機体名:双月
所属:ロバ・アル・カリイエ『アーベラージ』→トリステイン王立アカデミー
全高:5メイル
武装:振動剣。
両肩に系統魔法を込める武装があり、ドットスペルなら16回、ラインスペルなら8回、トライアングルスペルであれば4回、スクウェアスペルでも1回まで込めることが出来る。
ただし、スクウェアスペルでも『偏在』を込めた場合は、搭乗者の偏在が現れる。
これについて、平賀才人は『偏在に該当する魔法がアーベラージには無いため、中途半端に発現した結果である』と推測している。
卿によればロバ・アル・カリイエの『アーベラージ』地方では、長きにわたる共和国の支配は既に末期をきたし、軍閥は独立を目論んでいた。
このゴーレムは『アーベラージ』共和国に敗北した軍閥の残党部隊『リベリオン』の主武装。
ロバ・アル・カリイエには『アーベラージ』地方だけは無いらしく、『弐式炎雷卿』はアーベラージを去り、『ユグドラシル』へ赴いたと語っている。
港湾都市ラスターン。そこに王党派の残党は集結。
国王陛下は崩御。アルビオン大陸で抵抗活動をするのは、ホーキンス将軍相手では厳しいと判断。
「出港準備、急げ!なんとしても、ウェールズ王子と合流するのだ!」
アルビオン王党派の軍人、エーミールは空賊に扮して通商破壊を行っていたウェールズ王子が、トリステイン空軍に捕らえられたと聞いて気が気でなかったが…。
レコン・キスタが引き渡しを求めているという情報を入手。
つまり、あの方は生きておられる。ならば、馳せ参じるのが我々の務め。
「レコン・キスタ軍が接近中!エーミール司令!」
「もう嗅ぎつけてきたか!総員、積み込みやめ!物資はくれてやれ!!」
懸命に脱出準備を進めるが、それよりもレコン・キスタの進軍の方が早い。
「エーミール司令、ここは我らが!」
「何を言っている!貴公達はまだ傷が癒えていない!行ったところで無駄死にだ!」
「だからこそです。」
竜騎士達は、しっかりとエーミールの目を見つめる。
「こんな体たらくで、ウェールズ殿下の下に馳せ参じたところでお役には立てない。」
「何、蹴散らした後は風に乗って合流します。」
「…武運を」
竜騎士10騎、怪我が癒え切っていないアルビオン陸軍172名。
たったそれだけの王党派残党の殿軍だったが…。
―――――
乏しい戦力の配置は完了。
開戦の時を、王党派残党の殿軍は静かに待つ。
「狂った共和主義者に見せつけよ!突撃ぃいいい!」
アルビオンの竜騎士は天下無双。
機動力では風竜に劣るも、火力という一点で凌駕する火竜騎士。
それが先陣を切って突撃。王党派の突撃に備えていた前衛部隊は動揺し、四散する。
ここを死場と定めた殿軍の勢いはすさまじく、逃げる敵を追い立てるだけと楽観視していたレコン・キスタの将兵は浮足立つ。
だが。レコン・キスタにも火竜騎士隊は居る。
前衛が壊乱したことで、出撃が命じられる。
後方で待機していた火竜騎士隊、ドラゴンブレスのハーケンは配下を率いて出撃。
一時的な優勢を支えていた火竜騎士隊が、レコン・キスタのドラゴンブレス隊と交戦を開始したことで地上の戦いは一気に劣勢に傾く。
ホーキンス将軍は、混乱した部隊の中央部を後退。突出した殿軍に対し半包囲の陣形を引き、魔法と弓矢で攻撃を開始する。
一方的に魔法と矢を射かけられているのに、戦う前から傷つき、物資も乏しい王党派には打ち返すだけの魔法を放つ力も、矢もない。
ドラゴンブレス隊長、ハーケンにエア・スピアーを叩き込み、墜落させた竜騎士は、わき腹を抑える。
癒え切っていない傷が開き、鮮血がほとばしる。
「お、おおおおおっ!」
雄たけびを上げ、彼はレコン・キスタに立ち向かう。
味方が全員倒れても、彼は命尽きるまで奮戦した。
―――――
神聖アルビオン共和国軍によって制圧されたラスターンの施設にて。
「ホーキンス将軍、報告します!」
「聞こう。」
「わが軍の被害、傭兵部隊212名、重装歩兵85名、竜騎士18騎が戦死。ドラゴンブレス隊長、ハーケンも、先ほど戦死を確認しました…。」
「そう、か。」
驕りはあったが。死期を悟った将兵の戦いぶりは敵ながら見事であった。
「ハーケン隊長の遺体は、ロンディニウムへ送れ。閣下の虚無で蘇生させてもらわねばならん。」
「それと…。敵将の最後の言葉があります。」
「ふむ?」
最後の言葉を聞いた、ホーキンス将軍はため息をつく。
「英雄、だな。死なせるには惜しい男だった。そちらも、閣下の下へ送るとしよう。」
―――――
王都、トリスタニアにて。
「…これで、アルビオンにおける王党派の武装戦力は壊滅した。妨害工作を行える組織は点在しているが…。纏まった攻勢には出れない。報酬を頂く。」
「持っていけ。火消し。」
だが、報酬を受け取った火消しはザナック王子をじっと見つめる。
「…エーミール司令の殿軍を引き受けた、竜騎士の言葉がある。」
「ほう?」
「…フレイ・アルビオン(アルビオン万歳)、だ。」
「よい軍人だったようだな。」
「ザナック殿下。今後も俺を雇わないか?」
「金は払うが危険を考えれば割に合わんぞ。」
「殿軍を生き受けたアルビオン軍人は竜騎士も併せて182名。誰一人、最後まで逃げることなく戦って散った…。あの散りざまを見て、なんとも思わない男は居ない。」
火消しの目をじっとザナックは見つめ、ややあって口を開く。
「ならば、今後も頼む。」
火消しから手に入れた人物リストを、ザナックは『空賊の長』に渡す。
「…これが、そのリストか。」
「アルビオンを取り戻したら、アルビオン王国史にその戦いぶりと供にこう記したらいい。アルビオン王国軍人かくあるべし、と。」
「そうさせてもらう…。」
『空賊の長』が去り、ザナックは様々な報告を受け取る。
情報を横流ししていると思われるトリステイン高官に関する調査報告、ローゼンクロイツ伯爵夫人の病死…。
欲しかったアルビオン大陸における物資の相場表を見つけ、ザナックは考えをめぐらす。
「そして、この報告は本当か。であれば…不可侵条約は嘘で、何かしらの理由をつけて攻め込むのが狙いか?」
軍事物資にかかわる硫黄の価格は、内戦が終わったにも関わらず下がるどころか上がっている。
間違いなく軍事行動を目論んでいる。ザナックはそう予測する。
だが、予想していたが外れていて欲しかった情報を見たザナックは呻く。
「ガリア王国が、この状況で動きを見せない。本当に窮地なのか、あるいはレコン・キスタの裏にロマリアがいるのかと思っていたが…。」
レコン・キスタの資金源の一つがガリア王国という証拠書類を手に、ザナックはこれをどのタイミングで公表すればいいか考える。
アルビオンでの内乱で、硫黄の値段は吊り上がっている。火竜山脈を有するガリアは大儲け、その利益をレコン・キスタに横流しさせて共和制を立ち上げる。
そうなればトリステインの行動はガリアかゲルマニアと組むしか無くなる。そこでトリステインとの交渉をはねつければ、トリステインとゲルマニアの同盟がなる。
レコン・キスタとトリステイン&ゲルマニアで疲弊した所で宣戦布告して攻め込めば、ガリア王国トリステイン領という事になりかねない。
ガリア国王の真意は不明だが、それが狙いであるとするならば自分がとるべき選択は…。
ザナックが手元の情報をどう有効活用しようか悩んでいると。
「ザナック殿下!報告します!アンリエッタ王女殿下が…」
今度は何をやらかした?!
ザナックは悲鳴をあげたくなるのを何とか抑える。
―――――
「私の護衛部隊ですわ。」
「銃士隊、か。」
平民の女性かつ、身元がはっきりしている者で構成した近衛隊。
水精霊騎士隊に、平民メイジかつ女性を登用したことでアンリエッタは勢いづいたようだ。
まぁ、グリフォン隊は隊長が裏切るということで評判を大きく落としているため、別の近衛隊の設立は考えていたが…。
良かった。この程度か。
そんな安堵した様子のザナック王子を見て、トリステイン上層部は考える。
ああ、なんだかんだ言ってワルド子爵の裏切りによるアンリエッタ王女の身辺警護に不安がおありで、それが解消されて安堵なされているのだと。
―――――
絵画や調度品。己の財を誇示するような印象を与える高級な物ばかり揃えられた館。
これほどの物を揃えるとなると、高等法院長の給金では到底賄えない。
だが、揃えている以上、揃えるだけの『カラクリ』がある。
自身の館にてリッシュモンは、肥えた体を揺らしながら派閥の者を眺める。
「また壺か?」
「もちろんです。まだまだ、集めますぞ!」
「…そうか。」
壺や美術品を買い漁る者、金を集めることに余念が無い者。
本来ならば国庫に収まるべき金を横流しして懐に入れている彼らには、最近不満があった。
ザナック王子の施策と、各種不正の摘発だ。
「閣下、レコン・キスタが掲げている共和制ですが、一理あるとは思いませぬか?」
「あまり大きな声で言うな、ベルナルド。」
「申し訳ありません。ですが、我らのような有能な貴族が議論して決定するのであれば…。太后が喪に服して玉座が空白になる、という事は起こりません。誰かが職務をこなせないならば、別の者が代わりを務められる。重要なのは人材ではなく席という事になれば、トリステインが今後どのような国難に陥ろうと、国体は残ります。」
「ふぅむ…。」
共和制の素晴らしさを説く部下の言葉に、リッシュモンは深く頷く。
そんな中、一人の男があわただしく駆け込む。
「か、閣下!大変ですぞ!逮捕者が出ました!」
「なんだと!」
「閣下のお力で、お救いください!あんな罪でチェルノボーグ監獄など酷すぎます!彼は我々に尽くしてくれたのに!」
「ん?どれぐらい抜いた?」
「今回は3000です!」
「それだけで!ザナック殿下の横暴にも困ったものだ。」
チェルノボーグ監獄送りにされた官吏は3000エキューを懐に入れたわけである。
公共事業を請け負うにも、中間マージンを取って下請けに丸投げ。その下請けでさえ賄賂の額で決める。
私腹を肥やし、給金を受け取るべき層に正当な報酬を払わない。
だが彼らは悪びれない。自分たちは有能だから、この程度は『正当な報酬』。
ザナックによる「横暴」と言っているが、公文書を偽造して差額を懐に入れた不正を摘発しただけである。
それを横暴と訴えれば、アンリエッタでも怒りより困惑の色が勝るだろう。
「よし、手を回そう。食事だけはまともな物を用意させるとして…。」
方策をリッシュモンがめぐらしていると。
「親父ぃ!金!」
3人の少年が入ってくる。一番大柄な長男、モーガンの第一声にリッシュモンは不愉快な顔になる。
「もう使い切ったのか?何に使っている?」
「魅惑の妖精亭だ。」
「気に入った女でもいるのか?」
そんなモーガンに対して、もう一人の少年が口を開く。
「呆れた。平民女のどこがいいんだか。」
「黙れ、トマソン!俺は実力であの子を落とす!」
「どうせ飽きるのに。」
「…そういえばトマソン。この前の高等法官試験の結果は、どうだったんだ?」
「つ、次は合格する!」
「どうだか。」
言い争いをする息子達に対し、リッシュモンは咳払いをする。
「言っておくがな。あの忌々しいバート参事官の娘婿が高等法院入りを果たした。」
「「ノベラが!?」」
高等法院にあってリッシュモンに従って甘い汁を吸う事を拒み、トリステインの国法と己の良心を貫き通す何かと馬の合わない目障りな男。
数々の妨害を物ともせずに、高等法院入りを果たした娘婿も気に入らない。手を回した次男トマソンは落ちたのに。
一方で劇場における歌劇の検閲については極めて緩く、『面白さは全てに優先する』と言い放つ。
オーク鬼退治を請け負っている一団に、荷物持ちの平民が従事していた。だが、事あるごとに口出ししてきたため、新たにリーダーとして加入したメイジの若者により追放される。
追放された平民は、別の一団に雇われてそれまでの経験を生かして活躍する。
一方で追放した側は適切な指示をしてくれる司令塔がいなくなり、物資にも事欠き、コボルトにすら負けるほど落ちぶれていく…。
他には婚約破棄された令嬢が、他国の貴族に見初められて嫁いで幸せになる。一方で婚約破棄した男は落ちぶれていくというものだ。
どこが面白いのか、リッシュモンにはわからない。追放したり婚約破棄した側が落ちぶれていく様を楽しむのか?
リッシュモンは2人の実子に、エキュー金貨がずっしり詰まった袋を渡した後、不愉快な視線を3人目に向ける。
リッシュモンの妻の甥っ子に当たる少年、エリク。当然、リッシュモンと血のつながりは無い。
「それで、お前はどうした?」
「伯父上。良い土石が売り出されています。是非とも競り落としたいので、小遣いをください。」
「何を始めるつもりだ?」
「魔道具を作ります。良質な土石があれば、ザナック殿下が進めている街道事業において流通を制することができます!」
だが、リッシュモンの表情は硬い。
元々血の繋がりが無くて好意的でない上に、ザナック王子を支持している事を隠そうともしない態度をとるからだ。
一方、リッシュモンの部下が興味を示す。
「どういう事だ?話によっては、私が出してもよいが。」
「馬車や荷車を、馬やロバで引かせていますよね?ですが、馬は良く食べ、良く飲む。僕が作っているのは、ガーゴイルを車の形に加工して運ばせる物です!」
「ほう!つまり、家畜のエサと水を考慮しなくていいのか!」
「問題は、制御するためにはメイジの魔力が必要な点で…。でも、元々我が国にはメイジが多く、流通業はザナック殿下の施策を考えれば今後需要が増す産業。武官や文官になれなかった次男、三男。いや、嫁ぎ先に困った次女や三女なども就職先が広がって」
リッシュモンは言葉を遮る。
「却下だ。お前も、こんなたわごとに金を出すな」
「実用に耐えうる物には仕上がっていませんが、後、土石さえあれば完成します!だから」
「うるさい!親父が駄目と言ったんだ!」
「全く。父上、お邪魔しました。」
子供たちが去り、扉が閉じる。
部下の一人がリッシュモンに話しかける。
「いやはや。元気なお子さんですな。」
「そろそろ落ち着いて欲しいのだがな。ミリアムは何をしているのやら…」
―――――
モーガンとトマソンが小遣いをもらっている頃。
仮面をつけた客が集う賭博場。悲喜こもごもな態度を見せる客が多い中。
リッシュモンの娘、ミリアムは追い詰められていた。
最初は勝ったり負けたりしていたが、徐々に勝った事でミリアムは『またしても』のめりこみ、大張りしてチップを一気に失った。
そこで引けずに、再度大張りして負けチップは無くなった。
「まだ、続けるか。」
「当たり前でしょ!ここまで虚仮にされて、引き下がれないわ!」
「だったら、何を賭ける。ここでは家の名を出して金を借りることは出来ないが。」
仮面をつけた赤髪の青年は冷たい声で告げる。
「だ、だったら装飾品を賭けるわ!いいわね!」
「いいだろう。」
5枚のカードが両者の間に裏側で配られる。
ハルケギニアでは、地、水、風、炎の4種類が13枚入ったカードを用いることが多いが…。この店では『場違いな工芸品』を用いた、一風変わったカードゲームがある。
巨大な亜人の顔と体が書かれた絵、右手、左手、右足、左足の絵が描かれ、右上に☆が書かれた奇妙な5枚組のカード。
何故か顔と体が書かれたカードだけ茶色で、四肢のカードは黄色である。
互いに先攻・後攻を決めた後。これらを裏側でシャッフルして並べて互いに一枚ずつ引いていく。
右手と左手、右足と左足が揃えば勝ち。お互いに同じであれば引き分け。
つまり、亜人の顔と体が書かれたカードを引いた方が負け、というシンプルなゲーム。
数回の引き分けを挟んだ勝負の結果、ミリアムはネックレス、イヤリング、腕輪、サークレット、指輪を立て続けに失う。
彼女に残っているのは、店に預けている杖だけだ。
「ひ、酷いわ!ぜ、全部持っていくなんて!」
「賭けると言い出したのはそっちだ。」
「お、お、覚えておきなさい!」
捨て台詞を吐き、ミリアムは賭博場を去る。
―――――
ミリアムが素寒貧にされた同時刻。
エリクは別邸へと帰り、荷物を下ろす。
「お帰りなさい!エリク兄さん、どうだった?」
「ディミ。やはり、ダメだったよ。」
薄い水色の髪をショートにまとめ、全体的にスレンダーな少女が天井から壁を伝って床に降り立つ。
エリクの双子の妹であり、ここぞという時の行動力と咄嗟の機転が利く少女だ。
ディミも気弱なところはあれど、世情を鑑み、そのうえで利益を得るための方法を模索しているエリクを兄として慕っている。
「ザナック殿下に直接持ち込んだら?」
「そんな伝手はないし、やったとしてもバレたら僕の部屋は別邸から馬小屋に代わるよ。」
「でも、街道整備は進んで行商人は行き来がし易くなったけれど、流通についてはまだ問題が多い。エリク兄さんが作っている作品なら、評価されるはずよ!」
「却下されたら…生活にも困窮するようになる。平民が歩くより多少早い程度でしかないし、改善点は多い。」
ディミは形の良い顎に手を当てる。
「…水精霊騎士隊って、女でも入れるよね?」
「攪乱と偵察がディミの強みだから、ザナック殿下の方針とは合わないだろう。」
「うーん…」
―――――
ミリアムが去った1時間後。賭博場の控室にて。
赤銅のジェダ・オルストは仮面を取る。
「ずいぶん儲けたな…。」
ギムリはジェダの手元にある、銀製で精緻な細工が施された上にそれぞれ別の宝石が燦然と輝く装飾品を見つめる。
大勝してチップを換金したエキュー金貨が詰まった袋に、ヴィリエが息を飲む。
「素寒貧にされた相手を見ても、そう思えるのか?ギムリ」
友人の軽口に対して、辛辣に答えつつジェダは注文した生ぬるい果実水を飲み干す。
「でも勝ったじゃないか」
「向こうは覚えていなかったみたいだが、俺は覚えている。勝てば調子に乗る一方で、負けが込むとああやって大金を賭ける。この界隈には余り向いていないタイプだ」
ジェダの言葉に、もう一人が考えながら口を開く。
「つまり、相手を見極めれば稼げるって事か。」
「そういう事だが、それを見極めるのが難しいんだ、ヴィリエ。…この界隈は甘くない。サイコロ勝負でタバサに大負けした。」
「断定は出来ないだろう?仮面をしているのだから。」
「あんな綺麗な青髪がほかに何人も居てたまるか。よい機会だから言っておく。タバサは只者じゃない。」
「「なんで?」」
「家名すら名乗らない、まるで人形か何かにつけるような適当な名前…。そんな名前で伝統と格式高いトリステイン魔法学園に入学することを、あのオールド・オスマンに認めさせるだけのやんごとない名家の令嬢であればどうだ?つじつまは合うぞ。」
「…本当、何者なんだろう?あいつ。」
「知らん。前から気はあったんだがあれで完璧に冷めた。もうあいつとサイコロ勝負は二度とやらん。」
自分からまき上げた金で鹿肉料理や竜騎士御用達のドラゴンが好む果物、ドラゴン・フルーツを買い込んで、眼鏡をかけた氷竜に食べさせていたが…。
やたら旨そうに食べていたのがジェダの印象に残っている。
ドラゴン・フルーツを食べる時も、他の竜と違って分厚い皮ごと食べてそのまま飲み込む事も、皮だけ吐き出す事もなく…。
皮をむいて中身の白くて瑞々しい果肉にかぶりつくなど『知性がある』ように思えたが、韻竜は既に滅びているはず。
使い魔になったことで、多少知能が向上しているのかも…いや、しているのだろう。何せ、ドラゴンなのに本を読むのだから。
「あれ?お前ゼロのルイズにも気があっただろ?タバサといい、お前の趣味って」
「ジェダってそっちなのか…知らなかった。」
友人たちから珍し気な目を向けられ、形勢不利なジェダは話題を変えることにする。
「さて。賭博場を案内してほしいというから、連れてきたが。やるなら自分の責任だ。」
「ここで大勝すれば、炎の女王に貢物を…」
「サンクを一回ぐらいなら…」
リスクとリターン、手持ちの金と今後の小遣いを天秤にかける友人たちにジェダは助言をする。
「とりあえず、最初のチップが尽きたら引き上げる、としておいたほうが無難だ。引き際が肝心。逆に引き際さえ心得ておけば、素寒貧にされることは無い。」
「金品も賭けられるんだよな?換金はできるのか?」
「出来るが、ここの換金所だと二割手数料で引かれる。」
「…気に入ったなら、売らないのも手か?」
「まぁ、これについては手元に置いておくつもりだ。センスは良いからな。」
何気に恋愛フラグをへし折っていたタバサ。最もタバサと恋人になった場合…。
カステルモール「小国トリステインの貴族が、シャルロット様に手を出しただと?!」
イザベラ「エレーヌに恋人ぉ?!」
ジョゼフ「新しい玩具!!」
三人「「「ガリアに連れてくるしかない!」」」
…うーん。土のラインメイジ、ジェダ君は命がいくつあれば足りるのやら。
オバロ勢でも、タバサの背後関係を含めた事情を聞けば「国王に睨まれている姪っ子と恋人はやめて置け」と忠告するでしょう。
次回は、いよいよタルブ戦役。