【完結】14時17分、東京行き ~喫茶リコリコがハイジャックに巻き込まれる話   作:フェデラルジオグラフィック

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10/12 誤字訂正 感謝


Squawk 7500

 

Sept. 11th 15:30 SST*1(Sept. 12th 02:30 UTC)

ANK 185便 エコノミークラス(太平洋上)

 

 飛行機が離陸して二時間あまり、機内食を食べ終わった機内では各々が思い思いの時間を過ごしている。たきなはハワイで過ごした日々を反芻しつつ、現在の飛行機の状態を示す液晶モニタを眺めている。高度は35000フィート、順調にいけば東京に17:00過ぎに着く予定。東京の予想天気は曇り、予想気温は28℃である。窓側に座る千束は客室乗務員からイヤホンを受け取り、適当な機内映画を見繕って観ていたが、すでに舟を漕いでいた。いつも通りの千束に少しばかりたきなは安心する。

 

 ところがその「いつも通り」も一瞬で吹き飛ぶことになる。

 

「…!」

「…んぁ?」

 

 リコリスとしての経験が剝き出しの殺気を感じ取り、二人は同時にスイッチを入れる。千束がイヤホンを外して片付ける横で真後ろに座る三人を確認するためたきなが振り返ると、通路側のミカはもちろんクルミも何かを感じ取ったようで、間に座るミズキを小突いて起こしている。ミカに視線を向けるとミカはたきなにわかる程度に首を横に振った。まだ待て、という意味だと解釈したたきなは座った状態からわかる範囲を観察する。たきなが立たないことから察した千束も同じように座ったままあたりをうかがう。

 

「左側四列前、男性」

 

「その男に話しかけているスーツの男」

 

 隠されていない殺気の出所は容易に見当がついた。少し前に座る男性だ。通路に立って話している男のジャケットをよく見ると、そこそこ良いガタイなのにスーツの内側にガーターベルトのようなものを付けている。スカイマーシャルだろうか?と思って様子を見ていると、スーツの男がジャケットの裏に手を入れた。その瞬間、

 

パァン!!

 

銃声が鳴り響きスーツの男性の頸部から血が噴き出す。一瞬の静寂。その直後に悲鳴が機内を震わせる。銃声を響かせた張本人がスーツの男を払いのけながら立ち上がる。手に持つワルサーPPKから硝煙が上がっている。それと呼応して別のところからも男がまっすぐと立ち上がる。その手にはUZI短機関銃が握られている。

 

「動くな!」

 

そこここから合わせて5名の男が立ち上がり、3名が機体の前方へと向かっていく。前方からも悲鳴と怒鳴り声が立て続けに聞こえてくる。

 

ハイジャックだ。よりにもよってこの飛行機の中で。

 

 

 

 

Sept. 12th 11:55 JST(Sept. 12th 02:55 UTC)

Direct Attack 東京支部 第一小会議室

 

 運ばれてきた食事を済ませ、空の食器と入れ替わりに出されたペットボトルのお茶を飲みながら作戦会議が進む。ただしその顔色はあまり思わしくない。

 

「…フキさん、千束さんを素手で無理やり取り押さえるのは四人がかりでも無理だと思います。それに何より騒ぎになります」

 

「じゃあエリカ、何かいい方法はあるのか?」

 

「それは…」

 

「はいはーい!ありますよ、先輩!」

 

「却下だ」

 

「まだ何も言ってないじゃないすか!ひどーい!」

 

「よし、それほどまでに自信があるなら聞いてやる」

 

「そう言って殴る準備を整えるの止めていただけません?」

 

「さっさと言え」

 

「簡単ですよ、真正面から堂々と歓迎しましょう」

 

「よしまずは一発だ、真正面から挑んでどうにかなる相手じゃねえだろ!」

 

 言うや否やフキは椅子から立ってサクラに向かう。サクラも構えていたので組み合いになるが、サクラのほうが体格がいいので辛うじてフキの射程から逃れている。しかしフキのほうが力があるのでじりじりとその距離を詰めてくる。

 

「ちょっと待つっす!()()()()()歓迎するんですよ!『喫茶リコリコ 御一行様』って看板でも持って!」

 

「…え?」

 

 気の抜けた声と共にサクラにかかる力も抜ける。

 

「はぁ…はぁ…いいですか?相手は歴代最強とはいえ立場的にはただ日本に戻ってきただけの観光客すよ。テロを目的とした犯罪者じゃないんです。ワザワザ手荒な手段を取らなくても、二人を騙してDAの車に連れ込んで、一旦走り出せば後の祭りっす!」

 

あ、という顔をする三人。サクラは続ける。

 

「だから到着ロビーで正面から出迎えて、『私たちが目的地までご案内します』という体裁で車まで案内する。しばらくは墨田区へ向かって車を走らせ、油断した頃合いを見てDAに進路を向ければ…」

 

「帰国したばかりで武器が無いから、間仕切りのある車なら万一気づかれて暴れてられも運転席を確保できないし、窓を割られることもない…フキさん、これならなんとかできるかもしれません」

 

「羽田出発後は威嚇のために車列を組まなければなりませんから、サードを4人と追加の車が2台追加で必要ですね」

 

サクラの提案にエリカとヒバナが意見を足す。フキもそれを聞いて拳に込めた力を緩め、扉へ向かう。

 

「司令にサードと車を手配できないか交渉してくる」

 

そう言ってフキが扉を開けると、目の前に立っていたのはその交渉相手であった。

 

「あ、司令」

 

「状況が変わった。極秘任務は中止、ブリーフィングルームに集合しろ」

 

 

 

 

Sept. 12th 12:10 JST(Sept. 12th 03:10 UTC)

Direct Attack 東京支部 ブリーフィングルーム

 

 フキたちが最後にブリーフィングルームに入った時、部屋の座席は半分ほど埋められていた。フキたちが座ったのを確認すると楠木は話を切り出す。

 

「全員がそろったので状況を説明する。40分前、ホノルル発羽田行のエアーニッポン185便がハイジャックされた。機種はボーイング747-8、乗客乗員327名を乗せたジャンボジェットだ。太平洋上で正確な位置は不明だが、おそらく日本へ向かっているものと思われる。日本到着は17:00頃だ」

 

「…ん?」

 

 フキの頭に何かが引っ掛かった。17:00着のハワイ発東京行き、そして自分達が呼ばれたこと。

 

「日本に着陸した場合、警視庁または千葉県警*2のSATが犯人と交渉または強行突入を行うことが決定された。今回の我々の任務は、この事件に呼応してハイジャック犯の協力者が攪乱を目的としたテロを実施することを阻止することだ」

 

そう言うと羽田空港周辺の地図を出し、地図に円を描いて東京都大田区と川崎市の臨海部の各所に赤い点を打っていく。

 

「羽田を中心に8km圏内にチームに分かれて展開し、こちらの指示に従って行動しろ。何か質問は?」

 

その言葉に対してとあるセカンドが手をあげる。

 

「ハイジャックされた機体への対処は全て警察が対応する、という認識でいいですか?」

 

「その通りだ。まあ、警察すらいらないかもしれないがな。…そういえば言い忘れていたことがある。185便の搭乗者リストに()()()()が載っていた」

 

そう言うと楠木はまた端末を操作し搭乗者リストの一部を拡大する。そこに書かれた名前を一目見てブリーフィングルームは笑いに包まれた。一人のファーストリコリスが頭を抱えていたことを除いて。

 

「出発は13:00だ。各員それまでに準備を整えるように。では解散」

 

 

 

 

Sept. 11th 16:45 SST(Sept. 12th 03:45 UTC)

ANK 185便 エコノミークラス(太平洋上)

 

 ハイジャックが始まってから一時間あまり、機内にはエンジン音を除けばハイジャック犯が立てる足音と銃の金属音だけが響く。たきなは歩いて見回る犯人の視界を伺いつつ座席の隙間から後ろにいる三人の様子を見る。ミカは「まだ待て」という表情をしている。クルミは窓側で背を丸めて震えておりミズキは()()()()()()()()()()()()()()()上着を被せている。

 

 しばらくして千束と機体の外壁の間に一枚の紙片が押し出されてきた。千束が気づいて素早くひったくってたきなと一緒に見る。機内食についてきた紙ナプキンにクルミの字が書かれている。

 

・ハイジャック犯は五名

・武装は最低でも拳銃一丁とUZI短機関銃が一丁

 最初に射殺された人間がスカイマーシャルならば銃は三丁

・二名はナイフを持ち、うち一名はもう一方の手にスマホを大事そうに握っている

 おそらく機内のどこかに遠隔操作式の爆弾を隠している

・カメラ映像からパイロットは二人とも負傷している可能性大

 

 流石はウォールナット、この短時間で機体をハッキングして情報を集めるとは。とたきなは感心する。と同時にジャケットに隠れて操作しているゴーグルの熱は大丈夫なのかと少し心配になる。差し出されてきたナプキンにたきなは自分のペンで追記し、千束が内容を確認してから後ろへ回す。30分ほど経ってからまたナプキンが差し出されてくる。

 

>犯人の位置とそれぞれの武装は分かるか

・監視カメラで見る限り、一階前方に一名、一階後方に二名、

 二階席に一名、一名は見えないが二階席の様子から考えておそらくコクピット

 短機関銃と拳銃は一階後方、スマートフォンは二階席、追加の銃の場所は不明

 

>犯人のリーダーの見当はつくか

・おそらく二階席のスマートフォンを持った奴、確証無し

 

>爆弾と思しきものはわかるか

・わからない、死角が多すぎる

 

>乗客は状況は分かるか

・一階前方と二階席の乗客は後方に移された

 二階席にはパイロット二名と手当をしている客室乗務員一名

 

>外部と連絡は取れるか

・無理。この端末では衛星回線まで入れない、機内と客のスマホが精いっぱい

 

千束がたきなのペンを使って二文だけ書き、たきなに確認もせず後ろへ回す。返事はすぐに帰ってきた。千束はそれをたきなに見せる。

 

>コクピットの扉は開いている?

・開けっ放し

 

>犯人のスマホをハッキングできる?

・余裕

 

 千束が小さくうなずく。たきなもそれに応じてうなずく。二人で座席の隙間から後ろを見る。ミカがうなずき、ミズキがうなずく。方針は決まった。あとはタイミングを待つだけ。

 

*1
サモア標準時

*2
成田空港




Squawk 7500:ハイジャック発生
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