ティファニアはトリステイン魔法学園に入学出来ましたが…。
「ティファニアがハーフエルフとバレてどうなった?」
間違いなく退学騒ぎになっただろう、と思っていたザナックだが。
「…女子生徒の一人が異端審問を実行しようとしました。」
「その若さで、司教の免状持ちがいたのか。」
「いえ。どうやら騙りだったようで。」
「であれば、ロマリアに報告だな。」
「それが。異端審問されたティファニア様が罪に問わない、と。」
度量の広さに、思わず瞠目するザナック。異端審問は、煮えたぎった大釜に入れて「死ねば異端者、生き残れば敬虔な教徒」というものだ。
敬虔な教徒だろうと関係ない、普通に死ぬ。
にもかかわらず、それを仕掛けた相手を許すとは…。
「異端審問はどうにかなったようだが…エルフの血を引いていた事で、排斥運動になったか?」
「いいえ。容姿に加えて、穏やかな性格で元々人気が高かった所に…ザナック陛下ゆかりの人物という事が判明してさらに人気が上がっております。」
ザナックの隣から尋常ではないプレッシャーが発せられる。当然ザナックは気づいているが、何も気づかないふりをする。
最近、疲れた時にザナックはこう思うようになった。『ラナーの方がまだマシだったのでは?』と。
「エルフの血が流れていることが判明した以上、人気が下がると思うのだが?」
「それが。エルフの血が流れていること自体が美点である、と大半の生徒が思ってしまったようで…。」
「意味が分からん。」
要は、ティファニアの人柄と善良さが、エルフの血を引いているという不利な特徴を上回った訳だが。
人間とエルフの溝を見せられたザナックとしては、違和感が拭えない。
隣から歯ぎしりが聞こえてきたため、ザナックは話を打ち切る事にした。
気持ちはわかる。忌むべき存在であるハーフエルフが、アルビオン人よりも伝統と格式を重んじるトリステイン貴族の令息、令嬢に受け入れられるというのは…エルフを妾にして粛清されたモード大公の縁者には受け入れがたい話だ。
これ以上続けたら、お腹の双子に悪影響が出かねない。
「学園内で解決したのであれば、それでいい。下がれ」
「はっ。」
使者として来ていた、ギトー教員は一礼して退出する。
―――――
妻を寝室に下がらせ、アルビオン国王、ウェールズにどう伝えれば錯乱させずに済むか、という事をザナックは考える。
そんな中、ザナックは別の件で報告を受ける。
「陛下、ご報告がございます。ダングルテールの再開発事業ですが…。農地予定だった干拓した砂浜に塩が析出し難航しています。」
「堤防を作って90アルパンの土地を農地にする計画だったな。」
「土を敷く下側を『錬金』で岩に変え、堤防の土台を強化しましたが、塩が析出。次善の策として、岩の下側に『固定化』をかけた布と板を敷きましたが、それでも析出しております。」
ザナックがトリステイン王になってから、初の干拓事業。
こればかりは肥沃な土地に恵まれていたために干拓の必要が無かったうえに、非魔法文明のリ・エスティーゼ王国の時と事情が大きく異なる為、専門家に大部分を任せている。
「砂を可能な限り持ち出し、その後、外から土を持ち込み、その上で地下400メイルまで塩抜きを行え。」
「恐れながら、次善の策を行う際に実行しております、デムリ卿。」
「地下に海水が流れ込んでいるのだろう?400メイルで足りぬなら二倍の塩抜きを行え」
もはや聞いていて頭が痛くなってきたザナックは手で制する。
「そこまで塩が出るのであれば、農地ではなく塩田にすればいい。農地については別の場所を用意するとしよう。」
「恐れながら陛下、まだやれます!」
やれます、では無いのだが。
何故こうも分からず屋なのか。ザナックは瞠目する。
ハルケギニアのメイジは6000年近く、魔法で解決「出来てしまった」実績がある。
故に、上から言われて現場の人間は「できません」と安易に言えない。
「塩田にすれば事業になる。住宅地として考えていた地区の一部を農地に変えることで対応する。」
「かしこまりました。」
無念そうに頭を下げるメイジ。
これで出世の芽は断たれた、と内心絶望しながら。
―――――
そのやり取りから数日後。
アルビオン大陸。王都ロンディニウム。王城、ハヴィランド宮殿にて。
「ティファニアに、友人が出来た…か。」
アルビオン王ウェールズ。ティファニア自身に罪は無いとわかっていても、いささか受け入れがたい話だ。
読み進めて、二枚目に入ると。
「異端審問を行われたが、友人の助けもあって止めることに成功。今は元気に過ごしている…か。」
異端審問を行われたが、阻止され、結果として人気が高まったという真実をザナックは改変して通達。
ブリミル教徒にとって、異端審問は恐怖の対象でしかない。
それは確かな功を奏し、ウェールズの中で「ティファニアは異端審問されるような状況だが、友人が出来ている」という風に受け取った。
真相をありのまま告げられれば、好青年な彼でも心中穏やかではいられない。
―――――
月日は流れ、ティファニアは魔法学園を卒業。
その後、どうするか決めた、という事でザナックへ報告するべく、彼女は王宮を訪れる。
「道は決まったのか?」
「…はい。ザナック陛下。私は嫁ぎたい相手が出来ました」
そうか、射止めた者が居たか。となればその者の家系と親しい貴族家を調べ上げて。
為政者として『次の一手』を早くも考え始めたザナックだが。
「私はお妾さんで構いません、ザナック陛下。」
昨年。無事双子を出産した、リリーシャ王妃から表情が抜け落ちる。
マザリーニ枢機卿と、魔法学院卒業と同時に女官として就職し、知り合いということで同席していたケティ・ド・ラ・ロッタは顔を見合わせる。
修羅場というレベルではない。
「…学園で出会わなかったのか?聞けば、異端審問の際に貴女をかばった生徒もいるそうだが」
「才人さんには…ルイズさんが居ますから。」
おお、始祖ブリミルよ。何故かような試練を与えるのか?
ケティは内心で始祖に祈りをささげる。答えは当然返ってこない。
唇を結んで、ただ沈黙を保っている王妃の心情は同性として察するに余りある。
「私は、見ての通り容姿に優れない。貴女にはもっと相応しい人が居るはずだ」
「私は。ザナック陛下の優しい心が好きです。」
「魔法学院の生徒は優しく接してくれただろう?」
「私が、ハーフエルフだから。お妾さんには出来ないのですか?」
「ジャジャル殿は妾だったのだろう?母と同じ道を歩みたいのか?」
「父さんも母さんも、幸せに過ごしていました。」
ケティは決意した。この場から王妃を下がらせるのが自分の為すべきこと。
だが、王妃は動こうとしない。
『宮仕えを目指すの?王族にお仕えするのは大変よ…。でも、物凄く名誉な事なんだからね!頑張りなさいよ!』
一年先輩の公爵令嬢に言われた言葉をケティは思い出す。こういう事ならもう少し詳しく言って欲しかった。
―――――
ザナックは、寝室で横になりながら「どうしてこうなった」と考えていた。
右にリリーシャ、左にティファニア。
容姿端麗でメリハリのある体型。その二人が体を押し付けている。
どうやら、自分は今後。この状況でも安眠できるようにならねばならないらしい。
妻と妾の一人娘をどちらも侍らせているこの状況。もしも、義父のモードに見られたら自分は無事では済まないかもしれない。
そんなことを思っていたが。政務の疲れもあってザナックは眠りにつくのであった…。
というわけで、ハーレム?エンドになりました。
正妃と妾の関係がすこぶる険悪ですが、なんとかなるでしょう。