サハラを超え、エルフと戦いながら『大いなる意思』…巨大な精霊石の塊を破壊する。
そのための準備が急ピッチで進められる中。
「ザナック陛下。王妃様が身籠られました。」
「俺に似なければいいがな。」
そう口で言いつつも、ザナックは口元に笑みを浮かべる。
心残りは…普通にある。何かしらの経緯でティファニア出生の真相が明らかになれば、アルビオン王家の威信は失墜。
『アルビオン王国を導く』とのたまってロマリアが介入する騒動になりかねない。
「一度、トリステインに帰国させろ。後は母上と女官がやってくれる。」
優秀な王であっても、出産となれば話は別だ。
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エルフの首都、アディール。同心円がいくつも重なったような人口島。
そこにネフテスの評議会本部、カスバと呼ばれるエルフの中枢機関が存在する。
「蛮人共が攻めてくるという。これをどう迎えうつかだが。」
「ビダーシャル議員!何故蛮人の王との交渉を打ち切った!」
人間を蛮人として見下すエルフだが…蛮人と同じように派閥争いはある。
「…想定外の事が起きたからです。」
「アディール中の書物を調べたが、何処にも『アゼルリシア山脈』、『フロスト・ドラゴン』、『オラサーダルク=ヘイリリアル』の記述は無かった!その使い魔がでたらめを言っていたのではないか?」
「…彼が嘘をついているとは思えません。それらは実在する地名であり、実在する韻竜かと。」
糾弾していた老エルフは席に座りなおすと、近くのエルフに目を向ける。
「どう思われる?エルフ本国艦隊司令、アムラン上将」
「蛮人共に血を流させ、『教育』してやればよろしい。」
酷薄な笑みを浮かべ、アムランは笑う。
「我々は攻め込む必要はない。ただ、守っているだけで蛮人は壊滅する。大いなる意思がもたらす大隆起によって。」
「いかにも。まぁ、これで蛮人との争いに終止符が打てる。長かったが、な。」
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アーハンブラ城。
今までの『聖戦』で編成された『聖地奪還軍』の情報をあらかた調べ終わったザナックは、階下に降りる。
「うん?どうした、ザナック。」
「ジョゼフ王、聖地奪還軍が度々敗れているのは、制空権を取られていることに起因する。」
「うむ。何せ奴らのフネは数十頭の風竜が牽引しており、機動力では我々のフネをはるかに凌駕する。我々のフネは風任せにもかかわらず、な。」
「我々の目的は一つ。大いなる意思という精霊石の塊を破壊する事。つまり、聖地。だが、それはエルフ側も見抜いているはず。」
「つまり、われわれの目的が別、と思わせればいい。サハラに向かい、そこで『風石』を採掘すれば我々の目的が資源であると錯覚させられる。」
言おうとしたことを先に言われてしまったが、手間が省けたとザナックは思い直す。
「問題は。戦略物資を得られるものの、エルフが出張ってくるとわかっていてこの囮を引き受ける軍だが」
「いるではないか、野蛮人が。」
名指しはしていないが、ゲルマニアの事とわかる発言。
「エルフ側でも聖地に手勢は配置しているだろうが…。虚無の担い手と使い魔、烈風と西方聖典隊員で突破する。」
「ふむ、うむ…まぁ、それが無難か。」
エルフは技術力でハルケギニア諸国を圧倒しているため、ハルケギニア側が打てる手はどうしても限られてしまう。
ジョゼフの智謀をもってしても、エルフ相手に勝つのは難しい。
とはいえ、「打てる手がある」だけマシである事をザナックは知っている。
手の打ちようがない相手を、ザナックは知っているのだから。
「まぁ、もう一手打つとしよう。東方諸国を動かしてそちらにも目を向けさせる。」
大国ガリアは、少ないとはいえ東方との交易もある。その交易ルートを通じてジョゼフは東方諸国を動かす。
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蛮人達がサハラで風石の採掘事業を始め、東方諸国が兵士の動員をかけた事で評議会が紛糾する中。
自由都市エウメネスに、才人とルイズは訪れていた。
「エルフと人間が…交易している?」
「エルフの流刑地で、生き残るために人間と交流するようになったそうだけど。」
ブリミル教徒であるルイズにとって、ロマリアに連れてこられてからは常識は覆されてばかりだった。
婚約者だったワルドの真意、神聖と思っていた使い魔契約の儀式で、自国の王が使い魔になった事。
死を突き付けられても、泰然としている豪胆な王としての姿。
自分ならどうだろうか?死を突き付けられて、あのようにふるまえるだろうか?
「あれ、これなんだろう?」
才人は、露天で潰れたアンモナイトを連想させる形の果物を買う。
「初めて見るわ…。」
「食べてみないか?」
「え、ええ!」
二人は近くのベンチに腰掛けて、見慣れぬ異郷の果物をおっかなびっくり味わうのであった…。
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デートしている二人を窓から見ていたゲルマニア帝国皇女、アーナルダは窓を閉めて閣僚を見渡す。
皇女に恋愛結婚など縁遠い話だ。今まで彼女に持ち込まれた縁談のお相手は、彼女とは10歳離れている。
「全員揃いました。」
「よし、始めましょう。」
「艦隊は、今まで通り保全主義を執られると?」
「機動力で及ばない以上、風上を常に抑えることを徹底させる。」
大国とはいえ、その軍事費を陸軍につぎ込んでいるゲルマニア帝国。創設時から空軍は「艦隊保全主義」を旨としている。
「エルフの空軍相手では、それしかないかと。」
「あとは、虚無の担い手がやってくれるだろう。我々は陽動作戦に努めるだけだ。」
「恐れながら、懸念事項が一つ。」
「一つだけか?」
「はっ。なんでも…ザナック王が亡くなるかもしれないという噂があり、ゲーレン殿下の周りが動いています。」
「この期に及んで…。彼を失った後でもその遺風はトリステインを三十年は守り続けるだろう。次代の王がよほど愚か者ではない限り。」
「いかがいたしましょう?敗北すればしばらくおとなしくはなるかと。」
「政治的には大敗を喫することになる。父上にも働きかけて阻止させておかねば…。」
道理で、エルフ相手に何度も『聖戦』で敗れるわけだ、とアーナルダは理解する。
技術力で劣り、結束も乱れる。これで勝てれば奇跡でしかない。
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王都ロンディニウム。王城、ハヴィランド宮殿。
「大隆起の名残が、アルビオン大陸とはな。」
知らされた内容は、ウェールズをして少なからず驚きをもたらしていた。
「エルフが攻めてこないのも、道理ですわ。」
「各国空軍の総力を結集して、エルフの空軍と対峙…。主力が、ガリアの両用艦隊か。」
空の戦いでありながら、もはやアルビオンではなくガリアが主力という事実はウェールズにとって愉快な話ではない。
それでも、一国の王としてアルビオン王国の存在感を各国に示さねばならない。
「竜騎士を送りこむとしよう」
再編成中とはいえ、生き残ったベテランが鍛えている竜騎士の練度は上がっている。
実戦投入の相手がエルフ、というのは厳しいとは思うが。それでも、アルビオン王としてウェールズは決断する。