重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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初回のみ二話で、以降は毎日一話ずつ投稿予定


オリジン
斥流陰子の原点


 赤ん坊の私は、布にくるまれて孤児院の入り口に捨てられていた。

 親が誰かはわからなくても名付けられてはいたらしく、斥流陰子(せきりゅういんこ)が自分の名になった。

 

 でも捨て子がどうとか言われていても、私の親は孤児院の院長先生だと思っている。

 顔も名前も知らない親族のことは正直どうでも良かった。

 

 しかし斥流陰子(せきりゅういんこ)と院長先生が呼んでくれるので、その名前自体は割りと気に入っている。

 

 貧しくても精神的には満たされた生活を送り、四歳になって物心がつき言葉を流暢に喋れるようになった。

 

 そして、個性も発現した。

 

 昔は少数だったが、今では世界的な総人口の八割が個性を持つ超人社会だ。

 なので私も、多数派に組み込まれたらしい。

 

 しかし、まだどういった個性かわからない。

 詳しく調べるために、近くの病院に院長先生と一緒に向かうことになった。

 

 先に電話予約を取っていたので、到着後は受け付けで話を通して、専用の機械が並んでいる部屋に移動する。

 そこで良くわからないが、詳しい検査を行った。

 

 結果が出るまでは少しかかり、待合室で院長先生と一緒に待つ。

 しばらくすると呼び出しを受け、指定の医務室の扉を開けて中に入る。

 

 それなりに歳を重ねた医師が椅子に座っていて、後ろには若い看護師が控えていた。

 自分と院長先生も座るように促されたので、言われた通りに椅子に腰かけて話を聞く。

 

「キミの個性は、重力操作のようだね」

 

 用紙に書かれた項目を読みながら、詳しく丁寧に説明してくれる。

 しかし、この頃の私はまだ四歳だ。

 良くわかっていなかったけれど、体の動かし方と同じように、自身の個性の扱いは本能的には理解していた。

 

「キミなら、このボールペンを浮かせられるはずだよ」

 

 そう言って先生が、机の上にボールペンを静かに置いた。

 

「さあ、やってごらん」

 

 発現したばかりの個性なので、扱い慣れてはいない。

 言われた通りに意識を集中するが、残念ながらピクリとも動かない。

 しばらく続けて疲れてくると、ようやくボールペンが浮き上がる。

 

 だがふわりとではなく、まるで重力が逆転したかのように上に向かって真っ逆さまに落ちていく。

 そのまま天井にピッタリとくっつき、そこで動きが止まってしまう。

 

「ありがとう。もう解除していいよ」

 

 解除するようにと促されたが、まだ全然制御ができていない。

 なのでどうやれば重力を元に戻せるかがいまいちわからず、しばらく天井に張り付かせたまま四苦八苦するのだった。

 

 

 

 苦労はしたが何とかボールペンを机に落とすことに成功し、自分の個性についてまとめた書類を受け取る。

 お医者さんにお礼を言ったあとに病院を出て、迷子にならないように院長先生と手を繋いで孤児院に歩いて帰る。

 

 その途中で色々と説明してくれたが、自分は視界に入って認識したモノの重力を、自在に操れる。

 だが対象が大きいと効果を発揮できないようで、今のところはボールペンサイズがやっとだ。

 

 そして飛ばすのではなく、落とすのだ。

 重力を反転させて空に向かって落下させるので、浮遊や飛行とは異なる個性である。

 

 しかし私の頭ではこの辺りの情報を処理できずに、道中はひたすらウンウン唸っていたらしい。

 

 そのことに気づいた院長先生は、続きは帰ってからねと笑顔で話しかけて、穏やかな雰囲気で町中をのんびりと歩いていた。

 

 けれど、そんな幸せな時間は突然崩れ去る。

 

「退け退けぇ! ヴィラン様のお通りだぁ!」

「邪魔する奴は轢き殺すぜぇ!」

 

 すぐ前のコンビニエンスストアの窓ガラスが割れる。

 そこから凶悪な面構えの男たちが外に飛び出し、用意してあった軽トラに急いで乗り込む。

 

「誰か! 誰かヒーローを呼んでくれえっ!」

 

 周りの通行人が一斉に騒ぎ出すが、彼らはそれを気にすることなく運転を任せている仲間に指示を出す。

 アクセルをベタ踏みさせて急発進し、真っ直ぐにこちらに向かって突っ込んできた。

 

「おらっ! テメエら! 邪魔をするなら轢き殺しちまうぞ!」

 

 他の乗用車を避けて歩道も関係なく走ってきて、止まる気配は全くない。

 周囲の市民も口々に危ないと叫ぶが、残念ながら私の足は震えて動かなかった。

 

「避けてっ!」

 

 恐怖のあまりギュッと目を閉じた私に、院長先生の声が聞こえてくる。

 そして彼女に抱えられたと思ったら何故か一瞬だけ宙を舞い、そのあとは地面をゴロゴロと転がっていく。

 

 私はただただ震えながら院長先生にくっついていたが、軽トラのエンジン音が遠ざかっていって少しだけ安堵した。

 まだ怖いが現状を把握するために、荒い呼吸を繰り返しながらゆっくりと目を開ける。

 

「……院長先生?

「貴女が無事で、良かったわ」

 

 院長先生は私を抱えたまま苦しそうな声を出し、突然足を押さえた。

 恐る恐るそちらに視線を向けると、彼女の右足が不自然な方向に曲がっていることに気づく。

 

「やった! ヒーローが来てくれたぞ!」

「頑張れ! ヒーロー! ヴィランなんてぶっ飛ばしちまえ!」

 

 自分たちの近くで、ヒーローがヴィランと戦っているようだ。

 市民の声援や戦闘音が絶え間なく聞こえてくるが、今の私にとっては何処か遠い場所で行われているようにしか思えない。

 

お母さん! 早く病院に!

「ようやく、お母さんって呼んで……痛っ!」

 

 今までは何だか恥ずかしくて、母親のように慕っていても院長か先生と呼んでいた。

 けれど、突然の事態に本音が出てしまったようだ。

 

 しかし恥ずかしがっている余裕はなく、たまたま近くで私たちを見ていた親切な人に必死に助けを求めて、急いで救急車を呼んでもらう。

 

 幸い病院が近くて処置も早かったので、折れた足の骨は三ヶ月後には完治するらしい。

 しかし元通りに歩けるようになるには、辛いリハビリを行わなければいけない。

 そして通報を受けて駆けつけたヒーローたちは、ヴィランを倒して周囲の人々の称賛を受けて喜んでいたが、怪我をした院長先生には最後まで気づかなかった。

 

 それでも彼らがたまたまそうだっただけで、他のヒーローは違うかも知れない。

 だが私は院長先生の一日も早い回復を願いつつ、心中に複雑な感情が渦巻いていた。

 

(次にまた、同じことが起きたら)

 

 ヴィランに襲われても、ヒーローが駆けつけて助けてくれるとは限らない。

 今回のように見捨てられる可能性は低いだろうが、それでも絶対大丈夫とは言い切れないし、被害が出てから出動するのがヒーローである。

 自分がヴィランに襲われる、最初の一人にならないとは限らなかった。

 

(自分の身は、自分で守らないと)

 

 別にヒーローになって平和のために戦ったり、皆を守りたいわけではない。

 けれど彼らに任せきりにするのは危険で、まだ四歳とはいえ、私は院長先生に大怪我をさせてしまった。

 言いようのない自責の念に苛まれた私は、もしヴィランの襲撃に巻き込まれても次は危機を退けられるようになりたかった。

 なので、ヒーローに頼らなくても自衛できるだけの力を手に入れるため、個性と体を鍛えようと決意を固めるのだった。

 

 

 

 やがて時が流れて、斥流陰子(せきりゅういんこ)は中学一年生になる。

 今は孤児院の自室から外の景色を眺めて、やかましいセミの声を聞きながら昔の思い出を振り返っていた。

 

(ヴィランに襲われて、院長先生が大怪我したのが私の原点)

 

 今は七月の下旬で、夏休みが始まってから数日経った。

 本当は宿題をやりたいのだが。孤児院の子供たちも長期休暇中である。

 浮かれて大騒ぎしているため、ある意味ではセミの鳴き声よりもやかましい。

 

 これで集中して勉強というのは難しく、うちはあまり裕福ではないこともあって壁が薄い。

 古くて穴が開いてたり、修理も業者ではなく自分たちがやるので塞ぎきれておらず、隣室の音がよく聞こえた。

 なので宿題が手につかなくて、現実逃避として昔のことを順番に思い出していく。

 

(個性を倒れるまで酷使したり、常時自身を重くして体も鍛えた)

 

 四歳の頃から自身の重力を増やし続けて、個性と肉体の両方を鍛え続けた。

 視界に入れた対象を認識するという発動条件ではあるが、自分だけは例外らしい。

 

 しかしその影響を受けたのか、身長が小学校低学年から全然伸びなくなってしまう。

 百二十センチで止まってしまったが、超重力下でも横には伸びるようで、胸だけどんどん大きくなる。

 

 たまに他者の視線が胸部に集中することから、ロリ体型で巨乳など冗談ではないと身を震わせた。

 

 しかし私が思うに、もっとも効率が良い訓練方法が自身の重力の増加だ。

 

 個性の無断使用は原則として禁止されているが、バレなければ問題ない。

 四歳から常時この状態で生活しているからか、今では体重が百キロ以上になっても誰も疑問に思わない。

 そういう重力操作の個性のデメリットで済ませられるのは、とてもありがたかった。

 

 ただし小学生の頃はマラソン大会を完走できても、ダントツのビリで息も絶え絶えだった。

 運動音痴の女子として、クラスでは戦力外として扱われるのも致し方なしだ。

 

 中学に上がる頃には体力がついたのか、超重力下でも息切れしなくなる。

 気になって色々と計測したら、百キロ以上のロリ体型でもプロのアスリートレベルの身体能力を発揮していた。

 

 けれど、積極的にアピールするつもりもない。

 

 今のほうが学校で人との付き合いが減るので、逆に修行に集中できる時間が増えるからだ。

 

 そして毎日鍛え続けたおかげで、個性も成長した。

 百キロ以上の体重を維持したままで、自身への重力操作を自在に行えるようになったのだ。

 

 これに関しては考えても良くわからないし、何だかわからないが便利に使えるようになったのでとにかく良しにしておく。

 

 それはともかく基本的に行き当たりばったりでマイペースな私は、宿題は早めに終わらせるに越したことはないと考える。

 しかし、孤児院内で勉強しようにも周りがうるさくて集中できないことに大いに嘆いた。

 

 だがここであることを思いつき、椅子から立ち上がり自室から出て院長室へと向かう。

 

 外出許可を取って何処か静かなところで勉強に集中すれば、効率良く宿題を進められるだろうから、早速実行に移すのだった。

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