重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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雄英高校入試の説明

 雄英高校の入学試験当日になった。

 同じ中学だから三人一緒に行動するとか、そんなことはない。

 孤児院を出たあとは電車やバスを利用して、試験会場へと向かう。

 

 幸いなことに受験者は全国から集ってくるため、案内板もあちこちに置かれていた。

 会場までは殆ど迷うことはなく辿り着けた。

 

 しかしヒーローを志す人たちの登竜門なだけはあって、とにかく人が多い。

 

「おいっ、あの子! もしかして!」

「ああ、斥流ちゃんだ! またの名を、二代目オールマイト!」

「遭遇したヴィランは、一人残らず捕まえてるらしいぜ!」

「オールマイトと同じで、存在自体が犯罪への抑止力だな!」

 

 耳が良いこともあり、受験生たちが自分のことを話しているのが聞こえてくる。

 それにヒーロー活動や自己アピールはしていないのに、何故かとても詳しく知っているのだ。

 

 注目を浴びるには慣れたが、それがずっと続くのはキツイ。

 とにかくこの場から離脱するために、さっさと建物の中に避難しようと早足で歩く。

 すると見知った顔を見つけたので、何気なく声をかける。

 

「おはよう。緑谷君」

おっ、おはよう! 斥流さん!」

 

 同じ中学のクラスメイトで、数少ない友人と話していると気も紛れてきた。

 すると後ろに知り合いの気配を感じて、足を止めてそちらを振り向く。

 

「爆豪君。おはよう」

「おう、デクと斥流」

「かっちゃん!? おおお互い! がががっ頑張ろうね!

 

 緑谷君は相変わらず緊張しているようだが、爆豪君は口数少なく通り過ぎる。

 彼はそのまま建物の中に入っていったので、きっと受験に集中したいのだろう。

 

「爆豪君は、喋ると勉強内容を忘れるタイプ?」

「そっ、そんなんじゃないと思うけど」

 

 緑谷君は若干焦りながらも、微妙な表情を浮かべていた。

 しかし今は、私たちも足を止めずに会場に向かうべきだ。

 

「緑谷君。私たちも」

「あっ、うん! そっそうだね!」

 

 緑谷君が相変わらず足が震えているが、何とか前に進もうとしている。

 マイペースな私は、彼よりもほんの少しだけ先を歩く。

 

「……あっ!」

 

 けれどそんな緑谷君が一歩を踏み出して、早々に転びそうになった。

 私が慌てて個性を発動しようとすると、その前に他の受験生が彼に触れて動きを止めた。

 

「大丈夫?」

「うわわわあああっ!?」

 

 突然空中で静止した緑谷君が混乱しているが、彼女は笑顔で体を起こしてしっかり立たせる。

 

「私の個性。ごめんね。勝手に。

 転んじゃったら縁起悪いもんね! 緊張するよね~!」

 

 緑谷君はまともに受け答えができずに、ただただ戸惑っていた。

 しかし喋るのが得意ではない私とは違い、彼女はとんでもないコミュ力だと理解する。

 

「お互い頑張ろう! じゃあ……って! 斥流ちゃん!?

 

 ここでようやく私の存在に気づいたらしく、その受験生は瞳を輝かせて真っ直ぐに見つめてくる。

 

うわぁ! 本物!?

「確かに私は、斥流で間違いない。でも、同姓同名の別人かも知れない」

本物だあああ!!!

 

 斥流(せきりゅう)という名字は珍しいが、彼女が想像している人とは違うかも知れないと伝えた。

 すると何故か、本物認定されてしまった。

 

「とにかく、会場に行く。遅刻は不味い」

「えっ、あっ! そうだね!」

「そうだった! 私も急がないと!」

 

 私たちは受験生だ。外で長話をして試験に遅れるのは不味い。

 二人もそのことに気づいたのか、少し慌てた様子で建物の中に入っていくのだった。

 

 

 

 案内通りに廊下を歩いて会場に入ると、既に受験生が大勢集まっていた。

 私は受験番号と座席を見比べながら、指定の席に座る。

 

 緑谷君と爆豪君が同じ中学出身だからか、挟まれるような配置であった。

 やがてそれほど間を置かずに、室内の照明が消えて暗くなる。

 

 そして一人の試験官に、スポットライトが当たる。

 

「受験生の皆! 今日は俺のライブによーうこそ!

 

 隣の緑谷君がヒーローのプレゼントマイクに会えて感動しているが、私の反応は薄い。

 行く先々で遭遇するヴィランと同様に、何だかんだでプロの人とも関わることが多かったのだ。

 それも向こうからわざわざ会いに来たりするし、試験の説明をしている彼もその一人である。

 

「斥流ちゃんも! 久しぶりに会えて嬉しいぜ!」

「私は別に」

「かー! 相変わらずの塩対応だぁ!」

 

 別にそこまで親しいわけではないし、せいぜい顔見知り程度の間柄だ。

 それにプレゼントマイク一人の判断で合格できるほど、雄英高校の試験難易度は低くないだろう。

 

 すると彼は少しだけ落ち込んでいたが、向こうもプロだ。

 すぐに元のテンションに戻り、説明の続きを行う。

 

「んじゃ! 入試要項通り! リスナーにはこのあと、十分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!」

「えっ?」

 

 思わず変な声が出てしまった私は、頭の中で先程の言葉を反芻しつつ、鞄からプリントを取り出して確認する。

 

「持ち込みは自由! プレゼン後は! 各自指定の演習会場に向かってくれよな!」

 

 試験内容は事前に何度も確認したので間違いはない。

 プレゼントマイクの発言と私の受け取ったプリントの説明は、明らかに食い違っていた。

 

「OK!」

 

 テンションの高い試験官を前に、ビシッと手をあげる。

 きっと受験生の質問には真摯に対応してくれるだろう。

 

「あの! 質問が!」

「んっ? 斥流(せきりゅう)ちゃん?」

 

 周りの視線が一斉に私に集まるのが恥ずかしいが、多少は慣れている。

 いかなる時もマイペースなのが自分で、ここは臆さずに堂々と質問させてもらう。

 

「私は普通科の入試のはず! どうして市街地演習を!」

 

 事前に郵送されたプリントと違っているし、今説明されているのはヒーロー科の試験だ。

 ならば普通科を希望している自分が、この場に居る必要はないはずである。

 

 私がそう主張すると、プレゼントマイクはテンション高めに発言する。

 

「雄英のヒーロー科の推薦枠を蹴って、普通科を希望する!

 そんなクレイジーな受験生は、初めてだぜ!

 だから今回は、適性だけでも審査させてもらうぜぇ!」

「なっ、なるほど?」

 

 良く意味がわからなかったので、頭の中で色々考えてみた。

 推薦入試を蹴って普通科を受ける生徒は非常に珍しく、私のヒーロー適性を調べたいのだろう。

 

「市街地演習も加点されるから、雄英高校の合格を狙うならお得だぜぇ!」

 

 そんな一個人を贔屓して良いものかと思いはあるが、ヒーロー科の推薦枠に入るぐらいなら殆ど合格と言っても過言ではない。

 それに学校側が公式に認めているなら、他の受験生から抗議の余地はなさそうだ。

 

「説明してくれて、ありがとう」

 

 プレゼントマイクにお礼を言うと、彼は嬉しそうに頷いてもう少しだけ説明を続ける。

 

「わかってくれて嬉しいぜ!」

 

 模試のA判定でも絶対に受かるわけではないし、せっかく点数を稼げるチャンスなのだ。

 これを逃すのは惜しいので、取りあえずこのまま入試を受けることにする。

 

 そして私は、受験票を見ながら考える。

 

(試験会場Cで、仮想ヴィランを倒せば良い。単純明快)

 

 ロボットの仮想ヴィランは三種とのことだが、説明には四つ目が映し出されている。

 メガネをかけた真面目そうな受験生が立ち上がり、堂々とした態度でプレゼントマイクに質問していた。

 

 さらに彼はこちらをビシッと指差して、大きな声で発言する。

 

ついでにそこの縮れ毛のキミ! 先程からボソボソと! 気が散る!

 物見遊山のつもりなら! 即刻! この場から去りたまえ!」

「すっ、すみません!」

 

 思わず緑谷君が小さくなっているが、確かに一理ありだ。

 すっかり縮こまっている彼を周囲の受験生たちがクスクスと笑っている中で、さらにメガネの人は指摘する。

 

「斥流君の隣に座れて光栄なのはわかるが!

 今は入学試験中だ! 気を引き締めたまえ!」

「えっ? 私?」

 

 急に話題を振られても困惑しかない。

 頭の中にハテナマークをたくさん浮かべたが、緑谷君との付き合いは長いので今さら緊張はしないだろう。

 

 結局良くわからないまま説明に戻り、四種目の仮想ヴィランは各会場に一体いるお邪魔虫で、倒しても0ポイントだということがわかった。

 最後に、プレゼントマイクは雄英高校の校訓を口にする。

 

「かの英雄、ナポレオン・ボナパルトは言った!

 真の英雄とは! 人生の不幸を乗り越えているものだと!

 さらに向こうへ! プルス! ウルトラ!」

 

 この言葉で市街地演習の説明は終わった。

 私を含めた受験生たちは、指定の会場へと移動するのだった。

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