重力少女のヒーローアカデミア 作:縞猫
緑谷君と爆豪君の戦闘訓練が正面モニターに映し出されたが、とにかく凄かった。
昨日は指を折っていたのに、今日は体を壊さずに使いこなしている。
昔から思っていたが彼は土壇場に強く、やはり天才のようだ。
まるで主人公のような覚醒イベントに、自分以外の生徒も驚きの声をあげていた。
しかし、まだ完全ではない。
個性の出力を調整して爆破を避け続けていたが、途中で回り込まれて背後から一撃を受けて転倒する。
どうやらダメージを受けるか集中力が途切れると強制解除されるようで、動きが止まったところで爆豪君が必殺の一撃を叩き込もうとした。
けれど緑谷君はまだ諦めておらず、再び個性を発動させて、当たる直前で上方に向けて拳を放った。
衝撃でビルをぶち抜いて上昇気流が発生させ、別行動をしていた
またもや緑谷君が大怪我をしてしまったが、最後の一撃は出力を抑えて放ったようだ。
リカバリーガールに見せると、入学試験よりは軽症だったらしい。
むしろ火傷のほうが酷いようで、やり過ぎた爆豪君が最後に謝罪をしていたのが印象的であった。
それはともかく他の生徒も順番に、戦闘訓練や公評を行っていると、やがて私の番が来た。
そこに至るまでは色々なドラマがあったが、自分には関係ないしカットだ。
皆の性格や個性がわかり、推薦入学者は特に派手で凄かったという結果だけが残る。
私がガードレールに腰かけながら晴れ渡る空を見上げて、授業内容を振り返っていた。
すると突然オールマイトの声が響き渡り、自分の番が来たのだと理解する。
「斥流少女! 戦闘訓練開始だ!」
「了解」
訓練の開始を知った私はすぐに個性を発動させ、目標のビルの壁面に張り付くように重力を操る。
そして抜き足差し足忍び足で窓に近寄って室内の様子を伺い、核爆弾が見つからなければすぐに次の部屋へと向かう。
そんなことを何度か繰り返していると、やがて四階に目標物を発見した。
「ふえっ!?」
大きな物音を立てたつもりはないが、オールマイトは私の個性を知っている。
自分の行動を先読みして窓の外も警戒していたようで、バッチリ視線が合ってしまう。
しばらく見つめ合ったまま固まっていた。
すると目標物の目の前に立つナンバーワンヒーローが、挑発的な笑みを向けてくる。
「どうした? 斥流少女? まさか、ヴィランが怖いのかね?」
別にヴィランは怖くないが、オールマイトには若干の苦手意識がある。
しかし核爆弾に触れるか、拘束しない限りは私の勝利はない。
彼が持ち場を離れるわけがないし、留年を回避するためにも敗北は避けたかった。
なので単位を取得するためにも勝利が望ましく、覚悟を決めて大きく息を吸う。
次にお決まりの台詞を叫んで気合を入れ、窓を蹴破ってビルの内部に侵入する。
「私が! 来た!」
「その意気だ! 斥流少女!」
嬉しそうな表情を浮かべるオールマイトだが、核爆弾を譲るつもりはないようだ。
私はすぐに抑制を一段階まで解除し、彼を避けて目標物に近づこうとする。
(核弾頭を重力操作で動かせれば、楽だけど)
だが迂闊に動かすと爆破する可能性もあるため、なるべく触れずに確保するに越したことはない。
それに戦闘の余波でビルが壊れるのも避けたいが、何をするにもオールマイトが妨害してくるのは目に見えている。
「おっと! 何処に行こうというのかね!」
窓から侵入してすぐに核弾頭に向かって駆け出すと、予想通りにナンバーワンヒーローが回り込んできた。
やはり近づかせるつもりはないようだ。
「くっ!」
抑制を解除するほど力加減が難しくなり、周辺への被害が広がる。
修行でも二段階は滅多に使わないし、今回の訓練には過剰であった。
なのであまり出力を上げるわけにはいかず、この状態でやるしかない。
「退いて!」
「それはできない相談だ!」
危険物がある密室で、真正面からオールマイトと殴り合う。
衝撃に耐えきれずにビルが倒壊する可能性もあるので、床や柱に当たるのも避けなければいけない。
受け止めたり捌いたりして勢いを殺して戦うため、やることが多すぎて目が回りそうであった。
「斥流少女! やはり強いね!」
オールマイトが褒めてくれるが、こっちは十五分という時間制限がある。
正直、相手の攻撃に対処するのに手一杯で、まともに返事をする余裕はなかった。
ヴィランなら多少は派手に暴れても全然平気なので、現状はあちらの方が有利に思える。
「さあ、どうする!」
オールマイトに強烈な一撃を叩き込まれた私は、咄嗟に両腕をクロスして防いだ。
それでも壁際まで後退させられて、目標である核弾頭から遠ざかってしまう。
大したダメージではなくても、そろそろ制限時間に余裕がなくなってきた。
内心で焦り始めた私は、相手との射線を考えながら高速で駆ける。
そして懐から玩具のコインを数枚取り出して、次々と撃ち出した。
「むっ! そう来たか!」
当然のように彼も予想していて、オールマイトなら容易く見切れるため、全弾を拳で弾かれて明後日の方向に飛んでいく。
けれど最初からこの程度で止められるとは思っておらず、私はその隙に核弾頭に向かって走る。
「なるほど! コインは囮か! だがっ!」
彼の横をすり抜けようとした私を迎え撃つために、オールマイトが先に行かせまいと立ち塞がる。
解放状態になると煌めく粒子が常に放出されていて無駄に目立つのもあるが、高速戦闘に付いてこれるのは流石であった。
しかし彼が自分を止めようとした瞬間、背後から勢い良く飛んできたコインが次々と当たり、不意打ちを受けたナンバーワンヒーローは大きくよろめいた。
「ぐっ! こっ、これは! まさか!」
避けたと思って油断すると考えて、重力操作でコインを呼び戻したのだ。もし読んでいても、多方向からの攻撃されては対処は困難だ。
実際に防御も間に合わなかったので、いくら増強系の個性を使うナンバーワンヒーローでも、一瞬とはいえ動きが止まった。
「私の個性は、重力を操る」
さらにダメ押しとばかりに、バランスを崩して隙を作った彼に向けて、お決まりの技を放つ。
「重力加速! 二倍!」
「シット!?」
加速が足りずに威力も抑えめな飛び蹴りは、残念ながらガードされてしまった。
しかし不安定な姿勢で受けたので、オールマイトを部屋の壁際まで吹き飛ばすことができた。
核弾頭から遠ざけられたのは大きく、私はこの機会を逃さずに目標まで一直線に走る。
そして制限時間がなくなるギリギリで、何とかタッチすることができたのだった。
決着がついたあとはモニタールームに戻り、他の戦闘訓練と同じで公評である。
オールマイトは私に出し抜かれたのに、とても嬉しそうだった。
「教え子が優秀だと、先生としては嬉しいものさ!」
私を免許が欲しいだけでヒーローをする気はない。
少し申し訳ないけれど、そんなことは向こうもわかっているだろう。
すぐに先生は、眩しい笑顔で堂々と言い放った。
「斥流少女との戦闘訓練は、資料映像として使わせて欲しいのだが! 良いかね!」
「えっ? あっ、うん」
私とオールマイトの戦いから、何を学ぶのかは不明である。
だが優秀なヒーローが増えれば、日本の治安は良くなる。
自分や家族や知り合いの身の安全にも繋がるので、取りあえず許可を出しておく。
とにかく戦闘訓練は無事に終了した。
初日の授業で赤点を取らなくて良かったと、ホッと胸を撫で下ろす。
本日の授業が全て終わり、いつも通りに荷物をまとめて帰ろうとする。
ふと窓の外を見ると、夕日をバックに怪我をした緑谷君と爆豪君が何やら話しているのを見つけた。
常人よりも感覚が優れている私なら問題なく聞き取れるが、オールマイトも混ざって何だか面倒そうな予感がする。
それに他人の会話を盗み聞きするのは良くない。
別に非常時でもないし、私はすぐにその場を離れて教室に戻った。
しばらくは椅子に座り、持ってきた本を読んで適当に時間を潰す。
一区切りしたら鞄を持って、普段通りにマイペースに下校するのだった。