【完結】14時17分、東京行き ~喫茶リコリコがハイジャックに巻き込まれる話   作:フェデラルジオグラフィック

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例の番組のBGMってようつべに大体上がっている(違法)ことを知ってびっくり。
機体内イメージBGM
https://www.youtube.com/watch?v=q3-8x8NKETA

またこの話から無線のやり取りから英語を省略します。
「えー、これから日本語で話していただいても結構ですから」


Approach

 

Sept. 12th 15:00 JST(Sept. 12th 06:00 UTC)

ANK 185便 コクピット(太平洋上)

 

「ANK185便よりリバティ2-4へ、状況知らせたい」

 

『ANK185便、続けて』

 

「こちらANK185便、機内に死者一名、負傷者二十二名あり。パイロット二名が重傷につき操縦困難。現在乗り合わせたヘリコプターパイロットとその友人二名が代わりに操縦中。ハイジャッカーの話によれば貨物室内にリモコン爆弾がある模様。ブラボー、オスカー、マイク、ブラボー*1。なおリモコンは確保済み」

 

 千束、たきな、ミズキで飛行機を操縦することを決めた後、一つ大きな問題があることに三人は気づいた。自身の身分についてである。まさかアメリカ軍相手に「リコリス」と言えるわけもなく、またコクピットには閉回路のボイスレコーダーを積んでいる関係で口を滑らせた場合はラジアータやクルミによる事後の隠ぺい工作も不可能である。ボイスレコーダーに証拠が残らないよう状況を確認する会話と並行して手話によるやり取りを行った結果、「ヘリコプターパイロットとその連れ」いう身分でこの場をしのぐことに決めた。なぜ少女なのかと突っ込まれた場合は「意思疎通を優先してヘリコプターパイロットが選んだ」と言い訳することもあわせて。

 

「こちらが確認する限り、操縦に支障なし。そちらから機体の外見に異常は認められるか?」

 

空を飛ぶ航空機の通信は決められた手続きに従わなければならない。それをよく知るミズキが外部との通信を一手に担う。

 

『こちらリバティ2-4、ネガティブ。機体の外見には異常は見られない』

 

「計器類に異常がないか確認したい。現在高度14000フィート、速力320ノット、現在位置はおおむね北緯35度、東経160度、相違はあるか?」

 

『こちらリバティ2-4、ANK185便、相違なし』

 

「こちらANK185便、了解。感謝する」

 

『こちらリバティ2-4よりANK185便、現在航空自衛隊の戦闘機二機がそちらに向かっている。ETAは15分、戦闘機到着後はそちらに支援を引き継ぐ。戦闘機とコンタクトするには周波数を変更する必要があるが、できるか?』

 

「こちらANK185便、無線機の操作方法を教えてほしい」

 

『了解した。操作方法について問い合わせる。待機せよ』

 

 

 

Sept. 12th 15:30 JST(Sept. 12th 06:30 UTC)

羽田空港駐車場の一角

 

 ラジアータによる交通整理のかいあって、余裕を持ってリコリス達は所定の待機地点へと配置される。フキとサクラの待機場所は羽田空港の駐車場。フキたちの任務は万一他のリコリスが任務中に窮地に立った場合の救援とされたため、リコリス配備圏の中心である羽田空港の駐車場が待機位置として指定された。駐車場内にはDAが用意したバイクが二台配置され、いつでも出られるように司令部との無線をモニタしながらバイクの傍らで待機する。折からの曇天で日光の照りつきはないが、朝から吹いているらしい北東からの強い風が熱と湿気を運び、制服の中は蒸れてべたついている。

 

「あっち~。先輩、車の中にいましょうよお」

 

サクラはバイクの隣に止まった車を軽くたたく。乗ってきた車両は控室を兼ねてバイクの隣に止めてあるのだ。

 

「サクラ、そうしたいなら車の中にいろ。私は外の音や気配に耳を立ててんだよ。何か異常があった時に車の中じゃ察知するのに時間がかかる」

 

「だからといってこんな駐車場の中でぼっ立ちしてるほうがかえって目立ちますよ」

 

「む…」

 

「それに汗が浮いてきてるっす。まだ飛行機が来るまで一時間はあるんすから、今は息を整えましょう。今から張りつめて本番で切れたら本末転倒っすよ」

 

サクラの言うことはもっともである。そう判断したフキは30分だけだぞ、と言ってサクラと共に車両に乗り込み、ドアを閉めた。司令部からの無線が入ったのはそのときである。

 

『羽田周辺のリコリス各員へ』

 

フキとサクラは身構える。

 

『185便の状況を更新する。アメリカ軍経由で入った情報によれば、機内のハイジャッカーは全員制圧された。ただしパイロットが負傷したため乗客が操縦している模様だ。羽田到着は今から二時間後。リコリス各員にあっては現時刻を持って警戒態勢をレベル3に引き下げる。別途指示があるまで待機せよ』

 

二人は構えを解いて少しリラックスする。バッテリー駆動のエアコンが涼しい風を吐き出している。

 

「千束がやったんだろうな。パイロットは…アイツだろうな」

 

「え?電波塔の英雄様って飛行機も飛ばせるんすか?」

 

「違う。ミズキだ。あの緑の飲んだくれだ」

 

「あのおばさんすか?」

 

「あいつは飲んだくれでだらしないが運転の腕は確かだ。ヘリや船だって自在に動かせるが、さすがにフルサイズの旅客機なんて初体験だろうよ」

 

「つまり飲酒飛行?」

 

「あいつらが喫茶店を再開したら連れて行ってやる。一回殴られろ」

 

 

 

 

Sept. 12th 15:40 JST(Sept. 12th 06:40 UTC)

ANK 185便 コクピット(太平洋上)

 

 合流した航空自衛隊のF-15に通信を中継してもらい、自動操縦の設定を試行すること15分と少し。コンピュータに操縦を任せられるようになって千束、たきな、ミズキは落ち着きを取り戻している。そこから徐々に日本に近づき、戦闘機を経由した通信からさらに周波数を切り替えて日本の福岡航空管制と直接コンタクトを取れるようになった。とはいっても管制とのやり取りは英語で行わなければならないので引き続きミズキがやり取りを行っている。それでもやり取りの中に混じる日本訛りはこの機体が今日本へと向かっていることを示している。そんな中、管制官から無線の周波数を設定するように指示が出る。

 

「千束、無線機の周波数を129.8500に変えてもらえる?あ、そっちの無線じゃなくてもう一方の…」

 

「えーと、こっち?」

 

「そうそう。そこの数値を…そう。そしてENTを押して…」

 

『…185便、聞こえるか?応答せよ』

 

ミズキの指示通りたきなが無線機を操作すると、管制官とは別の男性による日本語の音声が聞こえてくる。千束はいきなり割って入った音声に困惑しながらミズキに聞く。

 

「これは誰?というより何?日本語なんだけど」

 

「カンパニーラジオって言って要するに社内業務無線よ。今エアーニッポンの羽田支店の担当者が繋がっているわ。私は管制とのやり取りがあるから、千束が応対して。たきなは引き続き計器類に異常がないか見張っていて」

 

「あ~なるほど」

 

そう言って千束はインカムのスイッチを入れる。

 

『185便、応答せよ』

 

「こちら185便、エアーニッポンのカンパニーラジオで発信中」

 

『185便、聞こえているぞ。私はエアーニッポンの747型機のパイロットである汐留というものだ。羽田空港の対策本部から通信している。着陸に当たって君たちをサポートする。君はヘリコプターパイロットかね?』

 

「違います。ヘリコプターパイロットは航空管制官とのやり取りに集中しています。彼女はハイジャッカーに肩を撃たれて操縦桿を握れません。だから知り合いの私と…もう一人が操縦席に座っています。本当のパイロット二名はすでに息をしていません」

 

千束はなるだけ個人名を出さないように、かつ噓は言わないように言葉を選びつつ状況を伝える。

 

『コクピット内については了解した。こちらから今後について伝達したいがよろしいか?』

 

千束はたきなとミズキを見た。二人は据わった眼でうなずいた。

 

「こちら185便、情報伝達をお願いします」

 

『了解した。185便の受け入れ態勢は現在羽田空港にて準備が進められている。君たちが操縦する747型機は正しくコンピュータを設定すれば地表付近までは自動操縦で対応できる』

 

「今の設定で着陸できますか?」

 

『現在の設定は千葉県付近までしか誘導されていない。今から設定方法を教えるので、その通りにコンピュータを操作してほしい。それで地上への着陸までは機体が連れて行ってくれるはずだ』

 

「了解しました」

 

『それでは今から、羽田空港に進入するための設定を開始する。滑走路は34R、カテゴリー3のILSによる進入を行う…』

 

 千束は無線からの指示を復唱しつつ、時折ミズキに確認を求めながら、たどたどしい手つきでコンピュータにデータを入力する。的確な指示と随時の確認も相まって設定作業はすんなりとおわる。

 

「設定完了。コンピュータの設定で着陸まで自動操縦、それからは?」

 

『着陸から先は機体を停止させるまで君たちが手動で行わざるを得ない。方法は可能な限り教えるから、その通りに実践してほしい』

 

千束とたきなは息を呑む。

 

『まず現在の羽田空港の状況を説明する。天候は曇り、シーリングは1100』

 

「シーリングってなに?」

 

「雲が1100フィート、約330mまでかかっているってこと。延空木が半分隠れた状態ね」

 

『風向風速は北東の風、19ノット。着陸する滑走路34Rに対して強い横風となっている』

 

その声にミズキが呻く。

 

「ミズキ、どうしたの?」

 

「横風を受けた状態で着陸するのは訓練を受けてないと難しいのよ。しかも19って羽田に着陸できるかのギリギリのところじゃない」

 

「なるほど。…あーこちら185便、私達はただの乗客です。ヘリコプターパイロット曰く横風を受けての着陸は難しいのではとのことですが」

 

『その通りだが現在の機体の燃料と他の空港や滑走路の状況を検討した結果、ここが最も安全であると結論づけた。どうかそこだけは納得してほしい』

 

千束はたきなを見る。たきなは表情をあまり大きく動かさないほうだが、長い間相棒としてやってきた千束はその顔が不安一色で染められていることを察する。たきなの緊張を緩和するために千束は一言声をかける。

 

「大丈夫だよ、たきな。私達はいつまでも一緒だよ」

 

 カンパニーラジオからの情報をもとに千束とたきなが着陸に備えての手順を確認するとともに、ミズキは二人を適宜フォローしつつ管制官と交信をする。飛行機はすでに日本の排他的経済水域上空を入っていた。

 

 

 

Sept. 12th 16:10 JST(Sept. 12th 07:10 UTC)

羽田空港駐車場の一角

 

『羽田周辺のリコリス各員へ、状況を更新する』

 

 待機用の車の中で二人がペットボトルのお茶を飲んでいたところへ再度楠木からの通信が入る。

 

『185便は当初の予定通り羽田に着陸することが決まった。一番東京湾に近いC滑走路に南側から進入する。予定コースは各自の端末に転送するので確認しろ。特に空港南側、川崎市臨海部にあっては20分後に警戒態勢をレベル2に引き上げる』

 

 二人の懐から通知音が鳴り、二人は各自のスマートフォンを取り出す。DA支給品のそれは作戦についての通達の確認の他、準天頂衛星システムとGPSの併用による現在位置の確認、インカムが繋がらないときのバックアップの通信手段を兼ねた高性能な一品である。二人が画面を確認すると羽田空港の東京湾岸に赤い直線が引かれ「RUNWAY C」と書かれている。そこから南に向けて青い線がまっすぐ引かれている。フキが画面上でピンチアウトし地図を縮小すると、青い線が千葉県上空まで真っすぐ引かれ、そこから太平洋の方向へ伸び、その上に飛行機の現在地を示す黄色いマークが表示されていることを確認する。

 

「先輩、ここってリコリスで確認しているんでしたっけ?」

 

 サクラが自身の端末を見せながらフキに問う。サクラの画面は地図を拡大して羽田空港のすぐ南を強調していた。

 

「どこの話をしている?」

 

「ここっすよここ」

 

サクラが指をさしたのは羽田空港のすぐ南を走る高速道路。

 

「アクアラインか。あれはたしか()()()()()()だろう?飛行機には関係ないはずだ」

 

「ここよく見てくださいよ先輩」

 

サクラが指を使ってさらに地図を拡大する。そこには東京湾アクアラインを示すオレンジの線と飛行機の針路の青い線が交錯し、まさにその地点に地図上では「風の塔」と記載された()()()()()()()()()()()()()。フキは嫌な予感がして太平洋を示していた自分の画面を切り替える。表示するのは出発前に説明されたリコリスの配置図。リコリスは羽田空港から8km圏内に配置されているが、風の塔はその範囲にぎりぎり届いていない。そのためここにはリコリスは配置されていない。フキは一滴の冷や汗が頬を伝う感覚を覚え、反射的にインカムに手をかける。

 

「司令部、こちらアルファワン」

 

『こちら司令部、アルファワンどうした?』

 

「こちらアルファワン、現在位置から移動する許可を求む」

 

『アルファワン、どこへ向かうつもりだ?』

 

「東京湾アクアラインの風の塔。185便の経路の真下にありますが、リコリスの警戒範囲外です。我々のバイクならば最速で到達できます。移動して安全確保に当たる許可を願います」

 

しばらくの沈黙。フキは司令は川崎のリコリスを向かわせるかどうか悩んでいる様を想像する。

 

『…司令部よりアルファワン、待機命令を変更する。東京湾アクアラインの川崎浮島換気所へ向かえ。ルートは今端末に送った。海底トンネル下部にある非常用通路を開けるように手配する。この通路を使い速やかに川崎人工島の安全を確保せよ』

 

「アルファワン了解、直ちに取り掛かります。…サクラ聞いたな、行くぞ!」

 

「了解!ついて行くっす!」

 

そう言うとフキとサクラは車から駆けだし、ヘルメットを被りそれぞれのバイクにまたがる。DA特別仕様のオフロードバイク二台はエンジンの轟音を立てながら羽田空港の駐車場を飛び出す。ターミナルビルの前を横切り一般道に合流。交差点の渋滞をすり抜けて首都高速道路の湾岸環八入口「横浜方面」へ。料金所をETCで抜けて川崎への海底トンネルへと突入する。

 

 

*1
BOMBのフォネティック




Approach:空域への進入

ようやくフキサク組が動き出す…

小説のタイトルが「15時17分、パリ行き」のもじりであることに気付いた人はいるかな?
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