【完結】14時17分、東京行き ~喫茶リコリコがハイジャックに巻き込まれる話 作:フェデラルジオグラフィック
意外と長かった。
Sept. 23th 14:20 JST(Sept. 23th 05:20 UTC)
東京 錦糸町 喫茶リコリコ
ハイジャック事件から11日後、「旧」という接頭語がついた電波塔の下で、「新しい」という接頭語が付いた喫茶店がオープンした。かつての常連さんたちが開店祝いをするために入れ代わり立ち代わりで訪れる。お昼時を過ぎてお客さんがいなくなり一息を入れていたころ、店の扉が開いて新たなお客さんが来る。
「お誕生日おめでとう!千束ちゃん!」
「阿部さん!ありがとうございます!来てくださったんですね!お好きな席にどうぞ!」
「リニューアルオープンの日が君の誕生日なら来ないわけにはいかないじゃないか」
「忙しいってのに阿部さん絶対に行くんだって昨日徹夜までして…」
「お前は黙ってろ」
「あっはは…ありがとうございます!」
千束が苦笑いを浮かべていると、店内のテレビが次のニュースを読み上げ始める。
『先週のハイジャック事件の続報です。警察の筋によると、犯人グループの目的は旅客機を延空木に突入させることであると…』
「そういえば皆さん災難でしたねえ。あの飛行機に乗っていたんですって?パイロットが仏さんになったから乗客が操縦していたそうじゃないか。しかも誰かは未だに公表されていない」
「
「何他人事みたいに言ってんだ馬鹿野郎!そうならないように俺たち警察官がいるんだろうが!」
二人が座敷に座りながら話している内容に店員一同は一瞬だけ複雑な表情を見せる。
「あの~すみません、ご注文は?」
「ああ。コーヒーとどら焼きを頼もうか」
「俺も同じもの。それとハイジャックのお土産話」
三谷の「注文」についてすかさずミカが答える。
「申し訳ないがその注文には応えられない。
「なあんだ、残念」
「おい三谷、いいかげんにしろ。すみません、あとできつく叱っておきますので…」
「いーのいーの気にしないで。今日でそれ三回目だから」
申し訳ない表情をする阿部に千束はあっけらかんとした笑顔で答える。
「千束ちゃんは、本当に強いんだなあ」
「あったりまえじゃない!阿部さんよりも強いんだから!」
「ははは。本当にそうかもしれないな」
着物に通した腕を折り曲げながら千束が言うと刑事二人は笑う。刑事二人と本日の主役の掛け合いを見ながらたきなはこれまでのことを回想していた。
機体から降りたときに国家運輸安全委員会と書かれたジャケットに身を包んだ職員に「操縦席にいた方ですね?こちらへ」とほかの乗客とは違う車に案内された。車には喫茶リコリコのメンバーが集められていた。長年の経験から声を掛けられた時点で職員がDAの人間であることは察していたので今更驚くことでもなかったが。バス数台に分乗したほかの乗客にマスコミが群がる傍らで、現場から引き上げる救急車や消防車に交じって別の出入り口から空港外に出て、蒲田にあるDAの支部のひとつに案内された。
支部内にて店長を含めた全員のパスポートが取り上げられた。代わりに今回のハイジャックについて詳細な尋問を受けたのちに本件に関する
お客さんへの隠し事をまた一つ増やしながら、喫茶リコリコの新たな日常が始まった。
…と思っていたのも束の間、その日の夕方にある航空無線愛好家があの日に傍受したカンパニーラジオをネット上にアップしたため、それを聞いた常連さんたちが翌朝また殺到してくることになる。
Sept. 30th 13:45 JST(Sept. 30th 2:45 UTC)
東京 錦糸町 喫茶リコリコ
「本日貸切」の札を掲げられた喫茶リコリコ。その中にフキとサクラはいた。目の前には小さめのホールケーキが二つとフキのお気に入りのメニューが並べられている。
結局、喫茶リコリコでの誕生日パーティは一週間遅れで開催されることになった。誕生日当日やその数日間はフキ自身の都合がつかなかったからである。ミカの交渉や千束の積極的なDAへの協力もあって「たった」一週間遅れで開催された、といったほうが正確かもしれない。
「いろいろあって遅れてしまったけれど、お誕生日おめでとう!フキ!」
「お前もな、千束」
「あ、今回は怒らないんだ」
「いつもは一日早かったからだ。お前無神経だからな」
「なにおぅ!?」
「あぁ?事実だろぉ?」
主役二人が喧嘩を始めようとするのを慌てて互いの相棒が諫める。落ち着いたところでミカがフキに聞く。
「さて、19になったわけだがフキはこの後どうするんだ?」
「とりあえず一年任期を延長してもらいました。コイツはまだ未熟で修業が必要ですから」
「先輩、未熟ってあたしもいっぱしの…イタィ!」
「まずはこのデコピンを止めるかよけられるようになってからだ」
「フキさんも後輩思いだねぇ」
「そういう千束も一年延長だろうが。司令から聞いているぞ」
「当たり前でしょ。ここで喫茶店をやろうと思ったら私がリコリスをやり続けるしかないもの。
そう言うと千束はたきなと肩を組んで笑う。たきなは少し恥ずかしそうにしている。その様を見ておでこをさすっていたサクラが思い出したかのように口を開く。
「あ、そうだ。お二人に先輩とあたしからプレゼントです」
「私とたきなに?」
「誕生日プレゼントとは別っすよ。それより、はい!こちらです!」
怪訝な表情を浮かべる千束とたきな。サクラは笑顔で二人に丸めた紙を突き出す。フキは無表情のように見えるが…。
「なんかものすごく嫌な予感がするんですけど。フキも少し口角上がってるし」
千束はサクラから紙を受け取る。大きさと紙質からポスターの類だとわかる。丸められたポスターを広げてみると…
上半分に背中合わせで立つ千束とたきな……のそっくりさん。
下半分には東京湾に降下するジャンボジェットの後ろ姿。遠景にはレインボーブリッジと延空木が映っている。
そしてその二つの間には大きく
「な、なにこれぇ!」
悲鳴を上げる千束。無言のたきな。座敷で笑い転げるサクラ。その場で大笑いするフキは千束に話しかける。
「あ~はっは…千束、お前昔からアクション映画好きだったろ。喜べ、念願の銀幕デビューだぞ」
「こんな形で出てもうれしくない!」
「うるせぇ!一年前の私の気持ちを思い知るがいい!」
ファースト二人が取っ組み合いを演じる傍らでセカンド二人は淡々と主役二人の誕生日ケーキを切るのであった。
リコリコは無事に再スタートを決めたところで、これにて本作は完結になります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
最後のポスターのモデルは映画「海猿」だったりします。
機体のチョイスに747を選んだのは、まあ何でもよかったんですが「747ジャンボ」と書けば大体の人が同じシルエットを連想してくれるからです。
リコリコ、ユナイテッド93をみて見切り発車で書きましたが思いのほか筆が乗ってこのような形で収まりました。それなりの長さの話をかけて満足。
反省点としては登場人物が本格的に動くまでの前置きが長くなってしまったことかな?アクションというよりサスペンスに近い構成になってしまったと感じてます。
意外と面倒だったのが「8時間」というタイムテーブルをどう割り振るかということ。
機内側はともかく日本側はハイジャッカーを制圧してからいきなりフキ達が登場するのも不自然かつ今更感が発生するため前半に茶番を設けて繋ぎとする方針にしました。
最後のオチについて、当初はミカが楠木に電話して「ラジアータの差し金だな?」と言うだけで終わらせる予定でしたが、こっちのほうがリコリコらしいかなと思って変更してます。
以下、没ネタ
話の本筋に絡まないためカット
・アメリカと日本のハイジャック対策本部設置
・軍と航空当局の意思疎通のすれ違い
・他、航空機の技術的な話(省略するためILSによる自動着陸にした)
話が冗長になるためカット
・着陸時に機体が大破
→千束が大怪我
→人工心臓だから出血が止まらない!
・機体が大破したためエンジン出火
→限られた時間で脱出する必要あり
→ミカがハイジャッカー担ぎ出し
これカットしたせいでミカの出番が無くなっちゃいました。