トリステイン王子、ザナック!   作:交響魔人

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ゼロ魔のクロスオーバーでは、ルイズに召喚されるのが才人ではなく他作品のキャラクターになり、それに伴ってシェスタの祖父がクロスオーバー先の関係者となり、シェスタやタルブの村が強化される流れが多いですが…異世界の知識や技術についてはロマリアが積極的に取り込んでいるので、どちらかと言うとクロスオーバー先次第では、ロマリアが強化されるような気がします。

まぁ、ロマリアが物語に本格的に絡んでくるのがアルビオン戦役後なのですが。


トリスタニアの長い一日

 ロマリア皇国。

 オッドアイで美形の少年、ジュリオ・チェザーレが教皇、聖エイジス32世の前に跪く。

 

 

「証拠を手に入れました。トリステイン駐留の西方聖典を動かそうとしています。こちらが、指示書の写しです。」

「愚かですね。ザナック王は甘い相手ではない。」

「…いかがいたしますか?公爵令嬢を襲えば、ザナック王はロマリア皇国を非難をするかと。少なくともトリステイン王国在ロマリア大使、サウル大司教に話を通しておくべきでは?」

「彼には伝えないように。泰然と受け答えをしてはザナック王は我々が気づいていたのに動かなかったと見て、態度を硬化させるでしょう。」

「全てはリヒテン卿の暴走、という事にするのですね?」

「その通りです。サウル大使殿には過酷ですが、これも神の試練。乗り越えてもらいましょう。その後は、アクイレイア聖堂を解体して西方聖典を取り込みます。」

 

 その答えに、ジュリオは異論を呈する。

 

「それですが…。何名か排除せねばならないかと」

「といいますと?」

「第一席次はリヒテン卿の腹心であり西方聖典最強。しかし…人格面に多大な問題があります。第四席次は金にがめつく、極めて強欲。この二人は大隆起後の権益が保証されないなら、大隆起で滅んでしまえ、と主張しております。」

「それは問題ですね。」

「一方、第二、第三、第五席次は大隆起を止めることが最優先と述べています。第六席次以降については、まだ調査中です。」

「わかりました。ジュリオ。残すべき聖典は貴方に任せます。本も、状態の悪いものは処分せざるを得ないので。」

「お任せください、教皇猊下」

 

 

 

 

 

―――――

『相棒、つけられているぜ』

「デルフ?」

 

 この日。虚無の曜日ということでトリスタニアへ息抜きに来ていたルイズと才人は、デルフリンガーの言葉に警戒心を強める。

 

 

「…王都で騒ぎを起こすつもりか?」

 

 才人はザナックに睨まれた日を忘れられない。王子の時にあんなに怖かった。王になった今はもっと怖い。

 

 

 足を止めるが、向こうも足を止めたらしい。

 どうしたものかと考えていると。

 

 

「ん?ヴァリエールとサイトか。どうしたんだ、こんな場所で立ち止まって。」

「ジェダ?!」

 

 そういうルイズに対し、ジェダは無遠慮に近づくと小声でつぶやく。

 

 

「アクイレイアだ。」

「…えっ?」

「撒くのは無理だ、かといって街中だと無関係な奴が大勢傷つく。ついてこい。」

 

「ちょっと、どこに行くつもり?」

「トリスタニアの再開発地区。住民も立ち退いている。あそこなら騒動になっても、損害は廃棄予定の建物だけだ。」

 

 

 獲物が態々、人気の少ないところに入っていく。

 西方聖典が率いる配下はひそかに合流して、その後を追う。

 

 ゆえに、そんな自分たちを水色の髪の少女が見ていて、こっそり合図を送ったことに気づけなかった。

 

 

―――――

 通りの店はすべて閉まっており、民家の入り口には板が打ちつけてある寂れた場所。

 王都ではあるが、拡張工事を順に行うべく準備が進められている再開発地区。

 

 ジェダは歩みを止め、声を張り上げる。

 

 

「…この辺でいいだろう。なぁ、西方聖典!」

 

 

 音もなく現れる八名の人影。

 

 

「女と祈祷書を渡せ。そうすれば、お前だけは見逃してやる」

「あんなことを言っているが、どうする?」

 

 

 ジェダに言われ、才人はデルフリンガーを引き抜く。

 

 

「…男はどちらも殺せ。使い魔はまた召喚させればよい。」

 

 

 相変わらず不格好だが、赤銅製で全身に鋭いスパイクを生やしたゴーレムが、同じく赤銅製のフランベルジュを装備する。

 決闘の時から時間は立っているが、あの時よりもより大柄になっている。

 

 

「行くぞ。鎧強化(リーインフォース・アーマー)!下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)!下級筋力増大(レッサー・ストレングス)!」

 

 次々と何かしらの能力を発動する八名。

 

 

「な、なに?!何を使っているの?!先住魔法?!」

 

 座学主席の才媛が混乱する中、ジェダは覚悟を決める。

 

 

「ヴァリエール、今からすることは他言無用だ。」

「へ?」

「…能力向上!」

 

 サイマリンが滑らかに動き出し、フランベルジュを一閃!突進してきた3人を牽制する!

 

「ぶ、武技を使えるということは!」

「そういう事だ。」

「…裏切者めっ!」

 

 

 

―――――

「…流石はガンダールヴ。だが、もう限界だろう。」

「くそっ!」

 

 

 吹き矢で毒を浴びせられ、いやな汗と熱が才人をむしばむ。

 相手は、戦いなれしていた。表の戦いではなく、裏の戦いに。

 

 暗器や搦め手が上等、という勢力との交戦経験が才人には不足している。

 ガンダールヴの身体能力があれば勝てると思っていたが…相手も身体能力を強化しており、自分ほどではないが中々素早い。そのうえ、連携をとってくる。

 

 

「祈祷書に担い手。それに加えて『裏切者』の子孫まで討ち取れるとは、思わぬ収穫だ。担い手よ、我々と共に来い。そうすれば、ガンダールヴは助けてやろう。」

 

 

 追い詰められたルイズに、西方聖典は選択を迫る。

 

 

「…お断りよ。」

「何?」

「私はあんた達なんて、信用できない!」

「ガンダールヴ。お前はここで死ぬ。恨むなら、担い手を恨むがいい」

 

 荒い息をつきながら、才人は怒鳴る。

 

 

「襲ってきたのはお前たちじゃねぇか!」

「フン。トドメの前に…ネズミを始末するとしよう。」

 

 

 廃屋の一つに、エア・カッターが飛ぶ!

 そこから小柄な人影が飛び出し…。

 

 降りてくるであろう地点で、西方聖典のブレイド使いが待ち構えるが降りてこない。

 

 

「よっ、はっ、ほっ!」

 

 小柄な影は器用に壁に足をつけ、ほかの廃屋に飛び移ってルイズ達と合流する。

 

 

「あ、アンタ、何者なの!」

「貴女がトリスタニアに来たとき、見張るよう命令されていたわ。ザナック陛下の命令で。」

「陛下が?」

「それで彼らは何者?」

 

「アクイレイアの西方聖典だ。逃げろ、そのぐらいの時間は稼いでやる。」

「西方聖典?漆黒じゃなくて?」

「何の話だ?」

 

 ザナックから詳しい事情を聴かされていないディミは、話についていけない。

 ただ、「虚無の曜日には詰所で待機。ヴァリエール嬢がトリスタニアに入ってきた知らせを受けたら、追跡。何かトラブルに巻き込まれそうになれば、指定の人員に合図を送れ」

 

 としか言われていない。引き受けた理由は、多額の報酬とザナックへの恐怖心だ。

 「件の令嬢はきっとザナック陛下の愛人だろう。」と思っていたら荒事だ。もう少し事情を話して頂きたい。

 

 …かつて事情を詳しく話されていない傭兵部隊隊長を、舌先三寸で騙して逃亡したけれど。それはそれ、これはこれ、である。

 

 

 

 

―――――

 唐突に西方聖典の後ろからファイヤーボールが飛んでくるが、跳躍して回避される。

 

 

「今のって…」

「コルベール先生?!」

 

 

 トリステイン魔法学院の書生である二人と才人にとって、コルベール先生というのは昼行燈ともいうべき冴えない中年だ。

 二つ名である炎蛇というのも、似合わないとすら思っていたが。

 

 

「鬼火と…誰?」

 

 

 一方で、魔法学園とは縁もゆかりもないディミは困惑する。

 一人は合図を送った人員の一人だが、もう一人の中年男は誰だろう?

 

 

「…生徒から、離れろ。」

「コルベール…ああ、炎蛇か。お前たち、足止めしろ」

「「はっ!!」」

 

 

 挟み撃ちではあるが、まったく動じる事無く対応する西方聖典。

 

 

 

「あー、もう!女は度胸っ!」

 

 袖口からナイフを取り出し、ディミは亡き母から教わった教えと共に、ナイフを投げつける。

 刺客の一人に当たり、苦痛の声を漏らす。

 

「やるなっ!」

 

 内心、戦力外と思っていたジェダはディミの動きを見て、評価を修正する。

 

 

 

 

―――――

 挟み撃ちにしているが、こちらはろくに連携が取れない者同士。

 

 ディミは、ヴァリエール公爵令嬢と平民の付き人、ゴーレム使いの土メイジと即席で連携を取らねばならない。

 鬼火は実力者だが、炎蛇という熱血教師が居た所で役には立たないと判断する。

 

 時間さえ稼げばこちらが有利になる。既にザナック陛下が用意した手勢が動き始めているはずだ。

 

 

 

―――――

 …かつての部下と共に、火系統で戦うコルベールだが、敵の身体能力の高さに驚く。

 これほどの手練れが、何故生徒を狙う?

 

 魔法実験小隊時代に築き上げた、呪文と体術の併用。今も機会を伺って鳩尾を殴ったが。

 

「不落要塞!」

 

 

 と叫ばれて防がれた。何かしらの術を使っているのだろうが、先住魔法とは明らかに違う。

 生徒の方は、才人君とジェダ、それに水色の少女が頑張っているが…。毒を盛られては長くはもたない。

 

 

 爆炎を使えば強行突破できるが、今使えばかつての部下と生徒を巻き込む。

 

「流水加速!」

「っつ!」

 

 

 突然早くなった敵の突進に、コルベールはブレイドで対処、そのまま蹴りを入れるが、要塞!と叫ばれると防がれる。

 これは、一筋縄ではいかない。

 

 

 

 

 

―――――

 コルベールと対峙している西方聖典は、薄く笑う。

 今回の任務を成し遂げれば、アクイレイア聖堂の権威は高まる。

 ロマリアは、改革派などと言う少数派ではなく、保守派。それもリヒテン様に導かれるべきだ。

 

 他の席次は何も分かっていない。大隆起を阻止してもトップが弱腰のエイジス32世では駄目だというのに、『今は大隆起阻止を最優先にすべし』と言っている。

 戦後の権益を守らねば、ロマリアが、野蛮なゲルマニアや無能なガリアに支配されるかもしれないのに!

 

 それにしても、この中年男は意外とやる。だが、この男たちを処理する必要はない。時間を稼げば、担い手と祈祷書の確保は他の席次がやってくれる。

 

 

 

 

―――――

 荒い息をつく才人とジェダ。

 

 

「…ヴァリエールだけでも逃がすか?」

「駄目だ、ルイズを狙っているならここの方が安全だ。周囲に手駒が置かれていたら終わりだ。」

 

 

 そんな中、ふっと空が暗くなる。

 即座に後ろへ下がる西方聖典達。

 

 

 降り立つは、マンティコアに騎乗した厳めしい髭を蓄えた騎士。

 

 

 

「狼藉を働いているのは、お前たちだな!」

 

 

 マンティコア隊長、ド・ゼッサール。廃棄地区で煙が上がっている事で、部下に衛兵の詰め所に走らせつつ、自身は真っ先に駆け付けた。

 襲われているのが魔法学院の制服を着ている上に、ヴァリエール家の名前を出した事もあって西方聖典をにらみつける。

 

 

「…近衛隊まで来るとは…。やむを得ん。使うぞ!」

 

 

 その言葉を受けて、西方聖典3人は小瓶の中身を一斉に飲み干し、陶器の瓶が転がる。

 

 

 

「まずいっ、能力超向上だ!」

「えっ、噓でしょ?!」

「「「「「流水加速!」」」」」

 

 変化はすぐに表れ、今まで以上の速さで向かってくる。

 その素早さにディミとルイズはもちろん、かつて実験小隊に所属していたコルベールと鬼火も一瞬驚く。

 

 隙を突かれて軽傷を負わされるが…お返しとばかりにブレイドで手傷を負わせるコルベール。

 

 

 ド・ゼッサールにとっても初見だが…烈風カリンに散々しごかれ、その後任を任された男は本能的に初撃を防ぐ。

 

 初見殺しの初撃を防がれて驚愕する西方聖典達。彼らは武技を操れるようになってから初見殺しの一撃で仕留めてきた。

 

 防がれるという事態など、想定してない。

 偉大過ぎる先代にこそ及ばないが、戦場で思考を停止するような隙を見逃すはずもなく。

 

 ゼッサールはエア・スピアーで一人の左肩を貫き、使い魔のマンティコアがもう一人を抑え込むが。

 

 

 一人がすり抜けてルイズの方に迫る!

 

 そんな中、ルイズが持っている始祖の祈祷書が輝き、独りでにページが捲られる。

 

「…ディスペル?!」

 

 

 サイマリンがその突進をフランベルジュで受け止めようとするが、回避される

 ディミはジェダが即席で作り上げてくれたナイフを投げつけ、太ももに突き刺さるが、「痛覚遮断」と呟いてそのまま向かってくる。

 

 

 腕が嫌な色に変色しつつある才人が、デルフリンガーで切り結ぶ。

 後方からサイマリンが挟み撃ちを仕掛けるが、跳躍して躱す。

 

 彼らが稼いだ貴重な時間の間に。

 ルイズはディスペルの詠唱を完了する。

 

 

 放たれた魔法は、着地した男に当たり…秘薬による影響を打ち消す。

 秘薬の効能が失われた男が吐血する中。

 

 才人がデルフリンガーを振り下ろして気絶させるが、才人も地面に倒れ伏す。

 

 

 残った西方聖典隊員二名は、前方をコルベールと鬼火、後方をド・ゼッサールに挟まれる。

 

 

 

「…降伏しろ。」

 

 追い詰められたにも関わらず、二人は笑みを浮かべる。

 

 

「きゃあっ!」

「?!ヴァリエールッ!」

 

 

 直後、ルイズの後方から現れた男たちが、ルイズを抑え込む。

 

「回り込んでいたのかっ!」

「お前たち、撤退だ。」

 

 

 マンティコアに抑え込まれていた隊員が身を捻り脱出、手傷を負った隊員も跳躍して合流。

 

 直後、飛んできた風竜に掴まり飛び去る。

 

 

「…逃げられたか。」

「こうしてはおれんっ!」

 

 

 

―――――

 このまま風竜とともに脱出。そう思っていた西方聖典だったが、そこに不確定要素が参戦する。

 

「なんだ…?新種のドラゴンか?」

 

 

 飛んできたドラゴンに、ルイズは見覚えがある。本を読むのが好きなヘジンマールという新種だ。

 

「タバサッ!」

「…こっち!」

 

 

 どうしてここに、という考えは過ったがルイズはクラスメイトを信じ、風竜に蹴りを入れて痛みで体勢を崩させるとタバサに向かって落ちる。

 

 レビテーションが間に合い、ヘジンマールの上に着地する。

 

 

「タバサ、ありがとう!」

「礼はいらない」

 

 ルイズが後ろを見ると、トリステイン王国軍の竜騎士達が急行してくる。

 

 

 

 

「私は、首都警護竜騎士連隊隊長、ルネ・フォンク!そこの…えーっと、風竜…?ただちに、停止せよ!」

「タバサ、止まって!」

 

 お願いするルイズをタバサは無視する。

 ルイズは不安になって声をかける。

 

 

「…タバサ?」

「スリープクラウド」

 

 

 眠りの雲が、ルイズに向かって放たれる。

 どうして?という疑問が浮かぶ中。ルイズの意識は遠ざかる。

 

 

 杖を向けた様子を目撃したルネ・フォンクは相手を敵と判断。救出すべく急行をかける。

 北花壇騎士として様々な任務を遂行してきたタバサだが、竜騎士との戦いはこれが初めてだ。

 ヘジンマールも、数の差がありすぎて対処ができない。

 

 

 意識のない人間というのは意外と重く…タバサの腕からルイズが落ちる。

 

「待っ!」

 

 

 思わず手を伸ばすタバサに対し、風竜騎士の放つ魔法の矢が直撃する。

 

 薄れゆく意識の中。タバサの視界に…落ちていくルイズをロマリアの風竜が受け止める光景が見える。

 

 地上に降り立ち、タバサを庇うヘジンマールを5名の竜騎士が包囲する。

 

 

 余計な邪魔が入ったが再び担い手を確保し、煙幕を張る西方聖典。

 

 

 まんまと逃げおおせられ、ルネ・フォンクは部下とともに帰還。

 

 一連の戦いに関わった面々は、報告と指示を仰ぐべく、ザナックの所に向かう。

 

 

 

 

―――――

 その日の夕方。ザナック陛下の謁見の間にて。

 

 

「アクイレイアの西方聖典という一団が襲撃を行い、ヴァリエール嬢が連れ去られました。申し訳ございません。」

 

 

 西方聖典という名前にザナックは興味を引いた。思い当たる国家が一つある。スレイン法国だ。

 

 

「西方聖典?」

「それについては、この者が知っているようです。」

 

 

 目を向けられ、ジェダは一礼する。

 

 

「ロマリアの暗部が連れ去ったのであれば、殺しはしないだろう…。それで、なぜさびれた地区に赴いた?」

「大通りで騒ぎが起きれば、大勢の無関係な人が傷つくと判断しました。彼らは見境がありません。」

「その心がけは立派だが…。」

 

 担い手と国宝がまとめて奪われたのが大問題だ。

 

 

「それにしても、ゼッサール卿がいて抑え込めないか。相当な手練れだな。」

「彼らは武技を用います。」

「ほぅ?」

 

 

 内心驚くが、それでも表情を取り繕うザナック。

 

 

「ロマリアに流れてきた東方の特殊な技です。それを扱えるのが、アクイレイア聖堂の暗部、西方聖典。鎧強化(リーインフォース・アーマー)は防御力が、下級筋力増大(レッサー・ストレングス)は腕力が、下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)は素早さが上がります。」

「ずいぶん詳しいのだな」

「私の先祖に、元西方聖典隊員がいるのである程度は知っております。『東方の武技』を水魔法の秘薬で再現出来るようにしたものまで存在しますが…製造と流通はアクイレイア聖堂が独占しており、西方聖典が何かしらの任務を遂行する際に携帯。連中にとっても安い代物では無いらしく、追い詰められない限り使いません」

「東方っていうと、アーベラージか?」

 

 リリーシャ王妃がつらそうにしている才人に目を向ける。

 

 

「いえ、そのようなポーションは見た事も聞いたこともありません。」

「出所は不明か…」

 

 

 

「そして、フォンク卿。見聞きしたことを報告しろ」

「はっ。急報を受けて現場に直行したところ、未知のドラゴンに乗った少女が眠りの雲を使用。敵と判断して包囲に取り掛かりました。ですが、ヴァリエール嬢は意識を失っており墜落。そこをロマリアの風竜に連れ去られました。」

「ロマリアの手に落ちた、ということか。その少女は?」

「タバサ、というようです。」

 

 黙って聞いていたコルベールが驚く。ザナックはコルベールに視線を合わせる。

 

「知っているのか?コルベール」

「はい。彼女はガリアからの留学生です。しかし、どうしてミス・ヴァリエールを。」

「状況から判断するに、ロマリアの暗部とガリア王国が手を組んだ可能性もあるが。」

 

 

「手を組んでいたにしては、全く連携が取れていない。ロマリアとガリアがそれぞれ狙って仕掛けたのでは?」

 

 リリーシャの言葉を受けて、ザナックは考える。

 

 マザリーニ枢機卿はため息をつく。

 

 

「この件に関しては、ロマリア皇国に対して厳重に抗議し、外交で圧力をかけねばなりませんな。」

「いいのか、マザリーニ。祖国だろう?」

「他国の公爵令嬢を襲う蛮行を野放しにはできません。陛下、全員下がらせましょう。」

「そうだな。全員、下がれ。手当が必要な者は言え。波濤のモットに治させる。」

 

 

 憂鬱な気分で下がるゼッサール。

 ヴァリエールの名前と桃色ブロンドの髪で、ゼッサールは確信を得ていた。

 

 

 彼女は先代隊長、烈風カリンのご令嬢。先代隊長に、自分がその場にいながら娘を連れ去られたと知られたら…。

 

 背筋が寒くなる。『弛んでいる!』として鋼鉄の規律を再度叩き込む訓練が実施される事が容易に想像つく。

 ゼッサールの手が思わず震える。酒はどこだ?とびきりいい奴を開けねば。

 

 確か贈答品として送られた、ローゼンクロイツ産の割と高い一本があったはずだ。あれを開けて今宵は寝むろう。

 

 

 

 そんな手が震えているゼッサールを横目で見たフォンクは、この度の襲撃事件を受けてロマリアに対して怒りを抑え込めないのだろうと判断。

 自分もいずれはこういう人物になりたい、否、ならなければならないとより一層身を引き締める。

 

 

 

 

 

―――――

 正妃と二人きりになったザナックは、情報を整理しながらつぶやく。

 

「聖典に武技。ロマリアは法国と関係があるのか。」

 

 それを聞いて、リリーシャはふと口を滑らす。

 

「法国って、スレイン法国の事?」

「ああ、そうだ。」

 

 次の瞬間、ザナックは立ち上がって杖を抜き、リリーシャを見つめる。

 

「ザナック?」

「さてリリーシャ。どうして、君がスレイン法国の名前を知っている?」

 

 

 失言をした事に気づいたリリーシャは素早く立ち上がり扉に向かって駆け出すが、ザナックのウェブを受けて転倒。咄嗟に受け身をとるが、動けない。

 

 白い糸にからめとられる、銀髪巨乳の美女という絵が出来上がる。

 

 

「待って、お願い!話を聞いて!」

「ああ、勿論だ。いろいろと聞かないといけないからな。どうやって、誰から聞いたのか…。」

 

 

 自分に迫るザナックの目を見て、リリーシャは逃亡と抵抗を諦めた。

 

 ザナックが、あの日見てしまったラナーと同じ目をしていたから。

 




 というわけで武技使いと、能力超向上の秘薬の登場です。
 水魔法を駆使して再現しているので、能力超向上の秘薬は虚無魔法のディスペルで打ち消せます。


 前任者の娘を誘拐されて、ヤバイ、再訓練される!となって酒に逃げるゼッサール。気持ちはわかりますが。


 タバサは優秀な北花壇警護騎士団員ですが…竜騎士ではありません。
 使い魔がヘジンマールでは無くてオラサーダルクであれば、西方聖典もトリステインの竜騎士中隊も蹴散らして脱出に成功していました。
 公爵令嬢誘拐にオラサーダルクを協力させるには、相当金銭を積まないといけないでしょうが。アニメで見てて思いましたが、ドワーフの撃退に金銭要求しすぎでは?


 そして、とうとうバレたリリーシャ。ザナックといろいろお話をすることになります。
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