トリステイン王子、ザナック!   作:交響魔人

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使い魔がシルフィードではなくヘジンマールだと無理ゲーな任務、極楽鳥の卵とカジノ。

極楽鳥←火竜山脈に生息。卵を狙われたら、雌の火竜に似た鳴き声を上げて雄の火竜をおびき寄せる習性がある。戦場が熱いうえに火竜が群れで襲ってくるとか、フロスト・ドラゴンだと普通に無理ゲー。
ギルモア←先住魔法を使える幻獣エコーを使って、ポーカーで相手より上役を揃える。先住魔法はヘジンマールだと見抜けないのでタバサが詰む。


…まぁ、モモンガさんなら極楽鳥の鳴き声におびき寄せられた雄の火竜を虐殺して素材回収。イカサマについては、カードに《魔力の精髄》と《生命の精髄》かけて看破。
その後は『流石アインズ様、下等な人間の浅知恵など最初から見抜いておられたのですね!』という流れになるでしょう。


外伝:タバサとヘジンマールとオーク鬼

 父親のオラサーダルク=ヘイリリアルからきつく叱責を受け、いよいよもって追い出されそうな気配を感じつつあるヘジンマールはこの日。

 

 部屋に奇妙な鏡のようなものが浮かんでいることに気づく。

 近くにあった小石をぶつけてみたが、何も変化がない。好奇心にかられてそれに触れた時…。ヘジンマールはその場から消えた。

 

 

 このゲートに触れたのが他のフロスト・ドラゴンでは無かった事は、呼び出したメイジとヘジンマールの双方にとって幸運だっただろう。

 最も、ここでヘジンマールを失ったフロスト・ドラゴン一族は、後に厄災を受けることになる…。

 

 

 

 

 

―――――

 目を開けたヘジンマールは、強い光と暑さを感じて不快感を覚える。

 草原のようだ。書物に記されていた『転移魔法』だろうか?それにしては、書物と随分違った形状をしていたが。

 

 

 身なりのよさそうな小さな人間が大勢いる。

 

 

「ど、ドラゴンだ!」

「ちょっと太っていないか?」

「なんで、眼鏡をかけているんだ?」

 

 

 …言葉を発しようとしたヘジンマールだが、それを察知した小柄な青い髪の女の子が静止する。

 

 

「しゃべっちゃ、だめ。」

 

 

 真剣な表情と、手に持つ大きな本。纏う冷気と眼鏡をかけている事に、ヘジンマールは強い共感を覚える。

 

 

 …どうにも見知らぬ場所であり、アゼルリシア山脈の方向など、様々な情報が不足している。

 目の前の人間の女の子は自分に対して好意的であり、ここで逆らうのは得策ではない。ヘジンマールはそう判断する。

 

 

 

 

―――――

 使い魔の契約、というのは中々痛かった。

 だから、二人きりになったときにヘジンマールはいろいろと質問しようとした。

 

 

 その直前に、タバサはヘジンマールが暑がっていることに気づき、短く魔法を詠唱。

 ヘジンマールが過ごしやすい温度に調整した後、サイレントをかけて静寂な空間を作り出す。

 

 

 

「韻竜は、絶滅したと思っていた…」

「韻竜って、何?」

「言葉を操り、先住魔法を使う一族…。でも。」

 

 韻竜についての書をタバサは読んだことがあるが、目の前のヘジンマールはどれも該当しない。

 ちょっとおなか回りが太っている。

 

 ヘジンマールはタバサの視線に気づく。

 

 

「フロスト・ドラゴンは脂肪を蓄える傾向があるんだ」

「なるほど。」

 

 寒冷地帯の動物は脂肪を蓄える傾向がある。それを書物で知っていたタバサは納得する。

 タバサとヘジンマールは場所を変えて、さらに事情を話し合う事にした。

 

 

 

―――――

「今日は、春の使い魔を召喚する儀式だった。ここで、使い魔を召喚し、契約出来ないと二年生に進級出来ない。」

「その儀式に、僕が来てしまったって事か…。使い魔に、君は何を求める?」

「使い魔は、主人の眼となり、耳となる」

「つまり、僕が見聞きしたものを、君も共有するって事?逆はどうなの?」

「逆も可能。後は、主人の望むものを見つけてくる事。秘薬の原料などが該当する。最後は、主人を守る事だけど…。」

「どうしたの?」

「…私は、ガリア王国の北花壇騎士団に所属している。本国から「出頭」として呼び出されれば危険な任務を行わねばならない。」

「断ったら?」

「母の命がない。」

 

 

 ヘジンマールは自分に置き換えて考える。母であるキーリストラン=デンシュシュアを人質に取られて、任務を行わねばならない。

 なるほど、それは断れない。

 

 

 

 

―――――

 夜になり、夜空を見上げて仰天したヘジンマールはタバサの部屋の窓を叩く。

 ただならぬ様子に、タバサは何かあったのかとヘジンマールに対応するが。

 

 

「大変!あ、あれを見て!」

 

 

 早口かつ小声で問いただすヘジンマール。その視線の先を、タバサは見る。

 今夜も二・つ・の・月が輝いている。

 

「月が、二つある!!」

「…?月が二つあるのは当たり前。」

 

 

 この使い魔は、何を当たり前な事に驚いているのか。

 一方、月が二つある事を当たり前のように告げられたヘジンマールは呆然とする。

 

 

「いや、月は一つ…」

「ヘジンマールの故郷だと、月が重なっているから一つに見えるのでは?」

 

 

 タバサは内心呆れながらそう教える。

 ヘジンマールの脳裏にSANチェックという不思議なワードが浮かび、直後に小さな立方体が転がる幻聴が聞こえる。

 

 

 その後ヘジンマールは腑に落ちない表情で、夜空に浮かぶ双月をしばし見つめるのであった…。

 

 

 

―――――

 呼び出されてからしばらくの間、ヘジンマールはタバサから文字を教わり、一人で読めるようになってからは共に本を読んで過ごす。

 

 言葉は交わさず、ただ、同じ時間と空間を共有する。そういう間柄になるまで時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

―――――

 使い魔になってしばらくたったある日、ヘジンマールは奇妙な夢を見た。

 知らない光景が、浮かんでくる。

 

 

 

 深い森の中。若い人間の女と、膨大な数の『頭』が胴体に生えている異形の姿が対峙している。

 

 致命傷を負って冷たくなっていく女と、ヘジンマールの全身に迸る強い怒り。

 

 異形が大きな口を開ける。ドラゴン、なのか?

 だが、ブレスが放たれるより前に。氷の槍が飛び込み…異形は倒れ伏す。

 

 

 弓が立てかけられている。その横に、綺麗な『蒼い髪』が捧げられる。

 

 

 …断片的な情報でしかないが、ヘジンマールは想像できた。これは、タバサの記憶だ。

 あの『異形のドラゴン』を倒せと言う任務を受けて、現地の協力者と当たっていたが、協力者は死亡。

 その後、タバサが仇を討ち、自身の髪の毛を捧げたのだろう。

 

 

 タバサが受けている『任務』というのがああいう化け物退治であるなら、心構えはしておかなければならない。

 

 

 

―――――

 最近。タバサは奇妙な夢を見た。

 王城の景色だ。どこの城だろうか?

 

 

 奇妙な亜人もいる。コボルトとは違うようだが…。茶色や黒が多く、赤や青の体毛をしている個体は少ない。

 

 それにしても何を食べているのだろう?まるで、鉱石のように見えるが。

 

 場面が、変わる。

 大きな成体のドラゴンがいる。

 

『無様にも程があるぞ、ヘジンマールッ!お前よりずっと年下の妹に、ブレスで押し負けるとは何事だ!この世は、強くなければ生き残れないのだッ!わかったか!』

 

 …似ている、ヘジンマールに。

 タバサはそう感じた。

 

 きっと、あのドラゴンはヘジンマールの父親で、これはヘジンマールの記憶だろう。

 タバサには妹が居ないからわからないが。父親から優秀な妹と比べられて叱責されるのは、辛いはずだ。

 

 詳細は不明だが、過去に無力だった事で大切な人を失った為に力を重んじるようになり、それをヘジンマールにも教えようとしていた。

そう、タバサは考えた。

 

 

 だが、ヘジンマールは穏やかで、戦いを好まず、知識欲に溢れた性格だ。

 あの韻竜の視点から見てもドラゴンらしくないのだろう。だが、タバサにとってはドラゴンらしい事よりも、自分と気が合う事の方が重要だ。

 

 近々、危険な戦いに巻き込んでしまうかもしれない。だからこそ、タバサは自分に出来ることなら精一杯ヘジンマールに報いると決めた。

 

 

―――――

 ある時、トリスタニアの賭博場でタバサは大勝ちして、その金でヘジンマールにも鹿肉料理とドラゴン・フルーツなる果物を持ってきてくれた。

 噛むほどに肉汁溢れる旨味たっぷりの鹿肉料理と、甘さと適度な酸味が合わさったドラゴン・フルーツはヘジンマールの胃袋と心を掴んだ。

 

 

 

「ねぇ、タバサ。貴女の使い魔って変わっているわね?ドラゴンなのに本を読むなんて。」

「勉強熱心。」

「うーん。ドラゴンが本を読んで何か意味があるの?」

 

 その問いかけを、ヘジンマールの父も投げかけた。ヘジンマールは相変わらず、それに対する答えは持ち合わせていない。

 だが、好きなのだ。知識を蓄えるという行為そのものが。

 

 

 タバサから借りた、『幻の古代知性生物たち~韻竜の眷属』にフロスト・ドラゴンに関する記述はなかった。

 予想はしていたが。

 

 

―――――

『どうした、氷の』

 

 

 タバサの友人、キュルケの使い魔サラマンダーのフレイムが、ヘジンマールに話しかけてくる。

 

「…アゼルリシア山脈、って知らない?」

『聞いたこと無いな。』

 

 

 ヘジンマールは、ジャイアントモールに顔を向ける。

 

 

「クアゴアを知っている?」

『知らないなぁ。もしかして、僕のように土の中に潜る種族なのかい?』

 

 ヘジンマールはヴェルダンテの言葉にうなづく。

 

 

「鉱石を食べて、それによって特徴が変わる種族なんだ。」

『鉱石を食べる?!なんて種族だ!』

 

 その生態に驚くヴェルダンテ。

 ジャイアントモールは宝石を見つける特技があるが、クアゴアという種族がいたら競合相手になることを、ヴェルダンテはすぐに思い至る。

 

 

『あなたって、本当に遠いところから来たのね。でも大丈夫よ。使い魔になったらご主人様に保護してもらえるんだから。』

「そう、だね。」

 

 小さなカエル、ロビンの言葉をヘジンマールは受け入れる。

 そもそも、あの調子だと自分は遠からず追い出されていただろう。正直、準備期間は欲しかったが…。

 

 ヘジンマールはこの異郷の地に住み着く決意を固める。

 

 

 

―――――

 

 ヘジンマールは、タバサから「イーヴァルディの勇者」という本を借りて読み終え…。ガリア王国からの「出頭」に応じてガリア王国への道中で話をする。

 

「イーヴァルディの勇者だけど。なんで勇者イーヴァルディじゃあないのかな?」

「それは、私も思った。」

「もしかしたら、勇者というのはイーヴァルディ自身を指さないのかも?」

 

 ヘジンマールの指摘に、タバサははっとする。

 

 

「!イーヴァルディの、決意とか、勇気…。それを指しているから、勇者イーヴァルディでは無くてイーヴァルディの勇者?」

「その解釈が正しそうだね…。ところで、今回の任務は何?」

「オーク鬼。人間の子供が好物。2メイルぐらいで、2本足で歩く大きな豚。」

 

 

 未知の敵との戦い、という事でヘジンマールは動揺するが…。イーヴァルディの勇者の物語を思い出す。

 自分だってドラゴンだ。豚に怯えるわけにはいかない。

 

 

 

 

―――――

 タバサが放棄された開拓村へ出立した直後。

 東薔薇花壇騎士団と外部のシャルル派の密会が開かれる。バッソ・カステルモールは、信頼できる6名の同志の顔ぶれを見渡す。

 平民の剣士、武人肌の土メイジ、老齢の司祭、若くて野心あふれる軍人、ガリアの竜騎士、フードを被った男。

 

 最後の議題は、先日呼び出された使い魔の話になる。

 

 

「最後に、シャルロット様が呼び出された使い魔だが…実物を見てどう思ったか、どうするべきか聞かせてほしい。」

 

 

「ふっ、新種のドラゴンを引き当てるとは、流石シャルロット様だな。」

「だが…ドラゴンにしては太っていないか?カステルモール殿、あれは少々運動させたほうが良いかと。」

「否、寒冷地の生物は脂肪を蓄える傾向があるのじゃ。それにまだ、懐いていない可能性もあるぞい。苛烈な訓練を施せば、恩義を忘れて野生に帰るやもしれぬわい。」

「カステルモール団長。あの使い魔はドラゴンでありながら読書をしていました。高い知性を持つ新種のドラゴン…もしかしたら、すでに滅びた韻竜の眷族かもしれませんぜ。この説を大々的に広めれば、我らはより大きな支援を受けられるのでは?」

「待て。そもそもドラゴンが本を読んで何になる?ドラゴンの役割は空を飛び、ブレスや牙、爪、尻尾で戦うことではないか?」

「うむ…。」

 

 そんな中。ずっと黙っていたメイジが口を開く。

 

「…シャルロット様は素性を隠して、小国トリステインで不慣れな生活を送っていらっしゃる中、読書を楽しんでおられるという…その同好の士が増えたのは、喜ばしい。たとえ呼び出されたのが、ドラゴンではなくネズミでも、シャルロット様の御心が安らぐならば…支持する。シャルロット様の御心は、すべてに優先する…。」

「そうだな。韻竜の眷族扱いをすれば、簒奪者の娘が手出しする可能性がある。当面はドラゴンを呼び出された、という話を流す。」

 

 

 

 

 

―――――

 廃墟となったガリア王国の開拓村。鉄の柵はひしゃげ、木製の建造物は風雨に任せるままに破損しつつある。

 

 そこに、獣の臭いをまき散らす亜人、オーク鬼が十数匹うごめいている。

 

 動物の毛皮を体に巻き付け、こん棒を持ち、鳴き声を上げる。

 

 

 

 

 水と風と風。タバサが得意としている、『ウィンディ・アイシクル』がオーク鬼達を不意打ちする!

 十数本の氷の矢に貫かれ、二匹のオーク鬼が倒れ伏す。

 

 

「ぶぎぃ!びぎぃ!」

 

 

 敵襲、という事を察知したオーク鬼たちがいきりたち、周囲の警戒を強め…嗅覚でタバサが隠れている場所を突き止めると、そこに向かって突進する。

 

 

 自分たちは大勢。相手は小さなニンゲン。

 負けるはずがない。魔法を使ってきても、自分たちの勝ちだ。

 

 

 

 

 直後、彼らは背中から猛吹雪を浴びる!

 その寒さたるや、真冬並みである。

 

 オーク鬼達は、なんとか振り返った。

 見た事のない、氷のドラゴンがそこにいた。

 

 

 あのドラゴンは一体何者なんだ…?

 それが、オーク鬼達が最期に思い浮かべた事だった。

 

 

 

―――――

 タバサが奇襲をしかけ、囮になる。後は向かってくるオーク鬼に対して、ヘジンマールがオーク鬼の後ろからブレスを放つ。

 そのまま挟み撃ちにして翻弄する。

 相手が単純なオーク鬼という事と、初の実戦という事で連携が取りにくい事を加味した作戦だったが…。

 

 

 タバサにとって想定外だったのは、ヘジンマールのブレスの強さだ。

 オーク鬼は丈夫な皮と脂肪で寒さや打撃に強い。そのうえ、毛皮を纏っていた。

 

 にも拘わらず、たった一発のブレスで全滅だ。

 韻竜の強さに対して、右斜め上に評価を修正するタバサ。

 

 

 

 ハルケギニアに来て、初めての実戦。

 ヘジンマールは渾身の力を込めてブレスを吐いたが…それで片が付いてしまった。

 

 

「…今ので終わり?」

 

 

 ヘジンマールの拍子抜けした声で、タバサは考える。

 これで片が付くなら、わざわざ自分を投入したりしないはずだ。ガリアの騎士団であれば討伐は可能なはず…。

 仮に自分を始末するつもりなら、お粗末すぎる…。

 

 

 

「びぎいいいいいいぃっ!」

 

 

 ひと際、大きな声が響き渡り何者かが迫ってくる。

 その方向をみて、タバサは理解する。

 

 

 なるほど、どうやらこの個体がいたから自分は送り込まれたのだろう。

 

 

 鉄製の部分鎧を纏った、オーク鬼と比較しても大柄な個体が、赤い刀身のバスター・ソードを握りしめながら数体の部下を引き連れて現れる。

 部下が殺されたことに気づいた、オーク鬼の首魁は雄たけびを上げて突っ込んでくる。

 

 

 タバサとヘジンマールの左から首魁と思われるオーク鬼が、右からその取り巻きが迫る!

 

 

 

―――――

 ヘジンマールのブレス、タバサの『ウィンディ・アイシクル』で鉄の鎧の隙間からダメージを与えたが…。

 それでも、オーク鬼の首魁はバスター・ソードを振り回して暴れ回った。

 

 あわや、という局面でもヘジンマールはタバサを庇う。

 

 

 

 ヘジンマールの尻尾で転倒させ、タバサが倒れた首魁の急所をブレイドで貫いた事でオーク鬼の首魁は力尽きた。

 

 

 勝てたのは、首魁を集中攻撃できるように周りの取り巻きを足止めをする。

 とヘジンマールが咄嗟に判断して、広く浅く、取り巻きの足元を狙って氷漬けに留めた事。

 

 オーク鬼の首魁が単調な攻撃しか出来ず、タバサが今まで積み上げた実戦経験と身のこなしで攪乱した事。

 こういった要素が重なり、主従は勝利した。

 

 

 

 残った3匹のオーク鬼は戦意喪失したため、ヘジンマールは爪で切りさいてトドメを刺す。

 

 

 ヘジンマールはタバサを庇った際に少なからず傷ついており、何より主従は疲れ切っていた。

 とりあえず、廃墟でもまだマシな所を探して一休みした後。魔法学院に帰ることにしたのだが…。

 

 

 

 

―――――

 タバサは、呆れていた。

 ヘジンマールが、オーク鬼の首魁が持っていた赤い刀身のバスター・ソードを持って帰るべきだ、と主張したからだ。

 

 

「…亜人が使っていた武器。そもそも、あちこち傷ついている。」

「聞いて。これには、持って帰るだけの価値がある。」

 

 真剣な目をしていた事で、タバサは持ち帰る事にした。

 内心ヘジンマールへの評価に、『意地汚い』という項目を密かに追加したタバサだったが…。

 

 

 

―――――

「た、タバサ?!ちょっと、そのバスター・ソードをよく見せてくれない?!」

「…構わない。」

 

 自室に押し掛けてきた友人の頼みを、タバサは許可する。

 近々、魔法学院の土メイジが武器をよく売っていると聞いているトリスタニアの武器屋に、タバサはこの戦利品を売り飛ばそうと考えていた。

 何せ、大きすぎて邪魔だからだ。

 

 

「…シュペー卿の刻印だわ!それに…」

 

 

 本が大量に収納されている室内にもかかわらず、炎魔法を使うキュルケに冷たい目を向けていたタバサだが、その目は丸く見開かれる。

 魔法の炎が吸収され、消滅したからだ。

 

 

 

「間違いないわ…。炎魔法無効で、シュペー卿の刻印がある。これが、レッド・ヴァン・テュラン…。」

「シュペー卿?」

「ゲルマニアの錬金魔術師よ!私、お父様と一緒にサルバトール侯爵にお会いしに行ったことがあるの…。その時に、水魔法無効のギアス・ヴァン・ブレイカーというソード・ブレイカーを見せてくれたわ。」

「メイジが、ソード・ブレイカーを?」

「ええ。なんでも、身に着けていれば水魔法のギアスとスリープ・クラウドにかからなくなるって。お父様の側近が試したいといってスリープ・クラウドをかけたけど、まったく効果がなかったわ。」

 

 

 ギアスとスリープクラウドが効かない、というのは北花壇騎士団員のタバサにとっては欲しくもあり、相手にはしたく無いアイテムだが…。

 そんな大貴族の所持品であれば手にする事は叶わないし、対峙する事も無いだろう。

 それよりも、気になる代物がある。

 

 

「風魔法無効は存在する?」

「エア・ヴァン・シャールという曲刀で…エア・ハンマー、エア・カッターどころか…ウィンディ・アイシクルまでも無効化出来るって聞いたわ。」

 

 

 親友の言葉にゾッとするタバサ。

 もしもあのオーク鬼がそんな武器を持っていたら、自分かヘジンマールは死んでいたかもしれない。

 

 

「烈風を倒すべく作り上げたらしいけれど…風魔法でも電撃属性のあるライトニング・クラウドは吸収できずに所持者は討たれ、鹵獲されちゃったみたい。私がトライアングルになったことを自慢した時…サルバトール侯爵が今の話をして、『炎魔法を無効にできるバスター・ソードが行方不明になっているから、バスター・ソードを所持している剣士には気をつけろ』って忠告されたわ。確かに、これを知らなかったらファイアーボールを使って吸収されていたでしょうね。」

 

 

 タバサはしばらく考え込む。

 どうやら、見た目によらず相当高級な品物らしい。

 

 

「それにしてもタバサ、一体全体どこで手に入れたの?」

「オーク鬼から奪った戦利品。」

「ど、どういう経緯でオーク鬼が手に入れることになったのよ…。てっきり、メイジ殺しが持っていると思っていたのに。」

「相場はどのくらい?」

「私のお父様がサルバトール侯爵に、ギアス・ヴァン・ブレイカーを4000エキューで買い取りたいと言ったら話にならんって断られていたわ。」

 

 

 このバスター・ソードと同格の剣が、4000エキューで拒否されたわけか。ソード・ブレイカーは短剣。これはバスター・ソードである事を考えれば、もっと価値があるかもしれない…。

 

 

「ねぇ、タバサ。私たち、親友よね?これをオークションに出品させてくれない?」

 

 

 タバサは深く考えて、告げる。

 

 

「取り分は、私が8で貴女が2」

「やった!愛してるわ、タバサ!」

 

 

 親友に抱きしめられながら、タバサはヘジンマールの夕飯を奮発しようと決めた。

 

 

 この日以降、タバサはヘジンマールの鑑定眼に一目置くようになる…。




夜空を見上げて、月が二つあったらオバロ勢はみんな仰天すると思います。
ヘジンマール君はSANチェックに成功したので正気度は保てました。

二次創作でもナマクラ扱いされるシュペー卿の業物…。真相は店主の嘘なのでしょうが…。
重ね重ね不憫なので、拙作では有用な魔法武器の製作者という事にしました。

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