一歩も動いてないのに...!どうやって...!?」
太田の発言に皆驚く。さっきまで目の前で突っ立っていただけだったのにもう倒したと言われても理解ができない。
「早く動いただけさ」
「.........!」
太田はただ、視認することができないスピードで動き、ホログラムの顔に三発の拳を打ちつけたのだ。そのあまりの速さに周りは驚き、爆豪も同じように驚いていた。これで第三関門も突破したBチームはゴール条件を満たし、光に包まれ、次のステージに向かうこととなった。
●Cチーム●
ゴリ押しで要塞に突っ込んでいったCチームはゴールの山小屋まで向かっていた。その間、ホログラムたちの襲撃は一切なく、無事に山小屋までたどり着いた。
「この中に兵器があるんだな!」
「お前ら、ちょっと待って...」
「どうした切島?」
「なんか、体がすげぇだるくて全身が痛ぇんだよ」
「俺も、目眩と吐き気が...」
「2人とも大丈夫!?」
何やら切島と鉄哲の2人が何やら気分が悪そうにしていた。もしかして何かあったのでは無いかと心配する周りだったが、突然高宮が説明を始める。
「あー!悪い悪い!これ俺の個性の副作用でさー!でも大丈夫だ!一時的だから!5分もせずに元に戻るし!」
「そ、そうか...。それは良かった...。オエぇ」
「やばい吐くっ...!」
この症状は一時的だと言われ、取り敢えず安堵する切島と鉄哲。気を取り直してCチームたちは山小屋の方に振り向いた。
「じゃあ行くぞ!」
「「「「「おお!!」」」」」
勢いづいていたCチームは後先考えずに山小屋の扉を開け、中に入った。しかし、そこは間抜けのからで兵器どころか、物一つ置いていなかった。
「「「「「あれ?」」」」」
勢いよく入ったものの、何もないことに唖然としてしまったCチーム。辺りを見渡しても、何もない。もしかしてと思っていたその直後、入ってきた扉がいきなり閉まり、木製だった周囲の壁が金属製のシャッターに切り替わった。Cチームはまんまと罠にハマってしまったのだ。
「「「「「嵌められたああああああ!!!」」」」」
大騒ぎになったCチームはどうすればいいか分からず、大声をあげて慌てふためくがここは一旦落ち着こうと犬飼が声を出す。
「一回落ち着こう!一回!まずはこの状況を整理しよう!」
犬飼の一言で皆落ち着き、今置かれている状況の整理から始めた。
「まず俺たちはこの要塞の中を突っ切って、敵を倒してここまで来たじゃん?」
「「「「「うん」」」」」
「そんでこの山小屋見つけて中にある兵器を回収しようとしたわけじゃない?」
「「「「「うん」」」」」
「そしたらこん中に何もなくて、ついでに閉じ込められたってことだよな?」
「「「「「うん」」」」」
この状況を整理してみて、Cチームは思う。これは完全に嵌められたとしか言いようがなかった。
「「「「「やっぱり嵌められたあああ!!」」」」」
考えれば考えるほど、詰みな状況であることを実感するCチーム。パニックになってどうすればいいのか、もはや考える余裕など何もなかった。ただ固く閉ざされた狭い小屋の中を走り回っていると、吹出があるものに気がついた。
「ん?何これ...?」
吹出が鉄の壁に何かがあることに気づき、その何かをよく見るために顔を近づけると、そこには小さな赤いボタンのようなもがあった。明らかに押してはダメな雰囲気の色合いをしているボタンで一体なんのために、そしてなんの機能があるのか不明だった。とりあえず、このボタンについて教えようと、吹出は今だにパニックになっているチーム仲間に声をかけた。
「ねぇみんな!これ見てよ!」
「「「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」」」
「ねぇみんな!」
「「「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」」」
「ねぇってば!」
「「「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」」」
全く声が届いていないことに段々とイラついてきた吹出は作に気づかれるように個性を発動した。
聞いてよ!!!
個性を発動したことにより、かなり大きな声がチーム仲間の耳に響き渡る。声に驚いた全員は吹出の方に振り向く。
「なんかここにボタンがあるんだ。見てみてよ」
「ボタン?」
吹出が指差す赤いボタンを全員は顔を近づける。
「ほんとだ」
「なんじゃこれ?」
「押してみる?」
「おう」
「あ、ちょ...!」
赤いボタンを見るないなや、高宮はその赤いボタンを押す。流石に押すのはないだろと、吹出は止めようとするが時すでに遅く、ボタンを押したことにより突然小屋が揺れ始めた。
「な、なんだ!?」
「何勝手に押したんだよ」
「ごめーん」
しばらく揺れが続くと突然床が開き、その下から何か機械じかけの無骨な何かが現れた。
「これ兵器じゃね?」
「なんだぁ!ここにあったんだぁ!」
Cチームは兵器に近づき、伊藤が触る。これでゴールだと皆安堵したその時、何かが作動する音が聞こえた。
『起爆スイッチ起動』
「「「「「え?」」」」」
『爆発まで残り5分』
「「「「「ええええええええええ!!!?」」」」」
何かの聞き間違いかと、Cチームは一瞬思考が停止する。そして兵器の方を見た時、無機質な黒い背景に赤い数字が少しづつ着実に減っていっているのが見えた。
「どうしよう!どうしよう!」
「やばいーーーーー!!!」
「止めなきゃ!」
「どうやって!?」
「わかんない!」
パニックにパニックが重なり、どうすればいいのか分からず、ただ固く閉ざされた部屋の中を走り回るだけだった。そんな中、上鳴があるものを見つける。
「おいみんな!なんかあるぞ!」
もしかしてここを脱出するヒントかと皆、藁にもすがる思いで上鳴が見つけたものを見る。
「赤と青と黄色の線とそれを切るためのペンチ...」
「もしかしてこのどれか切ったら爆発を防げるんじゃ!?」
「確かに!」
絶望の淵に見えた希望の光。これが脱出をするためのヒントのになるはずだ。しかしここで一つ問題があった。
「でもどれ切るの?」
「どれ....?」
この3つの線のうちどれを切ればいいのか全くわからなかったのだ。このチームの中に爆弾処理の技術を持った人間など都合良くいるわけがない。何か他にヒントがないか、探すと高宮が何か文章のようなものを見つけた。
「何か書いてある!」
「読んでみて!?」
「えっと...。『存在しない元素は以下のどれか。赤"エルビウム"。青"セタニウム"。黄"ハッシウム"』....」
どうやらこの元素の答えの色を切ることができれば爆発を防ぐことができるが、このチームに元素などまともに覚えている者などいなかった。
「「「「「分かるかあああああああ!!!」」」」」
またもや絶望の淵に落とされるCチーム。万策尽きたかと落胆しそうなったその時、高宮が顔を上げた。
「こんな時に翼がいれば....。あ!」
「何!?」
「ビートルズ!」
「「あ!!」」
何か思い出した高宮、犬飼、伊藤の3人。そして三人は急に目を瞑ると頭に指を置いて思考し始めた。
「え。なになに?なんか分かったの?」
「ちょ待って一回喋んないで一回喋んないで」
「えっと...。プリーズプリーズミー...」
「エルビウムは確かイエスタデイだったから...」
ブツブツと呟く三人に周りは黙って見つめていた。残り時間は一分を切り、あと数秒で爆発してしまうところだ。その直後、三人は顔を見合わせ叫んだ。
「「「青だ!」」」
その言葉に切島が急いで青の線を切った。すると兵器の機械音が止み、機能を停止する。どうやら正解だったようだ。そのことにCチームは安堵した。その時、どうして答えがわかったのか芦戸は気になり、質問をする。
「なんでわかったの?」
「いやぁ、私たち周期表をさ、ビートルズの楽曲で覚えてたんだよねー!それが役に立ったっていうかー!」
「しっかり
「こういう地道な努力が役に立つ時があるんだよな!」
「よくわかんねぇけど助かったーー!!」
「「「「「やったああああああああ!!!」」」」」
言っている意味は理解できなかったが、とにかく助かったことだけは理解できた。その直後、Cチームは光に包まれて姿を消した。
●Eチーム●
三手に分かれたEチームはそれぞれ別の通路を通ってゴールを目指していた。最初は木下のチーム。先頭を木下が歩き、そこについていくように八百万と回原が歩いていた。どこまで続いているのか先の見えない一本道をただひたすら歩いている中、突然木下は立ち止まり、下を向いた。後ろにいた八百万と回原は同じように下を向くと、そこはそこの見えない大きな穴があった。向こう岸は壁になっていて下に行くしか道はない。しかしどのくらいの高さがあるのか分かったものではなく、下に何があるのかもわからない。
「下に降りるしかありませんね。しかし、下に何があるか暗くて見えませんわ...」
「レディファーストだ」
「え?」
突然木下は八百万の背中を押して穴へと突き落とした。何をされたのか一瞬理解できなかった八百万だったがすぐに自分の状況を理解し、そして叫び声を上げて落ちていった。
「きゃああああああああ!!」
「ちょ!?お前何して...!」
「次お前な」
「え!?ああああああああああ!!?」
今度は回原を突き落とした木下は落ちていく2人を見ていた。下の方では落ちていく八百万が咄嗟の判断でパラシュートを作り出し、回原は手を回転させて壁に突き刺し、落ちる速度を減少させる。八百万はなんとかパラシュートを開き、ゆっくりと下へと落下していく。その途中で八百万はクッションを作り出すと、それを地面へと放り投げ、着地をする時の衝撃を和らげた。なんとか助かったと安堵していた直後に、木下も続いて落ちてきて綺麗に着地した。
「高さ約700m。思ってたより深かったな」
「ひどいですわ!何故あんなことを!?」
「安全かどうか確かめるためさ。大いに役に立ってくれて結構結構」
ぞんざいな扱いに八百万は怒り心頭になり、木下に謝罪を求める。
「あんなことをしておいて!謝罪してください!」
「過ぎたことをネチネチネチネチうっせぇな。凡人ってのはこれだから...」
しかし木下は謝罪どころか反省の態度すら示そうとしていなかった。それどころか、自分たちを見下すような目で見ている。八百万と回原はこんな人間がヒーローなんてやっていいのかと内心思っていた。そんな中、木下は辺りを見渡していると何か見つけ、それをよく観察する。
『正解の鍵を選べ』
その直後、暗闇で見えなかった空間が突然明るくなり、周囲の様子がわかるようになった。明るくなって見えたものはあたりにいくつもの鍵が置かれており、正面には鍵穴のついた扉があった。どうやらこの中から正解の鍵を選ぶ事がここから出ることができるのだろう。
「ヒントはなんだぁ?」
木下は無数の鍵をある程度観察していると、それぞれ鍵に5桁の数字が書かれていることがわかった。その数字には一見すると法則性はなく、ただランダムに書かれているだけのようだった。
「この数字は一体...」
「法則性があるはずだ。全部見ていかないとわからねぇな」
「全部って...。これ全部かよ」
見渡す限り、百以上の数があるこのどれか一つがこの部屋から出る鍵だ。この無数の鍵から法則性を見つけるのは至難の業となるだろう。その時、突然落ちてきた穴から天井が現れ、木下たちは閉じ込められてしまう。すると周囲が突然赤くなったかと思うと、肌で感じてわかるほどに温度が上昇していった。
「なんか、部屋暑くね...?」
「俺たちを丸焼きにする気か?この温度なら2分と持たないな」
「呑気に言ってる場合ですか!?」
このままでは自分たちはここで丸焼きになって死ぬだろう。焦る回原は個性を発動して扉を削り取ろうとするが、傷一つつかなかった。
「駄目だ開かねぇ!」
「この中から鍵をさがなくては...!」
「..........」
焦る2人をよそに木下は周囲の鍵の数字を見ながら少し考えるとあることに気がついた。
「素数か」
「え?」
すると木下は何の迷いもなく一つの鍵を取ると、その鍵を扉の鍵穴に差し込んだ。すると扉が開き、木下は2人の方に振り向いた。
「早く行くぞ」
難なくクリアした木下に2人は呆然と立ち尽くしていたが、すぐに木下に続いて扉を通り抜けた。あの数の鍵からどうしてわかったのか、回原は木下に質問した。
「お前なんであの数から答えわかったんだよ?」
「なーに。ただ割り算しただけだ。そしたら一つだけどの数でも約分出来なかった鍵があった。欠伸が出るほど簡単だ。小学生でもできる」
百を超える鍵の5桁数字をただ暗算するだけでわかってしまう驚異的な暗算能力に2人はただ唖然とすることしかできなかった。木下はさっき扉を開けた鍵を見た後、ポケットにしまった。
●●●
阿部のチームでは、先頭に阿部が歩き、その後ろで峰田と物間が歩いていた。その道中、峰田は先頭を歩く阿部の後ろ姿を舐め回すように見つめながら下卑た笑みを浮かべていた。その隣で歩いていた物間は呆れた様子で峰田を見ている。
(ノホホホォ...!なんとも美しい丸みを帯びたお尻なんだぁ...!このチーム入れてラッキー!)
阿部のコスチュームはかなり露出度の高い格好で峰田には最高に目の保養になる姿だった。峰田の煩悩が阿部の尻に触れと囁いていた。峰田は己の煩悩に抗うことなく、ゆっくりと阿部に近づき、そのお尻に触ろうとしたその時、阿部が突然口を開いた。
「もし私のお尻を触るっていうのなら...。あんた達のタマキン蹴り潰すわよ」
「ヒッ...!」
「なんで僕まで!?」
阿部の怒りのこもった冷淡な発言に峰田はビビり散らし、そして何故か物間も飛び火した。触れば男としての命はないと理解した峰田は渋々諦めるが、下卑た視線を止めることはなかった。しばらく歩いているとそれなりに広い空間に出た。周りには何もなく、罠のようなものもない。
「何もないね」
「この部屋当たりか!?」
「こういう時こそ、よく注意しないと...」
阿部はこの何もない空間を警戒する。何かが起こることもなければ、何があるわけでもない。その時、峰田があるものを見つけ拾い上げる。
「ん?なんだこれ?」
それはカードキーのようなものだった。おそらく何かの手掛りだろうと考えたその時、突然天井から物音がした。三人は天井の方を向くと次の瞬間、天井が勢いよく落下してきた。
「「「何ぃーーー!!?」」」
落下してきた天井はこのまま三人を押し潰そうとするが、ギリギリのところで阿部が個性を発動して天井に手を置き、潰されないように支えた。
エメラルドナックル!!
「グッ...!」
しかし、流石の重さに膝を崩すが、その体に見合わぬほどの怪力でその天井を持ち上げ、更に個性を発動する。
アメジストアンクレット!!
すると足の部分に紫色に輝く鉱石がまとわり、崩れそうな脚を支えた。その間に阿部は峰田と物間の方を向く。
「ちょっと...!2人とも!この天井をどうにかして...!重い...!」
「わ、わかった!オイラに任せろ!」
峰田は早速、自分の頭にあるモギモギを天井の隅に投げて固定していく。しかし、広い天井なだけあってか、峰田だけでは少し無理があった。
「ちょっと君だけじゃ力不足じゃないかな!?僕も手伝うよ!」
すると物間は峰田に触れると頭に峰田と同じようなモギモギが現れる。物間はそのモギモギをとって天井に投げつけて行き、天井を固定していった。しばらく2人はモギモギを投げ続け、天井の固定に成功する。
「止まった...」
「やったあああ!」
「一件落着だね」
そして阿部は地面に膝をつき、峰田は喜びの声をあげ、物間は何食わぬ顔をしているが、2人とも頭から血を流していた。
「二人とも大丈夫?頭から血が出てるけど...」
「これくらい平気さ」
「オイラたちを舐めてもらっちゃ困るね」
阿部は頭から血を流す2人を心配するが痩せ我慢しているのか、カッコをつけて平気なフリをしていた。その様子を見た阿部は小さく笑みを浮かべる。
「そう、頼もしいわね」
その時、阿部の目に光が入り、その光源の方を向くと、何か半開きの扉が見えた。おそらく出口であろう。
「出口ね。2人とも行くわよ!」
「「おう!」」
●●●
最後のチームである棟宮の方では、ある問題に直面していた。それは目の前にいくつもの扉があることだった。どれがどの扉なのか、一見するだけだは見当もつかない。このような道を抜け出すにはどうすればいいか、そこで瀬呂が一つ提案を出した。
「俺のテープを道標にしようぜ」
「確かに。何かあって戻る時に役に立つわね」
瀬呂の提案に2人は承諾すると、早速瀬呂はこの部屋の壁にテープを貼り付け、これを何かあった時に戻る時の目印とした。早速棟宮たちは目の前の扉を開けて次の部屋に進む。進んだ先では、さっきの部屋と同じようないくつもの扉がある部屋だった。
「また同じような部屋...」
次はどこに進めばいいのかわからなかったが、とにかく進むしかない。今度は左の部屋を進むが、また同じような部屋に出る。今度は右に行くが、また同じような部屋に出た。棟宮たちは様々な扉を進んでいく。だがどこに行っても同じような部屋に出てしまった。
「なんか同じような場所をぐるぐる回ってるような...」
「一旦戻らないと...。セロファンさん...テープは...?」
「ん?テープがどうしたんだよ?」
棟宮は瀬呂のテープをたどろうとしたが、そのテープがなかった。棟宮はテープが途中で切れたのではないかと考えたが、瀬呂はそのことについて全く気にしている様子がない。まるで最初からそんなことをしていないような顔をしていた。
「とにかく行きましょ!ゴールはすぐそこよ!」
「何を言って...?」
拳藤はさっきとはまるで別人のような振る舞いに棟宮はさらに戸惑う。何かとてつもない違和感があった。会話が噛み合わない。それに拳藤の言葉も引っかかる。なぜゴールが近いとわかるのか。棟宮の頭の中にある違和感はどんどん大きくなっていった。
「何かおかしい...。これは...幻覚...!」
●●●
「ハッ...!」
棟宮が気がついた時、瀬呂、拳藤の2人はその場で倒れて気絶していた。というより、眠っていた。どうやらチームに分かれて3つの扉の一つに入ったときからこの場所で眠ってしまっていたとわかった。棟宮は辺りを見渡すと、何やらダクトのようなものがいくつかあった。
「あそこからガスが...」
あそこから無臭のガスがこの部屋を充満し、そのガスを吸ってしまった棟宮たちは気絶してしまったということなのだろう。一体どれくらい眠っていたのかは定かではないが、とにかくこのガスをどうにかしなくてはならない。
ピューリフィケーション!
棟宮が両手を勢いよく広げると全体に光の粒子のようなものが広がる。これにより、部屋を充満していたガスを浄化したのだ。棟宮は急いで2人を起こした。
「二人とも...!起きて下さい...!」
「......ん?」
「んあ...?」
棟宮によって叩き起こされた2人は重い瞼を擦りながら目覚める。そして自分たちが置かれている状況を瞬時に理解した。
「あれ!?いつのまにか寝てたんだ!?」
「私たち...いつから寝てたんだろ...?」
「そんなことより...!セロファンさん...!あのダクトをテープで塞いで下さい...!」
「え、あ!?お、おう!!」
瀬呂は少し理解が追いついていなかったが、とりあえず言われた通りにダクトをテープで塞いでいく。これでガスを吸うことがなくなった。棟宮たちは周囲を見渡すと、で見たときと同じような扉の数があった。しかし拳藤はその扉に何か違和感を感じる。
「これ...ただの絵じゃない」
「本当だ。近くで見ねぇと分からねぇな」
精密に模写された扉の絵。実際にその場にあるように見えた。ではどこかに本当の扉があるはずなのだ。棟宮たちは何か扉のようなものがないか探していると棟宮は天井から床に向かってまっすぐな切れ目を見つけた。その切れ目の間に何か紙切れのようなものを見つける。
「これは...」
棟宮はその紙切れをつまみ取る。その紙切れには四桁の数字が書かれており、何かヒントなのだろうと考えた棟宮はその紙切れをポケットにしまった。
「あの...。セロファンさん...。バトルファストさん...。ここ...。多分扉です...」
「この壁が...。結構大きいわね」
「それに重いぜこれ...!」
壁全体が扉となっている作りでかなり大きく、瀬呂はその扉を押してみるがかなりの重さでびくともしない。どうやってあげればいいのか考えた時、ここで拳藤が自身の両拳を個性で大きくする。
「三人で同時に押しましょ」
「力を合わせてってやつね。オーケー!」
「やりましょう...」
三人は扉に向かってそれぞれの配置につく。瀬呂は左、棟宮は右、拳藤は両方の扉に手を置く。
「せーっの!」
拳藤の掛け声と共に、三人は扉を全力で押す。最初のうちは全くびくともしなかったが、徐々に扉が動き始めているのがわかった。
「あともう少しよ!頑張って!」
「ふぎぎ...!」
「クッ...!」
あともう少しで扉が開く。その隙間からは一筋の光が見えてきた。その瞬間、突然勢いよく扉が開き、そのまま三人はバランスを崩して倒れてしまう。
「開いたぁ!」
「やった...!」
「よし!2人とも行くわよ!」
「おう!」
「はい...!」
扉が開いたことに三人は喜ぶ。そして拳藤の呼び声と共に、三人は扉の先を走っていった。
●●●
木下のチームは扉の先を抜けた時、目の前にはさらに広い空間に出た。その空間内ではぽつんとひとつの何やらハイテクなテーブルが置いてあった。そこには鍵穴とカードキーをかざすリーダー。最後には番号を入力するテンキーだった。木下はポケットに入れていた鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。すると目の前の大きな扉にあった赤いランプが灯った。
「灯りが付いたぞ」
「あと二つのようですね」
「ちゃんと来てくれるかなぁ」
目の前の大きな扉を開けるためには、三つの鍵が必要である。その一つを木下が開けたため、赤い光が灯ったのだ。あとは二つの鍵。阿部と棟宮のチームが来てくれれば、ゴールできる。その直後、木下の言葉に応えるように、阿部と棟宮のチームが現れた。
「みんないる!?」
「ゴールだ!」
「遅いぞお前ら」
少し遅れてやってきた阿部と棟宮たちに木下は嫌味を言う。そんな木下には阿部はジト目で見てくる。
「あんた。あの二人に何もしてないでしょうね?」
「いやぁ、別に何も」
何もしていないと言う木下だったが、明らかに何かしていることがわかった。呆れた阿部はため息をつくと八百万と回原の方に向く。
「ごめんなさいウチのバカが...」
「あぁ、いえ、怪我はないので」
「ここに来れたのもあの人のおかげというか...」
阿部は木下の代わりに深々と頭を下げて謝罪し、2人は少し申し訳なさそうな気持ちになる。
「そう!全て俺のおかげ!全て俺の実力!なぜなら俺は天才だから!」
そんな阿部の気持ちを無碍にするように木下は傲慢な態度をとる。周りは呆れてものも言えず、阿部は怒りの頂点に達した。
「あんたいい加減にしなさいよ!!」
「黙れ!さっさと鍵を開けろ」
「〜〜〜!もうっ!」
阿部は木下の傲慢な態度にイラつきながらもカードを取り出し、リーダーにカードキーをかざす。すると黄色のランプが灯る。次に棟宮はテンキーに四桁の番号を入力すると最後に緑のランプが灯る。最後の鍵を開けた扉はゆっくりと動き、その隙間から光が漏れ出してくる。
「長いは無用だ。行くぞ」
「ちょっと待ちなさい!」
木下はさっさと扉の先へと進み、阿部はその後を追いそのほかのチームも続いていった。
●Fチーム●
オアシスのすぐ下にあった暗い地下洞窟の内部を歩くFチーム。先頭は三原と河内が歩き、三原は銃を構えて周囲の警戒しながら河内が作り出した懐中電灯で周りを照らしていた。この場所では地上と打って変わって冷たい空気が流れていた。麗日は地上との気温との差に体を震わせる。
「うぅ〜。寒い...」
「空気の流れが少ない上に日光が入らないからな。寒いのも当然だ」
三原はこの寒さについて説明をしながら道の先に危険がないかを警戒し続ける。三原は何もないこと確認すると、後ろにいるチームに先に進むよう指示を出す。
「何にもなし。ただ暗いだけの通路。退屈だな」
「ここに入りたいって言ったのあなたでしょ?文句言わないの」
「そうだけどよ〜」
何もない通路をただひたすら歩くことに退屈していた河内。しばらく道なりに進んでいくと、先頭にいた三原が立ち止まる。急に立ち止まった三原に河内はどうしたのかと尋ねた。
「どした?」
「何かある。全員下がれ」
三原の命令で全員後ろに下がり、三原は目の前にある何かを懐中電灯で照らす。そこにあったのは看板と木製の扉だった。その看板にはただ一言「鬼ごっこ」とだけ書かれていた。
「鬼ごっこ?」
「なんで?」
鬼ごっこだけが書かれた単語に皆疑問符を浮かべるが、河内がある考察を出す。
「多分、逃げるヴィランを捕まえるための訓練みたいたもんだろ」
「なるほど〜!」
「それなら納得やね!」
皆、河内の考察に納得する中、三原は周囲に危険なものがないか確認した後、目の前の扉に手をかけた。ゆっくりと扉を開けた先には五体のホログラムが立っていた。おそらく、あれが今から追いかけるホログラムなのだろう。Fチームは部屋の中に入る。それなりに部屋が広く、鬼ごっこをするには充分な広さだった。すると突然、部屋の照明が付き、部屋全体が明るくなり、突然アナウンスが流れた。
『この5体のホログラムを捕まえることがゴールの条件。時間制限以内に捕まえるように』
アナウンスを聞いたFチームは簡単なルールを聞いて、すぐに体勢に入る。
「俺の言った通りだろ?やっぱりここにきて正解だったな」
「.....さっさと終わらせるぞ」
ニヤついた顔で話しかける河内に三原は無視をしながら武器を作り出す。
フォースマグナム
三原は自身の手のひらからS&W M29をデザインベースとし、FM0716と刻印されたマグナムを取り出す。
「銃を食らえクソ野郎ども」
その直後、鬼ごっこの合図が鳴り響き、ゲームスタートとなった瞬間、三原は瞬時にフォースマグナムを構え、引き金を引き、目の前にいた5体のホログラムを正確に頭を一撃で撃ち抜いてしまった。あまりの一瞬の出来事に、他のチーム仲間は唖然としてしまう。
「お前さぁ...」
「さっさと終わらせると言ったはずだ。そういう時はコレに限る」
「雰囲気ぶち壊しね」
河内と山吹は呆れながら三原を見るが、三原は気にすることなくフォースマグナムを腰にしまった。
「え?もう終わり?」
「一瞬すぎてわからなかった...」
せっかくやる気満々だった他のチーム仲間は肩透かしをくらい、何も言えなくなる。その後、ゴール条件を満たしたFチームは光に包まれた。
●●●
Gチームは病院の中を歩き回る。渡り廊下は薄暗く、物があちこちに散乱し、いかにも出そうな雰囲気を醸し出していた。Gチームは周囲を警戒しながら歩く。耳郎は澤田の手を握りながらゆっくりと歩き、周りを見ないように歩く。しばらく道なりに歩いていると、ふと、先頭を歩いていた明智が立ち止まる。
「ん?どうしたサブスティテュート?」
急に立ち止まった明智に上条はどうしたのかと聞くが、明智は黙ったまま何も答えず、ただじっと動かずにいるとふと、口を開いた。
幽玄な
廃墟に潜む
気配かな
それを聞いた瞬間、全員は周囲を警戒する。この近くに何かがいる。明智はそう言っているのだろう。その時、明智はまた口を開いた。
「走るぞ」
「え?」
直後、明智は走り出し、その後を追うように他の全員も走り出す。
「ちょっ!?なんでいきなり走るの!?」
「................」
「返事くらいしてよーー!!」
葉隠は明智になぜ走るのか質問をするが、明智は何も答えようとしない。その時、一番後ろにいた澤田が後ろから誰かが走る足音を聞き取り、後ろを振り返った。すぐそばにいた耳郎が後ろを振り向いた澤田の方を見る。
「どうかした?」
「後ろを見るな」
「え?」
後ろを見るな。そう言われたら後ろを振り向かない方がいいのだが、咄嗟に言われた耳郎は思わず後ろを振り向いてしまう。そしてその後ろにいた何かを見た耳郎は絶句した。全身が焼け爛れ、皮膚がズル向け筋繊維が丸見えになり、包帯を巻いているがボロボロでもはや包帯としての機能を成していない。血走った目は殺意しかなく、右手で振り回すナタは、錆びつき血で汚れきっていた。そして無茶苦茶な走りなのにも関わらず、あまりにも速かった。
「ギャーーーーーーーース!!!」
「ぎぃやぁああああああああああああああ!!!!」
耳郎はそのあまりに恐ろしい姿に叫び声をあげる。その声に驚いた前にいたチーム仲間も後ろを振り返り、後ろを走っていた化け物に叫び声を上げる。明智が言っていた気配とはこのホログラムのことだったのだろう。
「「「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」」」
「見るなと言っただろ...」
ホログラムから逃げ続けるGチームだったが、最後尾にいた耳郎が足がもつれてしまい、転んでしまう。すぐに気づいた澤田はすぐに耳郎を助けに行く。ホログラムは耳郎に向かってナタを振り下ろすがギリギリで耳郎を抱き寄せて地面を転ぶ。
「ギミーシェルター!」
上条は澤田を呼びかけ、抜け道を示す。澤田は瞬時に気付きその道を通るが逃がそうとしないホログラムがナタを澤田に向かって振り下ろした。
「ゲギャーーーー!」
澤田は振り下ろしてきたナタを左足で受け止め、壁にナタを逸らした。ナタが抜けなくなったホログラムの隙をついてチームの元に走るが、ホログラムは壁を壊してナタを引き抜き、勢いよくナタを床に振り下ろした。すると床にヒビが入り、どんどんと崩れていき、澤田と耳郎は深い穴の底に落ちていった。
「しまった!」
「耳郎ちゃん!」
「耳郎君!」
葉隠と飯田は手を伸ばすが、時すでに遅くまで認識出来ない程深い場所へと落ちていってしまった。
●●●
深い底に落ちた2人はなんとか澤田が冷静に個性を発動する。
リアライズサウンド
バフッ
澤田は地面に手を向ける。そして地面に着地した途端、地面から音が聞こえると同時にまるで地面がクッションのように澤田と耳郎の落下の衝撃を吸収した。なんとか助かった2人は、辺りを見渡す。周りは洞窟とも地下室とも取れない場所で薄暗く寒気もした。
「ごめん、ウチが躓いたから...」
「いや、俺のミスだ。気にするな」
耳郎はこうなってしまったことについて澤田に謝罪するが、逆に澤田が謝罪する。とにかくここから出ようということで、澤田は歩き出す。
「ちょっと。出口とかわかんの?」
「さあな。とりあえず進まなきゃだろ?」
「それはそうだけど...」
澤田と耳朗はどこに出口があるのかもわからないまま、歩き始める。その間、長い沈黙が続き、お互い何も言おうとしなかったがふと、耳朗が澤田にある名前を口にした。
「ずっと前から思ってだんだけどさ....」
「............」
「あんたもしかして、アッキー?」
耳朗が口にした名前を聞いた途端、澤田は立ち止まる。
「............」
「アッキーだよね。そうだろ?」
耳朗はもしかしてと思い、再度澤田に質問を投げかけるが、澤田は何も答えようとしない。
「悪いが、俺はお前の知ってる男じゃない。人違いだ」
澤田はシラをきるような態度をとるが、確信を持った耳朗は澤田の腕を掴む。
「待ってよアッキー!」
澤田はわざと睨みつけるように耳郎を見るが、耳朗は怯まない。
「ウチ、ずっとアッキーのこと覚えてた。一緒にビートルズとかレッドツェッペリンとか話してただろ?なんであの時、何も言わずに居なくなったの...?」
耳朗の視線に澤田はただ黙って耳朗を見る。そして澤田は二郎の方にゆっくりと振り向いた。
「俺は...」
その直後、耳朗の背後から何者かが迫ってきているに澤田は気づき、耳朗の前に立つ。
「.....走るぞ。響香」
「.......!アッキー....!?」
初めて名前を呼んでくれたことに喜ぶのも束の間、耳朗は澤田に腕を掴まれ、一緒に走り出した。後ろからは自分たちとは別の足跡が聞こえてくる。後ろを振り向くとあのホログラムが追いかけてきていた。
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーース!!!」
「こいつ...!一緒に落ちてきたの!?」
あのホログラムは床が崩れた時に一緒に落ちてきていたのだ。ホログラムは澤田と耳朗を追いかけ、二人は目の前の道を走り出す。その間、澤田は考えていた。ここからどうやって出るのか、初めての場所だったため、ルートなどはわからない。しかしその時、耳郎があることに気がついた。
「アッキー!あそこ!」
澤田は耳郎が指差す方向に目を向けると、少し狭いが通路があった。澤田と耳郎はその通路を目指し、ホログラムの攻撃がギリギリで当たりそうになった瞬間に、なんとか通路に入ることに成功する。ホログラムは必死にもがくがこの狭い通路を通るには体が大きすぎる。しばらくするとホログラムは諦めたのかどこかに行ってしまった。安堵した二人は一息つく。
「危なかった....」
「この先に道があるな...急ぐぞ」
「あ、ちょっと待ってよ!」
しばらく道なりに歩いていると一筋の光が見えた。2人はその光を目指して小走りに進むと、広い空間に出た。
「何ここ...?」
そこは何か実験施設のような場所だった。様々な機械や機材がホコリや泥に塗れて汚れきっている。もはや機能などしていないという様子だった。澤田と耳朗は辺りを見渡すと実験資料や写真のようなものがあった。
「おそらく、あの化け物が作られた研究所...。っていう設定の場所だろうな」
「なんでベタなホラー映画みたいな設定なんだよ...」
「出口を探そう。早くここから出ないと」
耳朗が呆れている中、澤田は出口になる手がかりを探した。耳朗も周囲を見渡し、イヤホンジャックを使いながら音で探る。しばらく探していると、耳朗は澤田にさっきの話の続きをする。
「ねぇ、アッキー...。さっきの続きなんだけどさ...。どうしてあの時、何も言わずにいなくなったの?」
その質問に、澤田の動きが止まる。一瞬の静寂の後、澤田は口を開いた。
「......俺はオルフェノクで、君は人間だ。俺と君は出会うべきじゃなかった...。あの出会いは間違いだったんだ...」
「でも...!ウチはまだあの時のこと...!」
「もう話は終わりだ。出口を探すのを手伝え」
「う、うん...」
話を遮られた耳朗は渋々出口探しを再開する。しばらく探していると、耳朗のイヤホンジャックから隙間風の音を拾う。耳朗はその音が聞こえる場所を瓦礫や機材などを退けながら探ると、壁に亀裂のようなものがあった。
「アッキーこれ見て!」
澤田は耳朗が見つけた亀裂を見て、このくらいの壁ならすぐに壊せると判断した澤田は少し後ろに下がる。
「後ろに下がれ」
耳朗は言われた通りに後ろに下がり、それを見た澤田は勢いをつけて壁に向かって蹴りを放った。すると壁は澤田の思った通りに簡単に崩れてしまい、その壁の向こうには上に向かう階段があった。
「もしかして出口!?」
「行くぞ」
澤田と耳朗は階段を登り、上へと向かう。
●●●
元の廃精神病院へと辿り着いた澤田と耳郎はここがどのあたりなのかを把握するために辺りを見渡すと、自分たちを呼ぶ声が聞こえてくる。
「耳郎ちゃーん!」
耳郎は聞き覚えのある声の方に振り向くとそこには葉隠たちがいた。澤田と耳郎は葉隠たちと合流し、安堵の声をもらす。
「よかった〜!二人とも無事で!」
「怪我はないか!?」
「うん。こっちは無事...っていうか、みんなは何でここに?」
耳朗はなぜ他のみんなと合流できたのかと疑問に思う。その疑問に対して上条が答えた。
「おそらくギミーシェルターとイヤホンジャックの二人が通った道がこのルートに繋がる近道のような場所だったのだろう。現に、もうすぐゴールだ」
上条が指をさす方向にはこの雰囲気に似つかわしくない煌びやかなデザインでゴールと書いた看板がデカデカとあった。
「また罠じゃないよね...」
「え?どういうこと?」
葉隠は少し警戒した様子でゴールを見る。その様子に疑問に思う耳朗に飯田が答えた。
「俺たちもいくつかゴールを見つけたのだが、どれもこれも全部偽物で...。かなり時間がかかってしまった。幸いあのホログラムに出くわしていないが...」
「そうだったんだ...」
耳朗はさっきの地下でほぼ一本道を進んでここまできたため、そういう罠には引っかかることもなかった。あの地下はいわゆる隠し通路的なものなのだろうと考えた。しかし、目の前にあるゴールが本物かどうかはまだ決まったわけではない。警戒している中、安心させるように上条が答えた。
「安心して欲しいのである。確かにこのステージにはゴールに見せかけた罠が山ほどあるが、このゴールは本物という証拠がある。あそこを見て欲しい。ゴールの看板の右下あたりに、ほら...」
上条が指を指す方向に皆が目を向けると、ゴール看板の右下に見えにくいが紐のようなものがぶら下がっていた。
「なんか紐があるね」
「あれは一体...」
「これが本物のゴールであると証明する証拠!これを引っ張れば...」
上条は看板の紐を引っ張ると突然看板が光り輝き、目の前に扉が現れた。
「おお!やっとゴールだ!」
「よかったぁ...!」
「よし!みんな行くぞ!」
チームは安堵して早速扉を開けてゴールしようとしたその時、後ろから何者かが走ってくる音が聞こえてきた。チーム全員は後ろを振り返るとあのホログラムがナタを振り回しながら襲いかかってきていた。
「ギャーーーーーーーース!!!!」
「まだ来んのかよ...!」
「しつこいな...」
チームは急いでゴールしようとしたが、ホログラムの走る速さが尋常ではなく、すぐに追いつかれてしまいそうになる。そこで明智が前に出て食い止めようとするが、先に澤田が前に出てきた。
「もう、俺たちの前に現れるな」
そう言うと澤田はホログラムに向かって走り出すと飛び上がって後ろ回し蹴りを放った。
ソニックブーム!!
その直後、ものすごい轟音と衝撃が響き渡り、ホログラムを遠くへと吹き飛ばしていった。あまりの衝撃に周りは唖然とする中、明智は刀を鞘に納め、上条は扉を開けた。
「さて、ゴールと行きましょうである」
●●●
全てのチームがゴールできた時、その場所はまるで東京ドームほどの広さがあるフィールドがあった。遠くには大きな的があり、真ん中にはバスケットボールサイズの赤いボールが空中に浮いていた。そして目の前には別のチームが並んでおり、恐らく対戦相手となるチームであろう。その直後、アナウンスが流れる。その声は戸田の声だった。
『皆、ゴールできたようだな。小言を言いたいところだが、時間の無駄だ。ルールはスタート前に説明した通りだ。そしてこれがお前たちの対戦トーナメント表だ」
すると空中にホログラムのモニターが照射され、対戦トーナメント表が映し出される。
AvsE
BvsG
CvsF
D
全員自分達が対戦するチームを見て、意気込む。
『このまま勝ち抜きトーナメントをする。勝ったものが次の対戦相手と戦うというルールだ。これ以上長話をするつもりはない。以上....。では、準備はいいな?』
誰も何も言わなかったが、全員の顔が準備万端の表情をしている。その様子見て戸田は叫んだ。
『始め!』