【完結】14時17分、東京行き ~喫茶リコリコがハイジャックに巻き込まれる話 作:フェデラルジオグラフィック
お好きな戦闘用BGMまたは処刑用BGMをご用意ください。
Sept. 12th 14:00 JST(Sept. 12th 05:00 UTC)
DA人員輸送車内(中央自動車道 小仏トンネル付近)
配置先ごとに別々の車に乗って羽田空港へ向かうリコリス達。ラジアータの支援で高速道路は空けられているので、移動は快適である。
「しかしハイジャッカー共も災難っすね~。よりにもよってあの二人が乗り合わせているとは。今頃叩きのめされてアメリカに引き返してるんじゃないすか?」
「そうなっていればこっちも引き返すだけだ」
サクラの軽口にフキがそっけなく返すと、車内のモニタが起動し、DAのロゴマークが表示される。
『各員、状況を更新する。アメリカ空軍のC-130輸送機が太平洋上にて185便を捕捉した。現在185便は輸送機からの呼びかけに応答せず、引き続き日本への針路を維持している。リコリス隊は引き続き羽田空港への移動を継続せよ。以上だ』
「…どうやらお前の予想は外れたようだな」
「そうみたいっすねぇ」
くだらない話に花を咲かせている間も、DAの車列は東京へ向けて東進する。
Sept. 12th 15:15 ChST*1(Sept. 12th 05:15 UTC)
ANK 185便 エコノミークラス(太平洋上)
気配を殺してひたすら待つ。銃を持った見張り二人は機内の左右の通路を行ったり来たりして乗客乗員を威圧している。不定期に場所を入れ替えているので短機関銃を持った見張りが右側通路を歩く場合と左側通路を歩く場合がある。仕掛けるタイミングは拳銃を持った一人が仕切りのカーテンの向こう側にいて、一番厄介な短機関銃を持った一人が自分達の座る席の近くに来た時。待つこと一時間半、ついにその時が訪れる。
「はあ。なんでまた面倒ごとに巻き込まれるのかねえ…」
千束は分かりやすくため息をついてそれなりの声で愚痴を言う。周囲の乗客が驚きの目で千束を見る。見張りはそれを聞きつけて千束とたきなの列の通路に立つ。
「おい!静かにしろ!お前自分の立場分かってんのか!?」
予想外だったのか見張りの口調はやや上擦っている。千束は表情を変えずに頬杖をついて言葉を続ける。
「航空会社の都合に振り回された挙句手配された機体がハイジャックに遭った運の悪い小娘ですよ~」
「このガキ…コイツで頭吹っ飛ばされたいのか!」
そう言うと見張りは胸元に両手で抱えていたUZIから
「やっちゃったねぇ、おばかさん」
「な―――」
千束の安い挑発に見張りは射撃で応えることができなかった。その時にはたきなが左手でUZIのグリップを掴みセレクターをセイフティにかけてしまったからである。見張りが目の前の少女二人の異常さに感づいたときには時すでに遅し。たきなは立ち上がり様に右の拳を見張りの顔へ繰り出す。元の姿勢の都合から全く力の入らないパンチだが問題ない。一瞬だけ相手の動きを止めるだけで十分。その一瞬の間にUZIを抑える自らの左手を千束の両手にチェンジ。本命の左ストレートをUZIを千束に取り上げられて困惑する見張りの顔面に打ちこむ。
「がっ…」
その一撃で見張りは前後不覚になるが、辛うじて踏みとどまる。しかしたきなの頂肘を鳩尾に打ちこまれ、意識を手放しその場に沈む。あっけない、とたきなが思い見張りの様子を見るためたきなが通路にかがむと千束が声をかけてくる。
「ナイス、たきな」
「千束こそ役者ですね」
振り返って見上げると奪ったUZIを掲げながらたきなに笑顔を向けている。その時、どうした!という声と共に左側通路の仕切りカーテンが開かれた。見張りをしていた別の犯人が物音を聞きつけてやってきたのだ。手元にはワルサーPPK。運悪く見張りが二人とも左側通路にいるタイミングで仕掛けてしまったことに気付いた時には犯人は右腕で銃をこちらに向けてくる。狙いは今しがた奪ったUZIを持っている千束。
「やば!」
ワルサーから一発。千束は相手の射線を見切りとっさに上半身を反らせ、同時にUZIを手放してたきなに投げる。しゃがんだ状態で受け取ったたきなは即座にセレクターをセミオートに切り替える。姿勢を変えずに犯人の肩に狙いをつけて二発。両肩を砕かれた犯人は銃を落としてそのまま後ろへ倒れる。さらなる銃声に悲鳴がそこここで上がる。肩を打たれた犯人は倒れたところを別の男性乗客に取り押さえてられいた。
「射撃の腕はなまっちゃいないねぇ」
「当然です」
「うぅ…つぅ…」
千束がたきなの射撃をほめたその時、隣の列から聞きなれた声色のうめきが聞こえた。嫌な予感がして見てみると、ミズキが右肩を抑えて苦しみ、クルミが抑えている手にハンカチを渡そうとしている。
「おい、ミズキ、しっかりしろ!千束、これ以上避けるな、いや撃たせるな!乗客に当たる!」
「えぇ!?」
クルミの声で千束とたきなは状況を理解する。先の射撃を千束が避けたとき流れ弾がミズキの右肩に当たったのだ。座席のモケットを貫通したときに多少威力が落ちていたとはいえ、9mm弾の銃創はそれなりのダメージを与える。リコリスである二人は訓練を受けているので多少の痛みに耐えられるが、情報部出身のミズキはそうではない。
「急げ!先の銃声でほかのハイジャック犯にも気づかれたはずだ!こっちはこっちで何とかする!」
ミカの指示で千束とたきなは銃を取って前方へ向けて走り出す。救急箱はどこだ、とミカが叫ぶ声を背負いながら。
他の乗客があっけにとられる中、ワルサーを持った千束を前衛にUZIを抱えたたきなは機内を前へ前へと駆ける。目標は二階のコクピット。機体の半分まで走り切りエコノミークラスの最後の仕切りカーテンを開けたところで犯人の一人とエンカウント。相手が驚いている様が後ろに立つたきなからもよく見える。千束にとっては腕を伸ばせば届く距離。
「よっ」
相手が慌てて千束の左肩へ突き出したナイフを上半身を右へ捻らせて回避。そのまま右の腰へ向けて袈裟切りにしようとするのを半歩下がって躱す。相手が一歩前に出ながら首を狙って右から左へ真一文字に振りぬくのをその場で腰を下げてやり過ごしながら前へ潜り込む。犯人の顔がたきなからはっきり見える。この状況でUZIで片をつけることもできるが何もしない。直後に千束が掌底を恐怖に顔が歪む犯人の顎に打ちあげる。ぶふぅ、という牛のようなうめき声と共に犯人の体全体が宙に浮かび、そのまま大きな音を立てて倒れる。
「その身のこなしも健在ですね」
「トーゼンです!」
倒れた男を見てみると完全に白目をむいている。ただこの期に及んでもナイフを手放していないあたりたいした根性である。そのナイフを取り上げるべく千束が腰を下げたとき…
「あとは任せてくれ」
後ろから声をかけられたきなはとっさにUZIをそちらに向ける。
「待て待て!味方だ!」
見ると何人かのガタイのいい乗客が並んでいる。戦う千束とたきなの姿を見て立ち上がったのだろう。
「では任せます。千束、私達は二階へ」
「待ってくれ、俺たちも戦う!」
「申し出はありがたいですが銃は私たちの分しかありません。負傷者と犯人への対応をお願いします」
それだけ言ってたきなは千束と共に階段を駆け上がる。
Sept. 12th 15:30 ChST(Sept. 12th 05:30 UTC)
ANK 185便 二階席(太平洋上)
二階へ上がると客室乗務員がパイロット二名を手当てしている。パイロットの顔色は明らかに悪い。そしてその傍らにいる左手にスマートフォン、右手にグロックを持ったハイジャック犯。。おそらくスカイマーシャルから奪った拳銃だろう。階下の音に気付いておらず、こちらが上がってくるとは思っていなかった様子。こちらを見ると慌てて銃を千束たちに向けスマートフォンをこちらに見えるように振りかざす。
「武器を捨てろ!大人しくしなければ貨物室にある爆弾で機体を吹っ飛ばすぞ!」
『やれるもんならやってみな』
ハイジャック犯の脅しに
「ん?…って何だこのクマは!?……あっ」
ハイジャック犯は聞きなれない声を上げた自身のスマートフォンを凝視して硬直する。彼が我に返った時には千束が目の前に躍りかかっている。ハイジャック犯の銃よりも千束の手刀がワンテンポ早く炸裂し、ハイジャック犯の意識を刈り取る。
「そいつはリスだよ。たきな、最後はあそこだ!」
おどけた口調で千束が言うと同時にときなと千束は最終目標へ駆けだす。…と同時に異様な
「千束、犯人はこの飛行機を墜落させる気です!」
「分かってる!急いで!」
少しでも足を速くするため銃もその場に投げ捨ててコクピットに転がり込む。左側に座る最後の犯人に千束は飛び掛かった。
「たきな、右!」
「はい!」
「くっそ~!いい加減あきらめろっての!このぉ!」
最後の犯人を左の操縦席から引きずり出そうとする千束と、右の操縦桿を握って何とか姿勢を安定させようと試行するたきな。しかし千束一人では犯人のシートベルトを外せず彼の手を妨害するのが精いっぱい。加えてたきなはリコリスとして車の運転は訓練されているが飛行機の操縦を知らない。とにかくハイジャック犯の操縦桿に抗うように反対側へ操作するだけ。そのとき、階段を上がってきた男衆がコクピットに追いついた。
「こっちか!そこまでだ!」
千束ともみ合う左側が最後の犯人だと察知した男衆は次々と犯人に取りつきシートベルトを外す。その時千束が犯人の手を操縦桿から離させることに成功し、ハイジャック犯は男衆に袋叩きにされながらコクピットから引きずり出されていった。コクピットに残ったのは左右の操縦席に座る千束とたきなだけ。千束もまた飛行機の操縦を知らない。ただ目の前の色々なメータのうち、目の前にある一つの上半分がブルー、下半分がオレンジで安定していることが分かるだけである。ミズキのヘリの操縦を何度か見たことのある千束はそれが水平を見るメータで、現在水平に飛んでいることだけは分かった。だから落ち着いた口調でたきなに問いかける。
「さて…どうしようか」
「私に聞かれましても」
『This is Liberty two-four calling ANK one-eight-five, can you read?(こちらリバティ2-4、ANK185便、聞こえるか?)』
コクピットのスピーカから聞きなれない声が聞こえる。
「どう応答すればいいんでしょうか?」
「私が知っていると思う?」
『This is Liberty two-four calling ANK one-eight-five, what's your status?(こちらリバティ2-4、ANK185便、状況は?)』
「映画でよくあるシーンじゃないんですか?」
「分からんもんは分からんわい!」
「This is ANK one-eight-five. Liberty two-four, please identify yourself.(こちらANK185便、リバティ2-4、あなたは誰ですか?)」
千束とたきなが言い争いを始める寸前、聞きなれた声がスピーカの声に応答する。振り返ると、右肩に包帯を巻いたミズキがコクピットのインカムを頭につけて立っている。
『This is an US Air Force cargo plane flying your left side.(こちらはアメリカ空軍の輸送機だ。あなたの左側を飛んでいる)』
千束が左側を見てみると、グレーの軍用輸送機が外に並走している。さっきからの通信はこの機体からだろう。たきなが二の句を告げようとする前にミズキが流暢な英語で無線に応答する。
「I can see you Liberty two-four. All 5 hijackers are now under control. We recapture the cockpit. We are checking others status. Please stand by.(リバティ2-4こちらから見えます。現在ハイジャック犯5名全員を制圧。操縦席を確保。他の状況を確認するので少し待ってください)」
「ミズキさん、傷は大丈夫ですか?」
たきなが単刀直入に聞く。
「大丈夫じゃないわよ。でもパイロット二名はすでに死にかけてる。もうこの機体の中には私以外飛行機を操縦したことがある人がいないのよ。私のもヘリコプターだから厳密には違うけど」
「きき腕は使えないんじゃないんですか?」
「そうね。でも今みたいに無線への応答はできるし、最低限計器類は読める。アドバイスぐらいなら出せるわよ」
「それはつまり…」
「千束、たきな、あなたたち二人でこの機体を着陸させるのよ。私は通信しつつ適宜フォローをやってあげる」
たきなと千束はお互いを見つめた。
「やるしかないよ、たきな」
「わかりました、千束。ミズキさん、通信と助言をお願いします」
「決まりね」
機長席に千束、副操縦士席にたきな、中央の航空機関士席にミズキが座る。即席のフライトクルーが誕生した瞬間であった。
I have:私が操縦する(I have control)
リバティ2-4:映画「エアフォース・ワン」