重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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緑谷出久vs爆豪勝己

緑谷出久(みどりやいずく)

 僕は最近まで無個性だった。

 だが中学三年のある日、オールマイトと出会ってワン・フォー・オールを継承する。

 

 それは代を重ねるたびに強くなる増強系の個性で、今でも本当に自分なんかで良かったのかと考えてしまう。

 

 けれど平和の象徴であるナンバーワンヒーロー、オールマイトが君はヒーローになれると言ってくれた。

 彼の信頼を裏切るわけにはいかないし、僕も心の底から期待に応えたいと思っている。

 

 いつかはオールマイトのような偉大なヒーローになるのが最終目標だ。

 しかしその前に越えるべき壁として、斥流(せきりゅう)さんの存在があった。

 

 彼女は別にヒーローではないし、それを目指してもいない。

 だけど困っている人がいたら手を差し伸べて助け、ヴィランを発見したら見て見ぬ振りをせずに立ち向かっている。

 

 免許は持っていないが、特例として個性の使用が許可されているし、将来はトップヒーローとしての活躍を期待されていた。

 

 そんな彼女は小学生までは運動が苦手で大人しく、顔立ちが整っていてもクラスでは目立たずに空気のような存在だった。

 しかし中学生になってから状況が一変し、全国指名手配中の凶悪なヴィラン、マスキュラーやムーンフィッシュを単独で撃破する。

 

 さらには暴走する新幹線を大事故になる前に真正面から受け止めて停車させ、乗員乗客を救出してテロリスト集団の捕縛に貢献した。

 

 ヒーロービルボードチャートJPに登録されている人でも、それ程の偉業を行える存在は限られる。

 誰もが斥流(せきりゅう)さんの将来に期待するし、本人に全くその気はなくてもトップヒーロー入りはほぼ確実と言えた。

 

 僕も彼女のようなヒーローに憧れていて、実際に励まされたのだ。

 やはり将来は、斥流さんと並び立つ存在になりたい。

 

 オールマイトから受け継いだ個性があれば、それができるかも知れない。

 

 大怪我を負い、長時間の活動が不可能になった彼から託された重圧はあった。

 

 そして万が一が起きた時は、斥流さんに受け継いでもらう契約を交わした。

 そこに彼女の意志は関与していないので、迷惑に思って拒否される可能性はとても高い。

 

 もしそうなったら第二候補が居るらしいが、それでもオールマイトは僕を選んでくれた。

 

 彼女とは別の後継者については知る必要はないと言い、話はそれで終わりになったのだった。

 

 

 

 とにかく、子供の頃からの夢がようやく叶うかも知れない。

 歩みを止めずに人よりも何倍も努力すれば、必ず立派なヒーローになれる。

 斥流さんとオールマイトの信頼を裏切るわけにはいかないと、固く決意するのだった。

 

 

 

 だが現実は気持ちだけではどうしようもなく、残念ながらワン・フォー・オールを練習する時間が圧倒的に足りない。

 雄英高校の入学試験でぶっつけ本番で使用したせいで、腕と足の骨を折ってしまった。

 

 リカバリーガールの治癒で事なきを得たが、入学初日の個性把握テストでも指を骨折した。

 まだまだヒーローと呼ぶにはほど遠いし、自身を心底情けなく感じる。

 

 けれどそんな気落ちする僕に、何故か珍しく斥流(せきりゅう)さんが話しかけてきた。

 彼女は基本的に、他人と積極的に関わるタイプではない。

 

 しかも僕の個性のことで話があると聞いて、さらに驚いてしまう。

 説明する際に斥流さんの完全開放状態を目にすることになったが、一言で表現すると凄く綺麗だった。

 まるで物語や神話に登場する天使や女神のようだったし、それ以外となると言い表す言葉はちょっと出てこない。

 

 だが途中で完全解放状態は命を削ることを思い出して、慌てて止めた。

 

 

 

 

 その後は彼女の下宿先で話すことになったのだが、良く考えたら女の子の家に招かれるのは初めての経験だ。

 新しくできた友人二名と一緒なので僕だけでないのが幸いではあったが、始終ガチガチに緊張してしまう。

 けれどアドバイスを聞かせてもらい、とても参考になって来てよかった。

 

 それに成り行きで麗日さんの引っ越しの手伝いをすることになったけれど、手料理を食べられたし役得だったかも知れない。

 

 

 

 少しだけ時は流れて次の日になり、午後の授業で戦闘訓練を行うことになった。

 

 僕と麗日さんのヒーローチームは、かっちゃんと飯田君のヴィランチームと戦う。

 先に向こうがビルの中に入って核爆弾の模型を隠し、僕たちは五分後に潜入する。

 

 取りあえずこちらは建物の前から動かず、指示があるまで待機であった。

 

「この建物の見取り図。覚えるの大変だね」

 

 麗日さんがフェンスに腰かけて、見取り図を見て考え込んでいた。

 

「でも、オールマイトって、テレビのイメージと変わらんね。

 相澤先生と違って罰とかないみたいだし、安心し……安心してないね!

 

 実は僕も、物凄く緊張していた。

 今は、ろくな返事ができそうにない。

 

あっ、その、相手がかっちゃんだし。

 飯田君もいるし、ちょっと、大分身構えちゃって」

 

 まだ自身の個性さえ上手く扱えない僕と比べて、二人は明らかに格上の相手だ。

 そんな彼らを相手に何処まで戦えるのかと、考えれば考えるほど不安になってくる。

 

「そっかぁ。爆豪君、馬鹿にしてくる人なんだっけ」

「……凄いんだよ」

 

 かっちゃんの名前が出たことで、僕は幼馴染の彼との思い出を振り返る。

 そして呼吸を落ち着けけて、麗日さんに先程の続きを話して聞かせる。

 

「嫌な奴だけど、目標も、自信も、体力も、個性も、僕なんかより何倍も凄いんだ。

 でも、だから今は、負けたくない……なって」

 

 授業内容とは、あまり関係のないことを口にしてしまった。

 けれど麗日さんは明るく笑って、一緒に頑張ろうと言ってくれた。

 

 僕が相棒に恵まれて良かったと嬉しくなっていると、オールマイトの声で戦闘訓練開始が告げられるのだった。

 

 

 

 いよいよ始まったわけだが、僕たちは施設内に窓から潜入することにした。

 中に入るのは問題なく、死角が多い屋内の廊下を慎重に探索する。

 目的である核爆弾を探しているが、なかなか見つからない。

 

(ワン・フォー・オールはまだ調整不足だから、対人使用には不向きだ)

 

 僕は戦闘訓練での立ち回りについて考えながら探索する。

 斥流(せきりゅう)さんにアドバイスしてもらってから、急ぎオールマイトと相談して訓練メニューに取り入れた。

 

 おかげで体を壊さずに個性を発動できるようになったのは良いが、それだけだ。

 指一本でも動かそうものなら肉体が耐えきれず、骨折は不可避である。

 

 さらに百パーセントのワンフォーオールを維持するのは難しく、すぐに息切れして強制解除されてしまう。

 やはり一朝一夕で身につくものではなく、現状とてもではないが使い物にならない。

 

 それでも個性の切り替えを肉体に覚え込ませて、血管を通って体の隅々まで力が行き渡るような感覚を理解はできた。

 あとは出力調整が可能になるまで練度を高めるだけだが、やはり時間が足りない。

 

(今のままでは体を壊してしまう。何とか制御しないと)

 

 ワン・フォー・オールは強力な個性だが、今の僕にはせいぜいオールマイトの二十パーセント程度の力しか扱えないだろう。

 

 個性を宿してから、ろくに訓練できていなかったのが悔やまれる。

 集中力を切らせば強制解除なら良い方で、下手をすれば暴走だ。

 

(やはり危険すぎる。今の僕の力と、麗日さんの無重力だけでやるしかないぞ)

 

 今のトレーニングを続けていれば、いつかは自らの限界近くの出力を維持できるようになるだろう。

 だがそれは戦闘訓練中には不可能で、やはり現状の戦力で対処するしかない。

 

 僕がそんなことを考えながら廊下を進んでいると、突然通路の先から殺気を感じ取る。

 

「うらあああっ!!!」

 

 通路の影で待ち構えていたのか、かっちゃんがいきなり飛びかかってきたのだ。

 僕は咄嗟に麗日さんに飛びついて強引に退避し、彼の爆破から逃れる。

 

「麗日さん! 大丈夫!?」

「うん! ありがとう! デク君!?」

 

 けれど、完全には避けきれなかった。

 麗日さんはコスチュームの頭部が破損していることに気づいた。

 

 心配そうに僕に声をかけてくるが、今はそんなことを気にしている余裕はない。

 

「掠っただけ!」

 

 何とか安心させたところで、かっちゃんが煙を個性で吹き飛ばす。

 そして再び姿を見せて、不機嫌そうな顔を向けてくる。

 

「こら、デク。避けてんじゃねえよ」

「かっちゃんが敵なら、まず僕を殴りに来ると思った!」

 

 予想はしていたが、相変わらず情け容赦がない攻撃だ。

 斥流さんとの訓練でかっちゃんの動きを何度も見ていなければ、今の不意打ちで僕が戦闘不能になり、ろくな対策も取れずに麗日さんもリタイアさせられていた。

 

「中断されねえ程度に! ぶっ飛ばす!」

 

 冷静に状況を分析していると、今度はかっちゃんが僕をめがけて突進してきた。

 ならばと、軌道を読んで間一髪で避ける。

 

「……なっ!?」

 

 それだけでは終わらずに、かっちゃんの腕を取って勢い良く投げ飛ばす。

 無個性でヒーローをやるために、格闘技の訓練をしていたのだ。

 

 なお現実は個性を使ったほうが強いし、斥流さんには全く通用しなかった。

 それでも筋が良いと褒められたし、着実に強くなってる。

 積み重ねた努力は、無駄ではないのだ。

 

「ぐはっ!?」

 

 おかげでかっちゃんの攻撃を寸前で見切るだけでなく、投げ飛ばして地面に叩きつけることができた。

 

 彼は苦しそうに息を吐き、ほんの少しだけ動きを止める。

 それを見た僕は気合を入れて、己を奮い立たせるために大声で叫んだ。

 

「かっちゃんは、大抵最初に右の大振りなんだ!」

 

 幼馴染の少年が半身を起こして僕を睨みつけてくるが、もう怯みはしない。

 

「どれだけ見てきたと思ってる!

 強いと思ったヒーローの分析は、全部ノートにまとめてあるんだ!」

 

 斥流さんはノートを取り返すだけではなく、今もずっと僕を応援してくれている。

 かっちゃんとコンビを組んでの戦闘訓練も、もはや数え切れない。

 

 二人共自分の尊敬するヒーローであり、ずっと彼女たちに憧れて、何とか追いつこうと必死に努力を続けてきた。

 

「いつまでも! 雑魚で出来損ないのデクじゃないぞ! かっちゃん!」

 

 まだ未熟でワン・フォー・オールを使いこなせない。

 それでもナンバーワンヒーローであるオールマイトが選んだ、正式な後継者である。

 

「僕は! 頑張れって感じのデクだ!」

 

 だからこそ僕は、今日こそかっちゃんに勝つ。

 最高のヒーローになるために、立ち塞がる高い壁を乗り越えるのだった。

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