ターフの景色 作:にんじんぷりんとにんにく
記者を長くやっているが
私が今も追い続けている影がある
特別恵まれていたウマ娘ではなかった
決して最強でもなかった
その姿を時に嗤い
その姿に心を燃やした
後に異次元の逃亡者といわれる彼女は
いつまでもその影は踏めなかったと語った
結局彼女はどこかに行ってしまったけれど
逃亡者はずっと待ち続けている
彼女は自分を凡庸で取り柄がないというけれど
彼女を弱いというウマ娘は同期に誰もいなかった
彼女の強さはだれもが理解していて
誰もが彼女のターフへの復帰を待っていた
菊花賞を制した占いを信仰しているウマ娘は語る
彼女が出走していたのなら
私が届いたかはわからないと
異次元の逃亡者を差し切った彼女は水晶を使い占っていた
それは彼女が戻ってくるかどうかだという
結果を信じるわけじゃないし
彼女の占いは聞き流すのが一番と逃亡者が言っていたので
軽い気持ちで聞いていれば
帰ってくる可能性が高いという
外れるかもしれないが
信じるだけなら無料だろう
ならば信じてみようか
影を残して消えた彼女の姿を
またターフで見れる日を
のんびりステイヤーはベンチにたたずむ
彼女もまたあの日のレースに焼かれたものだ
のんびりステイヤーはゆっくりと
あの日の情景を思い出し
悔しさに涙した
あの日のことは忘れないという
皐月賞にダービー
一番人気で挑んだレースは
同じレースに出走した
彼女に制覇された
決して侮ってはいなかった
彼女をマークして
彼女をずっと見ていたけれど
それでも届かなかったあの姿
今だからこそとのんびりステイヤーは語る
あの日の彼女に勝てるのは
それこそ皇帝や英雄、暴君にシャドーロールの怪物といった
化け物のような強さを誇る者たちくらいではと
悔しいけれど
認めたくないけれど
彼女は強かった
そしてこのステイヤーもまた
彼女の影にとらわれ続けていた
あれからしばらくたって
菊花賞の舞台には
仕上がったウマ娘たちの姿が見える
そして観客たちも盛り上がる
その観客たちの波の中に
葦毛のトリックスターの姿が見えた
何をしているのかを聞いてみれば
自分のお気に入りで
指導も手伝ったウマ娘が出走するという
なるほど王の名を持つとは
なかなかすごい名前だな
葦毛のトリックスターに話を伺えば
もう一人王の名をもつ彼女の指導をしていたウマ娘がいるという
その彼女は自分の菊花賞、皐月賞で指導してくれた
恩人だという
その彼女がやってきたと
後ろを振り返れば
そこにはまごうことなき
私の脳裏にから離れない
明るく笑っている
二冠の彼女が立っていた
占いは信じる人間じゃないが
とりあえず彼女には感謝の報告でもしておこう
だが今だけは
この瞬間をただただ楽しもう