トリステイン王子、ザナック!   作:交響魔人

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この展開をやりたいから、オリキャラとしてモード大公と正妻との間に産まれた娘、としてリリーシャを登場させました。
ティファニアではこの展開は無理なので。


ザナックとジョゼフの会談と、リリーシャの説得

 オールド・オスマン氏からの情報提供も得たザナックは、ガリア王国との交渉を行うべく、会談を打診する。

 最初は突っぱねるつもりだったジョゼフだが、出された内容が。

 

 

『貴国とトリステインの仲を裂こうとする第三者による謀略』

 

 と記されていた事で、受ける事にした。何を言い出すのか、楽しみだからだ。

 

 

 迎賓館の晩餐室。

 料理も紅茶もない、殺風景な光景だがこの方がザナックとしても都合が良い。

 

 

 

「では、始めるとしようか。」

「感謝します。何せ、暇では無いので。率直に話をさせて頂く。陛下の姪が、我が国の公爵令嬢を襲った。」

「ほう?そんな事が。」

「身柄は、我が国で預かっている。だが、彼女はガリア王家の命令に従ったと言う。これが真実であれば開戦理由になるが、私はそう思っていない。」

「ふむ。」

「第三者が、ガリアとトリステインの不和をもくろんだ、と考えている。」

「俺が命令した、と言ったらどうする?邪魔な姪をトリステイン人に始末させるために命令した。あり得ぬ話では無いだろう。」

「それは無い。貴方は、彼女の父親であり実弟のオルレアン公を愛しているのだから。」

 

 

 ガリア王ジョゼフ。魔法が使えぬ『無能王』。

 優秀な弟を謀殺して、王宮においては政務を放り出して一人遊びに夢中な、心を病んだ王。

 

 その錯覚資産は、ハルケギニアの各国首脳陣を大いに悩ませてきた。

 

 アルブレヒト三世は内心嘲笑した。

 サルバトール侯爵も、理解できないがゆえに警戒を強めるにとどめた。

 

 ジェームズ王とモード大公は、距離を置いた。

 

 無能という蔑称は陰謀を得意とするジョゼフにとって、掛け替えのない財産だった。

 余裕の笑みを浮かべていた、ジョゼフの顔色が悪くなる。

 

 

 

「何のことだ?俺がシャルルを愛しているだと?知らないのか?俺は弟を暗殺したのだぞ。」

「両用艦隊の旗艦名は、シャルル・オルレアン。心の底から嫌っているのであれば旗艦名に弟の名前をつけたりしない。」

 

 

 もしも。リ・エスティーゼ王国で海軍を強化する話が出て、旗艦の名前をバルブロが「この艦名は、『ザナック・ヴァイセルフ』にする!」と言い出せば、

 自分もレエブン侯爵も、おそらくはラナーやジルクニフでさえ…意図を図りかねるはずだ。

 

 ジョゼフは沈黙する。その反応は、ザナックの推測が真実である事を何よりも雄弁に物語る。

 

 

「そもそも先代ガリア王が次の王に、と指名したのは陛下のはずだ。オルレアン公を指名していたが、それを脅して簒奪したのであれば、オルレアン公は自分の身内に対する守りを万全にした上で自分こそが正当な王である、と発表すればいい。だが、それはしなかった。なぜなら、指名されたのが陛下だったからだ。」

「……れ」

「ここからは私の推測でしかないが…遺言を聞いた帰り道に弟君からこう言われたのではないか?」

 

 唇をなめて、ザナックは告げる。

 

「『おめでとう、兄上』と。」

「黙れええっ!」

 

 

 感情をむき出しにするガリア王の剣幕を、ザナックは平然と受け流す。

 この反応は予測していたからだ。

 

 

「魔法が不得手、人望も高く。その上で人格者。誇らしく、それでいて憎たらしかった。愛していたが故に、旗艦名にオルレアン公と名付けた。対立派閥のまとめ役になりうる娘を、処刑しなかった。その母親の心を奪うに留めた。」

 

 

 そう。おかしいのだ。

 ジョゼフが簒奪者と言っても、正当な王位継承を受けているはずだ。本当にジョゼフが簒奪したのであれば、内乱に突入している。

 簒奪したならば、玉座を脅かしかねない存在であり、旗印足り得る娘を生かしておく理由が無い。

 様々な任務につけているが、始末するなら任務先に手勢を配置しておけばそれで片が付く。

 

 

 

 そうやって考え、調べ、相談した結果。ザナックはジョゼフの錯覚資産を打ち破った。

 

 

「ああ、ああ!そうだ!その通りだ!お前に理解できるか!あの時の俺の憎しみが!惨めさが!」

 

 まき散らされる呪詛。40年近く、弟と比べられた事で積もり積もった怒りと悲しみ。誰よりも優れていると認めている弟を手にかけてしまった、己のどうしようも無さと醜さ。

 その醜態を見ながら、ザナックは違和感を感じる。

 

 

 本当に、本心からそんな風に言えるのか?王族が?

 魔法が兄よりも得意で、人望もあり、次期王位は確実とまで言われていたにも関わらず…結局父親から王位に指名されなかった。

 悔しく無かったのか?

 

 もしもその通りであれば、ラナーとは別方面で『化け物』だ。

 だが、その考えをザナックは口にしない。ただでさえ、ガリア王の逆鱗に触れているのだ。これ以上踏み込むなど、逆鱗に塩を擦り込むような所業だ。

 

 

「取引だ、ジョゼフ陛下。」

「…取引だと?」

「今の話を公開されたくなければ、不可侵条約を締結してもらう。」

「はっ…こちらにメリットが無いな。」

「勿論用意している。飲んでくれたら、ガリア国内のオルレアン公派の抵抗を弱める。」

「何?」

 

 

 どうやって?という想いがジョゼフの中に浮かぶ。

 シャルロットの身柄を抑えているが、側室にでも迎えるのか?

 それこそまさかだ。東薔薇花壇警護騎士団長が、手勢を率いてトリステインに攻め込むだろう。

 

 

「面白い、やって見せろ。」

「では、会談はここまでだな。失礼させていただく。」

 

 

 

―――――

 トリスタニアにて。

 ザナックから連絡を受けたリリーシャは行動を開始する。

 

 

 公爵令嬢を襲撃したシャルロット姫。

 父親を伯父に殺された、という点で似たような境遇であるが…。

 

 彼女を説得する。それが出来るのは、今のトリステインにおいて自分が最も適任だ。

 話し合いの席において、タバサは使い魔を同席することを強く望んだ。

 そのため、周囲には手練れのメイジが控えている。

 

 

 

 彼女の使い魔という珍しいドラゴンに目を奪われたが、即座にするべきことを思い直し…リリーシャはシャルロット姫と向き合う。

 

 

「…モード大公の娘。」

「如何にも。奇遇な事に私たちは、伯父に父を殺された者同士。質問しよう。貴女は、王冠が欲しいか?」

 

 その問いかけに、タバサは真摯に答える。

 

 

「…王冠なんていらない。」

 

 しばし、呆然とするリリーシャをじっとタバサは見つめる。

 

「ならば、何が欲しい?」

「ヘジンマールと、一緒に本を読める環境。後は、食事が出来るなら。」

 

 

 本当に、目の前の少女は王族なのか?

 文字通り血で血を洗う抗争を経験した、リリーシャは唖然とする。

 この返答は、ザナックと相談した中でもなかった展開だ。

 

 

『世が世なら次期王女。汚れ仕事をさせられていた事を考えたら公爵では不満を持つ…大公国として独立するぐらいは保障しなければ、ジョゼフへの不満を抑えさせるなんて出来ないわ』

『学院での彼女に関する調査記録を見る限り、本と食べ物さえ与えておけば懐柔できそうな気もするがな…。そっちは任せた』

 

 

 だが、リリーシャは即座に思考を切り替える。

 

 

「…そういう事であれば、オルレアン公派を抑えて欲しい。貴女が意思表示すれば、彼らの大義名分は無くなる。」

 

 

 旗印の意思表示というのは極めて重要な要素だ。

 自分もジェームズ王も。戦うという道を選んだからこそ、内乱になった。あの時、どちらかが折れていたら…アルビオン領の分割は無かったかもしれない。

 いまさら遅すぎるが。

 

 

「…その要求を拒んだら?」

「そういうことであれば、私個人としては非常にありがたい。ガリア王ジョゼフが、オルレアン公の娘に命じてヴァリエール公爵令嬢を襲撃させたため、トリステインはガリアに宣戦布告をする。」

「勝てると思っているの?ガリア王国に。」

 

 リリーシャは笑みを浮かべる。

 

「宣戦布告と前後して、ガリア国内のオルレアン公派にこう囁く。戦後、シャルロット姫をガリア女王にする後押しをする、と。そうすればオルレアン公派が一斉蜂起、ガリアは内乱となる」

「?!」

「トリステイン王国からは『烈風』が杖を抜いて進軍。当然、現在軍事同盟を結んでいるゲルマニアも参戦する。確か…サウスゴータ太守であるカースレーゼ皇子は反ガリアの筆頭だったから、アルビオンからも空路で襲撃が出来る。さて、その後のガリアはどうなる?」

「…敗戦すれば、トリステインとゲルマニアとアルビオンにガリアが分割される…?」

「まぁ、親愛なる従兄夫婦であれば、アルビオン領の返還の代わりにガリア王国に関する権益を放棄する、と交渉してくる可能性は高いが。」

 

 

 使い魔のドラゴンが、じっとシャルロット姫を見つめる。

 

 明確に知性がある反応に、リリーシャは少しだけ気になった。

 確か、使い魔は主の命令を聞けるだけの知能があるというが…いや、このような政治的な話をドラゴンが理解出来るわけがない。

 

『言葉を操るだけの知性を持っていた韻竜はすでに絶滅している』という常識で育ったリリーシャは、そのように判断する。

 

 

 

「だったら、どうしてそうしない?」

「私の夫が、それを望んでいないから。今の私は、トリステイン王妃。トリステイン王の意思が優先される。」

 

 

 

 シャルロット姫にした、一連の説明は…ザナックと事前に相談した話である。リリーシャはそうなる展開を望んだが。

 

『ガリア王国領土を奪っても、統治できる人員が居ない。現在、アルビオン領の統治で手一杯だ。』

 

 と言われたため、トリステイン王妃としてガリアとの戦争は避ける方針に従った。

 

 

 

「席を外してほしい。考える時間が欲しいから。」

 

 

 リリーシャは頷いて、その場を去る。

 ヘジンマールも連れ出される。

 

 

 

 

 

―――――

 トリステイン王宮に、アポイントメント無しに大きな袋を大量に持ち込んだ若い女竜騎士への対応は、おざなりになった。

 散々待たされることになった竜騎士は、主君への手土産と渡された品物の一つに目をつける。

 

 立方体で、1面には9つのマスがあり、色が塗られている。全部で6色あるが…。

 試しに手を取ってみると、どうやら列ごとに回せる事に気づいた。

 

 もしや、これは6面にそれぞれ一色ずつ合わせられるのでは?

 周りのトリステイン官吏が多忙な中、立体パズルにフーティスはハマる。

 

 

 

 

 散々待たされ、ようやく目通りが叶ったが。

 

 

「…共和主義者残党に関する情報が、こちらになります。」

 

 

 封を施された資料を恭しく提出するフーティス。

 

 

「それと、こちらの荷物は王妃様宛てになります。」

「なに?随分多いな。」

「はい。小官の出立前に、王妃様を慕うアルビオン王政府の閣僚方が大勢いらっしゃいました。内務卿と財務卿。これは他の閣僚の皆様方からの個人的な贈り物になります。」

 

 

 大きな包みを置いた後、何かに気づいたフーティスはポケットから立方体のパズルを取り出す。

 

「懐かしいっ!『色合わせ』だわ!」

 

 リリーシャは手際よく回転させると、あっという間に6面全部を同色に揃える。

 

「それ、コツがあるのか?」

「そんな所よ。フーティス卿、他に伝言は?」

「ありません。」

「それなら、下がりなさい。」

 

 

 一礼して、退出するフーティス。

 

 

 

 

―――――

 レコン・キスタ時代に元上司だった人物と面会したフーティスは、退出した後につぶやく。

 

「…お変わりは…あったか。表情が柔らかくなった…。」

 

 ああいう恰幅の良い方が好みなのか?そうであれば、いささか意外だ。

 

 歩いていると、フーティスは見覚えのある竜騎士と遭遇する。

 

 

「あーっ!あの時の女竜騎士?!」

「お前はあの時の…生き延びていたのか。」

 

 かつて交戦した相手。

 

 

「戦友か?アッシュ。」

「断じて違うぞ、ジェダ。サウスゴータ方面の偵察時に遭遇したアルビオンの竜騎士だ。」

 

 やや敵意の混じった視線を向けられ、傲然と受け流すフーティス。

 腰に手を当て、自慢げに告げる。

 

 

「あの時は10対1という戦力差だったが…、偵察任務を遂行して帰還した。」

「名前をうかがっても?」

「私は、フーティス・リンドブルム。アルビオン風竜騎士隊副隊長を拝している。貴公は?」

 

 

「私はジェダ・オルスト。」

「僕、いや。私は、アッシュ・ペントルドン。トリステイン王国首都警護竜騎士連隊副隊長だ。」

「せっかくだから、一緒に来てもらってはどうだ?」

「あの新種か?アルビオン人にわかるとは思えないが。」

 

 

 

「言ってくれるではないか。竜さえ確保できれば、アルビオンの竜騎士隊は再建可能だ。」

「ということは、数十年は再建できないということだな。」

「ほぅ?」

 

 

 同じ竜騎士ではあるが、交戦した間柄ということもあってバチバチと火花を散らす二人。

 内心呆れつつ、ジェダは先導する。

 

 

 

 

―――――

 トリスタニアの留置所。

 言葉をしゃべってはならず、本も読めずに退屈なヘジンマールは、迷惑そうに周りを見渡す。

 

 

 若い人間が自分の周りに集まって来た。マントを羽織っているからメイジ、つまり貴族。

 …赤毛の人間は知っているが、残りの二人は知らない。

 

 

「彼の名前はヘジンマール。」

「…なるほど、新種だな。」

 

 じっと、フーティスはヘジンマールを見つめる。

 ジェダは咳払いして口を開く。

 

 

「…使い魔に関して、俺はこう習ったことがある。使い魔は、我々人間の言葉を理解するだけの知性を得るが、喉はそのまま。ゆえに、主人と使い魔の意思疎通は一方的にしかなっていない…と。」

「ということは、このドラゴンは僕たちの会話を理解しているってこと?」

「そうでなければ、使い魔は命令を理解できない。ヘジンマールの場合は本を読んでいるため、なおのこと理解していると思われるが…。」

「ドラゴンなのに、読書が好き…。もしや韻竜か…?」

 

 

 

「この機会に、ちょっと見て頂きたい事がある。ヘジンマール、使い魔である以上、主人の命令には逆らえず退屈だよな?これは差し入れだ。」

 

 ドラゴンフルーツを差し出されたので、ヘジンマールは受け取り、皮をむいて白い果肉にかぶりつく。

 

 

「「ええええええええ?!」」

 

 トリステインとアルビオンという違いこそあれ、竜騎士組は仰天する。

 

「ど、どういう事だ!丸ごと食べて、皮だけ吐き出さない…?」

「私のは皮ごと丸のみだが…。皮を剥く、だと…?」

「ドラゴンなのは間違いないが、知性があまりにも高い。どう思う?」

 

 

 思わず顔を見合わせる竜騎士組。

 

 

「いや、ちょっと僕たちの手には負えないって。」

「ヘジンマール殿、貴公は韻竜だな?YESならば首を縦に、NOならば首を横に振ってもらおうか」

 

 

 厄介なことになった。

 しゃべってはダメ、と言われているため、ヘジンマールはこの場を切り抜けるべく考え…。

 首を振らず、使い魔のルーンが刻まれている首を見せつける。

 

 

「リンドブルム卿。彼の主人はタバサという女子生徒だ。」

「タバサ?」

「…トリステイン魔法学院に、偽名で入学できるだけの権力を持ったガリア王国からの留学生だ。」

「あの名門、トリステイン魔法学院に偽名で入学?!」

「ガリア王国で、それだけの権力がある令嬢の使い魔…。下手に手を出すのは火竜の尾を踏むようなものだが…調べたい…最後の一匹か、一族がいるのか…。」

 

 

 一族と言われて身内のことを思い出すが…今更、アゼルリシア山脈に戻りたいとは思わないヘジンマール。

 

 

「これは…知り合いに相談させていただく。何かわかったら知らせよう。」

 

 どうせ無駄な努力になるだろうなぁ、と冷めた目でフーティスを見つめるヘジンマール。

 

 

 ジェダとアッシュもその場を立ち去る。

 一人きりになったヘジンマールはため息をつく。

 

 まったくもって退屈だ。本ぐらい読ませてほしい。

 




魔法が使えない時点でどれほどその貴族が良いことを言っても、「魔法が使えない」というだけで嘲笑されるハルケギニア出身者に、ジョゼフの錯覚資産は打ち破れないでしょう。
ですが、「アンデッドは生者を憎む」という考えが普遍的なオバロ現地で育ちながら、実際に話を交えて「求めているのが身内の幸せ?なんだ、中身は普通の人間と同じだな」と気づけたザナックであればジョゼフの錯覚資産すら打ち破れるかと。


リリーシャを登場させて、生かしておいたのがこの展開のためです。境遇が似ていると思います。モード大公派とオルレアン公派は。
というより、オルレアン公の没落した旧臣がモード大公派やトリステイン、ゲルマニアに流れているイメージが個人的にあります。


次回は、片付いていなかったアルビオンの『爆弾』が爆発する話です。
…ウェールズ生存ルートだと、ティファニア絡みの案件はこうなるでしょうね。
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