重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
中学三年生の進路希望
時は流れて、私は中学三年生になった。
相変わらず幼女体型から変化せずに、胸だけが毎年少しずつ育っていた。
旅行以外にも個性の修行で他県に落ちて行くこともあり、成り行きで色んな事件に陰ながら首を突っ込んだりと、平穏とは言い辛い日々を過ごしている。
ヒーローの勧誘も何度もあったが、私はこれっぽっちもその気がないのでお断りさせてもらっていた。
昔と変わらず学業に専念できるのは、きっと院長先生のおかげだ。
とてもありがたいので、将来は孤児院に寄付金を払うことで少しずつでも恩を返していきたい。
ちなみに三年生のクラスでも、緑谷君と爆豪君と一緒だった。
つくづく縁があるものだと思いながら、私は担任の先生に話に耳を傾ける。
彼は教卓の前に立って、何かのプリントを用意しているようだ。
「お前らも三年ということで、本格的に将来を考えていく時期だ。
今から進路希望のプリントを配るが──」
そう言って先生をプリントを手に持ち、良い笑顔で教室中にばらまいた。
「皆、大体ヒーロー科志望だよね!」
「「「はーい!!!」」」
緑谷君と自分以外が個性を使って楽しそうな雰囲気の中で、先生からも原則として禁止だと笑いながら注意する。
何にせよ生徒の心を掴むパフォーマンスは成功してのか、しばらく教室が騒がしく皆は色んなことを話し合っていた。
(けど、私は普通科希望)
ヒーローを目指さない生徒は少数派で、しかも口下手で場の雰囲気について行けない自分は完全なアウェーである。
別に寂しくはないが皆と違って一歩引いた状態で外から眺めていると、爆豪君が何かに気づいたようで大きなを出した。
「先生! 皆とか一緒くたにすんなよ!
「そうだった!
地元の普通科を希望しているのは、中学一年生から変わっていない。
担任の先生も覚えていてくれたらしく、私は口を開かないが肯定するように静かに頷く。
「しかし勿体ないな!
「私は普通科がいい」
「そうか! まあ、
後悔しないように、良く考えて決めるといい!」
取りあえず先生からの追及はなくなったので、私はホッと息を吐く。
次に担任はふと思い出したように、爆豪君に視線を向ける。
「そう言えば爆豪は、雄英志望だったな」
先生の発言で教室中がざわめき、爆豪君に自然と視線が集まる。
雄英高校は毎年大勢のヒーロー志望が受験して、その殆どが落ちるという超名門ゆえの最難関なのだ。
余程優秀な成績と強個性を持っていない限りは、止めておいたほうが無難である。
しかし爆豪君は模試でA判定を取ったと、早朝の訓練を終えて一休みしていたときに自慢気に語っていた。
さらに将来的にオールマイトを越えて、納税者ランキングに名を刻むとも言っていたが、きっと合格確実なのが嬉しくてテンションが上がっていたのだろう。
そんなことを考えていると、担任の先生がまた何か思い出したようだ。
「そう言えば、緑谷も雄英志望だったな」
その瞬間、教室中の視線が緑谷君に集中する。
誰も喋らずに静まり返ったのは短い時間だけで、すぐに爆笑の嵐が吹き荒れた。
「緑谷? 無理っしょ!」
「勉強できるだけで、ヒーロー科は入れねえんだぞ!」
他の生徒は笑いながら話しているが、緑谷君はとても肩身が狭そうだ。
「そっ、そんな規定はもうないよ! 前例がないだけで!」
彼が慌てながら反論すると、爆豪君が席から立ち上がる。
そして無言で緑谷君の元まで歩いていく。
「デクゥ!」
「かっ、かっちゃん!?」
あれだけ騒がしかった教室も静かになり、いつもと様子が違う二人の様子を固唾を飲んで見守っている。
「ちっ、小さい頃からの目標なんだ! そっ、それに! やってみないとわからないし!」
「テメエが何をやれるんだ! 無個性のくせによォ!」
緑谷君はあたふたしながらも、威圧してくる爆豪君を相手に一歩も引かない。
私にはとても立派に見えたからなのか、気づいたら自分も席を立っていた。
「強い個性でも、ヴィランに落ちる人もいる!
私は緑谷君がヒーローになれると信じてる!」
教室が静まり返っていたので、普段は無口な私の声はとても良く響いた。
それに緑谷君は昔は貧弱だったが、今の彼は体力がついて無個性でもかなりの強さだ。
なので地元の中学では、彼は勉強と運動共に上位に入っている
しばらく誰も口を開かなかったが、やがて爆豪君を頭をかいて緑谷君を睨みつける。
「デクゥ! 猿山のボスじゃ! 雄英は合格できねえぞ!」
「えっ!? そっ、その! かっちゃん! 応援してくれるの!?」
「誰が応援するか! 死ねっ!」
爆豪君を最後にそう言って、苛ついた表情で自分の席に帰っていく。
相変わらず仲が良いのか悪いのか良くわからないけれど、おかげで生徒たちは落ち着いたようだ。
そして先生は手を叩いて場を仕切り直し、平常通りの授業に戻るのだった。
三年生の進路希望調査を行った日、修業を終えた私は緑谷君と一緒に下校していた。
当たり前だが別に恋人同士ではないし、小学生低学年の容姿なので歳の離れた家族に見られることも多い。
私は元々人付き合いが殆どなく、恋愛どころか交友関係も良くわからない。
けれど彼と一緒に帰ることは不快ではなく、自分の数少ない友人として認定している。
まあそれはともかくとして、彼と同じ道を歩いている理由だが、院長先生に買い物を頼まれたからだ。
「お一人様二パック限りの卵。
付き合ってくれてありがとう」
「僕もちょうど買いたい物があったし、気にしないでよ」
緑谷君は本当にいい人だ。彼が付き合ってくれたおかげで、特売の卵がもう二つ購入できる。
並んで通学路を歩きながら、他愛もない話を続ける。
「そう言えば、斥流さんは料理をするの?」
「孤児院の料理は、年長組の役目」
小さい子供が包丁を扱うのは危険なので、年長組が交代で調理を行うのがうちの孤児院の決まりだ。
なので自分の料理スキルはプロ並とは言わないが、初心者よりもできる方だと思っている。
そんな話をしながら歩き、少し薄暗い道路の下のトンネルに足を踏み入れた。
すると突然何の前触れもなく、排水溝から緑色のヘドロのような何かが、まるで意思を持っているかのように私たちに襲いかかってくる。
「Sサイズの! 隠れ蓑!」
「斥流さん!」
私の感覚器官は並の人間よりも優れているが、あまりに予想外で対処が遅れてしまった。
緑谷君は自分を庇うように前に出て、謎のヘドロに取り込まれる。
「緑谷君!?」
「大丈夫! 体を乗っ取るだけさぁ!」
ヘドロが意思を持っているだけでもおかしいのに、人の言葉を喋っている。
つまり今目の前で起きているのは個性による攻撃で、体を乗っ取るのは悪いことだ。
なのでコイツはヴィランなのは間違いなく、今この瞬間も緑谷君は苦しみから逃れるために必死にもがいている。
個性を使用するは原則として禁止であり、人に向けて使うのはもっと駄目だ。
しかし現状を理解した私は、もはや躊躇いはなかった。
「緑谷君! 大丈夫! 必ず助ける!」
素早く重力操作を行い、両者を引き離すように落とす。
「ばっ、馬鹿なっ!?」
「けほっ!」
流体なのでまともに掴めずに、自力での脱出はきっと困難だった。
けれど今回は油断していたし、まさか重力によって強引に引き剥がされるとは予想もしていなかったのだろう。
拘束から逃れた緑谷君は怪我をしないように私が受け止めると、ヘドロのヴィランは受け身を取れずに地面に撒き散らされた。
「せっ、
「気にしないでいい」
少し咳き込んでいるが、無事なようでホッと息を吐く。
だがその隙を突いて、ヴィランが地面を張って排水溝に潜り込もうとしている。
「逃さない!」
幸いなことに動きは普通に目で追える程度だったので、今度は重力を反転させてヘドロの塊をトンネルの天井に叩きつけた。
「がはぁっ!?」
そのままヴィランが動けなくなるまで、少しずつ出力を上げていく。
やがて殆ど平面に広がったまま身動きが取れなくなったところで、私は静かに息を吐いた。
「コレ、どうしよう?」
「やっぱり警察に通報かな」
私はスマートフォンを持っていないので、警察への連絡は緑谷君に任せるしかない。
「じゃあ、お願い」
彼が懐から取り出すのを気配で何となく察して、重力操作を解除しないためにヴィランに注意を向け続けていた。
すると今度は突然背後のマンホールの蓋が吹き飛んで、そこからテレビに良く出ている有名人が颯爽と現れる。
「もう大丈夫だ! 少年少女!」
彼はお決まりの台詞を堂々と口にして、格好良くポーズを取る。
ちなみに私の視線はヴィランに向けているので、全て超感覚による想像であった。
「何故なら! 私が来た!」
「おっ、おっ! オールマイトおおおお!!!」
緑谷君は突然のナンバーワンヒーローの登場に、子供のように瞳を輝かせて大喜びしていた。
私は彼とは何度か顔を合わせたことがあるが、別にファンというわけじゃないし、驚いたりもしない。
ただオールマイトは自分の個性に興味があったようで、採石場で戦闘訓練を受けさせられたことがあったのだ。
他にもプロヒーローが勢揃いしていたが、誰も止める様子はなかった。
子供たちのためにサインを書いてもらったし、お礼も兼ねて付き合うことにした。
その際に重力加速三倍で飛び蹴りしたらデトロイトスマッシュで相殺されたし、オールマイトは別に必殺技ではない全力パンチだ。
こっちは十分な加速を得るために時間や距離が必要なので、残念ながら連続使用はできない。
衣服が損傷する以外にデメリットがないから良いが、
大怪我するか最悪死ぬので無理と訴えると、ようやくわかってくれたのか戦闘訓練は終了となる。
もしデトロイトスマッシュがオールマイトの全力だとしたら、下手をすれば平和の象徴を殺してしまう可能性がある。
あの状態への移行は初めてで慣れていないこともあって、正直強大なパワーを持て余していた。
なのでこれ以上の抑制解除は、危険と言わざるをえない。
けれど一応は納得してくれたので、その場は新品の衣服や靴を提供されてお開きになったのだった。
ちなみに後日、オールマイトのサイドキックだったサー・ナイトアイが孤児院にやって来て、ヒーローになって欲しいとしつこく勧誘される。
彼が言うには、惨たらしい最後を遂げるはずのナンバーワンヒーローを間一髪で救うのが、女子高生に成長した私らしい。
抑制解除を行えば小学生低学年から急成長するため、未来予知で見た少女が私であると判断したようだ。
けれど未来のことなんて誰にもわからないし、実は別人かも知れない。
しかもサーナイトアイのイメージは、物凄い美人の天使が煌めく翼を羽ばたかせて戦場に降り立つという、何とも神々しいものだった。
彼女は凶悪なヴィランの軍勢を前に一歩も引かず、大勢のヒーローを率いて先頭に立って戦い、どんな絶望的な状況でも決して諦めずに困難を打ち破り、勝利を掴み取っていた。
さらには日曜の朝のアニメに登場するような、綺羅びやかな魔法少女の衣装を着用していたというが、自分はヒーローでもコスプレイヤーでもなく一般人だ。
それが私だとは、絶対に認めたくなかった。
なのでサー・ナイトアイに未来を読み取られる前に、断固拒否の姿勢として台所から塩を持ってきて、ヤケクソ気味に撒いてお帰りいただいたのだった。