退学者を出したら終わりの教室   作:ゴブリンの腰巾着

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第3話

 

 

 この地獄から抜け出そうと考えた時、まず俺は部活に入ることを止めた。

 それでも足りず、次は自分から友人を作ることを止めた。

 思い付く限り削っていった。自分のための娯楽も食事もありとあらゆる無駄を削ぎ落とそうとした。

 

 だが俺は所詮、凡人だった。

 

 俺には狂気じみた執念がなかった。何にも負けない強固な精神はなかった。何度も誘惑に負け、その度に、自分自身に失望する。

 柴田颯は狂人にも天才にもなれない、ただの凡人だった。

 

*************************

 

 安藤は買ったばかりのサッカーボールを抱きながら、俺の前を歩いた。

 俺はなぜ、ついていってるのか。用事があると適当に言えば良かったのに。

 

「よし、着いた!」

 

 そうして会話もせずに歩いて、たどり着いたのは、人気のない公園だった。

 安藤は振り向くと、サッカーボールをこっちに蹴り渡す。経験があるのか様になっていた。

 

「今さ、猛烈にサッカーがしたくて、私の我が儘に付き合ってくれない?」

 

 それが建前だというのは、考えるまでもなかった。

 

「……安藤は優しいな」

「いやいや、うーん、半分はお礼。ほら、この前にクラスの方針を教えてもらったからね」

「……そっか」

 

 また。こうやって人の暖かさに触れると、負けたくなる。この先が泥沼だと分かっているのに、沈みたくなる。

 足元にあるボールを蹴り渡す。何年もしなかったのに体は覚えていた。それでも、想像とのちょっとした差に苦しめられた。それから何度かボールを蹴り合う。

 その勢いのまま、簡単な1on1をする。安藤はそこいらのサッカー部よりも体の使い方がうまかった。ギリギリ勝てているが少し練習すれば俺は負けるだろう。

 すると、突然安藤はボールを足で止めた。

 

「……やっぱり、柴田君サッカーしてたでしょ? それも結構うまい」

「安藤こそバレーボール部なのにうまいな」

「ほら、私って体を動かすのが好きで小さい頃からいろんなことしてたんだよね」

 

 安藤は休憩と言いながら近場の自販機に向かう。

 俺は少し悔しくて、想像しているボール回しと現実を擦り合わせる練習をしていた。練習を続けるとだんだんと想像と現実が合致する。

 

「いい顔してるじゃん」

  

 ベンチで水を飲みながら、安藤は笑う。

 そこでやっと自分が笑っていることに気づいた。

 気恥ずかしくなり、照れ隠しに疑問に思っていたことを訊いてみる。

 

「さっき半分って言ったよな。もう半分はなんなんだ?」

「……うーん、内緒!」

 

 話してはくれなさそうだ。

 

「──ねぇ」

「ん、どした」

「またさ、一緒に遊ばない?」

 

 なんでもないように言う。きっと本人からすれば何でもないんだろうが。

 ……拒絶するのが正解だというのは分かっている。これは無駄なものだ。削ぎ落とすべきものだ。

 

「ああ、また遊んでくれ」

 

 ……ああ、やっぱり切り捨てる覚悟も持てない俺は、凡人だ。

 けど、不思議と、悪い気持ちではなかった。

 

*************************

 

 豪華客船の上。俺は神崎、綾小路の2人と一緒にいた。

 

「……さすがに気まずいな」

「気にする必要はない。あくまで今は友人として一緒にいるだけだ。クラスの内情を洩らしているわけでもないしな」

「おう、綾小路もあんま気にすんなよ!」

「……友人か、そうか」

 

 なんでか綾小路が感極まっているように見える。やっぱりよく分からない。少しでも綾小路の思惑が知りたくて、違和感のないように神崎を連れて来てみたが、観察すればするほど少し世間知らずな一般人にしか見えない。

 これで綾小路が龍園をも倒せる実力者だというのだから分からないものだ。

 綾小路が不思議な面持ちで海を見ていた。神崎もそれに気づいたのか疑問を呈する。

 

「初めて海を見たのか?」

「いや、初めてではない。ただ、こんな風に間近で見たのはかなり昔で、少し感じ入ってしまった」

 

 ……やはり、よく分からない。

 

*************************

 

 そろそろ無人島につく。その前に軽井沢にメールを1つ送っておく。

 既読がついたのを確認し、先生の指示に従い船を降りた。

 そこから砂浜に全員並ばされ、Aクラスの真嶋先生から試験の説明が始まった。

 

 基本のルール

 

 ・各クラスは1週間、無人島での集団生活を行う。

 ・テントや衛生用品は最低限配られるものの、飲料水や食料、トイレなどは試験専用の300ポイント(クラスごと)で購入する必要がある。 

 ・専用ポイントは試験終了後、クラスポイントに変更される。 

 

 追加ルール

 

 ・島の随所に「スポット」と呼ばれる地点があり、占有したクラスのみ使用可能になる。

 ・スポットは専有する度に1ポイントのボーナスがある。

 ・スポットの占有は8時間のみ。切れた場合、更新作業が必要となる。

 ・スポットの占有には、リーダーとなった人物が持つ「キーカード」が必要となる。

 ・正当な理由なく、リーダーを変更することは不可能。

 ・最終日、他クラスのリーダーを当てる権利が与えられ る。当てれば1人につき+50ポイント、外せば-50ポイント。

 ・逆に、リーダーを当てられてしまった場合、-50ポイント

 

 禁止事項

 

 ・体調不良や大怪我によって続行できない者は-30ポイント+リタイア

 ・環境を汚染する行為は-20ポイント

 ・毎日午前・午後8時に行う点呼に不在の場合、1人につき-5ポイント

 ・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、そのクラスを即失格+対象者のプライベートポイントを全没収

 

*************************

 

 俺のこの学校での勝利条件は退学者を出さないことだ。   

 つまるところ、クラス内投票までに各クラスごとに2000万ppを集めさせることさえ出来れば目標はクリアできる。

 

 それを踏まえてリーダー当てを考える。

 リーダー当てを成功させたら当てたクラスは+50ポイント。当てられたクラスは-50。学年で見た際は差し引き0。

 リーダー当てを失敗したら-50。学年で見た際は-50。

 

 リーダー当てをしても利益が出ることはあり得ない。そこまで踏まえて、俺がこの特別試験で尽力すべきことは1つ。

 

 ──リーダー当てをさせない(・・・・・・・・・・・)

 

 ありとあらゆる手段を用いて、リーダー当てへの意欲を失わせる。そのための策は、打ってある。

 

「質問~」

 

 緊迫した砂浜に間の抜けた声が響き渡る。声の主はCクラスの女王、軽井沢。

 

「……質問を許可します」

「リーダーが体調不良でリタイアしたらリーダーはどうなるん、です?」

「──体調不良であるならリーダーをリタイアさせ、代わりのリーダーをもう一度、選び直してもらう」

「ありがとうございま~す」

 

 この会話に頭の回る生徒は気づいただろう。試験終了直前に-30ポイント払うことでほぼ確実にリーダーが当てられる可能性を回避できることに。

 俺の目に入る範囲の生徒でも神崎はその事実に気づいていた。

 これでリーダー当てのハードルはかなり上がった。どれだけ確かなリーダーの証拠を集めようが、最後にリーダーを変えてしまえばチャラどころか-50ポイントのリスクを負うことになる。

 あとは、ポイントをいかに節約できるかの勝負だ。

 

*************************

 

「柴田、さっきの先生の言葉どう思った」

 

 拠点となるスポットを占有し、神崎と一緒に食料を探索していると、そう尋ねられた。

 

「30払えばリーダー当てから完全に降りれるってとこだろうな」

「俺も同じ意見だ。しかし、こうなるとなおさら安易にリーダー当てに挑戦できないな」

 

 多少の損失は出るが、ほぼ確実にリーダーが当てられることはない。この事実はリスクを好まない人間からすれば、リーダー当てを消極的にさせるに十分だろう。

 

 拠点のスポットに戻ると、意外な人物が一之瀬と対面していた。

 

「……龍園」

 

 Dクラスの王。大方予想はついているが、一応訊いておく。

 

「龍園、なんのようだ。俺たちはお前に構っている暇はないんだよ」

「くく、ずいぶんとご機嫌斜めじゃねーか。腹でも下したか」

「柴田君、少し落ち着いて……それで、龍園君はどんな用でここに来たの?」

 

 一之瀬は警戒心を隠すこともなく問いかける。

 

「ずいぶんと嫌われちまったようだな」

「須藤君のこと、忘れたっていうつもり?」

「おいおい、それは勘違いってことで終わっただろ? 言いがかりは止めてくれよ。で、どんな用できた、か。

 ──なあ、一之瀬、取引をしようぜ。

 俺は物資をお前達に提供する。その代わりポイントを寄越せ」

 

 本来ならAクラスに持ちかけられていた取引。取引が成立すれば龍園のクラスはリタイアすることでこの試験を放棄するだろう。

 この取引を拒否した場合、俺は龍園の行動が読めなくなる。これは非常にまずい。細かいところが違っても大筋さえ変わらなければ今はなんとかなる。

 この取引を受けた場合、俺たちBクラスは間違いなくAクラスに上がれる。それもかなりの大差をつけることが出来るだろう。毎月2万ppの支払いも、俺視点から見ればさした問題ではない。

 だがBクラスがAクラスに上がるのはあまり旨味がない。むしろ葛城が坂柳に隙を見せてしまうのは明確なデメリットとなる。 

 受けるべきではない。

 

「うーん、面白い話なんだけどさ、龍園君は信頼できないよ」

 

 一之瀬も断る方向で考えをまとめていた。神崎も同意見らしい。

 

「そうか、ならしょうがねぇ」

 

 龍園はやけにあっさりと引いた。何を考えているのか不気味でしょうがない。

 

*************************

 

 あれから1日経ち、平田と堀北からDクラスが豪遊をした後リタイアをしたことを告げられた。

 

*************************

 

 特別試験最終日。何も問題は発生することもなく今日を迎える。

 龍園は金田を送り込んでこなかった。俺たちは念のためにリーダーをリタイアさせ適当な人物をリーダーに指定した。

 

 試験の終了を告げる放送が流れる。

 結果は以下の通りだった。

 

 Aクラス 212

 Bクラス 174

 Cクラス 152 

 Dクラス 0

 

 龍園は船の中にいた。つまり、試験を完全に放棄していた。

 少し意外だ。龍園なら思いもよらぬ方法で勝利を手繰り寄せると思っていた。

  

 この試験の結果からクラスポイントはこうなった。

 

 Aクラス 1301

 Bクラス 1174

 Cクラス 771

 Dクラス 615

 

 1月で得られる各クラスのppは、

 

 Aクラスは1人辺り13万100pp。それに40をかけて、

520万4000。

 Bクラスは1人辺り11万7400pp。それに40をかけて、469万6000。

 Cクラスは1人辺り7万7100pp。それに40をかけて、

308万4000。

 Dクラスは1人辺り6万1500pp。それに40をかけて、 

246万。

 

 これまでの分を含めたら十分時間までに8000万ppを狙える。

 

 ──やっとここまできた。

 

 まだ油断はできない。だが、やっと理想が現実のものになってきた。

 長かった戦いが終わる。

 

*************************

 

 綾小路は自室のベッドに腰掛けながら、ある女子生徒について考えていた。

 

 ──軽井沢恵

 

 Cクラスの女王にして、平田洋介の彼女。軽井沢には人を引き付ける才能がある。加えて、この学校の仕組みをことごとく捜し当てることでクラスでの発言力は櫛田を上回っている。その存在感はCクラスでもトップクラスだろう。

 

 だからこそ、違和感が目立つ。

 

 彼女には学校の仕組みに気づけるほどの洞察力はない。それは日々の生活を見ていれば分かる。

 自ずと見えてくる結論。

 間違いなく、軽井沢恵の裏には何者かが存在する。だが、黒幕の意図が見えない。

 これまでの軽井沢の行動は全てCクラスに利するものだった。そこから考えるに他クラスの可能性は低い。ブラフにしてはやりすぎだ。

 なら黒幕が自クラスだと仮定しても、疑問は残る。なぜ一旦軽井沢を経由させた? あまりに行動が無意味すぎる。

 

「……軽井沢に接触する必要があるな」

 

 軽井沢から聞き出せれば全て判明する。平穏とはかけ離れた思考に少し、嫌気がさした。

 

 

 




つ、づ、き、ま、せ、ん
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