重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
色々あったが、入学試験は無事に終わった。
同じように入試を受けた二人の様子はというと、爆豪君は相変わらず自信満々だったが、緑谷君は死んだ目をしていた。
きっと結果が思わしくないのだと容易に察してしまえる。
普段は相手を責めたり挑発的な言葉をかける爆豪君だが、今回は口を開かずに始終無言であった。
どうやら彼も、そのぐらいの優しさは持ち合わせていたようだ。
ちなみに私も、緑谷君にかける言葉が見つからなかった。
元々喋るのが苦手で寡黙なのもあるが、別れの挨拶まではほぼ無言である。
だが私も今日は色々とあったし、色んな意味で頭がいっぱいだったのだ。
試験の結果には自信があっても、足取り重く孤児院に帰宅するのだった。
正門を潜って孤児院の入り口を開けて中に入ると、いつものように仲の良い家族にお帰りなさいと挨拶される。
こちらもただいまと返したが、彼らは自分の黒歴史を知っている可能性があった。
なので表面上は平静を装いつつも、内心では羞恥で顔が真っ赤になる。
けれど私は表面上は平静を装い、院長先生に報告があるからと、早々に切り上げて真っ直ぐに執務室に向かう。
呼吸を落ち着けて扉をノックして入室の許可を取ったあとは、失礼しますと中に入り、まずは簡単な挨拶を行う。
「ただいま。院長先生」
「おかえりなさい。
何のことはない、普通の会話である。
だが今日はいつもマイペースな私にしては緊張しているからか、いつもよりも若干空気が重い。
「入学試験はどうでしたか?」
「ぼちぼち」
一応は本来の実力は出せたとたと思う。
結果に自信があっても落ちる可能性がゼロではないため、ぼちぼちである。
あとは当たり障りのない報告をして、部屋から出るのが恒例の流れだ。
けれど今日はそれだけでは終わらず、聞きたいことを口にする。
「院長先生、本を出したの?」
「ええ、そうよ。報告が遅れてごめんなさい。
確かに最近、
育ての親の申し訳なさそうな顔は、久しぶりに見た気がする。
だが確認が取れればあとはどうでも良いので、私はすぐに首を横に振った。
「本を出したことを、責めているわけではない」
そして少しだけ呼吸を落ち着けてから、本題を切り出す。
「雄英高校に合格したら、孤児院から出て一人暮らししたい」
院長先生は、少しだけ驚いていた。
しかしすぐに微笑みを浮かべ、私に声をかける。
「寂しがる子も多いし、巣立ちにはまだ早いけど。
……貴女なら大丈夫でしょう。許可します」
「ありがとう」
そう言って私は、深々と頭を下げる。
すると院長先生は書類の山をかき分けて、一枚の紙を取り出した。
「知り合いの不動産会社の住所と連絡先です。
良い下宿先を紹介してくれるでしょう」
確かに自分だけだと、下宿探しに苦労しそうだ。
ちなみに先に院長先生が話を通しておいて、いくつかある候補から私が好きに選んでいいらしい。
こうやって聞くと、本当に自分のことを信頼して巣立たせる気のようだ。
何にせよ院長先生の知り合いなら、こちらの懐事情も知っていて信頼できる。
きっと良い物件が見つかるだろう。
「それと学費と同じく、家賃は孤児院から出します」
「私も少しは貯金が──」
「高校卒業までは援助を続けるのが、うちの方針です」
私もマイペースで一度決めたら譲らないが、院長先生の表情はとても真剣だ。
ちょっとやそっとじゃ折れそうにないし、どうやって断るかと悩む。
「斥流ちゃんのおかげで、孤児院の運営に余裕ができました。
政府からも補助金は出ていますが、この機会に少しでも恩を返させてください」
その発言を受けて、今回は仕方ないと降参する。
「わかった。お世話になる」
小説が売れて孤児院にお金が入ってきたことで、運営が楽になったのだろう。
当然の権利だと援助を受け入れる気はないが、自分の黒歴史を全世界に拡散したのだ。
少しぐらい見返りがあっても良いだろう。
なので高校卒業までは、学費や家賃を負担してもらっても問題なしだ。
とにかく援助を受けることに決めたのだから、今さらああだこうだと悩んでも仕方ない。
マイペースな私は、明日から下宿探しを頑張ろうとこっそり気合を入れるのだった。
下宿探しや引っ越しの準備で忙しくなるので、新聞配達や戦闘訓練はお休みだ。
地元の中学も黒歴史が拡散していて通い辛いため、ほとぼりが冷めるまではお休みさせてもらう。
代わりに実家の孤児院で自主勉強や、修行をすることにしたのだった。
そんなある日、雄英高校からの合否通知が実家の孤児院に届けられた。
ちょうど私が居たので良かったが、もし留守だったら興味津々な子供たちによって、当人よりも先に開封されていただろう。
何とか確保して自室に避難した私は、素早くカーテンを閉め、扉の鍵は昔から壊れたままなので簡単なバリケードを設置する。
これでしばらくは、誰も入らない。
合格確実とはいえ、落ちる可能性はゼロではない。
家族に泣き顔なんて見られたら、恥ずかしいなんてものではなかった。
大切に使ってきた学習机に備え付けられている椅子を引き、ゆっくりと腰を下ろす。
そして気持ちを落ち着けるために、お茶を一口飲んでから封筒を開く。
すると中から何やら見慣れない丸い板状の機械が出てきたので、私は首を傾げながら机に置いた。
やがて自動的に電源が入ったのか、空中に立体映像が投影される。
「私が! 投影された!」
「オールマイト?」
オールマイトには多少の苦手意識はあるが、決め台詞を借りてるし別に嫌いなわけではない。
だが何故投影されたのかがさっぱりわからず、とにかく続きが気になった。
「
実技は二十点と、残念ながらあまり振るわなかった!」
筆記が十分に取れているなら、実技と合わせて落とされなければ普通科に編入できる。
けれど残念ながらとついたので、もしかしたら落ちるのかもと少し緊張してしまう。
それでも何とか呼吸を落ち着けて、オールマイトの言葉に耳を傾けた。
「しかし先日の入試! 見ていたのはヴィランポイントだけにあらず!
人助け! 正しいことをした人間を排斥しちまうヒーロー科など、あってたまるかって話だよ!」
私はヒーロー科ではなく普通科志望だ。
関係のないことを力説されても、正直反応に困る。
「綺麗事? 上等だ! 命を賭して綺麗事実践するお仕事だ!」
これが雄英高校の校風だろうが、私がヒーローをやりたくない理由でもある。
しかし彼にとっては台本通りだろうし、今は黙って聞くことにした。
「レスキューポイント! しかも新査定!
ポイントの最大値が不明なので何とも言えない。
だが、仮想ヴィランの二十点と比べればかなり高い。
「文句なしの合格だ!」
「やった!」
志望校の合格が発表されて、ようやく肩の荷が下りた。
思わず椅子から立ち上がり、ガッツポーズを取る。
「来いよ! 斥流少女! ここがキミのヒーローアカデミアだ!」
オールマイトがまだ何か言っているが、その時にはもはや聞こえていなかった。
扉の前のバリケードを撤去して、廊下に飛び出す。
院長先生や家族に、雄英高校に合格したことを喜んで伝えるのだった。