退学者を出したら終わりの教室   作:ゴブリンの腰巾着

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第4話

 

「で、あんたはこの失態を取り返せるの?」

「失態? ハッ、なんのことだ?」

 

 船内のカラオケの個室。伊吹の追求に対して龍園は嘲笑った。

 龍園のとなりには金田とアルベルトが鎮座していた。

 

「あんだけ特別試験を放棄したことよ。あれのせいで私たち完全にクラス闘争でおいてけぼりになってんじゃない」

 

 最下位のDクラスのクラスポイントは615。時点でのクラスポイントは771。その差は156と致命的とまではいえないが楽観視も出来ない値だった。

 

「勘違いすんな。クラス闘争なんぞ端から興味ねぇ」

 

 だが、龍園からすればクラスポイントによる順位はどうでもよかった。どちらかといえば、今はCクラスに興味がある。

 

 軽井沢のあの問いかけ。単純に見れば失敗だった。あの疑問はどのクラスにも周知させてはならなかった。あれはリーダー当てに対する最強のカウンターになり得たのだから。

 

 軽井沢については龍園も知っていた。いち早くこの学校の仕組みを暴き、平田などのクラスの主要人物と協力することで被害を最小限に押さえた傑物。

 

 しかし、この段階にきて軽井沢への不信感が募る。確かにそんじょそこらの凡愚ではない。あの求心力は脅威的だ。けれどそれだけだ。軽井沢そのもののスペックは高くはない。

 

 その操られているようなちぐはぐさ。龍園は軽井沢の裏に何者かがいることを確信していた。そして、それが示す矛盾にも龍園は気づいていた。

 

 その瞬間、学校側から全生徒にメールが届いた。それは更なる特別試験を告げるものだった。

 

 龍園の顔が獰猛に歪む。

 

「この学校はずいぶんと暗躍するやつが多いな。たまんねぇ、全員引きずり出してやるよ」

 

*************************

 

 基本ルール

 

・全クラスを混合し、12グループ(十二支)に分けて行われる試験。

・各グループで1人だけ選ばれた「優待者」を特定することが目的。

 →優待者は、あらかじめ端末のメールにて選ばれたことが伝えられる。

・メールの改変やコピーは禁止

・試験期間中、1日に2回グループで集まり、1時間の話し合いを行う。

 

・試験終了後の30分間に、自身のグループの優待者が誰かを学校にメールで回答する。その正誤によって結果が出る。

→試験終了前に、優待者を見抜いて回答することも可能。

 

 勝敗、結果パターン

 

1.潜伏している優待者を正解できれば、グループ全員に50万ポイント(優待者には100万ポイント)が与えられる。

 

2.逆に、1人でも優待者を当てられなかった場合、優待者のみに50万ポイントが与えられる。

 

3.優待者以外が試験終了前に優待者を回答して当てた場合、そのクラスにクラスポイント50ポイント。

さらに、優待者を見抜かれたクラスに-50クラスポイント。その時点で試験は終了。

ただし、優待者と同じクラスが回答した場合は無効となり、試験は続行。

 

4.優待者以外が試験終了前に優待者を回答して外した場合、回答者の所属クラスは-50クラスポイント。

さらに、優待者に50万プライベートポイントと、所属クラスが50クラスポイントを獲得。

優待者と同クラスの回答は無効となり、試験は続行。

 

*************************

 

 1回目の話し合いに参加しながら、今回の特別試験の勝利条件を再確認する。

 

 今回の試験は学年単位でのクラスポイントの減少は発生しない。だからといって放棄していいわけではない。

 重要なのはAクラスの葛城に更なる功績を与える。綾小路と不可侵条約を結ぶ。この2点だ。もちろん理想を言えば全グループ結果1にするのがベストだが、龍園が法則を見抜いている時点でこれは成立しない。

 

 前者については、坂柳が表舞台に上がるのを阻止するのが目的だ。ここで葛城が更なる功績を打ち立てれば坂柳の陣営から人が流出し、坂柳の暗躍の難易度が上がる。

 

 後者については、俺の綾小路への評価が起因している。俺は綾小路清隆を最大限警戒している。

 

 しかし、同時に綾小路は退学者を出したがらないと俺は見ている。

 

 その何よりの証拠があの屋上事件だ。あの事件は龍園を退学させるには十分すぎた。だが、結果として龍園は退学してない。

 綾小路には龍園を残す理由がないはずだ。なのに残した。これは考慮に値するはず。更には、一之瀬の問題にも綾小路は関わっていた。

 

 そもそもにおいて、俺は麻痺しているが学生にとっての退学の意味はかなり大きい。いくら退学にすることが出来るといっても、まともな良心を持つ人間ならその判断は下さないはずだ。

 

 綾小路が俺を敵とみなす理由がない。だが、協力する義理もない。ゆえの不可侵条約。

 

 そのためには軽井沢を使う。軽井沢には綾小路に脅された場合は事情と取引内容の書かれたメールを見せろといってある。

 

*************************

 

 綾小路は軽井沢を手駒に加えてから、本命の問いかけを投げ掛けた。

 

「お前を裏から支配してる存在は誰だ?」

「……ほんとに未来が見えてんじゃない」

 

 軽井沢の不自然な嘆息に、綾小路は瞠目する。そこで軽井沢はとあるメールの画面を見せつけてきた。

 

 そこにある情報を1つずつ咀嚼していく。

 

 黒幕の正体は柴田だった。

 

 これ事態は想定の中にあった。だが、もう1つの方は綾小路からしても予想外だった。

 

「Dクラスへ実害を出さないことを条件とした不可侵条約か」

 

 綾小路からしても悪くない条約だ。平穏な学校生活を求めている綾小路からすれば、外で勝手にやっている分にはどうでもいい。

 しかし、懸念点があるのは事実だ。

 

「ずいぶんと準備がいいな」

「……あいつ未来が見えているみたいに指示するのよ」

 

 少し考える。

 

 以前茶柱に次の特別試験の情報を売ってくれと言った際は、1000万ppが必要だった。

 

 柴田はその情報を手に入れたのだろう。だが、この俺へのメールに関しての説明がつかない。

 

 行動が読まれるようなミスをしたつもりはない。考えられるのは、あいつが自分より格上である可能性。

 

 綾小路は最上の教育を受けた自分が高校生レベルで見たとき、実力がトップクラスであると自負している。そんな自身の敗北。それはホワイトルーム、ひいてはあの男の否定に繋がる。

 

 そうなる可能性に、綾小路は期待していた。

 

 柴田に直接あって話したいという旨のメールを送る。返信はすぐだった。簡潔な文で個室のカラオケを指定してきた。

 

「今から柴田のもとへ行くことになった。軽井沢にも来てもらう。いいな」

「……拒否権なんてないんでしょ」

 

*************************

 

 俺はカラオケに来ていた。

 これから綾小路が来る。気を引き締めていかなくてはならない。

 そう覚悟を決めると、綾小路と軽井沢が来た。

 

「すまん、少し遅れた」

「大丈夫だ」

「……いつものは演技だったんだな」

「演技、というほどのものでもない」

 

 軽井沢もいるのにいつもの俺を演じても意味はないだろう。

 

「早速だが、契約内容を詰めていきたい。問題ないな」

「ああ、問題ない」

「その前に確認したいことがある。柴田、お前の目的はなんだ? 本来競い合うクラスへの情報提供。お前の行動はこの学校においては異端だ」

 

 ここで嘘をつく理由はない。

 

「同学年から退学者を出したくないだけだ」

「退学者を出したくない? なぜそう思った?」

 

 参った。俺はこれを説明することが出来ない。馬鹿正直に退学者が出たらループが始まるから、退学者を出したくないと言っても信じられないだろうし、最悪、関係を拗らせてしまう可能性もありうる。

 

「──悪いが説明は出来ない。これは俺の個人的な問題だからだ」

「……わかった。なら聞かないでおく」

 

 それから、契約について詳細を詰めていった。といっても、俺から綾小路を縛る契約は結ばない。俺が軽井沢を使ってDクラスのクラスポイントを減らさない。もし破ったなら、俺が退学する。

 完全に俺が不利な契約。綾小路は当然、疑問を呈してきた。

 

「いいのか? この内容だと俺を縛るものはないぞ」

「……俺は、最初の1回は人を信じるようにしている。信頼の証だとでも思ってくれ。それにお前にこの契約を無視するメリットはないはずだ」

 

 もちろん別の思惑もある。そもそも、行動を契約で縛るのはかなり難しい。解釈によっていくらでも内容が変わるからだ。

 

 なら、いっそのこと結ばなければいい。綾小路のあの表に出ようとしない方針から、こちらから関わろうとしなければ相手にされることもないはずだ。

 

「……わかった。その信頼の証、受け取っておこう。俺はお前に干渉しない」

「成立だな。……軽井沢も、よろしく頼む」

「……まぁ、脅されているから」

 

 それから軽井沢を帰らせ、綾小路と一緒に先生に契約書類を提出しに来ていた。

 

 何もかもが順調だ。うまくいっている。

 このループで終わらせることが出来る。俺はそう確信していた。

 

「綾小路……契約とは別で、また俺や神崎と遊んでくれないか」

 

 だからだろう。俺は人並みの幸せというものを求めていた。たぶん、安藤のせいだろう。

 

 綾小路はよく分からないやつだが、少なくとも悪いやつではない。だから、俺が作った仮初の友人関係を本物にしたくなった。それが、この地獄で残ったものになると信じて。

 

「勿論、構わない。むしろ俺からも頼む」

 

 綾小路はいつも通り無表情で頷いた。

 

*************************

 

「……平穏、か」

 

 綾小路は試験結果の表示された端末を見ながら、呟く。

 

 子(鼠)──裏切り者の不正解により結果4とする 

 

 丑(牛)──裏切り者の正解により結果3とする 

 

 寅(虎)──裏切り者の正解により結果3とする

 

 卯(兎)──裏切り者の不正解により結果4とする

 

 辰(竜)──裏切り者の正解により結果3とする

 

 巳(蛇)──優待者の不明により結果2とする

 

 午(馬)──裏切り者の正解により結果3とする

 

 未(羊)──裏切り者の不正解により結果4とする

 

 申(猿)──裏切り者の正解により結果3とする

 

 酉(鳥)──裏切り者の正解により結果3とする

 

 戌(犬)──裏切り者の正解により結果3とする

 

 亥(猪)──優待者の不明により結果2とする

 

 以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下となる。

 

 Aクラス……マイナス50cp  プラス100万pp

 

 Bクラス……マイナス200cp 変動なし

 

 Cクラス……マイナス50cp プラス100万pp

 

 Dクラス……プラス250cp プラス50万pp

 

 この試験によるクラスポイントの変動は以下となる。

 

 Aクラス 1251

 Bクラス 974

 Cクラス 721

 Dクラス 855

 

 まさしく波乱の展開だったと言えるだろう。DクラスはCクラスに、CクラスはDクラスへ。奇しくも入学当初の形に戻ることとなった。

 

 今回は柴田の想定通り。だが、柴田の想像の外側では確かに小さな歪みが生まれていた。

 

 柴田颯。

 綾小路の彼の評価は『平凡』だった。勿論、結果だけを見たなら平凡とはとても言えないだろう。しかし、直接接した綾小路にしか分からない感覚があった。

 

 ──柴田には天才特有の気配が存在しない。

 

 例えるなら、凡人が天才になろうとしている。それもマイナス方面の動機だと綾小路は推測し、それは的中していた。

 

 天才になる必要があり、けれど平穏への憧れを捨てられない。

 綾小路は期待していたものとは違ったことに落胆したが、シンパシーのようなものを感じていた。

 

 平穏を求める綾小路と、平穏を捨てられない柴田。

 

 平穏を捨てようとしてまで何が柴田をそこまで駆り立てるのか。綾小路には不思議だった。

 

「……気になるな」

 

 思えば、綾小路がホワイトルームから逃げ出しのも、俗世間を知りたいという知的欲求だった。

 それと同じものを柴田に対して感じる。

   

 綾小路は鮮烈な予感を感じる。柴田颯を学習した先に、求めてきた平穏、その意味がある、と。

 




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