重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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ヴィラン退治のその後

 ヘドロヴィランから爆豪君を救出したあと、捕まっても必死に抵抗を続けていた彼は称賛され、ヒーロー事務所から熱心に勧誘されていた。

 

 逆に無我夢中で飛び出した緑谷君は説教されていたが、確かに彼だけでは無事に助けられたとは思えない。

 けれど結果的に何とかなったので、私としては終わり良ければ全て良しである。

 

 そんな事情はともかく、事情聴取や精密検査を受けた以外は、誰も罰を受けることもなく比較的早く解放された。

 自分はヒーロー免許は持っていないが、個性を使ってもある程度は見逃してくれるので本当に助かっている。

 

 まあそのような事情はともかく、孤児院の食事当番を休むわけにはいかない。

 二人にまた明日と別れて、真っ直ぐ帰宅するのだった。

 

 

 

 毎日のように全国各地でヴィランによる犯罪が起きている。

 今回はたまたま地元で発生したが、余程のことでない限りはやがて平穏が戻ってくる。

 

 次の日もいつも通りの早朝に起きて、私は新聞配達のアルバイトを行っていた。

 緑谷君と爆豪君もすっかり慣れ、合流してからは私のすぐ後ろをジョギングしている。

 だが今日は、いつもと様子が違うように思えた。

 

「二人共、何かあった?」

「えっ? えっ!? なななっ! 何もないよ!

「ああ? 別にいつもと変わらねえぞ」

 

 ポストに投函しながら尋ねると、爆豪君はあっさり流した。

 しかし、緑谷君はあからさまに動揺している。

 これはやはり、何かあったと思ったほうが良いだろう。

 

 けれど向こうに話す気がないのに追及するのも悪い。

 私個人としては少し気になったが、無理に尋ねるほどでもない。

 結局いつも通りに新聞配達を終わらせて、公園に移動して恒例の戦闘訓練を行う。

 

 何とか防衛に成功して無敗を守ったが、やはり二人は確実に成長している。

 最近は完全抑制ではなく一段階だけ解放して戦わざるを得なくなるほど、彼らは強くなった。

 そして怪我をさせないように手加減しているとはいえ、倒れずに立っていられる時間も着実に伸びている。

 

「相変わらず、容赦がない」

「当たり前だろ! 全力で戦わねえと! 斥流は倒せねえだろ!

「やっぱり! 勝ちたいからね!」

 

 勝利への渇望は彼らほど強くはない。

 ヴィランと遭遇した時にヒーローが不在で市民に被害が出るから、重い腰を上げるぐらいだ。

 

 だが今はそんな事情は置いておいて、早朝の新聞配達をしている時からずっと誰かに見られていた。

 

 ちなみに私が注目を浴びるのは良くあるので、その程度では動じない。

 そして視線の向きから、その人物は緑谷君に用があるらしい。

 

 悪意は感じないし、こっそり横目で様子を窺うと何となくだが見覚えがある気がした

 そしてここは事情を知ってそうな緑谷君に尋ねるのが、手っ取り早いだろう。

 

「あの、緑谷君」

「何かな。斥流さん」

「あの人、緑谷君の知り合い?」

 

 そう言って指は差さないが、電柱の影に隠れている男の人に顔を向ける。

 緑谷君も気づいたようで、次の瞬間には大慌てで彼の方に走って行く。

 

 二人はこっそり話しているようつもりのようだが、自分は常人よりも五感が優れているので丸聞こえだった。

 

(やっぱりあの人、オールマイトだったんだ)

 

 詳しい事情まではわからないけれど、痩せ型のオールマイトは緑谷君のトレーナーらしい。

 

 しかしあの状態の彼と、ナンバーワンヒーローを関連付ける人は殆ど居なさそうだ。

 彼らの会話の内容からはっきりしたが、別に知る気はなかった。

 

 取りあえず私は爆豪君に少し待つようにと告げて、二人に向かって真っ直ぐに歩いて行く。

 

「緑谷君、秘密の話はもっと遠くでして」

「「えっ!?」」

 

 二人揃って、思いっきり狼狽えていた。

 私はさっき知ったことを正直に伝えておく。

 

「耳が良いから、その人がオールマイトだと聞こえた。

 別に誰かに話すつもりはない」

 

 元々人付き合いを面倒に思うタイプだ。

 それに口下手で他人との会話は得意ではなく、条件反射で距離を取ってしまう。

 

「斥流少女! すまない!」

「あああっ! 僕は! なんてことを!

 

 私の交友関係はかなり狭く、家族の殆どはオールマイトのファンだ。

 夢を壊すようなことは口にできないので、心配無用である。

 

「貴方には、できるだけ長く平和の象徴でいて欲しい」

「ああ! 私はこれからも平和の象徴で居続けよう!」

 

 短い会話であったが私の意思は伝わり、承諾してくれるなら良しとしておく。

 けれど、あることを思い出して口を開く。

 

「でも、無理だけはしないで。

 引退するにしても後継者を見つけて、引き継ぎをしっかり済ませて」

「斥流少女が後継者じゃ、駄目かな?」

「駄目」

 

 確かにオールマイトは素晴らしいヒーローだが、自分はとてもではないが平和の象徴は務まらない。

 それにヒーローの職に就くつもりも毛頭ないので、はっきりお断りする。

 

「ヴィランや事故は、他に適任がいなければ私が倒す。

 でもヒーロー活動やマスメディア関連は、断固拒否

「確かに、斥流さんは人と喋るのが苦手だしね」

 

 緑谷君の発言に、私は同意とばかりに静かに頷いた。

 

 過去に遭遇したヴィランは、全員倒している。

 しかし、市民のために命をかけて仕事をしたくない。

 テレビに出てファンサービスも、断固拒否だ。

 

「雄英高校を受験するのも、オールマイトを見張ったり、名門校の卒業資格が欲しいだけ」

「えっ!? 斥流さんも雄英高校受けるの!?」

 

 ここで私は、ヘドロヴィランとの戦いのあとに緑谷君が気を失っていたことを思い出す。

 雄英高校を受けると口にしたのは、あの場だけだ。きっと聞き逃していたのだろう。

 

 だがまあ別に隠すようなことではない。

 こちらも静かに頷いて、肯定しておいた。

 

「そっかぁ。まさかうちの中学から、受験者が三人も出るとは思わなかったよ」

 

 全国屈指の難問ではあるが個性の訓練や筋トレと同じように、毎日コツコツ真面目に勉強してきた。

 まだ模試は受けていなくても、確実とは言えないが頑張ればワンチャンいけるはずだ。

 

「私も頑張るから、緑谷君も頑張って」

「うん! かっちゃんと一緒に、三人で合格しよう!」

 

 取りあえず言いたいことは口にしたので、緑谷君とオールマイトと別れて爆豪君の元に戻る。

 すると彼は近くの自販機でスポーツドリンクを購入していたようで、それに口をつけながら話しかけてくる。

 

「何の話をしてたんだ?」

「私が雄英高校を受験する話」

「斥流も受けるのかよ! と言うか! あのおっさん関係ねえじゃねえか!

 

 爆豪君に思いっきり驚かれたが、相変わらず斥流はマイペースすぎるだろと溜息を吐かれるだけで終わった。

 

 そこまで興味がなかったのか、無理に問い質すつもりはないようだ。

 そして早朝の訓練のあとは中学に登校しないといけないので適当なところで解散して、二人と別れて孤児院に戻るのだった。

 

 

 

 痩せてる方のオールマイトは、初日以降は姿を見せなくなった。

 私が思うに、彼は緑谷君のトレーナーだ。

 自分の見てないところでヒーロー活動を行いつつ、筋トレメニューを考えているのだろう。

 

 だがまあそれはそれとして自分は地元の普通科高校ではなく、全国屈指の難関である雄英高校に進路を変えた。

 

 模試の結果はまだ出てないが、たとえA判定を取れても落ちる可能性はゼロではない。

 とんでもない倍率らしいし、万全の体制で挑むべきだろう。

 

 しかしもし合格及び卒業できたら、履歴書に雄英高校の普通科卒と記載できる。

 就職活動に有利になるのは確実だ。

 

 爆豪君が言っていたように、高額納税者ランキングに名を連ねるとは思えないが、それでも他の高校よりも学歴ステータスとして扱われるのは確かだろう。

 

 頑張った苦労が報われるのは悪いことではないと思いつつ、いつも通りに自身の重量を増やして筋トレと受験勉強を同時進行で行う。

 そして来るべき日に備えて、毎日コツコツと修行や勉強を頑張るのだった。

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