アクイレイア聖堂の長、リヒテンが拘束。同時に教皇から直々に破門を言い渡されて騒然とする中。
聖エイジス32世は体調が回復したジュリオを連れ、改めてザナックとティファニア、ルイズと才人と向き合う。
その指には、紆余曲折あって手元に戻った火のルビーが嵌められている。
「そちらが、アルビオンの担い手ですか…。」
「粛清と内乱を避けて隠れ住んでいたところを、我が妹が連れ出しました。」
「…4つの指輪、4つの秘宝、4人の担い手と4つの使い魔…。ウェストウッド嬢が「使い魔」を召喚すれば揃います。」
教皇の言葉と事前の「説得」もあり、ティファニアは呪文を唱える。
発動したゲートが開いたのは。
「…これ、は。」
ザナックの目の前に、召喚のゲートが開く。
「ザナック陛下。潜ってください。」
教皇の言葉に、ルイズは声を上げる。
「恐れながら、王を使い魔にするなんて聞いたことがありません!陛下、お下がりください!」
「使い魔の契約は神聖な物です。ミス・ヴァリエール」
「恐れながら、ミョズニトニルンはあらゆる魔道具を、ヴィンダールヴはあらゆる獣を、ガンダールヴはあらゆる武器を操ります。ですが、最後の使い魔は『名を記すことすら憚れる』と。あまりにも危険です!」
「潜らなければならない、か。」
「ザナック陛下!」
必死に止めようとするルイズを、目線で制するザナック。
ザナックは別にティファニアと契約にかこつけてキスをしたいわけではない。
トリステイン王が、神聖な使い魔契約の儀式を拒めば侮られる。
一瞬の口づけと、胸に走る痛み。顔をしかめるだけで耐えきるザナックは、文字を読む。
「リーヴスラシル…これはいったい何を操れる?」
『…思い出しちまった…虚無の担い手の魔力を、命を削って増幅させる役割だ。』
「何?」
才人が持っているデルフリンガーの言葉に、ザナックは驚く。
『…虚無の究極魔法が『ライフ』。担い手が魔法を唱え終われば、リーヴスラシルは…。』
「死ぬ、という事か。」
ザナックは教皇に目を向けるが、涼しげな顔をしている。
知っていて契約を進めた事で、ザナックはロマリア、ひいては教皇に対する評価を大幅に下方修正する。
数秒、目を閉じた後、ザナックは歩き出す。
「陛下、どこに?!」
「助からないのだとしても、それまでの間に出来る事がある。」
覚悟と決意を秘めた眼で射すくめられ、ルイズと才人は深々と頭を下げる。
そんな中。ティファニアはその場に崩れ落ちる。
自分に対して『望まれて生を受けた。』と言ってくれた優しい人が死んでしまう。
自分が使い魔のゲートを開いてしまったから。
―――――
トリステイン王国の首都、トリスタニアの王城にて。
ロマリアにあるトリステイン大使から送られた知らせは、上層部を騒然とさせる。
「…ザナック陛下を使い魔にした?!リーヴスラシルとはなんだ!」
「はい。虚無魔法の深奥は…リーヴスラシルの『命』をすべて使って放つ魔法。故に…ザナック陛下は助からない、と」
数秒沈黙するリリーシャは、呆然としている閣僚全員に指示を下す。
「各員、職務を全うしつつ、手の空いた時間を使って第一に使い魔契約の破棄に関する手段の模索。第二に命をつなぎとめる秘宝か秘薬の捜索を開始しなさい。」
「アンドバリの指輪、ですか?」
「あれは偽りの命。水の精霊であれば、何か知っている可能性がある。モンモランシ伯に通達を。私はロマリアに行きます!」
「ロマリア?!なぜですか!」
「私も職務を全うします。王妃としての職務を」
王妃の仕事というのは、国王の跡継ぎを産む事。
「子供が成長するまで私が代行を務め、息子が15歳になった時に立太子。娘しか生まれなければ、15歳の時に王配を取らせます。」
「恐れながら、王妃様といえど独断でその決定は」
「他に手があるなら教えていただきたい、マザリーニ枢機卿。」
王妃から見据えられたマザリーニ枢機卿は項垂れる。確かに、他に手はない。ザナック以外でトリステインの王位継承権を持つのはヴァリエール公爵家ぐらいだ。
それ以外だと傍流も傍流な家系しかない。だからこそ、玉座が空白という事態に陥ったわけだが。
ザナック王子が、トリステイン王家に産まれてくれた事をマザリーニが神と始祖に感謝したことは一度や二度では無い。
ザナック王子が錯乱していた幼少期。それに対し、マリアンヌ太后に恐れ多くも暴言を吐いた宮廷の雀は一人や二人ではない。まぁ、彼らは人知れずヴァルハラへ送り込んだが…。
玉座に国王が不在、という状況で官僚が自分の権限で出来ることをそれぞれやっていたような有様のトリステインをまとめ上げ、混乱を抑えた。
王妃の出立を見送った後、マザリーニは祈りをささげる。
「神よ、始祖ブリミルよ。願わくは、陛下を御身のもとに召されるのを今一度、今一度、お待ちください…」
祈りをささげた後、即座にマザリーニは行動を始める。
まだ、ザナック陛下を死なせるわけにはいかない。
―――――
王妃がロマリアへ出立するべく、その場を足早に去った後…トリステイン王国の上層部は速やかに行動に移る。
「探すべき道はなんだ?」
「まずは、使い魔の契約破棄だ。」
「だが、リーヴスラシルはどうする?死ぬのだろう?」
「それこそ、ロマリアの坊主にやらせればいい。始祖の使い魔になれる栄誉だ、喜んでなってもらおうではないか。」
「ウィンプフェン、私は以前こう聞いたことがある。使い魔が使い魔で無くなる瞬間は二つある。使い魔の死と、死に瀕した時だと。」
「であれば、陛下を…。」
「だが、問題はリーヴスラシルの能力だ。命を使い果たして発動する以上、死に瀕したとしても…。」
「消えない可能性がある、ということか。道理で、名を記すことすら憚れる訳だ。」
「ルーンを著しく傷つけるのはどうだ?」
「この方法が一番現実的だとはいえ、何らかの方法で契約を消せばトリステインは侮られるだろう。命惜しさに他人に犠牲を強要した、と。」
「それの何が悪い!国王を使い魔にするなど、どうかしているだろう!」
「王妃様の子供が成長するまでの間、耐えればいい。ゲルマニアとは軍事同盟、ガリアとは不可侵条約。アルビオンには総督がいる。当面は安泰だ。」
「ザナック陛下が亡くなれば、態度を豹変させるぞ、ゲルマニアは。第一皇子は現王妃様に執着している。」
いくつかの手段が模索される中…。モンモランシ家の当主が動く。
―――――
王宮からの書状を受け、家宝をもってモンモランシ伯は参内する。
正直、持ち出すのは気が引けたがやむを得ない。
「それが?」
「その前に、人払いを頼みたい。何せ、モノがモノだ。」
ディテクト・マジックにサイレンスがかけられ、モンモランシ伯は小箱を開く。
「遺体の損耗状態が軽く、死後直後であれば蘇生させる事ができる杖。今回の条件に合う。」
「待たれよ、何故それを隠していた。」
「ウィンプフェン伯。死者を蘇らせる短杖の存在が明らかになれば、どうなりますかな?」
「…軽率だった。」
それをめぐって、文字通り血が流れることはこの場の誰もが容易に想像できた。
「600年前、当家の領内にて発見された遺跡に収められていた物だ。…当時、賊に襲われて心臓を貫かれて死んだわが子を蘇らせた。」
「確かなのか?!」
「蘇生された子供の子孫が、妻の先祖だ。」
「それで、その遺跡とは一体なんなのだ?始祖に纏わる物か?!」
「それが全く分からぬ。何者かの拠点と思われるが…。」
話がそれそうになった為、ネルガル教導官は流れを打ち切る。
「中々興味深い話ではあるが、今は陛下を助ける事こそ最優先。」
「だが、その杖の出どころを調べるべきでは無いか?」
「であれば、うってつけの魔法がある。」
ロマリアの在トリステイン大使から送られた書状にあった、新たな虚無魔法「レコード」。
「これをもって、私もロマリアへ向かうとしよう。」
―――――
かつて魔導国相手に、王家の人間として「死ぬ覚悟」を決めて行動したザナックに恐れは無い。
死ぬにしても、次代にはより良い形でトリステインは残るはず。滅国への道を歩んでしまったリ・エスティーゼ王国の時と状況は大きく異なる。
自身が手掛けた街道整備事業の残りを完了させるための方策、今後の対ゲルマニアを意識した政策方針。
自分が死んでも、トリステインを残すために一つでも方針を固めようと精力的に執筆していると。
そう思っていると。無表情で嫁が入ってきてディテクト・マジックを唱え、続いて扉にロックをかけた後、服を脱ぎ始める。
「リリーシャ?」
「ザナック。私は、王妃としての責務を果たす。」
ベッドの傍に置かれる2つ小瓶。
「それは?」
「精力増幅剤。」
左手を腰に当て、ザナックに向かって斜め45度で立ち、小瓶を持つ右手の小指を伸ばすリリーシャ。
アルビオンの貴族令嬢たるもの、この手の秘薬を飲むときはこのポーズをとるべし、と彼女は母親から教わっている。
「これを飲むのか…。」
小瓶を開けると、意外なことに香りがしない。この手のモノは激臭に加えて苦いと思い込んでいたザナックだったが。
味は、まるで水のように無味だった。
6000年近く、王族や貴族に捧げるために試行錯誤を繰り返してきたハルケギニア世界のポーション。
無味無臭なのは、ワインや水に混ぜる為でもある。ちなみに、この小瓶一本で
飲み干してしゃっくりを一つすると、目がトロンとする。
心が塗りつぶされていく…感情が、抑えきれない。
その衝動の赴くままに、二人は寝台に倒れこむ…。
―――――
ザナックがリーヴスラシルになってから数日後。
何かできることはないか?と気をもんでいるルイズのもとを訪れる者がいた。
「初めまして。私はネルガル・ド・ロレーヌ。息子のヴィリエとは同級生とか。早速だが…この杖の由来を調べたい。貴女の虚無魔法、レコードで。」
「それは?」
「モンモランシ家に伝わるという、死者を蘇らせる杖だ。」
眉唾物の話だが、あけられた小箱に収められている美しい杖から漂う気配は、尋常な物ではない。
「彼の祖先は、この杖で蘇ったという。だが、この杖に関する情報が欠落している…。個人的にはこれが異端の品だろうと、陛下が助かるのであれば構わない。」
「わかりました。ロレーヌ伯。」
ルイズはルーンを唱える。
蘇生の短杖に込められた「記憶」が紐解かれていく…。
―――――
見たことのない場所。ここも、おそらく東方だろう。ルイズはそう予測する。
複数の甲冑を纏った人間がいる。彼らは、何者だろうか?
「リアルが厳しくなってきた…。そろそろ、潮時だ。」
「そうなると、無課金同盟も…残るは俺一人か」
ムカキン、とは何だろうか?
ルイズが考える間にも、話が続く。
「だからこそ、最後に攻略したいところがある。」
「どこだ?」
「ナザリック地下大墳墓。」
「無理じゃないか?ギルド:アインズ・ウール・ゴウンが制圧してから誰も攻略していないだろう?」
「だとしても、だ。良い思い出になる。ああ、ここの物で使えそうなのは全部譲る。」
「…わかった。大切に使わせてもらう。」
記録はそこで途絶えた。
「…わかりました。」
「それで、どうだった?始祖ブリミルの遺産か?」
「いいえ……。このことも踏まえて、両陛下にお伝えしていいのでしょうか?」
「勿論。陛下のお命がかかっている。お伝えするべきだ。」
―――――
数年先まで見据えた施策をザナックが書類にまとめていると、報告があるというので一時作業を中断。
ザナックは話を聞くことにした。
「…なるほど。それが、蘇生の杖か?」
「はい。ムカキン同盟、の一人が作り上げた品物です。」
「ムカキン?」
聞きなれない言葉に、ザナックが考えていると。ネルガル教導官が口を開く。
「その杖を制作した人物は、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンが制圧した、ナザリック地下大墳墓の攻略を考えていたそうです。」
「「はぁっ?!」」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまうザナックとリリーシャ。
「へ、陛下!ご存じなのですか!」
「い、いや…。聞きなれない名前だったから驚いただけだ。なるほど、私の命が助かる可能性があるようだが、それでも…始祖の身元に旅立った時に備えて準備を進める。二人とも下がれ。」
―――――
もたらされた衝撃的な情報。
二人が下がった後、即座に作業を再開するつもりだったが、そんな心境にはなれない。
「魔導王アインズ・ウール・ゴウンと、ギルド:アインズ・ウール・ゴウン…。偶然、ではないわね?」
「偶然のわけがない。ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの構成員が魔導王を名乗る際…本名ではなくギルド名を名乗った。というのが真相だろう。」
「そうした理由は、ギルド名の名前を広めるため。つまり、18万人も虐殺したり、王都を瓦礫の山に変えたのは。」
「ギルド名を広め、所属構成員と再会することだろうな…。悪名は無名に勝る。」
パズルのピースがある程度揃ったことで、遠い世界で生まれ育った二人は真実に到達する。と同時に、嘆息する。
「もっと穏便に済ませる方法を思いつかなかったのかしら?」
「なんでも、後ろ髪が無い幸運の女神が居るらしい。『目の前に簡単に幸せを手にする手段があるなら、それに飛びついた方がよい』と言っていたな。」
「変わった女神ね。ただ…。そんな組織と敵対していた同盟の一人が作り上げた品物ならば。」
「助かる公算はある。とはいえ、その後に杖を巡っての争いは避けられないだろうから…」
ザナックは薄く笑う。
「ロマリアへ寄進するか。大隆起を解決した後に。」
「大隆起でかろうじてまとまり、解決してまとまりがばらけた直後にそんな物が寄進されれば、ロマリア全土が大荒れするでしょうね。」
教皇は、リーヴスラシルになって死ぬとわかっていても使い魔契約を止めさせない気がします。
次回は、タバサの外伝です。立ちはだかるのはエルフのビダーシャル。
原作ではシルフィードが挑むも負けてしまいましたが、拙作の使い魔はヘジンマール君。