重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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個性把握テスト終了

 今まで良い成績に恵まれなかった緑谷君が、慣れない個性を使ったボール投げで大記録を出した。

 

 同じ一年A組の生徒たちは、それはもう大騒ぎである。

 概ね好意的ではあるが爆豪君は驚きの表情で固まり、何とも複雑そうであった。

 

 やがて彼は大きな声を出して、緑谷君を尋問する。

 

「どういうことだ! おらぁ! 訳を言え! デク! テメエッ!

 

 ヴィランのように襲いかかることはないが、怒りの表情を浮かべて大声で叫んでいる。

 私も初耳で彼の個性について知りたかったけれど、緑谷君はビビりまくりでそれどころではない。

 

 相澤先生がトラブルが起きたら抹消を使う準備をしていたが、幸いその必要はなさそうだ。

 

「時間が勿体ない。次、準備しろ」

 

 結局、緑谷君の個性についての説明はなく、個性把握テストの続きを行うように促す。

 爆豪君は拳を握りしめて怒っているものの、自制はできているようだ。

 

 何にせよその後の種目は、問題は起きずに進行した。

 終わり良ければ全て良しだろう。

 

 

 

 全種目が終わったあとに、相澤先生が個性把握テストの総合順位を一括開示してくれた。

 

 けれど健闘むなしく、残念ながら緑谷君が最下位になってしまう。

 私をそれを見て、数少ない友人にどう声をかけたものかと悩む。

 

 すると担任が良い笑顔を浮かべて、堂々と発言する。

 

「ちなみに除籍は嘘な。君らの個性を最大限引き出す、合理的虚偽」

「「「はああ!!!」」」

 

 私を含めた生徒が思いきり驚く中で、何処かのお嬢様っぽい人が呆れた声で喋りかける。

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない。ちょっと考えればわかりますわ」

 

 全然気づかなかった。

 だが生徒の半数近くは、普通に嘘だと思っていたようだ。

 

 結局色々あったが、クラスの皆は楽しそうに今回のテストのことを話している。

 

「これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類があるから、戻ったら目をしておけ」

 

 相澤先生はそう言って背を向けて歩いて行き、緑谷君の前で立ち止まる。

 

「緑谷、保健室でばーさんに治してもらえ。

 明日から、もっと過酷な試練が目白押しだ。覚悟しておけ」

 

 彼にとっては、一難去ってまた一難だろう。

 けれどそれはそれとして、ヒーロー科の授業がこのレベルなら何とかなりそうだ。

 私はこっそり、明日も頑張ろうと内心で気合を入れるのだった。

 

 

 

 教室に戻って必要書類に目を通したあとは、そのまま下校時刻となった。

 本来ならこのあとは下宿先に帰るだけだ。

 しかしその前に、あることが気になった私は目的の人物に話しかけるために、普通に走って追いかける。

 

「緑谷君」

「斥流さん?」

「おおっ! 斥流陰子(せきりゅういんこ)君ではないか!」

「さっきぶりだね。斥流ちゃん」

 

 個性把握テストが終わったあと、一年A組の教室で簡単な自己紹介をしてくれたのだ。

 おかげで緑谷君と一緒に歩いているのが、飯田(いいだ)君と麗日(うららか)さんだと知ることができた。

 

 私が三人に挨拶をしたあとに、緑谷君が疑問を口にする。

 

「斥流さんから話しかけてくるのは、ちょっと珍しいね」

 

 そう言えば寡黙な自分が人に話しかけることは、滅多になかった。

 それを思い出した私は、静かに頷く。

 

「実は緑谷君の個性のことで、少し話がある」

ぼっ、僕の個性が何か!?

 

 あからさまに動揺している緑谷君だが、理由はわからない。

 なので気にせずに、続きを話していく。

 

「緑谷君と私の個性は、似ている」

 

 彼は驚いた顔になり、すぐさま二人が声を出す。

 

「斥流君! 緑谷の個性はキミとは違うぞ!」

「そうだね。斥流さんは重力操作だし。ねえ、緑谷君」

 

 彼も同意とばかりに、コクコクと頷いている。

 けれど自分も上手く説明するのは難しく、言葉にするよりも直接見せたほうが手っ取り早いと判断した。

 

「今から、緑谷君の個性と似ているところを見せる」

 

 まだ困惑している三人だが私は気にせず、大きく息を吸って抑制を解除していく。

 一段階だけだとわかりにくいので、完全解放するのだ。

 

 通学路の途中で足を止めて話し込んでいることもあり、周りの人たちは自分たちに注目していた。

 けれど今さら待ったはかけられず、何とか心を落ち着けて平静を装う。

 

 やがていつもよりも時間はかかったが、高校一年生ヴァージョンの私に変身が完了する。

 

「まだ、この姿には慣れてない。時間がかかって、ごめんなさい」

「そっ、それはいいけど! 斥流さん! その姿は!?」

 

 緑谷君が私を見て驚きの声をあげたが、小学校児童がいきなり女子高生に変化したのだ。

 驚愕して当たり前である。

 

 指定の制服は余裕を持たせていたのでサイズ的に問題ないはずだが、寸法が甘かったのか胸やお尻が少しキツイ気がした。

 普段は袖まくりをしているので、皆と同じように丁寧に直していく。

 

 ちなみにこの状態は煌めく粒子の放出量が大幅に増加しているので、とても目立つ。

 パワーも強大すぎて、加減に失敗すれば服が破れるだけでなく周辺被害がとんでもないことになる。

 

 だがそんな事情は一体置いておき、私の数少ない友人に話しかける。

 

「これが完全解放状態」

 

 修行は毎日続けているので、少しずつ超重力の倍率は上がっている。

 それでも現在の最終形態なのは間違いない。

 

 それを見た三人は息を呑んでいた。

 けれどやがて緑谷君が、緊張しながら口を開く。

 

「でも斥流さんは、全力を出すと命に関わるんじゃぁ!」

「その通り。とても危険。でも動かなければ、大丈夫」

 

 超重力をかけずに、日常生活を送るのはとても危険だ。

 ほんの少し出力調整に失敗しただけで、周囲の物を壊してしまう。

 食器を持ち運ぶと十中八九で割るだけでなく、ドアノブを軽く握ったつもりでもうっかり捻り切る。

 

 ゆえに完全体になるのは余程の強敵が現れるか、周辺被害を気にせずに戦える状況だろう。

 あとは服のサイズが合っていても、自分の運動性能について行けない。

 もし破れたら社会的な死は避けられないので、なるべくなら一、二段階で対処したいところだ。

 

 だがここで私はあることに気づき、緑谷君に率直な質問する。

 

「そう言えば緑谷君、良く知ってるね」

 

 自分の個性のことは、ある程度は伝えてはいる。

 けれど、あまり詳しくは語っていない。

 

「えっ? あっ、うん。名もなきヒーローの軌跡を読んだから」

 

 その瞬間に私の表情筋が死に、チベットスナギツネのような微妙な顔になってしまう。

 自身の黒歴史を直視するのが嫌なので読んではないが、あの自伝もどきは相当詳しい情報が記載されているようだ。

 

 何となく飯田(いいだ)君と麗日(うららか)さんに視線を向けると、露骨に顔をそらされた。

 それだけで二人も読んでいることを察してしまうが、このままでは話が進まないので、何とか平静を装ってコホンと咳払いをする。

 

「とにかく、緑谷君の個性は今の私と同じ。

 負荷に耐えきれず、使うたびにボロボロになる」

「たっ、確かに!」

 

 私の個性は肉体ではなく、服や周囲が酷いことになる。

 だが今は彼を納得させるために、そういうことにしておく。

 

 何やらブツブツ言い始めたが、これは緑谷君の癖なので慣れたものだ。

 新しくできた友人二名はちょっと引いているものの、気にせずに説明を続ける。

 

「だから私が、上手く使えるように手伝う」

「斥流さんが手伝ってくれるの!?」

「数少ない友人が困ってるのは、協力する理由にならない?」

 

 もう一人の友達は爆豪君だが、彼は困っていても私の協力を拒否する。

 まあそれはそれとして、今は緑谷君のほうが心配なのだ。

 

「ちなみに、他の数少ない友人って?」

「爆豪君。家族は親しくても、友人ではない」

「そっ、そうなんだ」

 

 三人から憐れみに満ちた視線を向けられる。

 だが私に友達が少ないのは、今に始まったことではない。

 

 空気のように扱われるのは慣れているので何も感じないが、優しくされるとつい世話を焼いてしまう。

 

 何にせよ周囲に人が集まってきたので、自身に加重をかけて小学校低学年の姿に戻る。

 解放は出力調整に時間がかかるが、封印は慣れているのですぐできるのだ。

 

 周りの人たちから残念そうな声と、逆にやったぜとも聞こえた。

 私は何がなんだかわからず、取りあえず無視することにした。

 

「とにかく、この場で長話は駄目」

 

 緑谷君に協力するのは良いが、道端で話すことではない。

 そして少しだけ考えた私は、やがてある提案をする。

 

「私の家に来る?」

「えっ? ああうん、僕はいいけど。

 斥流さんの家に招待されるのは、初めてだね」

 

 確かに今まで、友人を家に呼んだことはない。

 ジョギングはいつの間にか合流しているし、緑谷君とは毎日学校で顔を合わせていた。

 

 けれどきっと、今彼が考えているのとは少し違う。

 私は下宿先に案内するために、のんびりと緑谷君の前を歩く。

 

「実は雄英高校の近くで、一人暮らししてる」

「ええっ!? 孤児院じゃないの!?」

「違う。今はマンションに下宿してる」

 

 緑谷君の動揺が酷くなり、何故か顔も赤い。

 さらには麗日さんも反応し、ビシッと手をあげる。

 

「あのっ! 斥流ちゃん! 私も行って良い!?」

「構わない」

 

 マンションは格安だったが、一人で暮らすには無駄に広い。

 その気になれば、四人暮らしも可能だろう。

 

 それに彼女は良い人なので、一緒に来たとしても微妙な空気にはならない。

 ここで私は少しだけ寂しそうにしている飯田(いいだ)君に顔を向ける。

 

「飯田君も、良かったら来る?」

「いっ、いいのか!?」

「うん、緑谷君と仲がいいなら、きっと良い人」

 

 自分とは殆ど接点がないので、良くわからない。

 けれど緑谷君と仲良くしているなら、きっと大丈夫だ。

 

 何しろ彼は私と同じように、小中学校では友達は殆どいなかった。

 そんな緑谷君と仲良くできる二人なら、私とも友人になってくれるかも知れない。

 

 元々人付き合いは苦手で自分から誘うことはないが、雄英高校はヒーロー志望が多い。

 善人の比率が他校よりも高いように思える。

 

 なので過去に会った人より比較的話しやすく、私は気楽に家に誘うのだった。

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