進化する人々   作:奥歯

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幼馴染み

今からちょうど10年前。耳郎がまだ幼かった頃、親に連れられて近くの楽器店に訪れていた時だった。親の影響で音楽が好きになり始めていた耳郎はギターやドラム。The ByrdsやStealers WheelなどのCDなどに目を輝かせていた。まだ若く音楽に対する知識もそれほどなかった耳郎には全てが真新しく見えていた。そんな時、耳郎が店内を彷徨いているとよそ見をしていたせいでぶつかってしまう。

 

「あ、ごめん」

 

耳郎が視線をぶつかった方に向けるとそこにはThe Rolling StonesのTongue and lips logo帽子を被り、首にヘッドフォンをかけ、妙に冷たい目つきをした耳郎と同い年ぐらいの少年がいた。これが耳郎と澤田の最初の出会いだった。澤田は何も言わずに黙ってただ目の前のギターを見つめていた。耳郎も澤田が見つめる視線に合わせる。目の前にあるギターはビグスビー付きのレスポール・スタンダード。耳郎にはまだThe Rolling StonesのKeith Richardsが初期の頃に使用していたギターであることは知識としてなかった。

 

「このギター好きなの?」

 

「...........」

 

「なんか言えよ...」

 

無視する澤田に耳郎は少々ムカっとするが、突然澤田が口を開いた。

 

「キースリチャーズ」

 

「え?」

 

「キースリチャーズだ。ローリングストーンズのギタリスト。このギターはキースリチャーズが初期の頃に使っていたギターと同じものだ」

 

「そう....なんだ...」

 

急に喋り出す澤田に戸惑う耳郎。対する澤田はただじっとギターの方を見ていた。その姿に不思議な雰囲気を纏った澤田に、耳郎は目が離せなかった。

 

「響香!そろそろ帰るぞ!」

 

「あ、うん!」

 

父親の響徳に呼ばれた耳郎は澤田の方をチラッと見ながら店を後にした。

 

○○○

 

数日後、近くの公園まで遊びに来た耳郎はCulture ClubのKarma Chameleon(カーマは気まぐれ)の鼻歌を歌いながら走り回っていた。当時の耳郎は、それなりに友達はいたのだが、近くにいたから誘われる程度の距離感だった。今日も友達と鬼ごっこなどで遊んでいると、ベンチに座っている少年を見つけた。先日楽器店にいた澤田だった。耳郎は澤田を見てあの時のことを思い出し、遊んでいることも忘れてその場で立ち止まってしまう。澤田は一人ベンチで手に何かを持っていた。よく目を凝らして見ると手に持っていたのは折り紙だった。澤田は器用に折り紙を折っていき、綺麗な形の猫を作った。いつの間にか澤田に近づいていた耳郎はその猫の折り紙をじっと見つめる。

 

「前に会ったな」

 

「え、あ...うん」

 

「何か用?」

 

「う、ううん。なんでもない...」

 

用はなかった。ただ気になっただけ。しかし耳郎はここから離れることはしなかった。

 

「用がないならあっち行けよ」

 

冷たく突き放す澤田に耳郎は口を開いた。

 

「あのさ!.....えっと....この前言ってたローリング...ストーンズなんだけど...!」

 

「なに?」

 

「えっと...なんの曲が好きなんだ?」

 

「.......シーズ・ア・レインボー」

 

澤田は少し間をおいて答える。しかし、当時の耳郎はまだThe Rolling Stonesのメジャーな曲しか知らなかったため、聞いたことがない曲の解答に戸惑った。

 

「シ、シーズ...?」

 

She's a Rainbowを知らなかった耳郎にため息をつく澤田は、呆れた目で耳郎を見つめる。

 

「はぁ...。ローリングストーンズの話しておいてシーズ・ア・レインボーを知らないのか...?にわかかよ...」

 

にわかという言葉にムッとした耳郎は澤田を睨みつけ、声を張り上げる。

 

「知識が多い方が偉いのかよ!!」

 

睨みつける耳郎に澤田は特に気にすることもなく、黙々と折り紙を折り続ける。ムキになった耳郎は澤田が折っていた猫の折り紙を取り上げる。

 

「無視すんな!」

 

折り紙を取り上げられた澤田は首にかけていたヘッドフォンを取り、耳朗に手渡した。

 

「.....なんだよ」

 

「聴け」

 

耳朗は恐る恐るヘッドフォンを受け取り耳に当てる。そこから流れてくるのは聞いたこともない曲。しかし声ですぐにThe Rolling StonesのMick Jaggerなのがわかった。

 

「この曲は...?」

 

「シーズ・ア・レインボー」

 

「これが?」

 

耳朗が今まで聴いてきたThe Rolling Stonesと雰囲気がまるで違う曲に聴き入ってしまう。曲を最後まで聴き終えると耳朗は澤田に期待の眼差しを向けた。

 

「もっと他の曲も教えて!」

 

「.............いいけど」

 

その日から耳朗は澤田から様々な曲を聴かせてもらった。そして同時にその日から耳朗と澤田はこの公園でよく会うようになった。耳朗が澤田から色々な曲を聞かせてもらい、そのロックバンドの歴史なども教えてもらった。Frank ZappaやPrinceのようなアーティスト。Gogol BordelloやFoxy Shazamなどのインディーズバンドなど、耳朗は初めてできた好きな音楽を話し合える友達ができたことが嬉しかった。

 

「ねぇ、アッキーって呼んでもいい?」

 

「は?なんで」

 

「いいじゃん。もう友達なんだし」

 

「........勝手にしろ」

 

「じゃあ決まり!」

 

満更でもなさそうな澤田に耳朗は笑顔で返した。

 

○○○

 

別の日、今日は音楽の話ではなく、ヒーローについての話をしていた。耳朗はこんなヒーローが好きだとかこのヒーローのここがかっこいいなどと色々話していたが、話を聞いてきた澤田はつまらなさそうな顔をしていた。

 

「アッキーは好きなヒーローとかいるの?」

 

「いない」

 

「え、いないの?なんで?」

 

「興味ない」

 

「...へぇ、珍しい」

 

この年代で、ヒーローに興味がない子供など、少なくとも耳朗の周りには誰一人としていなかった。続いて耳朗は個性について話す。

 

「アッキーの個性ってどんなの?」

 

澤田は口で教えるより見せた方が早いと考え、手をかざす。

 

ビュウウウ

 

すると澤田の手から風が吹く音がしたと思うと直後にどこからともなく風が吹き目の前の枯葉や砂埃が吹き飛んでいった。

 

「すごい!今の何!?」

 

「音を実体化させるのが俺の個性だ」

 

「めっちゃヒーロー向きじゃん!それじゃあ爆発とか雷とかもできるってこと!?」

 

「ああ」

 

「いいなぁ。ウチもそんな個性だったらなぁ」

 

耳朗は澤田の個性を羨ましがる。澤田の個性はまさにヒーロー向きだった。きっと誰が見ても羨む個性だろうと耳朗は思った。

 

「響香のはどんな個性なんだ?」

 

「ウチのは全然大したことない。この長い耳たぶにプラグがあるんだけど、そこから音を大きくすることができるんだ。イヤホンジャックって言うんだけどさ、周りには気持ち悪いって言われるから、嫌なんだよね。これ...」

 

耳朗は自分の個性のことがあまり好きじゃなかった。長い耳たぶのせいで揶揄われることも少なくなく、こんな姿で産んでくれた親に対する恨みは一切なかったが、それでも辛くない訳ではなかった。

 

「俺はいいと思う」

 

「え...?」

 

「俺はかっこいいと思う。俺はそう思ってる」

 

「何だよ.....急に....」

 

まっすぐと見つめる澤田に耳朗の顔は少し赤くなっていた。

 

○○○

 

そこから二人は5年ほどの長い付き合いが続いた。その辺りから耳朗と澤田はギターを手にするようになった。最初のころはまだ辿々しかった二人のギター演奏はメキメキと上達していった。特に澤田の上達具合は凄まじかった。難しいギター捌きも軽々と弾き、さらに自分なりのアレンジもアドリブで入れられるようにもなっていた。

 

「.....また上手くなってる」

 

「まだまだだ」

 

「そう....」

 

耳朗はジッと澤田のギター演奏を見ていた。耳朗もかなりギターは上手い。しかし、澤田ほどのギター捌きは別格だった。そして耳朗の心の奥底にほんの少しの劣等感が芽生えていた。ギターのセッション中でも、耳朗がミスをしても澤田がしっかりカバーしてくれた。その度に耳朗は心のどこかに小さな傷ができた。

 

○○○

 

ある日、耳朗は澤田を見返そうと難しいギター演奏に挑戦した。何週間も徹夜し、手にマメができて、そこから血が滲んでも、両親たちから心配されても耳朗は澤田を見返す一心で必死に練習した。そして、やっと完璧に弾けるようになった日、耳朗は澤田を呼んだ。

 

「ウチめっちゃ練習したんだ!聴いたら絶対ビックリするから!」

 

「じゃあ、聴かせてくれ」

 

耳朗は自信満々にギターを演奏した。一度のミスもなく、音程も外れることなく完璧に弾いてみせた。耳朗本人も満足できる出来だった。澤田も黙って耳朗の演奏に耳を傾けていた。演奏を終えて、耳朗は息を切らしながら、澤田をまっすぐと見る。対する澤田は一言だけ呟いた。

 

「すげぇな。響香」

 

「.............!」

 

澤田は笑っていた。いつも無表情だった澤田が初めて見せた表情だった。澤田は拍手をし、耳朗はお辞儀をする。耳朗は誇らしさで胸がいっぱいだった。頑張った甲斐があった。心の底からそう思えた。

 

「俺にも、その演奏教えてくれないか?」

 

「うん!」

 

耳朗は嬉しそうに頷いた。しかしそれが、二人の仲を引き裂くこととなった。耳朗は澤田に弾き方を教えた。最初は楽しかった。今まで感じていた劣等感も忘れるほどに、しかしそれも長くは続かなかった。ある程度弾き方を教えてもらった澤田はいとも簡単に弾いてしまった。その時、耳朗の心に大きな亀裂が走る。あんなに頑張ったのに、何日も徹夜して手に血が滲みながらも諦めずに練習したのに、澤田はほんの数時間で完璧に弾いてしまったのだ。

 

「結構難しいな響香.....。どうした?」

 

「何でだよ.....。何でそんな簡単に弾くんだよ.....!」

 

「響香...?」

 

「ウチとあんたでなにが違うっていうんだよ!!」

 

耳朗は今まで溜まっていた劣等感と不満が爆発した。もう止まらなかった。止められなかった。

 

「何週間も徹夜して頑張ったのに!手にマメができて、血が出るほど頑張ったのに!!手が痺れてものが持てなくなるほど頑張ったのに!!何であんたはそんな簡単に弾くんだよ!!!」

 

耳朗はいつの間にか泣いていた。涙が止まらなかった。悔しくて悔しくてたまらなかった。澤田の才能が羨ましかった。認めたくなかった。しかし、認めざるを得なかった。耳朗はその場で泣き崩れ、俯く。澤田は耳朗に近づき、手を差し伸べる。しかし耳朗はその手を払い退けた。

 

「触るな!!もう二度と顔を見たくない!!ここから出ていって!!出てけよ!!」

 

「........わかった」

 

澤田はただ一言そう呟いて部屋から出ていった。耳朗はその場で俯いたまま嗚咽し、静かに涙を落とした。

 

○○○

 

あの日以降、澤田は耳朗の前に顔を見せなくなった。耳朗はあの時のことを謝りたく、何とか澤田に連絡を取ろうとしたが、澤田から何も返ってこなかった。今までの関係が自分の小さなプライドのせいで壊れてしまったという事実が、耳朗の心を締め付けた。耳朗は徐にポケットから何かを取り出した。それは澤田と初めて出会った時に怒って取り上げた猫の折り紙だった。折り紙を見つめる耳朗はまた静かに涙を流す。

 

「ごめん....。アッキー....」

 

●●●

 

全て話し終えた耳朗は取り出したボロボロになった折り紙を見つめながら巧に話す。

 

「今でもずっとこれを持ってんだ。ウチのお守り」

 

耳朗はその折り紙を大事そうに手に持っていた。

 

「大事なんだな。それ」

 

「うん。もう会えないと思ってた。けど、こんなところでまた会えるなんて...。これでアッキーにしっかりあの時のことを謝りたいんだ...!」

 

「.......」

 

乾は耳朗の話を聞いて、澤田に対する怒りが少しなくなっていた。耳朗と澤田の二人は乾にはわからない特別な関係があるのだろうと感じ取れた。しかしながら、結局なぜ澤田は乾に攻撃をしたのか全くわからなかった。耳朗自身にも心当たりはなかった。その時、保健室の扉が開く音がし、乾と耳朗は同時に扉の方を見る。そこにいたのは澤田と戸田の二人だった。

 

「乾くん。少しいいかな?」

 

「....ああ」

 

乾から許可を得た戸田は隣にいた澤田を前にだす。澤田は乾の目の前に立つとゆっくりと頭を下げた。

 

「俺が悪かった...。謝る...」

 

「私の生徒が君に対して無礼なる行為を行ったことを私からも謝罪する。申し訳ない」

 

それは澤田と戸田の謝罪だった。乾と耳朗は少し呆気に取られるが、すぐに気を取り直した。

 

「...まぁ、色々腑に落ちないところがあるが...。今はなんかどうでもよくなったわ...」

 

乾はなぜ澤田が自分を攻撃してきたのか、あの殺意のこもった目は一体何なのかなど、色々と聞きたいことが山ほどあったが、この状況でそんなことを聞くのは険悪な雰囲気になりかねない上に、耳朗と澤田との関係について聞いた直後だったせいで、澤田のことをあまり恨めしく思うことができなかった。澤田は黙って頭を上げ、すぐに後ろを振り向き、保健室から出ていった。戸田も頭を上げると乾の両腕のギプスを見ながら口を開いた。

 

「腕の負傷の具合は?」

 

「もうほとんど痛みはない。流石はスマートブレインってところだな」

 

「それは何よりだ。先ほど澤田は自分のチームと雄英に謝罪をしたところでね。君が最後ということだ。なぜ澤田があんなことをしたのかは私は深く詮索する気はない。しかしそれ相応の謹慎処分を受けてもらうつもりだ。腕が完治しても、念のためにしばらく休んでおくといい。時間になればまた呼びに来る。今日は本当にすまなかった。では失礼する」

 

戸田はそれだけを言い残し、保健室を後にした。しばらく沈黙が続いたところで耳朗は立ち上がった。

 

「...ウチ。そろそろ戻る」

 

「わかった。じゃあ後でな...。まぁ、頑張れよ」

 

「うん。ありがとう」

 

耳朗は保健室から出て行き、それを見送った後、乾はベッドの上に寝転び、小さくため息をついた。色々なことがあったが、今は考えることはやめて眠ることにした。

 

●●●

 

ラウンジに戻ってきた。耳朗は辺りを見渡すと皆モニターで他チームの対戦を観戦する中で部屋の隅っこにポツンと座っている澤田の姿を見つけた。耳朗は澤田に近づき、少し緊張しながらも話しかける。

 

「アッキー...。どうしても話したいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「...............」

 

無言のまま見つめる澤田。対する耳朗はジッと澤田を見つめる。今度は逃がさない。そういう目をしていた。しばらく見つめ合った後、澤田は立ち上がりラウンジの外に歩き出した。そして耳朗の方に視線を向ける。「着いてこい」という意味だと理解した耳朗は澤田の後をついていき、ラウンジから出て行った。

 

●●●

 

一方、他チームの対戦を見ていた見ていた緑谷たちは驚愕し、モニターから目が離せなかった。

 

「何だあの個性は...!?」

 

「轟くんが押されてる...!?」

 

「チッ....!」

 

モニター越しに見えるのはCチームvsFチーム。Fチームの一人、轟焦凍が苦戦を強いられていた。対する相手はCチームの一人、犬飼彰司。犬飼は手をかざすと轟の氷をバターのように切り裂き、迫り来る炎を突風で吹き飛ばした。

 

●●●

 

Cteam vs Fteam

 

現在点数。

 

Cteam2 Fteam2

 

このステージには密閉空間だというのに強い風が吹き荒れていた。この風の正体は犬飼の個性によるものだった。

 

エレメントウェントゥス

 

犬飼はさらなる姿に変化していた。髪と右目が緑色に変化し、犬飼の周囲に風が吹いていた。

 

「クソッ...!(こいつの個性!俺と同じタイプか!!)」

 

「現在の風速....!!えーっと、あのほら....。とにかくお出かけする時は気をつけて下さーーい!!」

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