勝利のBoundary   作:てすん†G.NOH

5 / 15
♞ 約束のダーティスター ♞

 四月のマリーンカップをファン数不足で除外になった以外は、極めて順調な滑り出しを見せていた。

 五月、園田レース場にて行われたGⅡクラスの交流重賞、兵庫チャンピオンシップは一番人気に推され、最後方から差し切り三バ身半差をつけての快勝。

 続くリステッドクラスの鳳雛ステークスも敵なし、六月のGⅡ関東オークスも一番人気での一着。二着とは六バ身差をつけての圧勝で、七月、二度目のGⅠに挑戦することになった。

 舞台は大井レース場。ジャパンダートダービー。

 珍しく参加資格がクラシック級のみのダートGⅠである。

 

「出てきたな、ラヴァリーフリッグ」

「園田と川崎ではヘリオポーズに連敗してるからな。アドマイヤドンがいない今、ヘリオポーズを止められるのはラヴァリーフリッグしかいないだろう」

「なんとか地方の意地を見せて欲しいぜ」

 

 観客のそんな声が耳に入る。

 ここは大井。中央校と交流があるとはいえ、中央の管轄ではないレース場。いわばアウェー。

 地方に所属するラヴァリーフリッグを応援する声があるのも頷ける。しかし。

 

「ヘリオポーズ! がんばれー!」

 

 パドックに響き渡るヘリオポーズへの声援。大井でのレースは初めてだが、地方巡業を続けてきた結果がここでも現れていた。

 一番人気、ヘリオポーズ。

 ダートレースが主流の地方レース界において、ヘリオポーズは新時代を担うヒーローの一角として認識され始めていた。

 ファンの数も一万人を超え、ダートのクラシック級の中ではトップ人気といえるようになっている。

 

「だからこそ、恥じるようなレースはできない」

「わかってるよ、トレーナー」

 

 勝負服でストレッチしながら、ヘリオポーズは答えた。

 油断のない余裕。今年無敗の貫禄。GⅠ初勝利のかかったレースをこれからしようというのに、すでに勝利バであるかのような威厳。

 当然だった。全ては、アドマイヤドンと約束した場所までの通過点でしかないのだ。こんなところで立ち止まるなど、あり得ない。

 

 ——体力気力ともに充実してる。集中力も高い。

 

 確信する。今日の主役は「俺のウマ娘」なのだと。

 

「思い切り走ってこい、ポーズ。表彰台で待ってるからな」

「ひひひ、ウイニングライブで泣かせてやるよ、感動でさ。トレーナーの泣き顔は汚そうだから、表彰式では見せないでくれよな」

「言ってくれやがって、ほら。さっさと行ってこい」

 

『本日の出走ウマ娘たちをご紹介しましょう!

 二枠四番はラヴァリーフリッグ。

 本日の二番人気です。

 人気は譲りましたが気合十分、切れ味鋭い末脚が炸裂するでしょうか』

『展開次第では十分あり得ますよ』

『そしてこちらは四枠七番。三番人気のノムラリューオー』

『あまり調子は良くなさそうですね。頑張ってもらいたいところです』

『本日の一番人気です。五枠十番、ヘリオポーズ!

 一際高い歓声が上がります!』

『今年はまだ負けなしのウマ娘ですね。気合も十分、本日の最有力候補でしょう』

『さぁ、ここでTTF(東京トゥインクルファンファーレ)の五人が登場。

 クラシック級ダート王決定戦、ジャパンダートダービー! いまファンファーレです』

 

 小気味良いリズムで鳴り響くラッパの音色。

 それに合わせて鳴る手拍子たち。いやが上にも熱気が盛り上がる。

 十六人のウマ娘たちが一人ずつゲートに向かい、発走の準備も徐々に整っていく。

 

『TCR、東京シティレース。

 本日のメインレースです。

 農林水産大臣賞典ジャパンダートダービー。

 GⅠ、距離二〇〇〇メートル。

 バ場の発表は良と出ています』

 

 大外枠のウマ娘がゲートインを始め——

 

『さぁ全てのウマ娘がゲートイン完了しました、いよいよスタートです』

 

 緊張の一瞬。束の間の沈黙。

 

『スタート! シンボルオルシノ、これはいいスタートを切りました!

 このままハナに立ちます。

 その後ろからはテイルズトゥテール。この子も上がっていく。

 トレボロコロナは後方から。どういったレースを見せるのか。

 もう一度先頭から見てみましょう。

 キュアザレガシー、先手を取りました。デジタルピートはその外から。

 並んで十五番テイルズトゥテール、これに続くのがシンボルオルシノ。

 この辺りで各ウマ娘、第一コーナーにかかります』

 

 先頭を行く三人のウマ娘の他はバ群を形成し、ヘリオポーズとラヴァリーフリッグは最後方から展開を伺うこととなった。

 そのまま第二コーナーを回り、向こう正面へとなだれ込んでいく。

 外側を回っていたヘリオポーズはやや前に上がっていき現在十三番手、中団の外側に位置している。目の前には三番人気のノムラリューオー。

 

『先頭から最後尾までおよそ十バ身といったところ。

 先頭は依然キュアザレガシー。すぐ後ろにはデジタルピート。

 テイルズトゥテール、先頭を伺います』

 

 砂埃を舞い上げてウマ娘たちが駆けていく。ヘリオポーズは以前として後方気味。

 

『さぁ、第三コーナーに差し掛かり、前との差が詰まってきたか。

 キュアザレガシー、まだ粘っています。しかし後ろの二人とは差がほとんどないぞ!

 第四コーナーに入り各ウマ娘上がってきた!

 ヘリオポーズはこの位置。果たして前に届くのか!

 さぁ最後の直線、追い比べ!

 一番に抜け出したのはテイルズトゥテール!

 しかし外から勢いよくヘリオポーズだ! ヘリオポーズが来た!

 残り二〇〇メートルを切ってヘリオポーズ、後続をどんどん引き離していく!

 脚色衰えません、ヘリオポーズ!

 二番手はラヴァリーフリッグ、だが届かない! これは届かない!

 残り一〇〇メートル! これはもう決まりか!

 ヘリオポーズ、ヘリオポーズだ!』

 

 一陣の風のようにゴール板前を駆け抜けたのはヘリオポーズだった。

 

『ヘリオポーズG1初制覇!

 クラシック級ダートウマ娘の頂上に君臨しました!』

 

 二着のラヴァリーフリッグに三バ身の差をつけ、ヘリオポーズはジャパンダートダービーを制した。

 ライバルを迎え撃つために。約束したダートの頂点に立ったのだ。

 表彰式では、当然のような自信に満ち溢れた笑顔でヘリオポーズはインタビューを受けていた。

 

「ヘリオポーズさん、ライバルのアドマイヤドンに向けて一言いただけますか?」

 

 アドマイヤドンへの言葉を聞かれ、一瞬ヘリオポーズは黙る。何を言うべきか、なんて答えるべきか。

 アドマイヤドンは二月の共同通信杯を二着、三月のスプリングステークスを一着と健闘したが、本番の皐月賞ではシンボリクリスエスの二着に敗れた。適正距離を二〇〇メートルオーバーした日本ダービーでは八着に沈んだ。

 この間、アドマイヤドンに会っていないし話してもいない。

 

「ドン、聞いてるか。わたしは約束を守った。お前はどうだ。チャレンジャーとしての気概がまだ残っているな

ら、やることきっちりやって帰ってこい。クラシックダートのチャンピオンとして軽く捻ってやるからさ。JBCで待ってるからな」

 

 ——まるでプロレスのマイクパフォーマンスだな。

 

 なんてことを牧場は思った。こういうのはエルコンドルパサーが得意だった。

 

 ——ライバルがいればこそ、ウマ娘は空高く舞い上がることができるのかもな。

 

「今日のレース最高だったろ、トレーナー」

 

 控え室に向かう途中の地下道。得意げにヘリオポーズは胸を張る。

 

「最高だったよ。今日ほど砂まみれのポーズがかっこいいと思った日はない」

「感動するのはまだ早い。これからもっと感動するんだからな、トレーナーは」

 

 この後、レースで汚れた勝負服からステージ用のそれに着替えて、ウィニングライブが始まる。見た目は同じデザインの勝負服だが、細部に差異がある。そもそも、ステージ用のブーツに蹄鉄はついてない。レース用とステージ用で同じ服を二着用意するのは、ウイニングライブを最高に輝かせるためのシステムだ。そして今日のそのライブは昨年暮れ、センターで歌うヘリオポーズが見たいと泣きながらに思った曲でのウイニングライブだ。

 

「最高のライブにしてくるから、ステージのまんまえに陣取ってなよ。わたしにトレーナーのきったない泣き顔を見せてくれ」

「お前な……」

 

 笑いながら控え室に去っていくヘリオポーズを見送って、呆れながらも溢れる笑みを隠しきれぬまま牧場はステージの会場へと向かうのだった。

 最前列で「俺の愛バ」を見るために。

 

  モノクロで統一されたステージ。

 薄暗く、サイリウムの色だけが視界を彩る。

 やがてスモークが焚かれステージを満たしていくと、不意に白いライトが点灯し、ノイズ混じりのピアノの前奏が始まる。

 正面から歩いてくる三人のシルエットは、ヘリオポーズ、ラヴァリーフリッグ、そしてテイルズトゥテール。

 一気に照らし出されたステージとともにギターがかき鳴らされ、前奏は勢いを増していく。

 

UNLIMITED IMPACT

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ——これは、お前のための歌だ、ヘリオポーズ。

 

 どんな困難が立ち塞がっても、前に行こうとするのをやめない。

 全身全霊を持ってその道を突き進むその歌詞は、この一年半二人で頑張ってきたことの証明。

 挫折しかけた中で現れた突然の出会い。

 悔しさに唇を噛んだ日々。

 不意に失いかけた目標と、ぶつけられた挑戦者としての夢。

 交わされた約束——

 ヘリオポーズの見たかった姿を見れた。

 昨年暮れには悔し涙を流したが、今年の涙は誇らしさから流れた。

 そしてこれは、まさにアドマイヤドンへのエールでもあった。

 

「ウイニングライブの歌詞が、こんなにも胸に刺さるとは思わなかったな……」

 

 九月のセントライト記念まで間があるアドマイヤドンは、川奈トレーナーとともにここ大井へと足を運んでいた。約束を果たしていくヘリオポーズの姿が、日本ダービーで惨敗した心に勇気をくれる、そんな気がしたから彼女が観戦に行くことをを頼んだのである。

 川名は偵察という名目でそれを受け入れた。

 

「トレーナー。次のセントライト記念、私はきっと勝つよ。シンボリクリスエス(クリス)にこれ以上好き勝手させない。その後、いまあのど真ん中で調子乗ってるやつを討ちに行く」

 

 その誓いを胸に、ライバルの二人は一足早く学園へと戻るのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。