ルイズの魔法が失敗して迷惑をこうむっているが、悪びれない態度が一年続く→二年生に進級できなければおさらばできると思ったら成功→成功してしまったが今後魔法は爆発しなくなるだろう→やっぱり爆発して、呼び出した使い魔が犠牲になったにも関わらず悪びれない態度をとったから、お前も使い魔を失う気持ちを味わえ!→決闘に負けたから、もう文句は言わない→ルイズもここまで言われ、決闘騒ぎになった事でようやく反省する。
この流れなら、貴族VSルイズに召喚された使い魔という流れに出来ると思っていますがどうでしょう?
ルイズも悪いなぁと内心思っていたとしてもプライドが高すぎますから、こういう出来事でも無いと態度を変えるのは無理だと思います。
ちなみに原作の決闘で「頭を下げたくない」と骨折させられてもそう言っていたサイト君が、のちに頭を下げてティファニアを庇うというのは成長を感じられてすごく好きなシーンです。
ザナック王子から、内密に集まれという召集を受け、馳せ参じた高級官僚達。
マザリーニ枢機卿。参謀総長ウィンプフェン。陸軍将軍ド・ポワチエ。デムリ財務卿。ネルガル教導官。
今現在ザナック王子を支持しており、この時間まで残っていた面々は静かにザナック王子の言葉を待つ。
「集まったか。まず、知らせておかねばならないことがある。ウェールズ王子の身柄を確保した。」
ザナック王子の言葉を理解するのに閣僚達は、数秒の時を要した。
「「「「「…は?」」」」」
まずありえないと思っていた出来事。
一足先に我に返ったウィンプフェン伯が口を開く。
「ウェールズ王子が亡命し、それを、受け入れたと?開戦準備は完了したのですか?」
ザナックは首を横に振る。
「ラ・ラメー伯。空軍は空賊討伐をすることでフネを確保する、という作戦を行っていたな?」
「はっ。成果を着実に上げております。」
「そうだな。追い詰められた王党派が…空賊に扮して物資を確保していた事は?」
「初耳です。」
ようやく、話の内容を飲み込めたド・ポワチエ将軍が震えながら口を開く。
それが恐れか、怒りか。当の本人にもわからない。
「い、何時ですか?ウェールズ王子を迎え入れたのは?」
「本日だ。」
「つい先日も…空軍は出動していませんでしたかな?」
「その通りだ。」
変わってウィンプフェン伯が前に出る。
「殿下。空賊も馬鹿ではないので、鹵獲作戦については不定期に行うとしていましたが、余りにも期間が短すぎます。何故こうも立て続けに?」
「出さざるを得なかったからだ。アルビオンに行こうとしていたヴァリエール公爵令嬢を、連れ戻すために。」
「…こ、この情勢下でアルビオンに?」
それまで黙って聞いていたデムリ卿が口を開く。
「つまりヴァリエール公爵令嬢の勝手な行動のために、空軍を緊急出動。その結果、ウェールズ王子の身柄を確保してしまったという事ですか?」
「彼女にも事情があったのだ。」
「何ですか?いかに名門と名高いヴァリエール公爵家の令嬢とて、浅はかにも程があります。一体全体どういう教育をしているのかと、ヴァリエール公爵には問いたださねば。」
「彼女に罪はない…妹が、アルビオンに大使として行くよう『お願い』したからだ。」
ラ・ラメー伯、ド・ポワチエ将軍、ウィンプフェン伯、デムリ卿とネルガル教導官が硬直する。
代わって、マザリーニ枢機卿がようやく口を開く。
「いつ、何時ですか?しばらくアンリエッタ殿下と共に行動していましたが、ヴァリエール公爵令嬢と接触する予定はなかったはずです。」
「使い魔品評会の夜、部屋を抜け出して接触したそうだ。なんでも、幼馴染でお友達だから『お願い』したとの事だ」
「…友人に。現在内乱の国で、主な拠点が首都近郊にしか残っていない、劣勢の王党派に大使として行け?そう、『お願い』したのですか?」
「それも16歳で、魔法学院の書生にだ。」
絶句するマザリーニ枢機卿。
黙っていたネルガル教導官が思わず口を開く。
「息子と同年代ですな…。」
「そうか、ネルガル。ご子息は同年代か…。ネルガル、もしも私が貴公の息子にアルビオンの王党派に特使としてひそかに接触せよ、という『お願い』をしたらどう思う?」
「…何故息子にそんな大任を与えるのか、他に人員は居ないのか?それは必要なのか、という説明を求めます。一人の父親として、聞く権利はあるでしょう?」
「そう、か。そうだな…。ちなみに、他の人員としてワルド子爵が選ばれた。」
「?!そ、そうです!殿下、ワルド子爵の捕縛はどうなりましたか!トリスタニアで罠を張らせていたはずです!ワルド子爵でさえ逃れる術は…」
「ラ・ロシェールに行ってしまったので、急遽向かわせたが…。逃げられた。とりあえず、ヴァリエール公爵令嬢には既に話をつけて置いた。この事は漏らすな、と。これを知れば、ヴァリエール公爵家が最悪反旗を翻しかねん。」
名門ヴァリエール家の忠誠心を疑いはしないが、それぞれ我が子がこんな任務に巻き込まれそうになった事を想像して黙り込む。
その怒りは正当な物である上に、アンリエッタ王女殿下がやらかした事は極めて杜撰と言わざるを得ない。
「妹は、悪気があってやったわけではなく。ただ、自分の『お願い』を聞いてくれる者がヴァリエール嬢しか居なかったからお願いしただけだそうだ。」
「…王族の友達というのは想像以上に大任なのですな。理解しました。」
ザナックは閣僚を見渡して告げる。
「…心構えをして欲しい。明日、アルビオンが攻めてきてもおかしくない状況になってしまった。アルビオンが攻めてくれば兵は動揺する。だが、トップが泰然としていれば混乱は多少抑えられる。」
「それは、命令ですか?」
「違う。私からの『お願い』だ。」
流れる沈黙。完全な静寂となった謁見の間。
ややあって、ウィンプフェン伯が動く。
「…承知いたしました。もう夜も遅いので退席しても?」
ザナックが頷くと、ウィンプフェン伯は友人に目を向ける。
「ネルガル。久々に飲まないか?」
「今の話の後で、酒?おい、気は確かか?」
「明日以降、一滴も飲めなくなるぞ。というより、飲まねば眠れる気がしない。」
「それもそうだな。よし、飲むとしよう。」
その二人に、他の閣僚も声をかける。
「同行しても構わんか?」
「私も加わりたい。」
「構わんぞ、ド・ポワチエ、ラ・ラメー伯。デムリ卿はどうする?」
「御一緒させて頂きます。マザリーニ枢機卿は?」
「…いえ。自室で聖書を読み解きます。」
彼らはそれぞれ、安眠するために酒や聖書に逃避することに決めた。
ザナックも正直酒に逃げたい気分だが…。眠りにつくことにした。
―――――
黒を基調とした、高級酒場。韻竜亭。
トリステインの高級官僚も訪れる落ち着いた雰囲気のバーだが、大抵は部署ごとに分かれてやってくる。
トップだけ集まって来るという光景は、父から受け継いだ若い優男風のバーテンダーにとって初めての光景だ。
少し前に、空軍将校と財務の閣僚が同時に訪れていたが…。
「変わった組み合わせでいらっしゃいますね。」
「…いろいろあってな。」
「詮索しない方がいいぞ。仕事中だろうと飲みたくなるだろうからな」
「かしこまりました。当店はお酒をお出しする店。寛いでいただけたら幸いです。カウンターになさいますか?個室になさいますか?」
「個室で頼む。」
「かしこまりました。こちらへどうぞ。」
全員着席したところで、バーテンダーはいくつかの酒を用意する。
「こちら、タルブ赤ワインの19年物、ローゼンクロイツ白ワインの16年物になります。皆様、大変お疲れのご様子…おつまみはいつものを、すぐにお出ししましょうか?」
「そうだな。いつもの奴を頼む」
「かしこまりました。料理が揃いましたら、お持ちします。」
バーテンダーが去り、ドアを閉める。
ド・ポワチエは個室を見渡し、乾杯もせず酒を飲む。
それに煽られるように、ハイペースで杯を重ねる高級官僚達。
やや落ち着いたところで、ド・ポワチエは周りを見渡す。
「この店は信用できるが、何せ話が話だ。まだ、杖は振れるな?」
「当然だ。全然酔えない、実に不思議だ。」
「きっと、始祖のお導きであろう」
全員がディテクト・マジックを唱えて盗み聞きしている輩がいないことを確認。
「とりあえず、状況を整理するぞ。アンリエッタ王女殿下が、ヴァリエール公爵令嬢に『お願い』した。内容はアルビオンに大使として赴けと。それを知ったザナック殿下が、空軍を緊急出動させて連れ戻し、ヴァリエール公爵令嬢を襲っていた空賊を捕縛したところ、首領がウェールズ王子で捕縛して連行してしまった。ここまではいいな?」
改めて、本当に何という事をしでかした、と頭が痛くなる一同。
「…思うに。王党派が健在なうちにレコン・キスタをたたく、というのは道理では?」
「その通りだ、デムリ卿。だが昔からアルビオンに出兵した歴史はあるが、ことごとく失敗に終わっている。かの浮遊大陸に進撃するのはそれだけで難事業。参謀将校として言わせてもらうと、アルビオンへの侵攻は夢物語といっていい。」
「であれば、なおさら内乱のうちに介入するべきでは?」
「アルビオンが攻めてきたから戦うならまだしも、アルビオン一国の問題だ。何故トリステイン人がかかわらねばならん?という声が強い。それだけ、浮遊大陸への出兵は難しいのだ。」
「陸軍ゆえ知らなかったが、ラ・ラメー伯、空軍の空賊狩りは成果を上げていたようだな?」
「ザナック殿下の発案で始めた。フネは今後いくらあっても不足するようになる。数だけは揃えたいという事で活動していたが…アルビオンの王党派が空賊に扮して物資の確保に励むとは本当に想定外だ。今更だが、考慮はしておくべきだった。」
「言うな。ザナック殿下も貴公も想定していなかったのだからな。まぁその活動のおかげで、ヴァリエール公爵令嬢がアルビオンのレコン・キスタに捕らえられたり、死亡する事は避けられた訳か。それだけは僥倖だな。」
「そうなればトリステインが内乱になっていただろう。」
「杖を抜いた『烈風』の相手はド・ゼッサール殿に一任するとしてもだ。諸侯軍では数・質ともに最高レベルの兵を擁する。容易な相手ではない。」
この場にド・ゼッサール本人が知れば「小官に恨みでも?」と恨みがましく呟くであろうセリフを吐いて、ド・ポワチエは杯を呷る。
あのような擁護しようがない任務をされて、途中で死亡したり捕まったと知れば反旗を翻す可能性は十分ある。
そうなれば、もはやアルビオンどころではない。トリステイン存亡の危機だ。
「ネルガル教導官、先ほどは頭が回らなかったが、ワルド子爵が裏切りとはどういうことだ?」
「そのままの意味だ。レコン・キスタと接触した情報をつかんだ。情報を横流しした証拠もある。」
「グリフォン隊の近衛隊長が、か?」
「その通りだ。ちなみに、話に出てきたヴァリエール公爵令嬢とは婚約している。」
「わからん。ヴァリエール家の後ろ盾を得て国政にも入れるのにレコン・キスタに?」
「そこまではわからんよ。ただ、裏切った以上いずれ討たねばならん。風のスクウェアメイジだからな、かなり苦戦を強いられるだろうが…水精霊騎士隊で仕留めきれなかった以上、ゼッサール殿と共に当たらねばならんだろう。」
「さて。ウェールズ王子の身柄を確保してしまったわけだが。」
「ウィンプフェン伯、その言い回しは間違っているぞ。確保したわけだが、が正しい。酔ったか?」
「意外だな、ド・ポワチエ。貴公は確保したかったのか。」
「そんな訳無いだろう。」
「そうだな…。とりあえず、最悪のケースを考えるとしよう。何がある?」
「明日、激怒したアルビオン艦隊がラ・ロシェールめがけて侵攻。そのままトリスタニアに侵攻してくる。どうだ?」
「…考えうる限りでそれより悪い状況は無さそうだな。…連中が交渉してくれる可能性は欠片も無いか?」
「内乱直後だ、ありえない話は無い。だが、いつウェールズ王子が軍を率いて祖国奪還にいくかわからない以上先手を打ってもおかしくない。」
この中で、財務を担当しているデムリ卿が口を開く。
「そこですが。アルビオンへの侵攻は非常に難しいと思われている以上…。レコン・キスタ側も攻めるよりも攻められない事を考えるのでは?」
「む?」
「モード大公は財務を担当、それを粛清した混乱とその後のレコン・キスタによる内乱。レコン・キスタは貴族の集まりである以上、その資金は各貴族の持ちよりでしょう。財源はありますかな?」
「待て、デムリ卿。資金であれば王党派から奪った物で賄っているのでは?」
「それで賄えた時期があったとしても、もはや限界。残る王党派の拠点はわずかである以上、得られるものも少ないはず。仮にあったとしても、物資の確保で目減りしていないとおかしい。」
「何故だ?」
参謀将校、陸軍の将軍、空軍の長、士官の教導官。彼らは補給の重要性を理解している。
理解しているからこそ、資金面で問題なければ物資も当然問題ないはず。そういう認識をしていた。
「レコン・キスタは物資の徴発など不可能ですからな。」
「討ち取った王党派の領地から奪うくらいはするだろう?」
「それはない。何故なら彼らの中にモード大公の派閥が加わっているから。物資を略奪するなど、そこを統治している貴族やのちに領地持ちになりたい貴族は阻止する。民が困窮した土地の統治などしたくない。つまり、物資は金を出して買うしかない。」
「だとしても、目減りはしていないだろう?」
「ご存じかな?アルビオンの小麦の価格は粛清前の8割増しですぞ?ああ、肉類は倍だそうで。」
「「「「はぁっ?!」」」」
軍の要職についている面々だが、食料の物価まで把握はしていない。
鉄、硫黄、水の秘薬や風石など、戦闘に直結する物資であれば把握しているが…食料やトイレについては補給部隊の管轄になっているからだ。
「ガリア産の硫黄が黄金と同じ価格で取引されているとは聞いていたが…小麦でそれか!」
「その状況で物資の徴発もできず買わねばならんとなれば、資金繰りも厳しかろう。」
「そんな状態で外征、は向こうとしても避けたいだろう。」
「そういう状況です、アルビオンの食料事情は。ザナック殿下の施策で、農産物の生産力が急激に成長したトリステインが連中にどう見えているのやら…」
「つまり、財務卿としてはレコン・キスタの内情はガタガタ、王党派が健在なうちに叩いてしまえと?」
「参謀総長殿の考えは違うようですな。アルビオンへの出兵自体、難易度が高すぎる、と…。」
「いずれアルビオンは攻めてくる。その時にどうやって撃退するかを陸軍は考えていたが…」
「そうなのか?空軍としてはどうやって攻め込むか、を考えていたが。」
考えの違いを聞いたネルガルは自嘲する。
「なるほど、ザナック殿下がアルビオンの内乱にトリステイン人が参加する事を反対するわけだ。このメンツでさえ意見が割れるのだから、我々より下がどういう状況か考えるまでもない。」
ザナック王子から聞いた衝撃的な内容から、ヤケ酒のつもりで集まった閣僚達はこの会合で気づいた。
自分とは違う分野の専門家であれば、別の視点から状況を見れる。
財政状況からみたレコン・キスタの状況など、参謀総長のウィンプフェン伯は想定すらしておらず、一方で軍事に疎いデムリ卿にとって軍事関係者の本音を聞けたことは大きな収穫だ。
財務官吏と軍人は普段から不仲なのは、言うまでもない。
「…アルビオンが宣戦布告して、ようやくトリステインがまとまれるという訳ですか。なんとも歯がゆい。」
「連中の掲げているのがジェームズ王を討つだけではなく、王政の打破と聖地奪還。であれば、いずれトリステインに来ることは明白なのだが。」
先手を打つにも、国内の反対は根強い。
こうして話し合って、彼らはある程度落ち着く。
それと同時に、彼らは一つの認識を共有した。もしもザナック殿下に何かあれば、アンリエッタ王女が即位する事になるのだ、と。
この夜。ザナックを即位させるというのが彼らの共通目標になった。
礼儀正しくノックされる。
「失礼します。料理をお持ちしました…。」
並べられる料理の数々。
「これだ。他でも食べることはできても、ここのあぶり鶏は別格だ。」
「あぶり鶏?」
「知らないのか、デムリ卿。これは鶏に野菜やキノコを詰め、下味をつけて香草を巻いて焼き上げた物だ。」
「デムリ卿、それはワイン煮込みか?」
「じっくり煮込まれていて、ここに来るときはたいてい注文しますよ。ウィンプフェン伯とネルガル卿、それはいったい…」
「これか?魚貝類の油炒めだ。パンに浸して具材と一緒に食べると旨いぞ。」
「ラ・ラメー伯、それはウナギサンドか?」
「そうだ。ウナギはシチューにするところもあるが、燻製に勝る調理法はあるまい。」
「よい機会だ、色々試してみよう。」
―――――
数日後。
ジェームズ王が討たれ、神聖アルビオン共和国が建国を宣言。
その知らせは、大きなうねりとなってハルケギニアを襲う。
トリスタニアの謁見の間。そこに、空軍司令のラ・ラメー伯の息子、ラルフは呼び出されていた。
「この度は、空賊の捕縛に尽力した貴公の働きぶりを表して、勲章を授与する。妹よ」
「はいっ!」
美しいトリステイン王国の姫君から直々に勲章を授与されるという栄誉を、ラルフは受ける。
「ありがとうございます!」
「実に、実によくやってくれた。ああ、本当によくやってくれた…。」
目に隈が出来ているザナック王子。対照的にアンリエッタ王女は輝くような笑みを浮かべている。
「…さて。勲章授与も終えた。さて、紹介しよう。この度、トリステイン王国の預かりとなった空賊の長。ちなみに、私の従兄だ。」
「?!」
ラルフは驚愕する。
ドアが開いて入ってきたのは髪の毛の色こそ異なるが空賊の長だった。それが、アルビオンの王族?!
ちょっと待て。もしかして俺、何かやらかしました?
「アルビオン王家に伝わる風のルビーを所持していた。」
「で、殿下?!」
「どうした、ラルフ卿。」
「恐れながら、ウェールズ王子がいらっしゃるということは、神聖アルビオン共和国が明日にでもラ・ロシェールへ侵攻するのでは…?」
「引き渡せば、今後、我が国は空賊を討伐してもその戦利品を引き渡せと要求されるようになるだろう。それは飲めない…。」
「空賊を捕らえれば、フネの頭数を確保し、物資を鹵獲できる。ということもあって我ら空軍は殿下の支援のもと、行動しておりましたが…。」
「裏目に出たわけだ。ディード、セミラミス、ゼノビア。どれも空賊が使用していたフネ…。この活動により、フネの建造にかかわる予算を大幅に減らすことができた。そうだな?デムリ卿」
「はい。あの夜はラ・ラメー伯および空軍の将校と財務省の者が集まって、高級な酒場に繰り出しました。確か殿下から、お祝いとしてローゼンクロイツ産のワインを樽ごと頂きましたな。」
「そうだったな。楽しんでくれたようで結構なことだ。さてさて…こうなることは想定外だ。財務卿はどうだ?」
「恐れながら殿下。この日が来ることを予想できる者など、始祖ブリミル以外おりませぬ」
ここにきてようやく、ようやく話を飲み込めたラルフの顔色が白くなる。
明日、戦争になってもおかしくなくなった事態を招いてしまった事に気づく。
「も、もも申し訳ありません!」
「貴公が謝ることではない。軍人として命令されたことを遂行して、貴公を咎めたりはせん…。」
ラルフはちらりと父親に目を向けるが、泰然としている。
ここにきて初めて事情を知った次官や部下はそれぞれ自分の上司の顔を窺うが、平然としていることで何かしらの対策がすでにあるのだと判断して安心する。
一方で高等法院の長、リッシュモンは呆然としており、その派閥の貴族も動揺する。
「ざ、ザナック殿下!聞いておりませんぞ!」
「そうだろうな。私も把握したのはつい最近だ。」
「そ、即刻引き渡すべきです!さもなくば、レコン・キスタが攻めてきますぞ!」
「連中が王政の打破を掲げている以上、いずれトリステインに来ることは明白。違うか?」
「だとしてもです!」
その心境は理解できる。まだ戦争準備は整っていない。
「神聖アルビオン共和国が取ってくる道は2つ。一つ目は、このままトリステイン王国への侵攻。こうなったらもはや戦って撃退するしか道はない。二つ目、不可侵条約を締結し、時間を稼いで内乱で疲弊したアルビオンの立て直し。これはこちらとしても守りを固める時間が得られるということで、双方にメリットがある。」
「殿下は、どちらを取ってくると?」
「ん?ああ、従妹姫の派閥および、アルビオンが疲弊しているのであれば不可侵条約を打診してくるだろう。クロムウェルの勢いが強ければ、戦争だろうよ。私の親愛なる従妹姫の健闘と、始祖に祈るとしよう。」
「会議中、失礼します!」
「入れ。」
「神聖アルビオン共和国から不可侵条約の打診が参りました!」
「案内しろ。」
去っていく部下を見送って、ザナックは周りを見渡す。
「とりあえず、クロムウェルの影響力はそれほど大きくないようだな。ウェールズ王子、席を外してもらう。居たら条約締結が進まない。」
「わかった。」
―――――
不可侵条約の締結を行い、ザナックは空賊の長を呼ぶ。
「さて、答え合わせをさせてもらう。」
「なんの答え合わせかな?」
「王党派が次々と突破された要因。それは部下の離反にあったが…。その共通点があった。この布陣、このバツ印をつけているところの部隊が離反した、そうだな?」
「…その通りだ。」
「全て、河川沿いだな。そして、この部隊については、飲料水をこの井戸から得ていた。」
「?!ま、待ってくれ!ということは!」
「レコン・キスタは水に何かを混ぜることで、王党派を次々と離反させていた。」
ザナックの指摘に、ウェールズは動揺する。
「あ、ありえない!一体どれだけの魔法薬が必要になると!」
「アンドバリの指輪。」
「アンドバリ?」
「ラグドリアン湖にあった水の精霊の秘宝。死者に偽りの命を吹き込み、心を操るという…。もっとも、無制限に使えないようだがな。使えるなら、全ての部隊を寝返らせているはずだ。」
「…そんな。いや、だがしかし、それなら離反も…」
「水の精霊は、盗賊の一人が『クロムウェル』と呼ばれていたと証言している。気づけていれば作戦は立てようがあったかもしれんが、な。」
ザナックはその明晰な頭脳を働かせる。
来るべき、神聖アルビオン共和国との戦いに備えて。
だがその前に。やらねばならないことがある。
アンリエッタと、OHANASHIだ。
―――――
「あらお兄様。どうしたのかしら?」
「アンリエッタ。お前に話しておかなければならないことがある。レコン・キスタと戦うための方策を巡るよりも、重要だからだ」
ザナックは、内心呪文を唱える。『ラナーよりマシ、ラナーよりマシ、ラナーよりマシ』
心は落ち着いた。ラナーの幻影が頬を膨らませて、『アンリエッタよりマシでしょ!』と怒っている。
どっちもどっち、というのが今のザナックの心境だ。
「援軍は間に合わない以上、王党派に亡命を促そうとしていたのか?」
「だとしたら、どうだというのです。ウェールズ王子が亡命しようとしまいと、反徒はいずれトリステインに攻めてきます。連中は王政の打破と聖地奪還を目論んでいるのですから」
「そうだな。そしてウェールズ王子を亡命させる使者に、ヴァリエール嬢を選んだわけか。」
「ええ。大切なお友達ですもの。」
「友達ぃ?都合の良い駒の間違いだろう?」
「お兄様っ!言葉が過ぎます!」
口元には笑みを浮かべているが、冷え切った眼でザナックは妹を見る。
「事実だろう?昔からの遊び相手を務めた幼馴染だから、どんな頼みをしても断らない。これが都合の良い手駒でないというなら、なんだというんだ?」
「そんなことは!」
「ワルド子爵はさぞや笑いが止まらなかっただろうな。ろくな手土産が無い状態でレコン・キスタに亡命しなければならなかったが、婚約者であるヴァリエール嬢を連れ出せる。そうすればどうなる?」
「どう、って…」
「娘を人質に取られたヴァリエール公爵家はどう動く?」
「き、決まっていますわ!恥知らずなレコン・キスタと」
「本当にそう思うか?アルビオンに行くようアンリエッタが『お願い』したのに?」
「?!」
「レコン・キスタに策士がいれば、ヴァリエール嬢にこう書かせるぞ。『アンリエッタ様からのお願いでアルビオンへ特使として派遣されましたが、道中でレコン・キスタに捕縛されてしまいました。』と。それをヴァリエール公爵家に届ければ、何故娘をアルビオンに送り込んだのか?他に人員は居なかったのか?そもそも、どういう経緯でそうなったのか問いただしに来る。今のような説明をして、ヴァリエール公爵が受け入れるとでも?」
「も、もしかして、ヴァリエール公爵が反乱を?!」
「いずれにせよ、王家とヴァリエール公爵家の信頼関係は崩れ去る。だから俺は空軍を緊急出動させてでも、ヴァリエール嬢を連れ戻した。お前の言う通り、レコン・キスタはいずれトリステインに攻めてくるだろう。だが、まだトリステインは戦争を行える態勢が整っていない。それに、アルビオンへの出兵は過去何度も失敗していて、反対する勢力が多い…。いずれは、アルビオン本国を叩かねばならないと思っているが。」
ようやく、自分が何をしてしまったのかをアンリエッタは自覚する。
「アンリエッタ、お前は俺と同じ王族だ。その自覚を持て。俺たちの言動で、大勢の人が死ぬかもしれないんだ。わかったな?」
さめざめと泣いたアンリエッタは、ややあって頷く。
「今回はなんとか乗り切った。だが、次は取り返しがつかないかもしれない。すまなかった。俺はお前を蔑ろにしていた…。以降は、俺も気を付ける」
―――――
ザナックは妹の部屋を出て、閣僚を呼ぶ。
「妹には言い含めて置いた。もう過ちを犯すことは無いだろう。」
「そうあってほしいものですな。」
「これ以上、追い詰めないでもらいたい。」
「…わかりました。ザナック殿下。」
「酒場に繰り出したそうだが、代金は俺が」
「「「「「いいえ。結構です。」」」」」
奢ってもらおうとは、彼らは微塵も思わなかった。この事実はヴァルハラまでもっていくつもりだが、同じようなことがまた起こされてはたまらない。
この一件については水に流すつもりは、無い。
ザナックはその後、何食わぬ顔でレコン・キスタと不可侵条約を締結。
表面上、平穏が訪れることになる。
―――――