重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
更衣室で専用コスチュームに着替え終わった私は、授業に遅れないように急いでグラウンドベータに向かう。
正面ゲートを越えると既にオールマイトが待機していて、続々と集合する一年A組の姿を見て堂々とした態度で声を出す。
「格好から入るのも、大切なことだぜ! 少年少女!」
運動する時には質の良いジャージを着れば、やる気が上がるものだ。
必ずとはいえないが大体合ってるので、私は心のなかで静かに頷く。
「自覚するんだ! 今日から自分は! ヒーローなんだと!」
皆と一緒に先生に向かって歩きながら、ヒーローに関してはあまり自覚したくはないなと思った。
私は免許証を取得して、就職に有利になりたいだけだ。
命を捨ててまで市民を守る職業を、本気で目指すつもりはない。
「いいじゃないか! 皆! 格好いいぜ!」
とにかく全員が外に出て、オールマイトに良く見えるように並ぶ。
彼はそれを、堂々とした態度で褒める。
自分としては今のコスチュームには異議ありで、内心複雑だ。
似合っていると言われて嬉しく思うが、それ以上に小っ恥ずかしさが前に出る。
「さあ! 始めようか! 有精卵ども!」
私のモチベは依然として低いが、オールマイトと他の生徒はやる気十分だ。
そんな状況で、皆は各々のコスチュームの感想を言い合っていた。
緑谷君はナンバーワンに似たスーツだし、麗日さんは宇宙服っぽくて個性的だ。
「斥流ちゃんのヒーローコスチューム、とっても可愛い!」
ルームシェアしている同居人も褒めてくれた。
けれど私は若干頬を赤らめて、恥ずかしそうに頭をそむけてしまう。
「高校一年にもなって、魔法少女のコスプレをするとは思わなかった」
ギュッとスカートを握って答える。
自分と似たような身長で個性もぎもぎの
「これがギャップ萌え!?」
ちなみに私のコスチュームだが、収縮性が高く熱や衝撃耐性の高い素材で作られている。
外見は綺羅びやかなフリル付きドレスで、可愛らしいアクセサリーの各種サポートアイテムまで完備だ。
おまけとして抑制解除で発生する煌めく粒子の流れを制御し、翼のように見せる構造になっていた。
なお説明書には演出面を強化と記載されていたが、ただロマンを追求しただけで戦闘能力が上がるなどは一切ない。
そしてヒーローコスチュームを着用した私は、天使や妖精のように可愛らしく見えるらしく、全てにおいて技術部が無駄にこだわっているのがわかる。
当人の要望がなかったので、趣味全開で好き放題に作りましたと言わんばかりだ。
まあそれはそれとして、私は自身の容姿にはあまり興味がなく、美容にこだわる余裕もなかった。
それでも優しい麗日さんは褒めてくれたし、似合ってないよりマシだと前向きに考える。
「でも、やっぱり恥ずかしい!」
羞恥心だけはどうしようもない。
私はスカートの袖を掴んだまま赤面して、その場から一歩も動けなくなる。
「おっ、落ち着いて! 斥流さん!」
何故か緑谷君は、私以上に顔を赤くして動揺している。
あたふたしながらでも何とか落ち着かせようとしてくれているし、麗日さんも同じように声をかけてくれた。
深呼吸をして少しずつ心を静めていくが、高校生にもなれば幼い頃に夢見た魔法少女への憧れは消えている。
一年A組の皆のように、ヒーローへの憧れも全くない。
それにヒコスチュームを着用して抑制解除を行えば、輝く翼を展開してニチアサの魔法少女として戦うことになる。
衣装は可愛らしいが地味ではなく派手で、どう考えてもヒーローの姿を大勢に人々に見せつけるための衣服である。
幸いなのは羞恥心を高める衣装で、ヒーローデビューする予定はないことだ。
あくまで授業の一環であり、校内だけで済むのは大変ありがたい。
だが何とか我慢できるとしても、内心では恥ずかしがっていることに変わりなかった。
「さあ、戦闘訓練のお時間だ!」
けれどオールマイトは、全く気にしていないようだ。
時間が限られているのもあるが、授業を次のステップに進めようとする。
しかし、ここで
「先生! ここは入試の演習所ですが! また市街地演習を行うのでしょうか!」
「いいや! もう二歩先に踏み込む!」
オールマイトがすぐに質問に答えて説明を始める。
こういうところは教師をしてるなと感心した。
「ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内のほうが凶悪ヴィラン出現率が高いんだ!」
ヒーローとヴィランが屋外で戦っている様子は、良くテレビで報道されている。
しかし統計的にはそっちのほうが多いと聞かされ、きっとカメラでは内部を撮影できないのだなと納得する。
「監禁! 軟禁! 裏商売! このヒーロー飽和社会!
真の賢しいヴィランは闇に潜む!
君らにはこれから、ヴィラン組とヒーロー組の二対二に分かれて、屋内戦を行ってもらう!」
ここで個性カエルの
「基礎訓練なしに?」
彼女が首を傾げながら質問すると、オールマイトはすぐに答える。
「その基礎を知るための実戦さ!
ただし! 今度はぶっ壊せばOKなロボじゃないのがミソだ!」
ここで他にも聞きたいことがあるのか、オールマイトの説明途中に生徒たちが騒ぎ始める。
だがそうやら、先生の許容量を越えてしまったようだ。
「んんんっ! 聖徳太子ィ!」
流石に先生も情報を処理できずに困ったようだ。
懐から取り出してカンペを読みながら、私たちに向けて説明してくれた。
ちなみに内容をまとめると、二人のヴィランがビルの何処かに核兵器を隠した。という設定の訓練だ。
突入して目的の物を回収するか、全ての敵を捕縛すればヒーロー側の勝利。
逆に制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを全員捕まえればヴィラン側の勝利となる。
コンビと対戦相手はくじ引きで決めるため、単純明快でわかりやすい。
途中で
しかし緑谷君が言うには、プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすること多く、そういうのに慣れる訓練も兼ねているらしい。
だが一年A組は本来は二十人のクラスだ。
そこに特別枠の自分が入ると、どうしても余ってしまう。
他の生徒が箱から順番にくじを引いていき、続々とチームが決まっていく。
私の番が来る前に箱は回収されてしまい、オールマイトがこっちを真っ直ぐに見つめてくる。
「斥流少女は、私と一対一の訓練だ!」
こういうことは、小中学校でも良くあった。
組分けをして一人余ったときに、じゃあ先生と組もうかというやつだ。
私はそういうのには慣れているので、最初はよろしくお願いしますと返そうとした。
けれど今は雄英高校のヒーロー科に所属し、授業内容は戦闘訓練だ。
ナンバーワンヒーローとガチンコ勝負となれば、昔とは全く状況が異なる。
「罰ゲーム?」
「ばっ、罰ゲーム!? ナンバーワンヒーローと訓練する機会は、滅多にないのだよ!?」
先生はそう言うが、あまりにも戦力差がありすぎる。
前に模擬戦をしたときより弱体化しているの間違いないが、正面からやり合うと間違いなくビルが倒壊してしまう。
核爆弾の回収どころではなくなるため、双方が手加減して戦う必要が出てくる。
「周辺被害を抑えつつ任務をスマートに果たすのも、ヒーローにとって重要なことさ!」
「なるほど。つまり、力加減を身につける訓練」
戦闘訓練が社会に出ても役に立つかは微妙だが、変身状態で周辺被害を抑えるのは大切だ。
そんなオールマイトの教えは、何となく理解できたのだった。