オラリオに平穏を求めるのは間違っているだろうか?   作:悪魔野郎

5 / 10
■■と■という美酒は程々に

 

「……やっちまった」

 

 何がとは言わないが、隣でスウスウと可愛らしい寝息をたてて寝ているリューを見ながらザインはそう考えた。

 

 ザインは生まれてこの方、女性があまり好きではない。

 何故なら、どうしても思考回路が理解できないからだ。ザインにとって無償の善意を当たり前にしている。故に己を認めてほしい、自分の考えを共感してほしいと思うことは無い。だからか、女性特有の考えがどうしても苦手だった。

 

 だが、リュー・リオンは違った。

 

 己を否定し、正義を探す旅に出た彼女を、ザインはまるで自分のようだと思っていた。

 しかし時間が経つに連れ、リューと己の明確な違いを理解した。「正義」だ。ザインにとっての正義とは『多くの者が生き延び繁栄できる環境』だ。勿論、繁栄の中には人類の成長そのものも入っているので、ただのディストピアを目指そうとしている訳では無いが。

 

 ──対して、リューは迷い続けることを選んだ。

 

 それがどれ程地獄かは()()()()()。だから、彼女を守りたかった。彼女を支えたかった。私の至れなかったその先へ行ってほしかった。エゴなのかもしれない。愛ですら無いのかもしれない。ただ、愛する人の苦楽を共にしたいと思うのは間違っていないと私は思う。

 

 だからこそ、オラリオでひと暴れしたのだが──うん。逃げようがないネ! 

 

 さっきから逃げようと色々やってるんだけど。このエルフ、ガッシリと俺の手足を拘束していやがる。拘束と言っても手足を巻きつける程度で、私を抱きまくらにしているようなものだが。この可愛らしい寝顔を見ていたいと思っている己がいる! 

 言わせてもらおう! 俺は変態じゃないが男として無理だコレ! 

 

 ……ハッ! 危ない。また見惚れてた。

 

 今更だが風邪を引いてしまうだろうから魔法で綺麗にしよう。

 

「開け──【マル・マーテル】」

 

 手に鍵が握られる。その鍵は魔法陣を開く鍵。

 干渉・召喚魔法【マル・マーテル】能力は海水の召喚及び、海の力に対する干渉権限。これ自体はそれほど強くない。あくまでも液体を召喚するだけだ。

 他の魔法と違い、指向性や攻撃出来るほどの出力は無い。強いて言えば、水を召喚し続けて水責めくらいか。精神力(マインド)の消費も比較的軽く、一度に召喚できる量も上限がある(レベル7なのでそれなりにあるが)

 なら、このような使い道のない魔法を所持しているのか。それは私のスキルにある。

 

聖印顕現(スティグマ)

 ・魔法やスキル、魔導具に文字を付与することで干渉可能

 

 というもの。めっちゃ便利で不便なスキルだ。なんせ、何でもできるからな。

 トラップ、障壁魔法、付与魔法、攻撃魔法、その他諸々。あらゆる魔法の再現ができる上に自由にカスタマイズ出来る。私が『聖騎士』と呼ばれていた由縁でもある。

 ただ、弱点はかなりある。

 例えば、詠唱時間というか作成時間といえばよいだろうか。普通に詠唱して発動する魔法の詠唱よりも長い文章を刻まないといけない。その代わりと言っては何だが発動待機時間に関しては方法によってはかなり長くなる。

 まだある。それは文章の長さ=込められる精神力(マインド)に比例だということ。つまり、普通の魔法はレベルが上がるか込める精神力(マインド)を増やすことで簡単に威力を上昇させることができるが、私の場合は何倍も文章を増やさないと威力や効果の上昇が出来ない。

 まあ修行の末にある程度、簡単な魔法なら即席で発動出来るけど。

 

「水揺り籠」

 

 今回は時間もあるので超精密な魔法を生み出した。

 フッ! またつまらぬ新魔法を作ってしまったぜ。

 体も服も綺麗に乾燥まで洗濯してくれる揺り籠。中にいる人はまるで車の中で揺らされているような心地よさが──あっこれ寝るやつだ。

 

「……すぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──とある物語を語ろう。

 

 大天使は欲もなく願いもなく。ただ神の手足として存在していた。神からすれば、面白くなくただの置物。命令されるがままに神の言葉を本当にする。神の代行者。それが大天使。

 

 ある日、大天使は神に英雄を作れと命じられた。神からすれば、不可能だろうと高を括っていたが大天使はそれを実行するために外界へ降りた。

 下界に降りれば大天使といえどもただの小娘。あらゆる存在から敵対されていた彼女は当たり前のように狙われた。

 

 しかし小娘になったとしても、流石は大天使。レベルは落ちたとはいえ優秀な魔法と剣技によって、殺されるには至らなかった。

 

 そこで敵対する神は悪魔の力を使うことにした。悪魔の力の本質は精神の力。外界であろうとその力は衰えない。

 神は大悪魔に命じた。大天使を殺せと。

 悪魔は歓喜した。この手で高潔なる天使を。それも大天使とも呼ばれる美味をこの手で殺せる喜びを。

 

 別に悪魔も神々も、当の本人である天使でさえ誰もそれぞれの思考が食い違っていた訳ではなかった。

 強いて言えば。()()()()()()()()()()()であることを互いに忘れていたことだろう。

 

 どっちが先に墜ちたのかは分からない。それでも結果を見れば、天使は堕落し悪魔は絆され、()()()()()()()()()()()が産まれてしまった。

 邪悪でありながら美しく死を纏いながら生を司る。正しく、天から堕ちる者(ネフィリム)

 彼らは英雄だった。悪魔()天使()が願ったように人を愛し己の正義と悪を持って、人々を救い試練を与えた。

 だが、歪んでいながら真っ直ぐなその愛の結晶は神々の怒りを買った。誰よりも人間に近くて誰よりも人間に遠い。そんな人類は認められなかった。

 

 ネフィリム達は神々自らの手によって殺された。

 大悪魔も大天使も何も居なかったかの様に跡形もなく消された。

 

 そう──そのはずだった。

 

 エルフやドワーフ。明らかな人族(ヒューマン)の上位種族。そんな彼らの前に居た真の上位種族。

 彼らの血は受け継がれていた。人族という下等生物を祝福するようにその血は流れ、時に才能を与えた。故に現在の人族(シューマン)その生き方は血に刻まれた人間モドキが原点である。

 

 悪も正義も彼等から始まった。

 

 コレは誰も知らない物語。神々ですら忘れ去った愚かな歴史。されど、英雄達(ネフィリム)たちは恨んでいない。彼等はそれぞれの正義と悪を貫き──その全ては受け継がれた。

 

 彼等も求めている。神々も求めている。

 

 ──英雄を。





墜ちた英雄。故に英雄になれないガラクタ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。