トリステイン王子、ザナック!   作:交響魔人

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プロローグ、あるいはエピローグ的なモノの続きです。


終章:その後のトリステイン

 トリスタニアにある、大きな喫茶店。

 今は亡きザナック陛下の統治により、トリスタニアは大きく変貌した。大通りが整備され、人の行き来が行いやすくなった。

 

 

「さて、と。それでは整理しましょうか。」

 

 クルデンホルフ大公国の令嬢、ジェミー・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフはアルビオン動乱にまつわる一連の出来事を纏める活動に協力してくれている同志と相談する。

 

 

「結局、ジェームズ王とモード大公の間に何があったのかは、不明なまま。」

「…何があったのかしら?ある時期を境に、あれだけ実の父親を慕っていたリリーシャ王妃でさえ墓参りに行かなくなったし。」

「だがアルビオンの地図及び、部隊の配置情報を入手した。これだ。」

 

 ティーダ・ド・ラ・ロッタは、地図とチェスの駒を並べる。

 その様子を、カイル・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシがじっと見つめる。

 

 

「サウスゴータとレキシントンで、連合軍を挟撃、そしてレキシントンに首都から増援を送る…」

「理にかなっているわね。」

「そうだろう?だが、サウスゴータから撤退。しかもレキシントンへの増援は間に合わなかった。」

「えっ?リリーシャ護国卿の降伏って」

「挟撃予定の部隊が撤退、それにより時間稼ぎができず、援軍の到着が遅れた。連合軍は自軍の10倍。これで降伏しなければ、殲滅されるだけだ。」

 

「待て、護国卿だろう?降伏してどうする。」

「…なんとなく、わかる気がするわ。」

「ジェミー?」

 

「もしもお父様が殺されて、逃げ延びる羽目になったら…。私なら家臣を生かすことを最優先にする。」

「…レコン・キスタへの協力も、この降伏も。家臣を生かすことだとすれば、護国卿の行動原理はおかしくないわけだ。」

 

 

「だがティーダ。共和主義者クロムウェルの狙いがわからんぞ。軍事的には失策でしかない。」

「政治的に護国卿が邪魔だった。だからこそ、『使いつぶそう』とした。」

「クロムウェルが読み違えたのは、護国卿の行動原理って訳ね。護国卿は手元に置いて、人質にすればよかった。」

「…その場合、モード大公派が護国卿を連れ出して、そのまま連合軍に降伏するのでは?」

「となると…。神聖アルビオン共和国は負けるべくして負けたって事ね。」

 

 

「そうなるな。こうして考えると、ザナック陛下のアルビオン上陸には幸運が重なっていたと結論づけないといけない。」

「共和主義者の空軍を担っていた精鋭は失われた。にも拘らず、上陸を許した状態で共和主義者は派閥抗争に明け暮れた。」

 

 

 

「…戦後、護国卿を娶ったのは相当揉めたそうだが。」

「そりゃあ、揉めるでしょう。」

「ただ。当時のザナック陛下に正妃がいなかったことは事実だ。妹様が嫁ぐし、そろそろ欲しいと思われても当然だ。」

「寄りにもよって、とは思うが…。そうさせたのが。」

 

 ティーダとカイルは声をそろえる。

 

「「ローゼンクロイツ伯爵令嬢」」

「というわけね。結局、ザナック陛下と彼女がどういう会話をしたのかは、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ・ド・オルニエールも分からなかったそうよ。」

「真相は闇の中、か。あの反乱を鎮圧したことで、トリステインは一つにまとまった。」

「アンリエッタ太后様からも証言を得た。彼女はトリステインを一つにまとめるために死ぬつもりだったが、ザナック陛下はそれを望まなかった…と。」

 

 

「ところで、ジェミーは彼女の最期をどう思う?」

「幸せだった、そう思えるわ。身を挺してでも庇いたい、そこまで愛を注げる相手に巡り合い、その相手の腕の中で息絶えたのだから。ね、ティーダ、カイル。私があなたたちを庇って腕の中で息絶えたら、どう思う?」

 

 

 …あー。なるほど。そりゃあザナック陛下の心境も変わるわ。

 同年代の異性が、腕の中で冷たくなっていくのだ。王でなくても、わかる。男なら忘れられない。

 

 トリステインの玉座不在によって生じた政治的な混乱を収束し、ローゼンクロイツ伯の反乱を阻止出来なかった令嬢は…最期は一つにまとめる為に散った。

 そんな出来事があったからこそ、アルビオンを一つにまとめる為に死のうとしていた護国卿を死なせたくなかったから、求婚したのだろう。

 残された者の気持ちを、味わってしまったから。

 

 自分たちの想いも知らずに、能天気に爆弾発言をぶつけてくるクルデンホルフの令嬢を見ながら、若いトリステイン人の青年二人は内心ため息をつく。

 

 

 

 

 

 

「その次に起きたのが…大遠征か。」

「今まで詳細は明らかになっていなかったけれど、これでようやくわかったな。」

 

「ジョゼフ前王が東方諸国を焚きつけエルフ相手の戦争を唆し、ゲルマニア軍が風石の採掘を開始し、各国空軍が艦隊を出動させて護衛。エルフは二方面に戦線を抱える事になった。ゲルマニア軍に釣られて出てきたエルフの空軍艦隊相手に消極的な防衛戦を展開。」

「エルフの空軍が追撃をしてきた途中で、風竜騎士が『烈風』をエルフの旗艦に送りこみ、そのまま制圧。」

「空軍に打撃を与えていて再編成させている間にごく少数の手勢で、秘密裏に『聖地』へ接近。」

 

「教皇様の『虚無』で聖地を浮かび上がらせて…大いなる意思である精霊石を破壊。」

「作戦成功後、ヴィンダールヴの能力で従えた風竜とガンダールヴが操るゴーレムで脱出…。大隆起を阻止できたから成功といえるだろう。」

「道中で、モンモランシ伯が提供した「秘薬」で救われた命があったため、モンモランシ家は昇格したのよね。」

 

 

 ザナックが亡くなった直後、蘇生させた杖は効果を使い切ってしまい、ただの杖になった。

 王が一度死亡した、という話は外聞が悪いため「無かった事」になった。

 ただ、それではモンモランシ伯への褒美を与えられないため、『提供された秘薬が貢献した』というカバーストーリーが用意された。

 

 

「とはいえ、エルフの過激派が不定期に襲撃するようになったけれど。」

「今まで6000年間、どうして攻めてこなかったのか不思議だったけれど。大隆起があるとわかっていたから攻めてこなかったんだな。」

「放っておけば全滅する、奪ってもいずれは大隆起で失われる。だったら攻め込まない。」

「それでも、第一回の大規模な襲来を阻止できたのは行幸でしょ?」

「ザナック陛下の命令で作っておいた、スキルニルのおかげだけど。」

 

 

 大遠征の結果、大いなる意思を破壊された事を受けて、『蛮人どもに鉄槌を!』と息巻いた鉄血団結党を中心にした襲撃部隊は…マンティコアに騎乗した『烈風』のスキルニルを見ただけで空軍が戦意喪失して撤退。制空権を奪われた事で形勢不利になったことで鉄血団結党も撤退を余儀なくされた。

 

 

「烈風本人も。死後、自分のスキルニルでエルフを追い返せるようになるとは思っていなかっただろうなぁ。」

 

 

 ゲルマニアから恐れられた『烈風』。晩年の彼女は、エルフからも恐れられる存在になった。

 

 人間側は知る由もなかったが…。エルフの空軍は「蛮人相手に攻め込む」と過激な思想を持っている鉄血団を疎ましく思っており、政敵を敵の手で葬りたいという考えがあった。

 

 

 

 

―――――

 トリスタニアの王宮にて。

 

「それは本当か?レイナール卿。」

「はい、リオン殿下。」

 

 

 眼鏡を掛けた壮年の男は、銀髪の青年に対して誠実に答える。

 

 

「ゲルマニア帝国が軍事同盟の破棄を通告してきた以上、攻め込むつもりというわけね。」

 

 

 金髪の少女がため息をつく。

 

 

「参謀本部もそう考えております、シャーナ王女殿下。ゲーレン皇帝は始祖の血筋を欲しがっています。」

「私を差し出せば、彼らは思いとどまるかしら?」

 

 

「恐れながら、それでは足りないでしょう。」

「ヴィリエ卿?」

「ゲーレン皇帝は…ザナック先王陛下の施策、街道整備事業をそのまま流用するも失敗に終わり、不平と不満がたまっています。」

 

 

 そもそも、ゲルマニア帝国は選帝侯の力が強く、皇帝は絶対的な権力者ではない。

 だが、ゲーレンは選定侯への根回しもせずに街道整備事業を行った事で諸問題が生じた。

 

 街道整備事業のために働いたにも関わらず、賃金未払いだった事で訴訟した側が敗訴、という事例が各地で起き、敗訴した側は不平と不満を持って暴動となり、各地の治安が乱れ、せっかく整備した街道も荒れる結果をもたらしていた。

 

 

「皇帝の座を維持するために、トリステインへの侵攻か。トリステインの未来は卿らの働きにかかっている。」

「「「杖にかけて!」」」

 

 

―――――

 そのような会話が行われてから4日後。

 ゲルマニア帝国の首都、ヴィンドボナ。

 その御前会議は大いに紛糾する。

 

 

「閣下!トリステインとの軍事同盟の破棄をなさったとか!何故ですか!」

「今のトリステインは肥え太った家畜。今こそ平らげる時だ。」

「街道整備事業が完了し、物資の流通業が盛んになっています。」

「いいではないか。連中が整備した街道を通過して、一気に攻め込める。それに、私には考えがある。」

 

「では、お聞かせください。」

「まず一路!トリステインの東方から我が子、ゼブランが先陣を務め、後方を娘婿ガレスが支える!第二路はアルビオン総督である我が弟、カースレーゼに命じてサウスゴータからロサイスを攻撃させる。ロサイスさえ落とせばアルビオンにいるトリステイン駐屯軍は孤立する。」

「アルビオンが許すでしょうか?」

「協力すれば、トリステインに奪われた領土を返してやるといえば、喜んで我々につく!第三路は、ガリア女王イザベラにトリステイン南部を与えると約束して攻撃させる。こうすれば、小国トリステインなど、降臨祭までに片が付く!」

 

 

 

 

 

―――――

 アルビオン大陸。王都ロンディニウム。王城、ハヴィランド宮殿にて。

 

「トリステインに奪われたアルビオン領を返還する為、アルビオン軍におきましてはトリステインに奪われたロサイスへの攻撃にご助力願いたい」

 

 ゲルマニア皇帝ゲーレンの使者からの言葉を受けて、アルビオン王政府の閣僚は瞠目する。

 

「レコン・キスタによる一連の争乱。あれで一番被害を被ったのは貴国。復讐できる好機であろう。」

 

 それは事実だ。だが、現在のアルビオンを支える者達にとって、ザナックの名前は死してなお未だ重い。

 戦勝国としていくらでも踏みにじれた立場でありながら、両国の友好を掲げた。

 

「しばし、待ってほしい。」

「よい選択をする事を期待しております。」

 

 

 ロサイスの返還、を仄めかされたアルビオン人の一部は行動に出るべしと主張したが…

 

 

「トリステインとゲルマニアの戦いに、なぜかかわらねばならん」

「ロサイスは返ってくるぞ?それに、トリステイン北部と東部から進撃、さらにガリアも動くなら…」

「私は反対だ。父から聞いたが。祖国からリリーシャ様が嫁いだ時、ザナック陛下は城門まで出迎えたという。ロサイスは取り戻したいが…他国が喪に服している所を襲うなど出来ない。」

 

 

 

―――――

 ゲルマニアからの通達は、時を置かずしてガリアにも届く。

 ガリア王宮内も紛糾する中。タバサは使い魔のヘジンマールに相談する。

 

 

「どう思う?ヘジンマール」

「…僕なら戦うと見せて戦わず、進むと見せて進まない。」

「というと?」

「トリステインを攻撃するのは戦力を消耗する。かといってゲルマニアの要望をはねつければ、今度はゲルマニアがガリアに攻めてくるかもしれない。だから、今は動くと見せかけるべきだ。

四方向の軍事作戦がゲルマニアが優位に進んでいるなら攻めればよいし、そうでないなら戦わないに越したことはない。空海軍はともかく、陸軍だとガリアと渡り合えるゲルマニアが弱体化するのは、ガリアにとって良いことでしょ?」

 

 使い魔の言葉にうなづくタバサ。

 自分の「提案」という形で提出された案をガリア王政府はいくばくかの修正を加えて採用し…ここに、周辺国家の意向は固まる。

 

 

―――――

 ヘジンマールの予想通り、四方面はゲーレン皇帝の思惑とは真逆の方向に進んだ。

 カースレーゼは軍事行動を起こそうとしたが、アルビオン王政府はそれを牽制する構えを見せている。要衝とはいえ一都市の駐留部隊と一国の軍では規模が違いすぎるため、早々に霧散。

 

 北方と東部からの攻撃予定であったが軍の収集が遅れて攻撃準備が整わず、先走った一部隊はトリステイン内部の工作部隊を動員するも、逆に裏切り者を早期に発見されて一掃。慌てて襲撃するも逆襲され、総敗退であることがハルケギニア諸国の首脳陣に伝わってきていた。

 

 

 だが、度重なる失政で溜まった不満をそらし、国庫を潤すためにもゲーレン皇帝はもはや止まれない。

 トリステイン王国とゲルマニア帝国間で戦争が始まり…ゲルマニア帝国は大敗を喫する。

 

 

 ゲルマニアは小国とみなしていたトリステイン王国相手に、賠償金に加えて領土の割譲など屈辱的な講和を締結する事となる…。




本編はひとまずこれで完結となります。
今までお付き合い、ありがとうございました!
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