トリステイン王子、ザナック!   作:交響魔人

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後世のトリステイン史。~アンリエッタ王女殿下の決断編~


『当時、空賊に扮して補給路を寸断していたウェールズ王子の活動を見抜いたアンリエッタ王女殿下は、アルビオン王家の血筋を残しつつ、王党派を味方につけるべく行動を起こした。ラルフ提督はアンリエッタ王女の密命を受けて緊急出動し、ウェールズ王子の身柄を確保した。ウェールズ王子の身柄を確保すれば、勢いのある共和主義者の侵攻を招く恐れがあり、反対の声は大きかった。だがザナック王子と閣僚は、共和主義者の資金がすでに乏しいという事実を見抜いており、秘密裏にこの行動を支持した。
今のアルビオン王朝があるのは、アンリエッタ王女殿下の決断と行動、それを支えたザナック王子によるところが大きいのである。』

こんな感じに脚色されて記されるのでは無いでしょうか?事実をありのままに書かないでしょうし。


リリーシャ・モードの憂鬱

 ロンディニウムから落ち延びた王党派は最後の城、ニューカッスル城に立てこもるも陥落。

 ジェームズ一世は、自爆して果てた。

 

 

 王政を打破した!革命を成し遂げた!神聖アルビオン共和国の樹立はなった!とレコン・キスタの幹部は騒いでいる中、リリーシャ・モードは虚無感にとらわれていた。

 自分は、何をしているのだろう?父の仇を討ったが、なぜ伯父上がそんな蛮行をしたのかという真意は分からずじまい。

 それでも、アルビオンの再建を達成するべく行動するという使命感があるおかげで、前に進むことはできている。

 

 

 

「リリーシャ護国卿!」

 

 

 そう呼ばれ、リリーシャ・モードは振り返る。

 クロムウェルを皇帝とした神聖アルビオン共和国。その中にあって次席という地位を得ていた。

 様々な戦いにおいて、統率力と軍事的手腕、占領地域を統治する者の人材配置で、レコン・キスタを大いに支えた功績のためだ。

 

 

「不可侵条約は締結したが、不備でも見つかったか?」

「ウェールズ王子が、トリステインに亡命していました!」

「?!ニューカッスル城にいないと思ったら!即座に召集を!」

 

 

 リリーシャが即座に召集をかけて数十分後。

 王都ロンディニウム、ハヴィランド宮殿のホワイトールには緊急召集を受けて閣僚が集まっていた。

 

「集まってもらったのは他でもない。ウェールズ王子がトリステインに亡命していたという知らせが入った。」

「?!おめおめと逃げていたか!」

「即座に出撃を!ボーウッド提督、今、動員をかけれるフネは!」

「レキシントン号と、20隻の戦艦を出せます。火竜騎士団についても、2大隊は即座に出せます。」

 

 

「ならば今すぐ出撃を!」

「そうですぞ、トリステインの軍勢を率いていつ戻ってくるか」

 

 

 リリーシャ・モードは、目の前の机を派手に叩く。

 騒然としていた神聖アルビオン共和国の重鎮達は、一斉に静まる。

 

 

「不可侵条約は締結したばかりだ。こちらから破ってどうする!」

「リリーシャ様、放置は出来かねます!」

「分かっている!だが、この財政でトリステインと戦えば財政が破綻する。故にトリステイン王国に対し、ウェールズ王子の引き渡しの要求を行う。その対応次第で次の手を打つ。」

 

 

 トリステイン王国の軍事を司るトップは気づけなかったが、デムリ卿はレコン・キスタの資金面に関する内情を的確に見抜いていた。

 彼の推測通り、レコン・キスタの財政はカツカツ。財務を担当していたモード大公の遺臣が財政を最大限に効率化してようやく維持している有様。

 

 

 しかも不可侵条約を持ち掛けた以上、攻撃する名分は無い。だが、ウェールズが亡命したなら話は別。

 

 その言葉を受けて、閣僚たちはざわめく。

 

 

「手ぬるい!この際、一気にトリステインを攻め取ってしまえばいい!天候に恵まれ豊作だったらしく、今は羽振りが良い。トリステインを制圧し、王家と貴族から領地と財産を、平民に重税をかけて絞りとれば諸問題は解決する!」

「さよう。いまだに婚約者もいないザナック王子には、支持者も少ないに違いない!この勢いのまま進むべきだ!」

「そうだ!聖地奪還の大義のために、足止めなどしていられん!」

 

 

 クロムウェルの派閥である閣僚は違う。さらなる領土と財宝を得ることに心を砕く者、革命を推し進めたい者、聖地奪還という夢に蝕まれた者。

 彼らは欲望と野心の赴くままに、侵攻を主張する。

 

(父の粛清と、その後の内乱で疲弊しきった今のアルビオンに、内政に力を入れていたであろうトリステインを切り取れるわけが無いだろうに!)

 

 そう思うリリーシャは、どうやって説得したものか考えをめぐらす。

 

 そんな中、伝令が入ってくる。

 

 

「も、申し上げます!ウェールズ王子は、亡命しておりませんでした!」

「なっ?!」

「空賊として活動していたところを、トリステイン王国空軍に捕らえられたとの事!」

「なんということ…。」

 

 

 リリーシャ・モードは崩れ落ちる。

 事態を把握した、ジョンストン卿も同様に項垂れる。

 

「どちらにせよ、トリステインに引き渡しを」

「いや、それは出来ない…。空賊として名をはせた『凶鳥』、連中は各国を荒らしに荒らしまわって、最終的に後の初代クルデンホルフ大公によって討伐されたのだが…。各国から宝物の引き渡しを求められた際に、各国が奪われた宝物の価格に色を付けた結果、『凶鳥』の総資産の10倍の額になった。空賊を討伐したのに破産する!と泣きつかれた事でロマリア教皇は、『空賊を討伐した際の捕虜および財産は、討伐した者及び国家に帰属する』という条約を結ばせ、その後、宝物を各国が『買い取る』という形でまとめたのだ…。」

「と、いうことは…」

 

 ジョンストン卿の解説を聞いた閣僚は、リリーシャ護国卿に目を向ける。

 

 

「トリステイン王国としては、悪しき先例を作れないから引き渡しを拒否する。そもそも神聖アルビオン共和国が引き渡しを求めてしまえば、今後、空賊を討伐した際に金品の引き渡し云々で揉めに揉めることになる…!かといって、放置すればウェールズはトリステインやガリアで手勢を集めて再度侵攻をかけてくる可能性が高い…!」

「悠長な!もう攻め込んで切り取ってしまえばいい!そうなれば」

「そもそも、ジェームズの粛清とその後の革命戦役で多くのメイジを失った。この状態では、例えトリステインを制圧してもゲルマニア軍が動いて取り戻されてしまう!」

「ゲルマニアがどれほどの物か!来るなら叩き潰せばよい!我らには空軍がある!」

「では問おう。トリステインを攻めて、『烈風』が出てきたらどうする?」

 

 

 その言葉に、シン、と静まり返る神聖アルビオン共和国の閣議室。

 リリーシャ護国卿と同時代のアルビオン人は「悪いことをしたら『烈風』が来るよ!」と叱られる世代である。

 

 『烈風』本人が聞けば、憮然とした表情を浮かべるだろう。

 

 

「そ、それは。ホーキンス将軍!」

「そうだ、貴公ならば!」

「…恐れながら、かの伝説がいまだ生きているとは…」

 

 歴戦の将軍でも、『烈風』と戦って勝てるとは断言できない。

 

「だが、死亡したという確証もない。」

 

 

「何を!リリーシャ護国卿!革命を達成した今の勢いがあれば、伝説だろうと」

「革命を達成したが、粛清と内乱でアルビオンの国土は荒れ果てている。資金も物資も不足している。まず再建を優先せねば、補給すらままならない!」

「補給?現地調達すればよいではないか!豊作なトリステインであれば可能だ!」

 

 

 その発言をうけ、欲望に目をギラギラさせる閣僚たち。

 補給という概念すらない、初期に参加しただけで今の地位を得て、ことあるごとに物資の徴発を行おうとする男に怒りをにじませるリリーシャだが。

 

 

「し、神聖アルビオン共和国議長、クロムウェル皇帝陛下のご入場!」

 

 衛兵の一人が叫ぶ。

 それを聞いて、その場で立ち上がっていた閣僚は静かに着席する。

 

 

 

「…緊急会議にも拘わらず、遅れて申し訳ない。」

 

 議長席に着席するクロムウェル。

 

 

「さて、話は聞いている。空賊に扮したウェールズがトリステイン空軍に捕まった。そして、国際条約上、引き渡しを求めることも出来ない。」

「ですが、クロムウェル議長!」

「放置すれば、いつ攻めてくるか…」

 

「その懸念はもっともだ。だが、私は大事な約束を交わしているのだよ。リリーシャ護国卿とね。」

「なんですと?」

「アルビオンに政権を樹立した後は、各国と不可侵条約を締結し、国内の復興を優先する。間違っているかね?」

 

 にこやかな笑みを向けられ、リリーシャも答える。

 

 

「その通りです。」

「革命を進めるのも大事だが、まずは国内の再建も重要だ。リリーシャ護国卿、復興案の草案を内務卿と法務卿と財務卿とともに進めて欲しい。」

「承りました。」

 

「外務卿には各国との不可侵条約を締結するための草案を。軍務卿、そしてボーウッド提督は国内の王党派の残党の討伐を任せたい。」

「…わかりました。」

「謹んでお受けしましょう。」

 

 

「他の諸君は、不可侵条約が破られたときに備えて、トリステイン攻略のための作戦案および予算の草案を頼みたい」

 

 内戦から復興した直後に、トリステインへの侵攻を隠そうともしないクロムウェルに対し警戒心を強めるリリーシャ。

 レコン・キスタの助けなしで、伯父を討つことはできなかったが…。その結果トリステインとすぐに戦わねばならなくなるのは避けたい。

 

 

 何より、トリステインを倒して終わりではない。次はガリア、その次はエルフ…。

 聖地奪還と王政の打破を主張する連中は、計画があるのか?

 

 それでもリリーシャは気丈にふるまう。自分が倒れれば、それに付け込んで連中は他国への侵攻を目論むだろう。

 戦わねばならないならともかく、勝てるだけの算段もないのに戦うのは愚の骨頂である。

 

 

 

―――――

 ハヴィランド宮殿、韻竜の間にて。

 ホーキンスはボーウッド提督を招いて会議を行う。

 

 

 

「王党派の残党掃討か…。」

「エーミールぐらいだな。降伏、はしないだろう。アレは頑固だからな。」

「リリーシャ護国卿、か。成長なされたな。」

「あの方が、女王になられればアルビオンを王政に戻すことも…。」

「言うな。王政を打破してしまったのだ。後戻りはできん」

「トリステイン、ガリアを落としてエルフ…か。」

 

 軍人は政治に口出しすべきでは無い。それは正しいと思っていた二人だが、リリーシャ・モードの指摘は二人をして考えさせられるものがあった。

 このままだと、王党派どころかハルケギニア全土が敵になり、最後はエルフが相手になると。

 

 

「内政からの立て直し、というのは急務だろう。空軍士官はどうだ?」

「ひどい物だ。質の低下が著しい。竜騎士隊も、戦死や辞任が相次いだから…手柄欲しさに民間人を虐殺した男や、策士気取りを用いなければならん。」

「あいつらか…。まぁ人材がいないのだ、やむをえまい。そもそも、メイジを大量に失ったのは痛い。だからこそ、トリステインというのもわかる。」

「軍におけるメイジの比率、という点ではハルケギニア最大。国土も狭く、足掛かりとしては最適…。」

「だが、取ればゲルマニアが動く。特に、サルバトール侯爵と、ゲーレン、カースレーゼ皇子が。」

「アルブレヒト3世の子供たちか。どちらもよい腕をして居る。出来れば味方に欲しいところだ。」

「知り合いか?」

「ゲルマニアの駐留武官をしていた時に、指導した。ゲーレンは大勝することもあるが、大敗を喫しそうな危うさがある。一方でカースレーゼは大きな勝利をあげることは少ないだろうが、大敗を喫する事も少なく引き際を心得た手堅い戦い方を好む。」

「エルフとの戦いでは頼りにできそうだな。」

「アーナルダ皇女が空軍を率いていると聞いたが、どうだ?」

「…身の程をわきまえている。アルブレヒト3世が、ゲルマニア空軍の重鎮を大量に幽閉したことで、ゲルマニア空軍は十数年改革が遅れた。艦隊は現存主義に凝り固まっているだろう。同じ立場なら私でもそうする。」

 

 

「さて、そろそろ仕事に取り掛かるとしよう。」

「そうだな。」

 

 ウェールズが亡命しているという知らせを受ける前から、彼らは部隊を展開できるように準備を進めていた。

 王党派の残党、エーミール司令を叩き潰すために。

 

―――――

 

 ハヴィランド宮殿の通路にて。

 

 

「まったくもって手ぬるい!」

「その通りだ!このままでは革命の勢いが失われてしまう」

「各国が守りを固める前が、好機だというのに!」

 

 口々に不平、不満を漏らす神聖アルビオン共和国の閣僚達。

 モード大公の派閥でもなく、王党派だったが上官が『降伏』したためにやむを得ず降伏した者とも違い、ただ、レコン・キスタの初期に参加したというだけの下級役人と下級軍人。

 

 彼らは貴族の家系だが、家督を継げる位置にいなかったために教育を受ける機会も与えられなかった。

 分不相応に高い地位に上り詰めた彼らは、錯覚するようになった。

 

『モード大公を粛正するような見る目のないジェームズ王とは違い、平民でありながら『虚無』に目覚めた偉大な指導者クロムウェル閣下は、自分達を正当に評価して相応の高い地位を与えてくださったのだ。』と。

 

 

 

「まったく、そんな事だから貴公達はジェームズ一世のころに出世出来なかったのだよ。」

「?!貴様は!」

 

 

 あざ笑うような声を受け、閣僚達は目を向ける。

 精悍な男と、陰惨な男が立っている。

 

 

「神聖アルビオン共和国火竜騎士団、『ドラゴンアイ』隊長、ハイヴィンドだ。木っ端役人だった貴様らを助けてやる、ありがたく思うがいい。」

「何を言っている、策士気取り。」

「ほぅ?偉大なるクロムウェル皇帝陛下から、私闘は禁じられているぞ?『ドラゴンクロー』隊長、平民殺しのレント殿。」

 

 陰惨な男が、精悍な男を揶揄し一触即発の空気が漂う。

 

 

「ドラゴンアイに、ドラゴンクロー?」

「どういう意味だ?」

 

 

 その言葉に、険悪な空気が一瞬で四散する。

 

 

「き、貴公!アルビオン人でありながら、伝統と格式高い火竜騎士団の名称すら知らないのか!?」

「ドラゴンブレス、ドラゴンスケイル、ドラゴンアイ、ドラゴンクロー、ドラゴンテイルから成る5つの火竜騎士団だ!子供でも知っているぞ!」

「す、すまない。メモを取るから、もう一度ゆっくりとだな。」

 

 

 こ、こんなのが閣僚で本当に大丈夫か?と揃ってひきつった表情を浮かべる竜騎士隊長達。

 木っ端役人と下級軍人が自分達よりも上の立場に成り上がっているので、少し威圧するつもりだったが…ここまでモノを知らないとなると話が変わってくる。

 

 

「ハイヴィンド隊長、レント隊長!こちらにいらっしゃいましたか!」

 

 竜騎士隊の制服を纏った、金髪ショートで金色の瞳の少女が駆け寄ってくる。

 

 

「見ない顔だな、何者だ?」

「小官はアルビオン風竜騎士隊ドラゴンウイングに、本日付けで配属となりました、フーティス士官です。ボーウッド提督から火竜騎士団の隊長は至急集合されたし、と。」

「集合だと!」

「はい。王党派の収容所が襲撃され、襲撃部隊と脱走した者達が港湾都市ラスターンより脱出を図っていると報告がありました。」

「役立たずが、敗残兵すら抑え込めんか。まぁいい、狩りの時間だ。場所は?」

「韻竜の間、とのことで…、お、お待ちください!」

 

 

 案内しようとしたフーティス士官だが、それよりも大柄な二人の竜騎士隊長は先を進んでしまう。

 

 

「女の身でありながら、風竜騎士隊の士官か。神聖アルビオン共和国は安泰だな。」

 

 のんきに、メモ帳をしまう閣僚の一人。

 

 

―――――

 

 同時刻。ハヴィランド宮殿の資料室にて。

 

 

「リリーシャ様、うまくいきましたな」

「内務卿と法務卿と財務卿は我ら。軍務卿とボーウッド提督は心情的に王党派であり、レコン・キスタにはよい印象を持っていない様子。」

「説得できればこのまま、レコン・キスタを乗っ取るのも遠い話ではありません。」

 

 レコン・キスタの要職でも、重要性の高い役職についてはリリーシャ達が占めていた。

 

 

 

「油断するな。クロムウェル皇帝閣下には『虚無』がある。それに、ウェールズがアンリエッタ王女を口説き落として攻めてくる可能性は十分にある。」

「まさか?!」

「そうか、アンリエッタの事を言っていなかったな…。私の親愛なる従妹姫は、友人の髪の色を変えて影武者に仕立てて、ウェールズと密会していたことがある。」

「御冗談を!」

「冗談であれば良かったが…。アンリエッタと会おうとして訪れたら、髪の毛の色だけ同じ別人だったときは曲者と思って思わず杖を抜いてしまった事がある…」

 

 

 彼女には随分と悪いことをした、と今では思っている。気が付いたら自分の髪の毛が桃色から栗色に替えられた上に、他国の王族が杖を突き付けているのだ。

 鳶色の瞳は震え、怯えていた。

 

 ふと、リリーシャは外を見る。二人の竜騎士隊長の後ろを、軍服に身を包んだ少女が懸命についていく。

 

「あれは…」

「平民殺しのレントに、策士のハイヴィンドですな。よくもまぁ、おめおめと…アルビオン火竜騎士隊の恥さらしが。」

「…私よりも年下の女性でありながら、風竜騎士隊に配属か。」

 

 女性は軍人になれない、という線引きを神聖アルビオン共和国は取っ払った。

 トリステインで女性の平民メイジが参謀本部の所属になったことで、アルビオン共和国でも『使い魔が風竜、火竜のメイジは女性であっても登用すべき』という法案が通ったのだ。

 

「人材の払底は、そこまで来ているか…。さて、やることは山積みだ。」

 

 

 アルビオン共和国の、のんきな閣僚と違い、リリーシャは神聖アルビオン共和国の内情が暗いことを悟る。

 士官に選抜された当たり、優秀なメイジであり軍人なのだろう。だが、その上が戦死したり怪我で戦線を離脱して、彼女が隊長に昇進せねばならくなったら、どうなる?

 才能がなくとも使い魔がドラゴンというメイジが士官に選ばれ、その層もいなくなれば調教した風竜や火竜に素人同然のメイジを乗せて竜騎士を名乗らせるのだろう…。

 

 そんな暗い考えを、リリーシャは振り払う。

 

 にっこりと笑い、大量の書類を積む。

 

「どこまで、お供します!」

「期待している。」

 

 

―――――

 

 アルビオン王家が使用していた豪奢な私室にて。

 

 

「よくできたわね、クロムウェル」

「は、ははー!しかし…不可侵条約を締結してよろしかったので?」

「お前ごときが考える必要はないわ。あの方の指示通りに動きなさい。」

「は、はい!」

 

 

 皇帝と秘書。だが、人の目がないところでは、その力関係は真逆だった。

 

「それにしても、リリーシャ・モード…邪魔ね。」

「は、はい!その通りでございます!」

 

 いくつかの戦いにおいて、リリーシャは使い魔の『主』の予想を超えた戦いぶりを見せている。

 姪が伯父を糾弾した時のやり取りは、使い魔の『主』を大いに楽しませた。

 

 その働きから、彼女の『主』は今しばし泳がせておくよう告げていた。

 

―――――

 

 

 火竜騎士団の詰め所にて。

 一人の竜騎士に、口ひげを蓄えた青年が歩み寄る。

 

 

「リュゼン」

「ワルド。アルビオンでの生活には慣れたか?」

「問題ない。食事が少し口に合わないが…。」

「遠くないうちにトリステインも版図に加わる。それまでの辛抱だ。」

 

 ドラゴンテイルの隊長、リュゼンとワルドの母親は姉妹だった。

 

「済まない。ルイズを連れ出せれば…」

「婚約者とは言え、書生。それを内乱中のアルビオンに連れ出す口実など無理だろう。気にするな」

「そのチャンスがあったんだが、な。」

「…本当なのか?アンリエッタ王女がヴァリエール嬢に王党派の特使として赴けと言ったのは。到底信じられないが。」

 

 アンリエッタからの『お願い』であるため、正式な書面による命令書などは存在せず、口約束に過ぎない。

 ワルド子爵を疑う気はないが、あまりにもアレな内容にリュゼンでもやや不信感が勝る。

 

 

 親友に対して内乱の国に大使として赴け、と『お願い』するような王女がいるわけないだろう。

 

 

 

「そうだな…。本人がいない以上、僕が何を言っても信用されない。」

「ヴァリエール嬢の身柄を抑えれば、その事実をヴァリエール公爵家に伝えてトリステインで内乱を起こさせ、ヴァリエール公爵家の軍が王国軍と激闘を繰り広げる前後で進軍してトリスタニアを制圧。トリステイン王族の身柄を抑え、その後王国軍を後方から攻撃、ヴァリエール公爵をレコン・キスタの閣僚に迎え入れることで和解する…。」

 

 

 リュゼンはさらりとトリステイン滅亡ルートを言ってのける。

 

 

「まぁ、ここまでうまくいかなくても、ヴァリエール公爵家が王家に反感を持てばトリステイン攻略は容易くなっただろう。」

「…済まない。」

「言うな。メイジの一個大隊に追われたら逃げおおせるのが精一杯だ。それより、竜騎士隊は欠員が多数出ている。風竜に乗った経験は?」

「任せろ、俺に乗りこなせない幻獣はいない」

 

 

 そんな二人に、竜騎士の制服に身を包んだ赤髪で黒目な少女が駆け寄ってくる。

 

「リュゼン隊長。韻竜の間にお越しください。会議です!」

「わかった。すぐに向かうとしよう。そうそう、こちらは私の従弟にしてトリステイン王国のグリフォン隊長のワルド子爵だ。彼に風竜を与えるように。」

「は、はい!それではご案内します!」

 

 

 一国の近衛隊の長がどうしてレコン・キスタに来たのか気になったが、彼女はワルド子爵を風竜の飼育所に案内する。

 

 

―――――

 

 

 トリステインの王立アカデミー。

 始祖の祈祷書の現物を借り受けたことをエレオノールに伝えた後、王立アカデミーをルイズとともに見学していた才人はアカデミーに保管されているモノに気づく。

 

 ロボットモノのDMMO-RPG『アーベラージ』に登場した量産機に酷似したパワードスーツ。

 

 

 

「ヘンテコね。亜人の鎧なのかしら?」

「俺はこれを知っている。」

「へ?ロバ・アル・カリイエの武器なの?」

 

 懐かしそうに、平賀才人は触る。

 

 

 弐式炎雷という紫の称号持ちの上位ランカーに…友人と一緒に挑んでボロ負けした。

 当たれば落とせるけど、当たらなければ意味がない。どうしてそんな紙装甲高機動力かつ高火力なのかと聞いたら、そのスリルがたまらないと言っていたことを才人は思い出す。

 

 触ると、才人は気づく。

 月の光を動力源としているソレはまだ戦えることを、ガンダールヴのルーンが教えてくれる。

 

 

「それにしても、この機体がハルケギニアにあるなんてな。アッハハハハ!」

「ちょっと、何がおかしいのよ!」

 

 

 『アーベラージ』において、共和国からの独立を画策するも、敗北した軍閥の残党の実働部隊『リベリオン』が主に使う量産型の機体。

 その正式名称は『双月』(そうげつ)。

 

 共和主義と敵対しているトリステイン王国、夜空に浮かぶ二つの月といい、その偶然に才人は笑ってしまう。

 

 

「その場違いな工芸品がどうかしたの?」

「エレオノール姉様!いえ、こいつがどうにも使い方を知っていると言い出して…」

「だったら動かしてみなさい。」

 

 

 あらゆる武器を操るという伝説の力、その一端にエレオノールは研究者として興味を抱く。

 即座に乗り込み、才人は乗りこなす。

 

 

 プレイヤー視点で、サイトは機体の状態をチェックする。

 

「アサルトカービンの弾倉は200発分しかないから銃撃用の兵装は温存しつつ戦うしかないな…。弾薬の補充は、ファンタジーだと無理だよなぁ。振動剣は使える…あれ?システムが変わっている?両肩に備え付けられているのがレーザーライフルではなくて、魔法を発動するタイプか。」

 

 

「…確かにその両肩には魔法を込めて、発動させることが出来るわ。そんなところまでわかるのね。」

「す、すごいじゃあ無いですか!もしかしたらスクウェアスペルを貯めて」

「スクウェアスペルは一度だけしか入れられないわ。魔法を一度でも込めた場合、使い切らなければ新たな魔法を込めることは出来ない。今まで判明している所はそこまでよ。」

「それでもすごいじゃあ無いですか!貯めて置けるなら」

「例えば錬金、をわざわざ貯めるぐらいなら、使った方がいいでしょ。それでも何かに使えないかと考えていたけれど…。こうして動かせるなら話は違ってくるわ。」

 

 

 エレオノールは、その動きを見て「使える」と確信していた…。




レコン・キスタ視点だと、トリステイン侵攻の際に『烈風』の存在に言及しないのは変だと思います。まぁ、原作だと烈風は引退したと思われていたのでしょうが。
 あと、アンリエッタのやらかしについては直筆の手紙、水のルビー、ルイズの身柄。どれかを確保していないといくら説明しても信じてもらうのは無理でしょう。

 ゼロ戦に代わる武装を才人君がゲットしました。オバロ4期でデスナイトをロボットが瞬殺したシーンは本当にびっくりしました。

 魔法込めれる設定で、「偏在」を思いつく方が多そうなので言っておきます。偏在は仕えません。才人君が増えるとかヌルゲーになるのでダメです。
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