トリステイン王子、ザナック!   作:交響魔人

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 アンドバリの指輪で蘇生された『偽りの命』は炎が有効な反面、それ以外がほぼ通じない。
 対策していれば勝てますが、対策していないとワンサイドゲームに持ち込まれる。

 やはり事前の情報収集は大事ですね!


決戦!ロンディニウム

 ロンディニウム郊外。神聖アルビオン共和国の最終防衛ライン。

 ここを突破すれば、残るは王都。

 

 

 対峙するトリステイン・ゲルマニア連合軍は正面から激突。

 

 乱戦になり、互いに殺し殺されの激戦が繰り広げられる。

 

 

 

「アルビオンの火竜騎士隊、3つ全てが司令部めがけて突っ込んできます!」

 

 

 悲鳴じみた報告が、ザナックのところに持ち込まれる。

 

 

「た、タルブのゴーレムを!」

「そうですぞ!火竜騎士隊を単独で殲滅したという…。」

 

 

 アルビオンの竜騎士は天下無双。

 だからこそ、タルブ戦役で活躍したゴーレムの活躍は大いに期待されていたのだが…。

 

 

「敵左翼から巨大ゴーレムが出現、それを受けてタルブのゴーレムが出撃しました!」

「「何ぃ!?」」

 

 

「…そういうわけだ。あのゴーレムの相手を出来るのはタルブのゴーレムのみ。カースレーゼ皇子、我が水精霊騎士隊と長弓隊を預ける。」

「任せろ。」

 

 

 全盛期であれば、100騎を展開できたアルビオンの火竜騎士隊も、2つの隊が壊滅。60騎であれば足止めできるはず。

 

 

 

(平賀才人が敗れ、そのゴーレムが前線に出てきたら負けだな。)

 

 ザナックは内心そう思うが、顔には出さず泰然とする。

 打てる手は、全て打った。これで敗れるなら、最初から敗れる定めだったという事だ。

 

 

―――――

「ヴァリエール公爵軍接近!」

「相手にとって不足なし、行くぞ!」

 

 部下と共にマンティコアに跨った騎士隊の隊長は、勇ましく立ち向かうが…。

 敵のマンティコア隊長の放った「カッター・トルネード」で使い魔ともどもボロボロになって無力化される。

 

 

「このまま、前線をかき乱します。」

「はっ!」

 

 マンティコア隊を蹴散らした、『烈風』はそのまま進軍を続ける…。

 

 

 

 

―――――

 ギーシュは、オーク鬼の攻撃を紙一重で躱す。

 小さなニンゲンをつぶせないことに、オーク鬼はいら立つ。

 

 

(力だけなら、サイトよりも強いけど)

 

 

 速度が全く足りない。

 完成した呪文、アースハンドで転倒。

 周りの兵士が急所を貫いてオーク鬼を討ち取る。

 

 ガンダールヴとの組み手は、ギーシュを一回り成長させていた。

 

 

 

「ギーシュ士官、新手です!」

 

 今度は、3体が向かってくる。

 その中の1体を、赤銅のゴーレムがフランベルジュで切り伏せる。

 どうっ、と倒れ、最後のオーク鬼がギーシュに対して背中を見せる。

 

 

 間髪入れず、ギーシュのアースハンドでもう一体を転倒させ、兵士が群がる。

 

 

 オーク鬼で構成された亜人の小隊は、トリステイン魔法学院から志願した二人の土メイジ、ギーシュとジェダが指揮する部隊の前に壊滅した。

 勿論、亜人の小隊はこれだけではない。だが、亜人達は神聖アルビオン共和国軍が期待するほどの戦果を上げることもなく、崩壊していく。

 

 

 

 

―――――

 槍隊を指揮している男は、密集陣形を作っていたが…。

 遠距離からのファイヤーボールとエア・ハンマーでまとめて吹き飛ばされてしまった。

 

 

「こっちは片付いたね。」

「そうだな。次だ。」

 

 レイナールと、ヴィリエは部隊を率いて、次の敵部隊に向かっていく。

 

 

 

―――――

 シェフィールドは、いら立っていた。

 

「何故、倒せない!」

 

 

 当たれば即死の攻撃を放つが、攻撃が当たらない。

 

 

 最初の攻防で、才人は見抜いた。乗っているのは弐式炎雷さんでは無いと。

 防御力をゴミと言い放つ、火力と機動力に全振りするロマン構築。

 

 その美学は鈍重な鎧と盾で、最大の利点である機動力は失われていた。

 一撃必殺の火力は健在だが、当たらければ意味がない。

 

 

 

 このゴーレムで連合軍を強襲すれば終わる。それだけの力があった。

 だが、その前に。虚無の使い魔として、ガンダールヴを血祭りに上げてからと考えてしまった。

 

 

 無論、才人を放置して連合軍に攻めかかれば、奇襲されるかもしれないというリスクがある。

 合理的な判断ではあったが…。

 

 

 

 機動力を支えている基部が次々と破壊され、計器はエラー音をオーケストラのように奏でる。

 右腕が落とされてバランスが崩れ、さらに操縦が困難になる。

 

 

 そんな最中。

 ガンダールヴにスキが生まれた。

 

 

「これでっ!」

 

 

 戦場の狂気と焦りに彩られた女の一撃は。

 

 軽く躱され、近接用の主武器は双月にもぎ取られていた。

 

 

「?!」

 

 

 奪われた武器が、向けられる。左側から向かってきたため、咄嗟にシェフィールドは左腕に『わざわざ追加した盾』を構える。

 

 これには、固定化もかけてある。これで跳ね飛ばして体勢を崩して。

 

 

 そう思った直後、シェフィールドの意識は暗転する。

 

 

 

 

 

 弐式炎雷さんの昼飯4回分に匹敵する『課金アイテム』を鹵獲した才人は、そのまま盾ごと切り伏せた。

 コックピットの「中身」には目もくれず、才人はアーベラージ由来の戦利品を漁る。

 

 

「敵司令部を落として、この戦いを終わらせる!」

 

 

―――――

 タルブのゴーレムとレコン・キスタのゴーレムの戦いは、一方的な戦いで終わった。

 おまけに、タルブのゴーレムはそのまま司令部目掛けて突っ込んでいく。

 

 

 

「ヴェイル隊長!もはやこれ以上は…」

「…こちらのゴーレムは敗れ、我らもまた司令部は落とせずか。撤退するぞ!」

 

 

 地上はすでに、敗走を始めている。

 追撃してくる敵部隊と、算を乱して敗走している味方は明らかに練度が違う。負けるべくして、負けた。

 

 

「レント隊長は戦死。ハイヴィンド隊長は逃走しました。」

「…残ったのはこれだけ、か。撤退だ!」

 

 生き残ったのは36騎。

 この上、タルブのゴーレムと交戦する気は彼に無かった。

 

 

―――――

 こちらのゴーレムは敗れ、竜騎士部隊は敵司令部を落としきれない。

 その上、部隊は各個撃破され、司令部に迫ってくる。

 

 

「れ、烈風が近づいてきます!」

「タルブのゴーレムもです!閣下、お逃げください!」

 

 

 ここまで総崩れとなった軍を立て直すのは、名将といえど難しい。

 

 

「…君たちは引きなさい」

「閣下は」

「後から行く。」

 

 

 そう側近に告げ、ホーキンス将軍は迫りくる連合軍を見据える。

 傍らに駆け付けた副官に、ホーキンス将軍は目を向ける。

 

「閣下?」

「苦労を、かけた。」

 

 長きにわたり、ホーキンス将軍の副官を務めた男はそれで察する。

 殿軍になって散るつもりだ、と。

 

「…御武運を」

 

 

 残ったのは、すでに傷つき逃げることも出来ない者達。

 敗残兵を束ねて、ホーキンス将軍は死を覚悟する。

 

 

―――――

 死を覚悟した、殿軍の勢いは凄まじい。

 逃亡する敗残兵を追うだけ、と気が緩んでいた連合軍。その攻勢に『待った』を掛けた。

 

 傷を受けても、敵を一人でも倒そうとする殺意。その前に、攻めている側の連合軍がたじろぐ。

 

 それでも、交代を繰り返して攻め立て、ついに500人を下回るほどになった。

 

 

 その殿軍に、大きなゴーレムと、練度の高い部隊が急行する。

 

 ホーキンス将軍が率いる殿軍は、多くのアルビオン陸軍を戦域から逃亡するだけの時間を稼いだが。

 

 

 『タルブのゴーレム』と『ヴァリエール公爵軍』によって打ち破られた。

 殿軍に生き残りは、居なかった。

 

 

 

―――――

「勝ちましたな。」

「…あのゴーレムに乗っていた人物は?」

「申し訳ございません。逃げられました…。」

「構わない。弐式炎雷卿では無いのだな?」

「はい。」

 

 そう答える才人。

 

 

 ザナックは、ウェールズ王子とカースレーゼ皇子と共に、ロンディニウムの大門前に歩み出る。

 偶然か必然か。ザナックが立っている場所は、かつてリリーシャが伯父を糾弾した場所と全く同じだった。

 

 

 ザナックが見ている前で、破城槌によりロンディニウムの門が開く。

 

 

「クロムウェルを討てっ!突撃!」

 

 

―――――

 

 正門から真っすぐ突き進むゲルマニア皇子カースレーゼ率いるバイコーン隊。

 

「ここで、クロムウェルを討ち取れば、塔に幽閉される事は無くなる!」

 

 

 カースレーゼは、既に戦後を見据えていた。連合軍を主導したザナック王と自分では器が違う事を思い知らされた。

 アルビオンはウェールズ王子が即位して王政復興となるだろう。

 だが、自分は大将首一つ上げていない。火竜騎士を2名討ち取り、重傷を負わせたが到底足りない。

 

 

 

 

「ボシュエ護国卿!て、敵が迫っています!」

「案ずるな!我に秘策あり!戦わずして降伏したリリーシャとは訳が違う!やれいっ!」

 

 

 十字路に差し掛かったところで、左右から伏兵が迫る。

 

 

 

「殿下!これが秘策だそうですよ!」

「笑わせるなっ!」

 

 カースレーゼと副官が杖を一振りすると、バイコーン隊を挟撃しようとした部隊の前に炎の壁が生じる。

 

 

「うわああああっ!」

「ひいいいっ!」

 

 

「ば、馬鹿なっ!十字路を直進してきた敵を、挟み撃ちで壊滅させるという、私の完璧な作戦が…」

 

 

 カースレーゼは使い魔のバイコーンに跨ったままバリケードを跳躍。そのままユニコーンに騎乗している護国卿に杖を突き付ける。

 

 

 

「護国卿を名乗っていてもお前では力不足、役不足もいいところだが、やむを得まい。」

「ふん、役不足というのは役者に対してふさわしい役が無い事を言う。野蛮なゲルマニア人では品性が下劣だな!」

「…口先だけは回るようだが、魔法はどうかな?」

「ほざけっ!」

 

 

 

 両者は突進しあい、バイコーンとユニコーンが交差し…。

 カースレーゼの炎の槍は、ボシュエ護国卿を焼き尽くす。

 

 

 

 

 

―――――

 正門には敵兵が配置されていると予測しているウェールズ王子は、別ルートから突き進む。

 彼と同じくこの地を知り尽くしている王党派は、レコン・キスタ閣僚の直属部隊を瞬く間に瞬殺していく。

 

 

 

「ボシュエ護国卿、戦死!」

「第六歩兵部隊、全滅!」

「亜人部隊も苦戦、このままでは支えきれません!」

 

 

 

 次から次へと入ってくる悲報に、クロムウェルは打つ手がない。

 アンドバリの指輪で、手当たり次第に蘇生させているが…。炎が有効という事を知られて対処されている。

 

 

 

 クロムウェルの「虚無」で蘇るメイジ。それに、閣僚の一人があることを思いつき…水で鎧をまとわせる。

 

「おお、これなら!」

「よし、まずは侵入してきた敵から…」

 

 

 色めきだつ、レコン・キスタの閣僚達の前に。

 ウェールズ王子が現れる。

 

 

 

「クロムウェル!」

「来るがいい、亡国の王子!」

 

 

 アンドバリの指輪で蘇り水の鎧を纏ったメイジ達が、ウェールズの前に立ちはだる。

 

 

「炎は無駄だ!」

「風メイジの王子には無理だろうがな!」

 

 

 

 ここにきて炎への対策を施された敵が出てきたことで、ウェールズは息を整える。

 

 

「何故だ、オリバー・クロムウェル。何故、革命を起こした!」

 

 

 一連の内乱を主導した男。おそらく、これが彼と言葉を交わせる最後の機会。

 

 

「…お前たち、テューダー王家は。私を司教から追い出した!その上、後任は私に、ガリアへの届け物を依頼した!それが、どれほどの屈辱か!」

「…屈辱?」

 

 

 ウェールズは呆然とする。それが理由で?

 そもそも、テューダー王家にブリミル教会の司祭を罷免する権限など無い。それが出来るのは各国の枢機卿やロマリア皇国の本国くらいだ。

 

 

 後にウェールズが調べたところ、クロムウェルは教会の立て直しやらで寄付金を募りながら懐に入れていた事を知って怒り狂うのだがそれはまた、別の物語である。

 

 

 迫りくる水の鎧を纏ったメイジ達を、エア・ハンマーで牽制するが決定打には至らない。

 一方で蘇生させたメイジ達も、祖国を取り戻す一心で杖を振るウェールズ王子と側近を討ち取れない。

 

 だが、いくら攻撃を受けても死なないメイジと、攻撃が当たらないメイジ。一件互角に見えても、時間が経過すればどちらが勝つかは明白である。

 

 

「厄介な…!」

「クロムウェルはここか!その首、貰った!」

「カースレーゼ皇子?!駄目だ、相手は水で鎧を纏って…」

「だったら、その鎧ごと燃やし尽くすまでだ!」

 

 

 

 ここに来て追いついたゲルマニア人の部下も参戦するが、水の膜で覆われた不死身のメイジ相手に対し、決定打に欠ける。

 タイミングがかみ合ったウェールズ王子のエア・ハンマーとカースレーゼ皇子のファイヤーボールで二人が燃え尽きる。

 

 

「対処法は見つかったが」

「何度も通じたりはしないか。」

 

 これなら、連合軍の大物二人を人質にして脱出することも可能なのでは?いや、降伏すらさせられるかもしれない!

 共和主義者達は、き残れる可能性を得て歓喜の表情を浮かべる。

 

 

 

 そんな中、ようやくザナックが手勢とともに到着する。

 新手が到着したことでギョッとするクロムウェル達だが、その笑みがますます深くなる。

 

 

「これはこれは、ザナック王。連合軍の司令官が勢ぞろいか。君たちを始末した後、私の「虚無」で新たな命を与えてあげよう。」

「それが水の精霊から盗み出した、アンドバリの指輪か」

 

 

 ザナックはクロムウェルの指輪を指さしながら告げる。その言葉に、レコン・キスタの閣僚が困惑する。

 

 

「何を言っている!」

「知らないようだが、クロムウェルは虚無を使えない。アンドバリの指輪の力を『虚無』と偽っているだけだ。違うというなら、その指輪を外して『虚無』を使って見せろ」

 

 

 クロムウェルは沈黙する。それが、答え合わせになった。

 

 

「か、閣下!う、嘘ですよね!閣下は始祖から虚無を賜り、無能な王家を打倒して、聖地を奪還して…」

「まぁ、敵の言うことを素直に聞く義務も義理もないか。さて、終わらせるとしよう」

 

 

 それを受けて、クロムウェルは開き直る

 

 

「どうやって私を倒すつもりかね?ザナック王は土メイジのドットでは無いか。」

「水の鎧で炎が効かない。なるほど、この土壇場で思いついたか…。」

 

 

 ザナックが杖を振る。コモン・スペル、蜘蛛の糸が伸びて動きを封じる。

 これはネバネバした糸を作り出す上に伸びるので、刃物で切ったり炎で燃やさない限り、抜け出せない。

 

 倒れたメイジに対して、アース・ハンドで杖を取り上げるザナック。

 

 

「あ、ああああああっ!」

「コモン・マジックの念導で宙に浮かせるなりして、動きを封じろ!所詮、死なないだけだ!」

 

 

 蘇った『同志』を無力化され…レコン・キスタの閣僚は次々と討ち取られる。

 

 

「クロムウェル、覚悟っ!」

「ぐああああああっ!」

 

 

 

 ウェールズ王子はクロムウェルを討ち取る。

 水の鎧をかけていたメイジも死亡し、アンドバリの指輪で蘇生された兵士が燃やされ…。

 ここに、レコン・キスタ戦役は終結する。

 

 




 ザナックが使った魔法は、原作タバサの冒険で、人さらいがシルフィードに使っていた魔法です。
 まだ幼いとはいえ、韻竜を抑え込めるので利便性が非常に高いと思います。

 次回は戦後処理と諸国会議です。『翼』(艦隊と竜騎士)と『爪』(陸軍)を失った、『焼かれた鳥』(アルビオン)の、『肉』(領土)を切り分けるお話。

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