ザナック「…サウスゴータの三分の一ほどの井戸は、北に30リーグほど離れた山中にある水源…なるほど、だから撤退したわけか。」
情報は大事。ザナックと同じ情報を集めていれば、モチャラスでもサウスゴータを切り取りには行かないでしょう。
…行きませんよね?モチャラスでも。
よし。モチャラスでも切り取りに行かないに、ヘジンマールの妹ちゃんの魂を賭ける!
ロンディニウムのアルビオン共和国の会議室は、重苦しい空気に包まれていた。
「…報告します。敵軍は、サウスゴータに進軍せずレキシントンに総力を傾けて進軍。リリーシャ護国卿は降伏し、レキシントンは同日中に陥落。
サウスゴータの放棄とリリーシャ護国卿の降伏を受けて、我らレコン・キスタから離反する部隊が多数出ております。」
「ご、護国卿でありながら、戦いもせずに撤退とは!」
「何たる腑抜け!」
増援を率いて到着する予定だったのに、ロンディニウムへ帰還せざるを得なかったホーキンス将軍はその報告を真摯に受け止める。
挟撃予定の部隊が撤退、自分が間に合わないとなれば降伏しか生き延びる道はない。
共和主義を掲げるレコン・キスタは、ともにジェームズ王と戦ったモード大公の娘ですら切り捨てた!
とザナックが知らしめた事で、レコン・キスタ内部でも王党派から降伏した者の士気は大いに下がった。
あれだけ貢献し、護国卿まで上り詰めても切り捨てられる。であれば、自分はどうだ?
その結果、多数の兵士は降伏を選択するようになった。
「状況は深刻だ。艦隊決戦で敗れたため、空を抑えられている…。だが、ロンディニウムに至るまでの砦や城がある。そこで降臨祭まで時間を稼ぐ」
「時間を稼いで、どうするのですか?」
「交差する二本の杖が鉄槌を下す。安心したまえ」
リリーシャが降伏し、レコン・キスタをクロムウェルが掌握。それにより使い魔の「主」が許可を出したことで、これまで隠していた事実をクロムウェルは明かす。
「なんと、閣下も人が悪い!」
「ガリアが味方であれば、なんの憂いもありませぬ!」
ガリアが味方という事でクロムウェルに従うだけの閣僚は安堵し、欲望に目をぎらつかせる。
「諸君、降臨祭だ!降臨祭まで時間を稼げば我々の勝利なのだ!」
「であれば閣下!護国卿、内務卿、法務卿と財務卿の後任を!」
「おお、その通りですぞ!」
「護国卿はわたくしに!」
「引っ込んでいろ!護国卿は私にこそふさわしい!」
「なんだと!」
議場での罵り合いは即座につかみ合いになり、椅子や机が倒れ、紙が乱舞する。
誰かが杖を抜き、魔法を使用したことで収拾はさらにつかなくなる。
どこからともなく飛んできた文鎮が、シェフィールドの膝に直撃。彼女は苦悶の声を漏らして座り込む。
王政を打破しようとしている、レコン・キスタにガリア王国が本当に援軍を出すのか?
と乱痴気騒ぎを見ながらホーキンス将軍は訝しむが…祖国への愛から最後まで戦い抜く覚悟を固める。
―――――
ジェームズ一世の寝室。
巨大なベッドの傍で、30歳の男は震える。
「は、話が違います!い、忌々しい連合軍が、まっすぐ!ロンディニウムに向かってきている!」
「ええ、そうね…。」
「な、何故サウスゴータを!空っぽにすれば占領、住民に物資を供出するから、目障りで用済みな連中を使いつぶし…ホーキンス将軍に全軍を指揮させて食い止めるはずが…」
「サウスゴータに目もくれないのは想定外だったわ…。あれだけの策源地が無傷で手に入るというのに、手を出さないなんて…。」
「り、離反する者も出ています…。ど、どうすれば?」
「虚無の同志を、敵の後方に送り込んで攪乱させるわ。」
連合軍の配置について、シェフィールドは調べていたが…。水源に関して非常に神経質に動いている。
アンドバリの指輪頼み、というのはすでに把握しているのだろう。
「…向こうが、タルブのゴーレムを使うならば。こちらも切り札を使います。」
「お、おお!そのような物が!」
シェフィールドは、足を引きずりながらクロムウェルを連れて倉庫へ向かう。
「私が動かします。」
「黒いですな…。密偵?」
黒を基調としたカラーリングの機体が、収められている。
「火力と機動力はあるけれど、防御が全くないわ。」
「?!だ、大丈夫なのですか!」
「そのために、装甲の強化と防具を運び込んでいるわ…。安心しなさい。」
シェフィールドは知らない。その機体は「アーベラージ」にて弐式炎雷が使っていた事を。
たとえ防御面が不安だろうと、そのまま戦えば勝利出来る事を。
―――――
レキシントン司令部にて、連合軍は次の作戦を立案する。
「ロンディニウムに向かうまでの間に、砦や城がある。後方を襲われる危険がありますが…」
「それでも、ロンディニウムを落とすしかない。降臨祭を挟めば物資が不足する。」
アルビオンへ物資を運ぶのは風石を消耗することもあり、非常にコストがかかる。
傷病兵を本国へ送り、その帰りに予備役と物資を運んでいるが…。
輸送部隊の現場は悲鳴を上げている。
先日、悪路により破損して放棄された敵軍のガーゴイルと物資は回収。鹵獲したガーゴイルは土メイジにより修復されて補給部隊のところで実戦配備されている。
こういった戦利品もあって、補給線は維持できている。
「ザナック王子、俺に考えがある。」
「カースレーゼ皇子?」
「降伏するのであれば、戦後、レコン・キスタに協力した罪は咎めない…。こう触れを出すのはどうだ?ウェールズ王子も、レコン・キスタに協力した者を一人残らず粛清する気はないだろう?護国卿の降伏さえ受け入れたのだから。」
そんなことをすれば、アルビオンの人口は半減する。ハルケギニア史上でも類を見ない虐殺をする羽目になる。
倒すべきはクロムウェルとその側近だからだ。
降臨祭までに終わらせねば、ガリアが動く。そのため、連合軍上層部には可能な限り戦闘を避けるという共通認識があった。
「その通りだ。」
「その案はありだな。道中の砦と城の守備隊も行動を躊躇うだろう。」
ザナックとしては、ホーキンス将軍がクロムウェルを縛り上げてアンドバリの指輪を差し出してくれたら、もうアルビオンに用は…。
いや、遠征費用及びタルブ戦役及び一連の戦闘で死亡した遺族年金を賄うためにも領土の割譲と賠償金で取り戻さねばならないが…。
―――――
同時刻。連合軍駐屯地で、一人の竜騎士が上司に報告していた。
「第二竜騎士中隊、フェルナンです!哨戒ラインを突破して、敵が進軍中!」
「長弓隊には伝えたのか!」
「はっ!ですが、効果が薄く…。急所を射抜かれたのに、平然と動きます!」
報告を受けたウィンプフェン伯の直属である参謀将校は、ザナック陛下から指示されていたことを実行する。
攻撃を受けても平然と動く『敵』が現れた場合の対処は…。
「水精霊騎士隊の火メイジに通達!ここで食い止めるぞ!」
―――――
後方に送り込んだ同志は、アンドバリの指輪により蘇ったレコン・キスタの手駒。
風で致命傷を受けても、即座に回復する。
平民であれば、打つ手がない相手。
それを三方向から送り込み、連合軍の司令部を襲撃する策略だったが…。
火と火と土。
炎蛇が使った残虐無比な『爆炎』
それは襲撃者をまとめて焼き尽くす!
「…お見事です。」
「まだまだ足りん。さて、これで終わりでは無いだろう?」
その破壊力に、若い竜騎士は戦慄しながらも安堵する。
一方で鬼火は部下に周囲を警戒させつつ、自身も哨戒する。
事実、これは一方面でしかなかったのだが…。
―――――
ゲルマニア軍が配置されている駐屯地。
「敵襲!」
「矢が通じない?!どうなっている!」
アルビオン戦役に選抜されたゲルマニア兵士は、決して臆病ではない。
平民でありながら、亜人を討ち取った豪勇の戦士も混じっている。
だがどれほど勇猛な戦士だろうと、『自分の武器が通用しない』という相手と対峙すれば戦意は崩れる。
そんな中、地響きが伝わってくる。
ハルケギニアでも、地上を駆け抜ける速さなら最速と言われる、幻獣バイコーン。
気性が荒いこの幻獣を乗りこなすのは、カースレーゼ皇子率いる直属の精鋭部隊。
火力と機動力を重視したバイコーン隊から、ファイヤーボールが放たれる。
ザナックから伝えられていた『炎以外に有効打が無い敵兵』についての情報を入手していたこともあり、迅速に対処する。
「殿下!今の敵はいったい…。」
「炎以外受け付けない兵士だ。まだ残党がいるかもしれん。火メイジを必ず1人加え、8人組で周囲の警戒に当たれ!」
「はっ!」
その指示を受け、部下は周囲の警戒に当たる。
―――――
すっかり油断していたロマリアからの義勇軍が配置されていた駐屯地は、大混乱に陥っていた。
突然の襲撃に慌てふためき、剣は?弓は?と探し回る滑稽な姿は、無様の極みである。
駐屯地入り口を突破し、内部に入り込んで破壊工作を始めた部隊に、風竜のブレスが浴びせられる!
襲撃者を一蹴した竜騎士は、その場に降り立つ。
「お、おお!流石ジュリオ様!」
「…ちょっと気を抜き過ぎじゃないかな?」
「申し訳ございません。まさか奇襲を受けるとは…。やはり小国や野蛮人は当てになりませんな。」
そういう事では無く、仮にも敵地でこんなに気が緩んでいることをジュリオは指摘したかったが…。
自分の主に、資金面で融通を聞かせてくれる人物だ。心証を悪くするのは得策ではないため、黙り込む。
その様子を、小さな魔法人形が見つめていた…。
―――――
「…全滅。くっ、これだけ投入して将校一人討ち取れないなんて…!」
哨戒任務に当たっていた不運な兵士を若干名討ち取ったが、到底釣り合わない。
シェフィールドは歯噛みする。
「あのお方の役に立たなければならないのに…!」
ガリアの両用艦隊の準備は整っていない。爆破事件が相次ぎ、降臨祭の後になる事がほぼ確定している。
ゆえに、降臨祭まで長引かせねばならないのだが…。
「ロンディニウム郊外で、決戦するしかないわね…。ロマリアの竜騎士も気になる…。」
シェフィールドはそう決意し、その場を静かに立ち去る…。
―――――
レキシントン司令部にて、各地の駐屯部隊から上がってきた報告をまとめた文官は、ザナックに報告する。
「襲撃の影響は?」
「哨戒任務に当たっていた兵士が14名死亡。事前に火系統が利くとわかっていたので。損害は物資のみです。ロマリアからの義勇兵に、怪我人が多数出たそうですが…。」
「そう、か。今後襲撃はあるかもしれないが…。時間がない。前進する!目指すは、ロンディニウムだ。」
―――――
ロンディニウムまでの砦、城は37ヵ所。
だがその中で、レコン・キスタのために捨て石になろうとする将兵は驚く程少なく、戦おうとしても味方だった者に攻撃され…
這う這うの体でロンディニウムにいるレコン・キスタと合流する以外に道はなかった…。
ロンディニウムに駐屯している神聖アルビオン共和国陸軍の実情は、心が折れた兵士や、策もなく革命の熱気にあてられた愚か者ばかりであり、芳しいとはいいがたい物だった。
降臨祭まで時間を稼ぐのは、もはや不可能というのは誰の目にも明らかだった。
神聖アルビオン共和国、首都ロンディニウムのホワイトホールにて。
ホーキンス将軍は、覚悟を決める。
「クロムウェル閣下。小官はロンディニウム郊外で決戦を行うべきと進言します。」
「な、何故だ?ロンディニウムに籠城すれば」
「首都を戦場として、どうするおつもりか。」
静かな言葉だったが、ホーキンス将軍の言葉にクロムウェルとその取り巻きは何も言い返せない。
「待て、それでは私は、いや、我々はどこにいけば」
「ニューカッスル城は?」
「あそこはすでに廃墟ではないか!」
「こうしてはおれん、至急ロンディニウムでの防衛計画を」
「それは貴公に任せる。私は援軍を連れてくる!」
「おお、そ、そうだ!私も援軍を連れて戻ってくる!それまで持ちこたえるのだぞ!」
「どこに行くつもりだ!護国卿であればロンディニウムに残るべきだろう!」
唾を飛ばして喚き散らす者、沈むフネから逃げだすネズミのごとく会議室から去る者。
つい先日、護国卿の席を巡った閣僚たちは責任の押し付け合いを始めている。
思えば、この程度の小物しかいない状況で他国と戦端を開いた時点で詰んでいたのだろう。
ホーキンスはそう思った後…。出撃準備に入る。
「ホーキンス将軍。タルブのゴーレムは私が抑えます。火竜騎士隊を全て投入して頂きましょう。」
「…何故、ここまで温存を?」
「非常に精巧な代物なので、起動に時間がかかりました。」
事も無げに言う秘書を、ホーキンス将軍はにらみつける。
「わかりました。全力を尽くしましょう」
ドラゴンブレスは、王党派の残党との戦いで戦死。虚無で蘇ったが、シェフィールドによる後方強襲作戦で二度目の死。
ドラゴンテイルは、タルブ戦役でゴーレムにより殲滅。
残る火竜騎士隊は3つ。ドラゴンスケイル、ドラゴンアイ、ドラゴンクロー。
風竜騎士隊のドラゴンウイング。
かつてハルケギニアの強国とうたわれたアルビオン軍は、粛清と反動の内乱。各地で敗北したことで、その戦力は低下。
この戦争は負けだ。だが、負けるにしても…。
アルビオン軍の誇りと意地を見せつけつつ、次世代を残す。そのために…。
ホーキンス将軍は、ドラゴンスケイルの隊長に伝令を送る。
―――――
ドラゴンスケイル隊長、ヴェイルはドラゴンウイングの副隊長であるフーティスを呼び出す。
「お前は、法改正に伴って竜騎士となったこのメンバーを集めて、ラスターンにて待機せよ。」
「?!小官は、戦えます!」
「駄目だ。予備役は全て下げることが決定した。お前は本来予備役どころか、竜騎士にもなれない身」
「…っ!」
「…アルビオンは負けるだろう。だが、次世代が残っていればまた再建できる。生きろ。ウェールズ王子であれば、悪い扱いはしない。」
「御武運を。」
―――――
ロンディニウム郊外、上空にて。
平賀才人は風竜騎士隊とともに偵察任務を行う中、とんでもないものを見つけてしまう。
思わず動きがとまり、他の風竜騎士もそちらに注目する。
「あれって、君と同じゴーレムじゃあ!」
黒を基調とした、あのカラーリングは…。ゴテゴテと防具と盾を装備しているが…見間違えるわけがない。
『防御力をゴミ』と言い放つ、弐式炎雷さんの機体。ファイアボルト。
そもそも何故、ハルケギニアにアーベラージのロボットがあるのか不明だが…。敵側にあれがあって、弐式炎雷さんがいては戦いにはならない。
―――――
「タルブの英雄が私と二人きりで話をしたい、と?」
「はっ。なんでも重要な報告があるとの事で」
「であれば、閣僚の前でもよいだろうに…。陛下、いかがなさいますか?」
「…俺は同席する。そう伝えろ。」
平賀才人は、撤退を訴えたらトリステイン側はともかく、アルビオンとゲルマニアの関係者は猛反対すると考えた。
ゆえに、トリステイン側を説得する事にした。自分の武器が有用であることを知っているなら。
「レコン・キスタに、アーベラージの兵器がある、と」
「弐式炎雷さんの機体、ファイアボルト。間違いありません。今の俺が戦ったら間違いなく殺されます。そして、あの人はそのまま本陣へ切り込むぐらいはやってのけます。」
「どういう人物なのだ?」
「えっと…防御力はゴミ、火力と機動力に全振りする人です」
「そのゴーレムの状況は?君が知っているファイアボルトと全く変化は無かったか?」
「防具を増やしていました。盾も」
「ふむ…聞いた話では、弐式炎雷卿は来ていないな。」
「えっ?」
「防御力をゴミ、と言い放つ人物がハルケギニアに来て突然守りを固めるとは思えない。ここにきて心変わりした可能性もあるが…それよりも別人が乗り込んでいるという方が適切だろう。」
「それは…でも、もしも本人だったら」
「タルブの英雄…いや、平賀才人」
ウィンプフェン伯は、平賀才人をじっと見つめる。
その気迫に、平賀才人は思わず後ずさる。
「ここで撤退すれば、勝ち目は本当になくなる。撤退すればアーベラージのゴーレムに怯えて逃げ出したと思われ、味方の士気は下がり、敵の士気は大いに上がる。今まで投入しなかったのは、投入したくなかったからだろう。ファイアボルトの調整がうまくいかなかったか…。弐式炎雷卿の説得、あるいはアンドバリの指輪による洗脳か。いずれにせよ、ここで勝つしか無い。」
「ウィンプフェン伯…」
「平賀才人。ファイアボルトを破壊しろ。これは参謀総長ではなく、君自身の為だ。弐式炎雷卿に恩義があるなら、それに報いる為に。」
「ファイアボルトを壊すことが?!」
「防御を捨てでも火力と機動力を重視する、その美学を愛さぬ不届きものに弄ばれるぐらいならば…弐式炎雷卿も壊されることを望むだろう。」
「ウィンプフェン伯、ザナック陛下。失礼ですが…死ぬのが怖くないのですか?」
「何を言っている?」
事も無げに、ウィンプフェン伯は言葉を続ける。
「怖いに決まっているし、死にたくない。」
「はへ?」
「だが、戦わねばどうなる?私の主君や同僚、家族、部下…。そういった大切な人が死ぬかもしれない。私はそちらの方が怖い。君にはいないのか?」
「…ルイズ」
「そうか…。ならば、なおさら勝って生き延びるしかないな。」
ウィンプフェン伯は微笑む。
「…ありがとうございます。話を聞いて下さって。俺、戦います。ファイアボルトと」
Q:あの、ルイズ様はどちらに?
A:虚無に覚醒していないので、学園で始祖の祈祷書を持ってお留守番です。