重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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麗日さんとのルームシェア

 色々あって麗日さんとルームシェアをすることになった私は、いつも通りの時間に目を覚ます。

 次に寝ぼけながらベッドから身を起こし、辺りを見回した。

 

「そう言えば、麗日さんと同居してた」

 

 家具の配置が少しだけ変わっていたので違和感を覚えたが、すぐに状況を理解して落ち着く。

 ついでに重量級の個性持ちが乗っても大丈夫という謳い文句で販売されている布団セットを、院長先生が入学祝いにプレゼントしてくれたことも思い出す。

 私はそれを軽く触りながら、静かに息を吐いた。

 

「寝心地はいい。でも、煎餅布団も捨てがたい」

 

 長年私の重量を受け止め続けたのからか、すっかりヘタってしまった煎餅布団が懐かしい。

 けれど今の布団はフカフカで柔らかくて、寝心地抜群である。

 そのうちこっちに愛着が湧くだろうし、自分が使っていた家具は中古品として売りに出されるらしい。

 かなりガタが来てるので高値で売れるとは思わないが、孤児院の運営資金の足しになるなら本望である。

 

 まあそれはそれとして、いつも通りの時間に目が冷めたのだ。

 私は日課をこなすために、洗面所に向かって歩いて行く。

 

「ふあぁ、斥流ちゃん。起きたの?」

 

 すると物音を聞いて、麗日さんも目が覚めたらしい。

 昨日までは空き部屋だった扉がゆっくり開くと、眠そうな顔がひょっこりと覗く。

 

「麗日さんは、まだ寝ていていい」

 

 私の修行に麗日さんが付き合う必要はない。

 はっきりと告げると、彼女は慌てた様子ですぐに返事する。

 

「わっ、私も行くから、待っててくれる!?」

「構わない」

 

 ヒーロー科の生徒は朝から元気である。

 何にせよ一分一秒を争うものではなく、まだ時間に余裕があった。

 

 なので彼女の準備が終わるまでテレビを付けて適当な番組を見つつ、お茶を飲んでのんびりとくつろぐ。

 

 やがてジャージ姿の麗日さんが気合を入れて居間にやって来たので、二人で外に出て玄関に鍵をかける。

 

 そしてまだ薄暗く静まり返った町中を軽く走って、汗を流した。

 何事もなく下宿先に戻ってきた私は、今度はマンションの裏庭に向かう。

 

 広くても離れた場所に民家が立ち並んでいるので、あまり派手なことはできない。

 それにいくら管理人さんに許可を取り、個性の使用が黙認されているとはいえ、周辺に被害が出たら大変である。

 

「斥流ちゃん、ちょっと見てもらえへん?」

「構わない」

 

 個性を見て欲しいと言われたので、私は良く観察して当たり障りのないアドバイスをすることにした。

 だが無重力化したブロックを軽々と持ち上げる彼女は、途中で大きな溜息を吐く。

 

「斥流ちゃんは、何だか私の上位互換みたいだね」

 

 けれど重力操作と無重力化は、似て非なるものだ。

 完全な上位互換とは言えず、私はどう答えたものかと頭を悩ませる。

 

「上位互換ではなく、何事も適材適所」

 

 なるべく簡単に説明できれば良いが、私は口下手で人と話すのは苦手だ。

 けれど麗日さんは数少ない友人なので元気づけてあげたいと考えて、真面目な顔をして問いかけた。

 

「重力を逆転させる場合、人を対象には滅多にしない。何故かわかる?」

 

 麗日さんは個性の訓練をしながら一生懸命考えてくれた。

 

「ええと、……ごめん。わからない」

 

 しかしわからないようなので、私が落ち着いて続きを話す。

 

「私が重力を逆転させると、解除するまで止まることなく落ちていく」

 

 正確には視界に入っている間か、任意に解除するまでだ。

 けれど人は高所からの落下で、打ちどころが悪ければ簡単に死んでしまう。

 

 それに重力を倍にするだけでは、ヴィランは完全に無力化できない。

 足場のない空中なら行動を制限できるが、私の個性では殺してしまう可能性がある。

 特に戦闘中は個性の制御が難しく、万が一の事故が起きないとは言い切れないのだ。

 

「でも麗日さんは私と違って、ヴィランを浮かせることでほぼ無力化できる。

 相手を傷つけずに捕縛するのは、私には無理。

 だから、とても凄い」

「そっ、そうかな? ありがとう。斥流ちゃん、えへへ」

 

 なので麗日さんの個性は、ヒーロー向きでとても強力だ。

 しかし敵は一癖も二癖もある犯罪者で、一芸だけでは務まらないだろう。

 長所を伸ばすか、使える手札は増やしておくに越したことはない。

 

 私は空き缶を地面に置いて小石の重力を制御し、格闘ゲームの空中コンボのように連続で缶に当て続ける。

 さらには少しずつ石の数と速度を増やして、自らの限界を越えるのだった。

 

 

 

 だが、修行に時間を取られ過ぎるのは駄目だ。

 私たちは学生で時計を確認し、余裕を持ってアパートの自室に戻る。

 シャワーを浴びて朝食を済ませ、近場にある雄英高校に登校する。

 

 なお、麗日(うららか)さんには、ハードなトレーニングだったようだ。

 何とか乗り切ったものの、教室に辿り着いたときに既に疲労困憊であった。

 

 緑谷君や飯田(いいだ)君や他の生徒に心配されたが、彼女は大丈夫だと顔色悪く返事をしていた。

 理由を聞かれたので私と一緒に訓練をしたことを伝えると、古くからの友人二人が達観したような表情に変わる。

 

 クラスメイトも揃って口にはしないが何かを言いたそうな顔だったので、微妙に肩身が狭くなったのだった。

 

 

 

 それはそれとして雄英高校ヒーロー科のカリキュラムは、午前は必修科目である。

 ただ普通に授業を受けるのだが、これこそが私が予想していた学校生活だ。

 個人的には、ずっとこんな感じでも良かった。

 

 昼は大食堂で一流シェフの料理を格安で食べられるので、自分で弁当を用意する必要はない。

 学食は量が多くて美味で安く、孤児院からの仕送りは麗日さんが全て管理している。

 諸経費も家計簿に計上済みで、返済の必要はないと再三言われた。

 

 なので卒業するまでは、昼は大食堂を利用するのが確定したのだった。

 

 

 

 一休みして午後になったら、次の授業はヒーロー基礎学だ。

 私が自分の席に座り、のんびり窓の外の景色を眺めていた。

 

 やがて開始時間が近くなると、オールマイトの気配を感じ取って廊下に目を向ける。

 

「わーたーしーがー! 普通にドアから来たー!

「「「おおー!!!」」」

 

 教室のドアを開けて、マッスルフォームのオールマイトが入ってきた。

 クラス中の生徒が驚きや興奮に染まり、たちまち大歓声があがる。

 

「オールマイトだ!」

「凄えや! 本当に先生やってるんだな!」

「あれ、シルバーエイジのコスチュームね」

「画風違いすぎて、鳥肌が!」

 

 反応は様々ではあるが、誰もが好意的なようだ。

 そして普通に入ってきたオールマイトは、教卓の前まで歩いてきて先生らしく説明を始める。

 

「私の担当はヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だ!

 単位数も、もっとも多いぞ!」

 

 進学に必要な単位を取らないと次の学年に進めないのは、雄英高校のどの学科でも同じだ。

 なので私は、せめて赤点だけは回避しないとと気持ちを引き締める。

 

「早速だが! 今日はこれ! 戦闘訓練!」

「戦闘!」

「訓練!」

 

 いちいちポーズを取りながら説明するオールマイトに、爆豪君と緑谷君がツッコミではなく驚きの声をあげる。

 

 クラスの中では、私は常識人枠になるらしい。

 声をあげずに、黙って先生の説明に耳を傾ける。

 元々人と話すのが苦手だったせいもあり、ヒーロー科の独自のノリについていくのは正直キツイ。

 

「そして、そいつに伴ってぇ! こちら!」

 

 先生がビシッと指を差すと、教室の壁の一部が迫り出してくる。

 

「入学前に送ってもらった個性届けと! 要望に沿ってあつらえたコスチューム!」

「「「おおー!!!」」」

 

 またもや大興奮である。

 だが私はここで予想外のことが起きて、思わず固まってしまう。

 

「着替えたら順次! グラウンドベータに集まるんだ!」

「「「はいっ!!!」」」

 

 完全に置いてけぼりになって、このままでは不味い。

 私は空気を読まずにビシッと手を上げて、盛り上がりに水を差すのも厭わずにオールマイトに声をかける。

 

「オールマイト! 私、コスチュームの届け出をしてない!」

 

 今の発言で、一年A組の生徒たちも気づいたようだ。

 私は元々は普通科に入る予定だった。

 現在は特例としてヒーロー科に在籍しているが、コスチュームの要望は出していない。

 

 しかしオールマイトには自分の質問は予想済みだったようで、笑顔で自信満々な返事をする。

 

斥流(せきりゅう)少女のコスチュームは、無届けということで作成済みさ!」

「えっ?」

 

 全然状況が理解できない。

 

「要望がなくても大丈夫!

 雄英高校専属のサポート会社は、とても優秀だ!」

 

 良くわからないが私のコスチュームは雄英高校と、その関連企業が用意してくれたのだろう。

 特例として学費免除なので、新しい服がプレゼントされたと思えば幸運と言えなくもない。

 

「ちなみに斥流少女は、ナンバー二十一のケースだ!

 では私は、一足先に向かって待っていよう!」

 

 マッスルフォームを長時間維持するのが辛いので、適当なところで一休みしたいのだろう。

 先生は最後も格好良くポーズを決めて、教室の扉から普通に出ていく。

 

 そんな彼を見送った私は他の一年A組の生徒と共に、自分のケースを速やかに回収する。

 思わぬサプライズに少しだけワクワクして、更衣室で専用コスチュームに着替えるのだった。

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