トリステイン王子、ザナック!   作:交響魔人

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アルビオン王国とトリステインの一幕。
内務卿「そろそろ、我らがモード大公閣下の命日。リリーシャ様は久しぶりに帰国なさるだろう…酒の手配は万端だ。」
財務卿「実は、『そのような些事で集まるぐらいならもっと有意義な事をせよ。今の私はトリステイン王妃、滅多なことでは帰国はしない。』と。」
内務卿「御父上の命日を些事…?一体、どういう心境の変化があったというのだ…?」


ド・ポワチエ元帥「モード大公が亡くなられた日が近いし、王妃様は帰国なさるだろう。内乱を起こすほど慕っていたのだから。」
ネルガル教導官「それが、帰国なさらないそうだ。」
ウィンプフェン伯「ふむ。内々でウェールズ王とアンリエッタ王妃が来訪されたと聞いているが、それと何か関係があるのか?」

 三人は目くばせすると一つの結論を出す。これはきっとアンリエッタ様がやらかしたに違いない!と。
 とんだ風評被害である。


アクイレイア聖堂VS『烈風』

 ラグドリアン湖の近郊、旧オルレアン領の屋敷。

 

 

「さて、条約を調印しよう。」

「そうだな。」

 

 ザナックとジョゼフは不可侵条約を締結する。これにより、トリステインは周辺国家から現状攻め込まれない状況となった。

 内政に力を注ぐことが出来るが…。懸念事項があるとすれば、ゲルマニアの親トリステイン勢力が弱体化した事である。

 

 とはいえ、仕掛けてくるならゲルマニア、という事がわかっている以上対処も自ずと可能だ。

 ウィンプフェン伯は既に、対ゲルマニアを想定した戦前の策定案の再調整に入っている。

 

 

「余の姪をどうやって説き伏せるのか、と思ったが…妻か。」

「良い嫁です。」

「ここまで見越して口説いたのか?」

「それは違います。」

「このまま帰るのも味気ない。一つ、チェスをせぬか?久しく、指しておらぬ。」

 

 

 

 

 強い。

 ノータイムで駒を動かしてくるのは、プレッシャーをかけるのが狙いと思っていたザナックだったが、実際は違う事に気づく。

 ただ、考える時間が自分よりもはるかに短いだけだ。

 

 

 既に不利な状況だ。ラナーなら、ここからどうしていた?

 考え込むザナックに対し。

 

 

「…妹の事を考えているな?」

 

 

 不意に言われた言葉に、ザナックは沈黙する。

 当たっていたからだ。

 

 

「うん?正解か…アンリエッタはそれほどの指し手か?であれば少々見誤っていた事になるな。」

 

 明晰な頭脳を持つジョゼフとて、『トリステイン王の前世はリ・エスティーゼ王国の第二王子であり、その時の記憶がある』事までは読めない。

 ただ、『年齢の割にはやや早熟している』と思っている。

 故にザナックがラナーの事を考えていた点を、そう誤解する。

 

 

「人は見かけによりません。」

「うむ、そうだな。」

 

 ザナックに残っている駒は白のキングとポーンが4個のみ。ジョゼフは黒のキング、クィーン、ビショップ、ルーク、ポーンが一つずつ。

 

 

 

「…投了です。」

「そう、か。意外と楽しめた。さて、余は帰らせてもらう。」

 

 

 

 

 

―――――

 ロマリア皇国。

 保守派が集まる席上では、殺気立った聖職者が集まって糾弾していた。

 

「リヒテン殿、横暴が過ぎますぞ!此度の案件、トリステイン王政府から正式な抗議が来ている!」

「大隆起が迫り、もはや足並みをそろえねばならぬ時になぜ独断専行を!」

 

「これを見られよ!」

 

 リヒテンがかざした指輪。それを見つめる聖職者たちが呆然とする。

 

「ひ、ひ…火のルビー?!」

「トリステインの担い手が所持していた!ゆえに、今回こうして担い手共々連れてきたのだ!」

 

 感嘆の声が漏れる中、一人の聖職者が顎に手を当てる。

 

 

「リヒテン殿、それをご存じであれば外交ルートを通じてトリステイン王政府に働きかければ良かったのでは?誘拐は乱暴すぎるかと。」

「何を言う!これを手にした者がおとなしく返すわけがなかろう!」

 

 

「各々方、とりあえず失われた指輪が見つかったことは僥倖。さらに言えば、一連の争乱で行方不明となった始祖のオルゴールもアンリエッタ王妃が陣頭指揮をとって発見したという。」

「残るはアルビオンの担い手か。」

「その前に、ガリア王ジョゼフを説得せねばならぬ。あの者は何を望んでいる?」

「レコン・キスタの背後にいたのはジョゼフ。ザナック王は彼の目論見を『アルビオンで騒乱を起こし、トリステイン・ゲルマニア連合と争わせ、疲弊したところで両用艦隊で叩き潰してガリアがやりたい放題できるようにする』と推測していた。」

 

「まずはトリステインとガリアの動向を待たねばなるまい。」

 

 

 今は様子見、と決めた彼らのもとに…『トリステインとガリアの間で不可侵条約が締結された』という知らせが数日後に入り、大慌てになる。

 

 

 

 

―――――

 ジョゼフとの会談を終えたザナックは、速やかに行動を開始。ロマリア皇国への使節を送り出すメンバーに、ルイズの奪還を担当している才人も加えている。

 

 

 甲板から外を眺めているティファニアに、ザナックは近づく。

 ディテクトマジック、それにサイレントを唱える。

 

 

 

「ティファニア、寒くは無いか?」

「はい。」

 

 

 ティファニアはフードを被った上で、数代前のトリステイン国王が魅惑の妖精亭に通う際に用いていたという、『フェイス・チェンジ』の魔法が込められたネックレスをザナックから与えられていた。

 エルフ族特有のとがった耳を隠すために。

 

 

「この先は…エルフとは相いれないロマリア皇国。だが、私の目の届く範囲に居れば守り切れる。」

「ありがとうございます…あんな事があったのに、私を連れてきてくれて。」

「…妻が錯乱したのは、伯父が義父を真相を告げずに粛清。家臣を生かすために反乱勢力に加勢。その反乱勢力が暴走して祖国が割譲されたから、自分に責任の一端があると考えている。確かに、責任が無いとは言えないが。」

「…やっぱり、母と父は出会うべきではなかったのでしょうか。」

「私の義父は貴女を見捨てず多くの家臣が生かそうとしていた事から、貴女が深く愛されていた事はわかる。」

 

 

 

 今となってはわからないが…実の兄だから許してくれる、という考えがモード大公の奥底にあったのかもしれない。

 王族でありながら、優柔不断な王をザナックは知っている。

 

 

 正直、モード大公がやらかして内乱となり、レコン・キスタがガリアの指示か自発的かはともかく暴走したおかげで…トリステイン王国はアルビオン領を得た。

 とはいえ、勝てたからこそ言える事であり…負けていればアンリエッタはともかく自分は間違いなく断頭台に消えていただろう。

 

 

 以前、ザナックは『ジェームズ王は事情を明かしたうえでモード大公を処断するべきだった』とウェールズに告げたが…もしもそれを実行していれば、ジャジャルもティファニアもこの世にいないだろう。だが、そうはならなかった。

 

 モード大公が処刑された後、ハーフエルフであるティファニアが生き延びられたのは…それだけモード大公を慕う家臣がおり、ティファニア自身が愛されていた事の何よりの証だ。

 

 

「胸を張れ。貴女は、望まれて生を受けた。」

 

 

 モード大公が粛清されてから、散々な目に合い、命の危険もしばしば起きて…自分は生きていていいのか?と思っていたティファニアは感激。

 へたり込んで泣き出してしまったため、ザナックは慌てる。

 

 優秀な王とて、泣く女性を宥めるのは難しいのだ。

 

 

 

 

―――――

 トリステイン国王が来訪し、アクイレイア中が歓迎ムードになっている最中。

 アクイレイア聖堂の正門から武装した細身の騎士がマンティコアに乗って現れる。

 

 

「何者だ。ここはアクイレイア聖堂だぞ。」

 

 

 無言で杖を抜いたことで、門番として配置されていた西方聖典隊員は「武技」を発動する。

 虚無の担い手の奪還を、トリステイン側が力づくで行使する可能性は考慮済み。

 

 

 リヒテンの考えは正しかった。ロマリア皇国でも有力なアクイレイア聖堂に正面から来たところで叩き潰せる。

 今回の奪還に来た者を返り討ちにして捕えれば、外交的に大いに優位に立てる。その考えは甘くなかった。

 

 ただ、相手が「辛すぎた」。

 

 

 

 

―――――

 同時刻。アクイレイア聖堂には、招かれざる客人が既に潜り込んでいた。

 

「…詳しいんだな、ジュリオ」

「まぁね。ルイズの救出は君に任せるよ。正直、すごく魅力的な女の子だけど…。」

「けど?」

「トリステイン王に睨まれるのは避けたい。」

「同感だ。」

 

 ザナックがルイズの夫となる人物を非常に気にしていることをロマリアは調べ上げている。

 そうでなくても、「烈風」の愛娘。手を出せば火傷では済まない。

 

 

「そろそろだな。陽動が動いた後に行くとしよう。」

「陽動については全然聞かされていないけれど。そろそろ明かしてくれてもいいんじゃないか?」

「直前まで黙っていろと言われていたけど、もういいか。」

 

 才人は勿体ぶって告げる。

 

「烈風だ。」

 

 ジュリオが数秒呆けた顔を浮かべる。

 

「…は?」

「娘さんを誘拐されたことで激怒しているから、どうしても外せないって。」

「冗談じゃない!下手すれば僕たちも巻き込まれるじゃないか!誰だ、そんな計画を立てたのは!トリステイン王妃か!」

「ザナック陛下だよ。」

 

 

 次の瞬間、荘厳な聖堂全体が揺れる。まるで途方もない「突風」が直撃したように。

 

 

「急ぐぞ、陽動に先を越されるわけにはいかない。」

 

 内心でザナックに罵倒を浴びせながら、ジュリオは走る。

 もしも、その罵倒を直接ザナックの前で口にすれば、ザナックは真顔で斬首を宣告するだろう。

 

 

 

 

―――――

 烈風が杖を構える。すでに半数以上の隊員が倒れ、残ったものも戦意喪失し、神と始祖に祈りをささげている者が大半だ。

 

 偏在を擁するからこそ、風系統が最強である、と説く教員がいるが…そもそも『見えない一撃』を放てるというのが風系統の最大の利点である。

 確かに、術者の目線と杖の先端から放たれる位置を「予測」すること自体は可能ではあり、戦意が残っている彼もまた、それを試みたのだが…。

 

 怒り狂う烈風相手に、それはあまりにも無謀な試みだった。

 リヒテンへの忠誠心溢れる、西方聖典第一席次が発動した武技。

 

 鍛錬の果てに修得したモノも想いも何もかも。烈風は一撃で吹き飛ばす。

 

 

 

 

―――――

 アクイレイア聖堂内部に潜り込んでいた才人とジュリオは、道中の護衛を排除し。ついにルイズが監禁されていた部屋にたどり着く。

 一声かけ、デルフリンガーの一撃で錠を斬る才人。

 

 

「さ、さささサイト!」

「逃げるぞ、ルイズ!」

「こ、こここの振動といい、プレッシャーといい…か、かか母様が?!」

「ああ、ザナック陛下の指示でな」

 

 身内ということもあり、独特の振動で「誰が救出に来ているのか?」という事を見抜くルイズ。

 

 

 

「陽動をしているけれど、このままだと僕たちも巻き込まれる!」

 

 ジュリオは既に逃げ腰。

 廊下にでると、窓の外から人間らしきシルエットが空高く飛ばされていくのが見えてしまい、三人の背筋が凍り付く。

 

「あ、アズーロ!」

 

 もはや悲鳴じみた声を上げるジュリオ。主君の声にこたえて忠実な風竜が駆けつけるさなか、才人はデルフリンガーで窓枠を切り裂き穴をあける。

 酷い使われ方だが、デルフも文句を言わない。この瞬間、彼らの心は一つだ。

 

 

 先にジュリオが乗り、ルイズを抱えて才人がジャンプする。

 この建物の近くにとどまるのが危険だ、と本能的に察知しているアズーロは、ジュリオに目を向ける。

 

 

「ここから離れるよ!」

 

 大きく頷き、アズーロは飛び立つが。

 時すでに遅し。

 

 

 

 

 何者かが、風竜を使って逃走を図ろうとしている。しかも、自分と同じ髪の娘を連れている。

 その様子を視認してしまった烈風は、逃走を図っている敵と判定。

 

 ザナックは別動隊を送っているという話を烈風にしていたのだが…。

 連れ去られる娘、という光景が烈風の怒りに火をつけてしまった。

 

 

 

 

―――――

 墜落する風竜から飛び降り、壁を蹴り、可能な限り衝撃を受け止める才人。

 

「…才人?」

「…大丈夫か、ルイズ?」

 

 辛そうな顔をしている才人を見つめ、ルイズは自分の思いに気づく。

 

 

 ああ。私、こいつの事好きになっちゃったんだ。と。

 

 ルイズは目をつぶって才人と口づけを交わす。才人も驚いたようだが、その流れに身を任せる。

 

 ふと、ルイズは思った。そうだ才人は今、どんな顔をしているのかしら?一応見ておかないと。

 

 そう思って目を開けたルイズの前に、素敵な光景が広がる。

 

 

 見覚えのある制服に身を包み、見覚えのあるマンティコアに乗った母の姿を。

 

 思わずルイズは才人突き飛ばす。好きという感情より、生存本能と保身が上回ったからだ。

 

「な、なにをするんだ…よ…。」

 

 才人は後ろから嫌な気配を察知し、そっと振り返って蒼白になる。

 

 

「どうやら、まだ残党が潜んでいたみたいですね。」

 

 

 才人とルイズはそろって首を横に振りつつ、周りに視線を送る。

 アズーロにまたがって逃げていく金髪の少年が見える。

 

 そんなジュリオに対して内心、薄情者!と吐き捨てる才人。

 どうにかして「説得」しなければならない。そうだ、事情を話そう!

 

 

 

「聞いて下さい!俺たちは別動隊です!無事に救出しました!」

「いいえ。まだ無事ではありません。ルイズ、その男は?」

「か、母様!才人は私の使い魔で、助けてくれて」

 

 烈風が杖を構えたため、才人は説得をあきらめ、ルイズを抱えて走り始める。

 絶対に捕まってはいけない鬼ごっこの始まりである。

 

 

 

 

―――――

 断続的に響きわたる轟音と吹き荒れる暴風。

 アクイレイアの市長、レッツォニコ卿は一刻も早くこの厄災が終わることを神と始祖に祈る。

 

 その祈りが通じたか、はたまた才人が覚悟を決めてデルフリンガーを構え、烈風と対峙して「覚悟」を見せたからか不明だが…。

 厄災は唐突に終わった。

 

 

 その様子を別の場所から眺めていた教皇は、傍らに立つ小太りの男を見つめる。

 

 

「終わりましたな。」

「…これが貴方の策ですか、トリステイン王、ザナック。」

「娘を誘拐されたのであれば、取り戻したいのが親というもの。違いますかな?」

 

 やや声が震えているのは、ザナックに対する怒りか、それともこの厄災を単騎でやってのけた『烈風』への畏怖か、教皇自身もちょっとわからない。

 

 

「アクイレイア聖堂への罰は下した。あとは貴国の問題。大隆起への対処、喜んで協力させていただく。それでは。」

 

 去っていくザナックを、見送ることしか教皇にはできなかった…。

 

「…一連の責任は、リヒテンに取らせるとしましょう。」

 

 

 ヘロヘロになりながら、自分のもとに駆け付けた使い魔の姿が見えたため、教皇は歩き出す。




 余談ですが、もしもジョゼフとラナーがチェスをすればジョゼフが勝ちます。
 同じような明晰な頭脳をもつ弟と何度もチェスを打っていた対人経験がジョゼフにはあっても、ラナーには無いからです。
 まぁ、お互いその点にはすぐに気づいてジョゼフは「遊び相手になれるように成長を促し」、ラナーは「遊び相手が務まるように成長」することで互角になるでしょう。


 拙作におけるチェスの腕ランキングは
 ジョゼフ=シャルル>対人経験の差>ラナー>怪物と人間の境界>リリーシャ=サルバトール>ザナック=カースレーゼ=ウェールズ>イザベラ=アンリエッタ=アーナルダ>ゲーレン>魔法学院の生徒>凡人の壁>ディミ>教育の壁>才人
という感じです。

 このランキングにおけるアインズ様の位置?あえて明言はしないでおきます。
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