「防御を捨てて全部機動力と火力に突っ込んでいる、頭がおかしい人」
弐式炎雷さんからみた、平賀才人君の評価。
「才能がない」
アルビオン大陸にて、モード大公の派閥が懸命に復興計画を練り、ホーキンス将軍達が軍を再建している間。
空軍司令部を訪れたクロムウェルは、ボーウッド提督に対してひそかに計画を打ち明ける。
「トリステインの軍部が?!」
「いかにも。親善大使として訪れた我々に攻撃を攻撃を加えるという情報を得た。かの国はアルビオンの切り取りを模索しているようでな。」
「なんと!かの水の国も落ちたものですな…。」
「フネが炎上したら、君たちは即座に降下したまえ。いいね?」
ボーウッド提督は心情的に王党派。ゆえにクロムウェルはこう伝えた。
一方で偽装工作を行う部隊については、エキュー金貨の詰まった袋を添え、事前に伝えてある。
他国への侵攻に反対しているリリーシャの派閥が懸命に「復興計画」をさせている間にトリステイン攻略の準備を進める。
それがクロムウェルに対して使い魔から与えられた『計画』だった。
―――――
クロムウェルが密かに謀略を巡らしてから10日後。
すっかりモード大公派の拠点になりつつある資料室で、リリーシャはカレンダーに目を向ける。
「そういえば、そろそろ親善大使が向かう頃か」
「ジョンストン卿が特使、ボーウッド提督が親善艦隊を。ドラゴンテイルのリュゼン隊長が火竜騎士隊の指揮を執ることになっていますな。」
はた、とリリーシャ・モードの動きが止まる。
復興計画をまとめ上げた各種臨時法律、草案をまとめた資料を机に置く。
「どうされました?」
「待て。なぜボーウッド提督に加えて火竜騎士団まで連れていく?」
「護衛でしょう。」
「過剰過ぎないか?示威行為と受け止められかねない…。まさか!」
それからのリリーシャ・モードの行動は早かった。
―――――
ロサイスにて。
息を切らせ、多少銀髪が乱れたリリーシャ・モードは出港準備が完了しつつある艦隊の広場に駆け付ける。
「リリーシャ護国卿だ!ジョンストン卿およびボーウッド提督に話がある!」
「どうされました?」
遥か年上であるボーウッド提督に、リリーシャ・モードは食って掛かる。
「どういうことだ!なぜ、陸軍輸送船団が出撃準備を完了している!親善大使の護衛にしても、地上戦力を3000人も動員するのは示威行為を通り越している!」
「クロムウェル閣下の指示です。」
「?!」
「トリステイン空軍は、親善大使を狙い撃ちにする計画を立てている。攻撃を受けた後、速やかに反撃するためです。」
「馬鹿な…この、この状況でトリステインと戦端を開く?!ボーウッド提督!トリステイン相手に戦えるが、切り取ったところで維持ができない!ゲルマニアがトリステイン解放を名目に侵攻してくれば、物量で押しつぶされる!」
「…我々には、閣下の『虚無』がある。ご存じでしょうか?先日、亡くなったドラゴンブレスのハーケン隊長も蘇りました。何より、トリステインには。ウェールズ王子がおります。」
「?!」
死亡しても、「虚無」がある。そしてトリステインには従兄がいる。その事実を突き付けられ、リリーシャは沈黙する。
「そう、か。王党派の残党とウェールズ王子がいる以上、トリステインとは事を構えざるを得ない…。だが、ボーウッド提督!トリステインが親善大使を狙い撃ちしてきたのであれば、それを非難し、アルビオンとゲルマニア間だけで不可侵条約を締結!それでトリステインを孤立させることが出来る!たとえ攻撃されても、現状ゲルマニアとの軍事同盟が成立しているトリステインと事を構えるな!」
リリーシャは必死に押しとどめる。
政治的な謀略を察知しているなら、奇貨として攻め込むよりも有用な外交政策を彼女はその場で導き出す。
そう。本当にトリステインがそのような謀略を仕掛けてくるなら、ゲルマニアを引き込めるのだ。陸軍不足という問題はそれで一気に解決する。
本当ならば。
二か国を同時に相手取る余力は、今のアルビオンにはない。ゲルマニア艦隊はアルビオンには攻め込めないが、アルビオンもゲルマニア全土を制圧するだけの余力など無い。
風竜騎士隊も女性士官を多数採用している状況だ。
「それは出来ませんな。」
「リュゼン…。私は、神聖アルビオン共和国の護国卿!その命令に従えないのか!」
「はい。これはクロムウェル閣下の命令です。自分は軍人。国のトップが戦えというなら、戦うまです。」
狂信者特有の眼を、ドラゴンテイルの隊長リュゼンは浮かべている。
「我々は、いや、私は。聖地にいかねばならない」
「聖地に?聖地に一体何があるというのだ?」
「リリーシャ護国卿には理解できないでしょう。ハルケギニアにはもう、時間がないのですよ」
「時間が?どういうことだ、答えろ、リュゼン!」
それに答えず、リュゼンは傍らに来ていた風竜騎士隊の士官に声をかける。
「リリーシャ護国卿はお疲れだ。フーティス士官、お連れしろ」
「はっ。」
無理やり連行されるリリーシャ護国卿。
その様子を観察していた火消しは即座に情報を送る。
神聖アルビオン共和国軍が、軍事行動をとりつつある、と。
だから、その後でリュゼンとワルド子爵の密会には気づけなかった。
―――――
リュゼンはワルド子爵の姿を見つけると呼び止める。
「リュゼンか。」
「いよいよ始まるな。大隆起阻止の戦いが。」
「成し遂げねばならん。」
「トリステインの風竜騎士隊に後れを取るつもりは無いが…万が一の時は、頼む」
「任せろ。」
―――――
アルビオンの諜報員からの連絡を受け取ったザナックは即座に、その情報を風竜騎士隊員を通じて、空軍艦隊に乗り込んでいるラ・ラメー伯に伝える。
開戦になるやもしれぬ。艦隊の温存を最優先にせよ、と。
―――――
トリステイン艦隊旗艦、メルカトール号の甲板にて。
「…ザナック殿下からなんと?」
艦長のフェヴィスは上官のところに届いた書状に注意を払う。
「アルビオン艦隊が、攻撃してくる可能性が極めて高い、と。」
「ウェールズ王子の身柄を確保したから、ですかな。」
「それもあるだろうが。ザナック殿下は、アルビオンの軍事物資の相場が下がっていない事から推測したそうだ。未だ小麦は高騰しているという。」
「小麦?」
糧食も確かに軍事物資ではあるが、より重要度の高い硫黄ではない事にフェヴィス艦長は訝しむ。
そんなところまで気を配る人ではなかったはずだが…。
「少し前だが、財務卿と飲む機会があってな。モノの見方が多少柔軟になった。仕掛けてくるというが、不可侵条約は向こうから言ってきたこと。大義名分が無ければ士官も従わないだろうが…。」
「…答砲で轟沈された、と言いがかりをつけてくるとか?」
「可能性は否定できんな。戦艦ディードの艦長に連絡を。答砲を任せるが、最大射程であることを記録したのちに撃て、と。後は…こちらの出迎えが無礼という言いがかりか?」
「その場合はブレイドで斬りかかってくるでしょうな。」
「礼服の下に何か仕込むか…。ないよりマシだろう。」
―――――
お決まりの礼砲のやり取りが行われる中。
神聖アルビオン共和国のフネ、ホバート号で火災が発生。
あらかじめクロムウェルから、言い含められていたホバート号の船長は笑みを浮かべる。
「これで、俺はトリステイン制圧後に手に入る新艦隊の提督に出世だ…ん?」
だが、船長とその部下は気づく。火の勢いが想定よりも強すぎる。
「ま、まさかっ!嵌められ」
ホバート号の船長と部下達は、トリステインの空で散った。
―――――
一部始終を見ていたボーウッド提督は、クロムウェルの話が真実だったと思い込む。
ホバート号で犠牲となった者達に憐れみ、不意打ちしたトリステイン軍に対して怒りが爆発するが、その感情を抑え込み艦隊戦を開始する。
トリステイン空軍は礼砲を撃った最後尾の戦艦ディードと共に残存主義を取り、距離を取って離れていく。
「何をしている、ボーウッド提督!逃げられてしまうではないか!」
「…また来るなら、撃退出来る。それよりも…部隊の降下を優先せよ。」
追撃は出来る。だが、風石の浪費は避けたいところではあった。トリステイン空軍が艦隊温存主義をとっているならば…。
牽制しつつ、部隊を展開。あとは地上部隊が決着をつける。
「降下地点は、予定通りタルブだ。」
アルビオン共和国軍は行動を開始する。
―――――
同時刻。
トリスタニアの御前会議は紛糾する。
「我々がアルビオンのフネを轟沈させた?!空軍は何を考えているのか!」
「ザナック殿下!殿下の責任ですぞ!潤沢に空軍へ予算を割いた結果、暴走してしまった!」
そう喚く『拡大派』の小物を、ザナックは冷たい目で見つめる。
『内乱に便乗してアルビオンを切り取ろう!』と気勢を上げておきながら、いざ戦いになればこれだ。
「親善艦隊は、出向前に陸軍の輸送船団も用意していたという。つまり、最初から攻撃するつもりだったということだ。」
火消しから情報は得ていたこともあったが、こちらから戦端は開かない。あくまでも、アルビオン側が攻撃したという事実が重要だ。
そうなれば、レコン・キスタを包囲するのではなく、倒さねばならない敵という認識が広まる。
伝令が駆け込み、ザナックは報告を受け取る。
「レコン・キスタ軍はタルブを占領し、そこから進軍しつつある…。私はこれより軍を率いてラ・ロシェールに出撃する。ド・ポワチエ将軍、陸軍の出撃準備を。」
「はっ!」
「ウィンプフェン伯、水精霊騎士隊を率いて合流せよ。」
「承知しました。」
「タルブ伯にも伝令を。突出せず、王国軍の到着を待て、と。」
ほかの閣僚に対しても矢継ぎ早に指示をだすザナック。
「恐れながらザナック殿下。殿下の行動は国法を逸脱しております。」
「どういうことだ、リッシュモン高等法院長。」
剣呑な目つきを隠そうともせず、ザナックはリッシュモンを睨む。
「今現在。国軍を動かす権限は、王政府議会にあります。よろしいですかな?」
「そうだな。本来であれば国王にあるが、今現在空位だ。では、評決を取ることにする。不可侵条約を破棄して攻め込んできた共和国軍と戦う事に賛成の者は、起立せよ。」
トリステイン王国上層部の閣僚達が、一斉に立ち上がる。
「ですが、高等法院の参事官は」
「立っているぞ。名を名乗れ。」
振り向いたリッシュモンは、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。
「バート参事官と申します。そも、レコン・キスタは王政の打破を掲げている以上、攻めてくる事は明白。」
「その通りだ。ほかの者にも言っておく。レコン・キスタに降伏するというなら、まずこの私を!そして母上と妹を拘束してレコン・キスタに差し出すがいい!」
ザナックの剣幕に、その場は一気に静まり返る。
だが、ザナックが手をたたくと即座に指示を出すべく、動き始める。
「妹よ。どうする?ゲルマニアのトリステイン大使館へ逃げてもいいぞ。」
「お兄様…。私に、何かできることはありませんか?」
前のやらかし、で相当堪えている妹にザナックは短く告げる。
「あるぞ」
「?!であれば、連れて行ってください!」
「お前の魔法の才能が、この戦いの趨勢を決めることになる」
こういう時への対処は既にできている。
そのためには、妹とウェールズ王子の出陣が必要だったが…。本人がやる気を出してくれたので、やりやすくなった。
―――――
配下が、好き勝手に破壊活動をしているが、ドラゴンテイルのリュゼン隊長は特に感慨はわかなかった。
この破壊活動に怒り狂って突出したトリステインの風竜騎士隊を血祭りにあげたからだ。
後は、ボーウッド提督と地上部隊がトリステイン王国軍を撃破して、王族を捕縛。
それで終わりだ。
トリステイン艦隊が戻ってきたら即座に知らせねばならないが…。
哨戒任務は、ドラゴンウイングに配属されたルーキーに経験を積ませることを兼ねている。
手に負えなければ、自分たちの出番だ。
「リュゼン隊長!ゴーレムが一騎、飛んできます!」
「何?どういうことだ、フーティス士官」
「はい、そのままの意味です。トリステイン軍かと思われます!」
あきれたリュゼンは、部下に命令する。
「お客様だ。丁重にもてなしてやれ。」
6騎が向かった。これでリュゼンは片が付くと判断した。
どうやっているのかは不明だが、空の戦いに鈍重なゴーレムを飛ばしてくるとは、誂え向きな的に来たようなものだ。
―――――
双月の中で、才人は向かってくる敵を見る。
「来たか…火竜のブレスが直撃したら普通にやばいよな…。だけど、有効射程はこっちが上!」
まずは、アサルトライフルを構える。出し惜しみはしない。
9発発射、当たった。一騎の火竜騎士が爆発炎上して落ちていく。
ヒトを始末したが、才人の心は痛まない。
ヒトの死は、平賀才人の世界ではありふれたモノだからだ。
仲間が倒されたからか、残りが向かってくる。
「合計5騎か!」
平賀才人は敵を討つべく、突っ込んでいく。左手のルーンが激しく輝く。
双月に搭載されているアサルトライフルの有効射程は、ドラゴンブレスの最大射程より二倍以上ある。
才人は誂え向きな的を片っ端から撃墜する。
あらかた片づけたところで、敵の一団を発見。
中央にいる指揮官らしき人物に標準を合わせる。
アサルトライフルが変形し、スナイパーモードになる。
兵器というのは、性能も重要だが数およびメンテナンスが容易なことも求められる。
だがリベリオンは台所事情が厳しく、一つの機体に複数の役割を求めた。これもその機能の一つ。
その設定は、この世界でも反映されていた。
―――――
「リ、リ、リュゼン隊長ぉおおおお!」
「何事だ、フーティス士官?」
「ろ、6騎が、あっという間に撃墜されました!」
「なるほど、只者ではないようだな。」
「しょ、小官は、ボーウッド提督にご報告に向かいます!」
やはり、女は駄目だな。リュゼンは完全に腰が引けている風竜騎士隊の若い女性士官を見送る。
「距離を取れ。少なくとも雑魚ではないようだ。」
向かってくる
ゴーレムの武器が変形した、何のつもりだ?この距離で何が出来る?
それが、リュゼンが最期に考えたことだった。
目の前で不意に隊長の首から上が無くなり、地上に落下していったことで、ドラゴンテイルの隊員は戦意喪失する。
狩人から一転して獲物となった彼らは、もろかった。
―――――
レキシントン号に乗り込んでいたワルド子爵は風竜を借り、作戦宙域の偵察を任されていたフーティス士官の案内に従い、従兄が率いているドラゴンテイルと合流するべく向かって来ていた。
だが、天下無双とうたわれたアルビオンの火竜騎士団は一人もいない。
「方向を間違えたか?」
「いえ、あっています…」
「だが…。」
「もしかして、あのゴーレムに殲滅させられた?」
「案内はよい。後は私が始末をつける。」
距離を取って周りを見渡すフーティス士官。その使い魔たる風竜も怯え切っている。
一方のワルドはその場で待機し、周りを警戒する。
その様子を、スコープで才人は見つけていた。
「ワルド子爵?!裏切ったってザナック王子が言っていたっけ…。」
才人は何の感慨もなく、目標をセンターに入れて、引き金を引いた。
たったそれだけの動作で、26歳にして風のスクウェアメイジまで上り詰め、『閃光』と呼ばれた若きエリートはヴァルハラへ旅立った。
目の前で風のスクウェアメイジの首から上が炸裂した事で、フーティス士官の戦意は完全に消失する。
―――――
「ふ、ふざけるなっ!ドラゴンテイルが全滅だと!ゴーレム一体に!」
ジョンストン卿が、若い女性士官に詰め寄る。
目の前で、自分よりもはるかに腕の立つ火竜騎士隊が5人も虐殺され、今またワルド子爵も戦死したのを見てしまった、フーティス士官はそれでも懸命に報告する。
「じ、事実です…。そして、その。ワルド子爵も…」
「お前が、お前が手引きしたのか!いや、きっとそうだ。そうに違いない!」
アルビオンの竜騎士は天下無双。そう信じているだけに、ジョンストンは受け入れられなかった。
醜態をさらすジョンストンを、ボーウッド提督は短く魔法を唱えて昏倒させる。
「連れていけ。そして、フーティス士官。そのゴーレムは艦隊で相手をする。君はアルビオンへ帰還するように。現在、くだんのゴーレムについて、詳細な情報を持っているのは貴官だけ。生存を最優先せよ!」
「は、はいっ!」
使命感で血色が戻ったことを確認すると、ボーウッド提督はゴーレムが現れた、という宙域を警戒させる。
―――――
ラ・ロシェールに急遽設置されたトリステイン王国軍司令部にて。
「神聖アルビオン共和国軍の配置だが…。レキシントン号はともかく、いくつかの艦隊が妙な配置をしている…」
「先行した風竜騎士隊の第二中隊が討たれました…。ですが、謎のゴーレムが現れ、火竜騎士団を一掃したとの事!」
「勲章物の働きぶりだな。」
地上では、ザナック王子とその側近が神聖アルビオン共和国軍の動きを観察している。
「トリステイン艦隊が再度攻撃を加え、それにアルビオン艦隊が応戦している間に、地上部隊を撃破する。アストン伯、地理に詳しい貴公の働きにかかっている。」
「はっ、お任せください!」
―――――
同時刻、空で才人は困っていた。
「アサルトライフルの残弾が心もとない…。戦艦にアサルトライフルを打ち込んでも効果は薄いよなぁ…。」
弐式炎雷さんが、ゲームで使っていた機体でこの世界に来ていればそのまま殴り込んでそれでフィニッシュだったが、今の才人の機体は量産機で腕前もトップクラスではない。
両肩の魔法武装に、ファイアーボールは込めているが、それに戦艦を落とせる威力は無い。
一度、ルイズと合流しよう。そう考えた才人は戦域を離脱する。
偵察部隊の風竜騎士隊の若手は、火竜騎士団の全滅を聞いてすでに引き上げているため、その事実をアルビオン側は全く把握できていなかった。
―――――
「さて、攻撃開始せよ。」
ザナックは油断なく敵艦隊を見つめる。
後方から一時離脱したトリステイン艦隊と、王党派の残党が乗り込んだ艦隊が攻撃を加える。
「敵艦隊の配置が、ずいぶんと歪です。何を企んで…」
「それは後々明らかになるだろう。我々が生きていれば、だが。」
かなり苛烈な攻撃を加えているが、レキシントン号と数隻のフネは何時でも地上部隊を掩護できる配置にいる。
ザナックが望んだ布陣となった。
「よし。出番だ、妹よ!」
「はい、お兄様!」
アンリエッタの詠唱に、ウェールズの詠唱が重なる。
王家のみに許された、風と水の六乗、『ヘクサゴン・スペル』
巨大な六芒星。津波のような竜巻が発生して前方に放たれる!
それがレキシントン号と残りのフネに直撃。さらには戦闘中だった神聖アルビオン共和国軍の艦隊の戦列が崩れる!
その隙を逃すはずもなく、トリステイン艦隊は弾を討ち尽くす勢いで連射を開始する。
―――――
「終わりましたな。」
アルビオン艦隊が墜落していく。
これで制空権はトリステイン空軍と風竜騎士隊の残存部隊が制した。
すでに地上に降下していた部隊も戦意喪失している。
「そう、だな。…突撃!侵略者を一掃せよ!」
ザナック王子の号令で、トリステイン軍は敵陣へ突撃する!
制空権を奪われ、火竜騎士団を失った地上部隊にこの勢いを止める手段はなかった。
―――――
タルブ戦役。のちに、そう呼ばれる戦いは…トリステイン側の勝利に終わった。
「火竜を数頭、鹵獲出来ました。」
「ロイヤル・ソヴリン号は修復可能か?」
「残念ながら…。一から作り直した方が早いかと」
「だったら、解体して再利用だ。」
「新型ゴーレムを使っていた人物と面会したい。連れてこい。」
「はっ!」
―――――
「火竜騎士団を殲滅したのが、貴公か。」
「はい、ザナック殿下。」
「何者だ。火竜騎士20騎と裏切ったワルド元子爵まで討ち取っておいて、平民とは言わないよな?」
「…殿下は、アーベラージをご存じでしょうか?」
「なんだ、それは。」
「腐敗した共和国の統治から、独立をもくろむ軍閥が戦っていたとか。あれは共和国と対立していた軍閥が開発したゴーレムです。」
「そのゴーレムの名前は」
「双月、です。」
そういえば、このハルケギニアも双月だったな、とザナックは考える。
偶然か、必然か。だが、今大事なのはその兵器が自軍の手にある事だ。
平民が一歩前に出る。
「陛下、発言しても?」
「許す」
「双月は、弾倉がほぼカラです。今回のような火竜騎士団を壊滅させるような、今回の戦果はもうできません。」
頭を抱えたくなるザナック。
とはいえ、天下無双のアルビオンの火竜騎士団の五分の一を殲滅、トリステインの内情に詳しい裏切者のワルド子爵を始末したのは大きい。
戦後は何かしらの爵位や土地を与えねばなるまい。ザナックはそう判断する。
「両肩にドットスペルを16回分、ラインスペルを8回、トライアングルスペルを4回、スクウェアスペルを1回込めれるので、それと振動剣で戦えます」
「哨戒任務はどうだ?」
「お任せください!一応、接近戦も出来ます。」
「その軍閥はなぜそんな様々な機能を付与したんだ?」
「俺は別の軍閥にいましたが…エネルギー拠点を共和国に奪取され、そのため一つの機体にいろいろな役割を求めざるを得ませんでした。」
共和主義者に負けた勢力が開発した兵器が、この地で共和主義者と戦う、か。
双月、という名前も偶然とは思えない。空に二つの月があることをしったときは、ザナックも仰天した。
数奇な運命にザナックから笑みがこぼれる。
であれば、ここで勝たせてやるべきだろう。
のちに、双月の戦略的価値を知ったウィンプフェン伯は才人を水精霊騎士隊に入れようとするが、ヴァリエール家の三女の使い魔と知って断念する。
ゼロ魔二次は多々あれど、ここまでサクっとワルド子爵を処理した作品は拙作ぐらいな気がします。私が知らないだけで探せば他にもあるかもしれませんが。
ヘクサゴンスペルで、レコン・キスタ艦隊を蹴散らすのは王家を否定した一派に対して軍事的にも政治的にも意味があるでしょう。
あれ?タルブ戦役なのに虚無は?と思った方は多いでしょうが。
ザナックがルイズに貸したのは、『始祖の祈祷書』だけで、水のルビーは貸していません。
オバロ勢でも、「白紙の祈祷書、水のルビー、王家の血筋でありながら魔法が使えない公爵家の三女」
という情報だけで、「ルイズに水のルビーを嵌めさせて、始祖の祈祷書を開かせたら虚無魔法を会得できるのでは?」と推測するのは無理でしょう。