重力少女のヒーローアカデミア   作:縞猫

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学級委員長

 雄英高校で戦闘訓練を行い、次の日になった。

 私と麗日(うららか)さんが登校すると、正門の前に大勢のマスコミが集まっていた。

 良く見ると緑谷君がマイクを向けられ、インタビューを受けている。

 

キミっ! オールマイトの授業はどんな感じですか!」

「僕! 保健室にいかなきゃいけなくて!」

 

 そう言って緑谷君は、慌てて校内に入っていった。

 次にマスコミは私たちのことに気づいたようで、麗日(うららか)さんにマイクを向ける。

 

「平和の象徴が教壇に立っている様子を、聞かせてください!」

「よっ、様子!? ええと、……筋骨隆々! です!」

 

 何とも微妙なコメントではあるが、最初から答える気が全くない私よりはマシだ。

 仲の良い友人や家族とは違い、マスコミの相手は面倒で疲れる。

 こっちに何の得もないし、やるだけ損であった。

 

斥流ちゃん! 雄英高校の授業の感想を!」

斥流ちゃん! 平和の象徴について、どう思われますか!」

斥流ちゃんがオールマイトの後継者というのは、本当なのですか!」

 

 私はマイクを向けられても何も答えず、無言でマスコミたちをかき分けて校内に入っていく。

 何故か自分の取材に熱が入っているのを実感しつつ、オールマイトを目当てで集まってきているはずなのにと疑問に思う。

 

 ちなみに麗日さんも後ろをついてくるが、取材された経験はあまりないのか緊張していた。

 

 それでも何とか正門を抜けて一息ついた私は、何となく後ろを振り返る。

 今度は飯田(いいだ)君が捕まり、真面目にインタビューを受けていた。

 マスコミが望む答えかはともかく、物怖じせずに堂々と喋れるのは素直に凄い。

 

 だがまあ何にせよ、平和の象徴が雄英高校の教師を務めるのだ。

 全国の人々やマスコミを、大いに驚かせたのは間違いない。

 少しでも情報を得ようと正門前に殺到するのも無理はなく、しばらくはとても混雑しそうだと溜息を吐くのだった。

 

 

 

 そんな面倒な事情はともかくとして、私は一年A組の教室に到着する。

 いつも通りに相澤先生の授業を受けるのだが、まずは昨日の戦闘訓練の反省が始まった。

 自分としては別に何もなかったので、トントン拍子にホームルームの本題に入る。

 

「急で悪いが、今日は君らに学級委員長を決めてもらう」

「「「学校っぽいの来たー!!!」」」

 

 また型破りなヒーロー科の授業をやると思っていた。

 良い意味で予想を裏切られて、ホッと息を吐く。

 

 ちなみに普通は、学級委員長など誰もやりたがらない。

 少なくとも自分が通っていた小中学校ではそうだったが、雄英高校では何故か皆がこぞって立候補するのだ。

 

 疑問に思った私は首を傾げつつ、緑谷君に小声で尋ねる。

 

「ヒーロー科の委員長は集団を導く、トップヒーローの素地を鍛えられる役なんだ」

「へえ、そうなんだ」

 

 ヒーローについて聞けば、大抵何でも答えてくれる。

 それに彼もちゃっかり立候補しようとしているので、普段は引っ込み思案な緑谷君も憧れは止められないらしい。

 

 だがここで飯田(いいだ)君が突然立ち上がり、大きな声を出す。

 

「静粛にしたまえ!」

 

 騒がしかった教室が、一気に静まり返った。

 

「他を牽引する! 責任重大な仕事だぞ!」

 

 私は確かにと思いつつ、他の生徒と同じように飯田君に注目する。

 

「やりたい者が、やれるものではないだろ! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務!

 民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めると言うなら! これは投票で決めるべき議案!」

 

 などと言いつつも高々と手を上げている飯田君に、皆がツッコミを入れる。

 

 だがしかし、私たちはまだ出会って間がなく信頼も何もない。

 皆がトップヒーローを目指しているなら、誰もが自分に投票するはずだ。

 

「だからこそ! ここで複数表取った者こそが! 真に相応しい人間ということにならないか!

 どうでしょうか! 先生!」

 

 飯田君が相澤先生に許可を求めると、本職のヒーローは気怠そうに返事をする。

 

「時間内に決めりゃ、何でもいいよ」

 

 そう言って寝袋を横にして、睡眠モードに入った。

 少なくともホームルーム中は、教師としての仕事をするつもりはないようだ。

 良い言い方をすれば、生徒の自主性に任せるである。

 しかし、本当にそれで良いのかと私は頭を抱えたくなるのだった。

 

 

 

 その後、飯田(いいだ)君が取り仕切る形で投票を行った。

 すぐに結果が明らかになったが、黒板に書かれたそれを見て、私は思わず絶叫してしまう。

 

「私が三票!? 何でえっ!?

 

 小中学校の頃にも、委員長を任されることはあった。

 しかしそれは面倒な役職を押し付けられたからで、私もそこまで真面目に仕事はしていなかったので別にいいのだ。

 

 けれど雄英高校では、トップヒーローとしての素地を鍛えるために自ら立候補するほど熱心である。

 流石にあり得ない結果で異議を唱えたくなり、つい大声を出してしまう。

 

「飯田君に入れたのに!」

「応援ありがとう! 斥流君! 力及ばずに残念だ!」

 

 私としては、飯田君のような真面目なタイプが向いていると思った。

 けれど残念ながら彼は、票数が足りない。

 

 自分が委員長で、次票の八百万(やおよろず)さんが副委員長を務めることになる。

 

「んじゃぁ、委員長は斥流(せきりゅう)。副委員長は八百万(やおよろず)だ」

 

 担任である相澤先生に言われては仕方がない。私は渋々ながら席から立ち上がって、教卓の前へと歩いて行く。

 

 今年こそは委員長をやらずに済むと思っていたが、結果はご覧の有様だ。

 

 大きく溜息を吐いてしまうが、クラスメイトには好評のようである。

 本心からの投票なので、自分の何処に期待される要素があるのはさっぱりわからない。

 

「いいんじゃないかしら」

「斥流ちゃんは、何だかんだで熱いしな!

 八百万(やおよろず)は、公評の時のが格好良かったし!」

 

 蛙吹(あすい)さんと切島(きりしま)君が褒めてくれるが、それでもやる気はあまり上がらない。

 けれど、決まってしまった以上は仕方ない。

 

 小中学校のように諦めて割り切り、必要最低限の仕事だけはすることに決める。

 だがまずは教卓に顔が隠れないように、専用の踏み台を用意するのだった。

 

 

 

 委員長に選ばれたのは仕方ないし、雑用係は面倒でも一年A組のクラスメイトは好意的だ。

 ちゃんと指示すれば仕事を手伝ってくれるので、小中学校と比べればかなり楽である。

 

 なので少しでも前向きに考えながら、昼の休憩時間に数少ない友人たちと大食堂に向かう。

 

 中に入ると相変わらずの大盛況であり、取りあえず空いている席を探して腰を下ろす。

 そして先程注文した料理を机に置いて、スプーンを持っていただきますをした。

 

「おおー、今日も凄い人だね!」

「ヒーロー科の他に、経営科やサポート科の生徒も一堂に会するからな」

 

 緑谷君や麗日さん、飯田君と一緒に食堂に来ているが、自分は特に喋ることはない。

 何故か小学生低学年から成長しない体を心配され、クックヒーローのランチラッシュの厚意で小さな旗を立てたり、たくさん食べて大きくなるようにと大盛りにされたオムライスをスプーンで崩す。

 

 私は見た目相応で子供っぽい味が好きだし、ケチャップソースのオムライスは嫌いではない。

 なの一人だけ黙々と口に運びながら、皆の会話に耳を傾けていた。

 

「しかし斥流さんの、ここぞという時の胆力や判断力は、他を牽引するに値する。

 だからキミに投票したのだ。選ばれなくても悔いはない」

 

 飯田君がカレーを食べながら喋りかけてきたので、私は一旦手を止めて率直な感想を口に出す。

 

「でも私は、飯田君に投票した」

「その件は力及ばす、本当に申し訳ない」

 

 彼が私を信頼してくれた証なので、別に悪いことではないのだ。

 しかしただの雑用係ならともかく、やはり自分は皆の期待を背負うような人格者ではなかった。

 

 だがそれを口にしても意味はなく、飯田君を余計に傷つけるだけだろうし黙っておく。

 

「やりたいと、相応しいか否かは別の話。

 僕は僕の、正しいと思う判断をしたまでだ」

「ん? いつもは俺って」

 

 彼の発言に緑谷君が疑問を抱くが、飯田君は少し戸惑っていた。

 

「ずっと思ってたけど、飯田君って坊っちゃん!?」

 

 麗日さんまで突っつき始めるので、ますます収集がつかなくなる。

 

「そう言われるのが嫌で、一人称を変えていたんだが」

 

 露骨に顔を背けて呟きを漏らすが、彼にも色々あるようだ。

 一方で私は殆ど会話に入らずに、オムライスの牙城を黙々と崩していた。

 

「ああ、俺の家は代々ヒーロー一家なんで、俺はその次男だよ」

 

 緑谷君と麗日さんが同時に驚きの声をあげるので、ヒーロー一家は凄いということで知る。

 さらにターボヒーロー、インゲニウムの名前を出したことで緑谷君が反応した。

 

 その後の会話の流れから、超大手事務所の次男坊で、有名ヒーローの兄に憧れて尊敬していることがわかる。

 ヒーローオタクは大興奮であった。

 

「なんか、初めて笑ったかもね! 飯田君!」

 

 麗日さんが飯田君の変化に気づいて嬉しそうに声をかけた。

 

「そうだったか? 笑うぞ? 俺は」

 

 私はその様子を見て、緑谷君にとってのオールマイトが、飯田君にとってのインゲニウムなのだと理解した。

 

 だが彼らが話している間にオムライスの牙城をあと少しで攻略し終えそうになったとき、突然けたたましい警報音が鳴り響く。

 

「警報!?」

 

 大食堂に集まっている生徒たちが皆、驚き戸惑っていると、続いて機会音声が流れる。

 

「セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは、速やかに屋内に避難してください」

 

 私にとっては、雄英高校に来て日が浅い。

 普通の学校生活を想像していたのに、まさか警報が鳴るとは完全に予想外だ。

 

「セキュリティ3って何ですか!」

 

 飯田君もわからないようで、隣の生徒に質問するとすぐに答えてくれた。

 

「校舎内に、誰かが侵入してきたってことだよ!」

 

 雄英高校に侵入する人なんて居るのかと内心で驚いても、私は相変わらずオムライスを食べ続けていた。

 

「こんなの初めてだ! キミも早く!」

 

 親切な人で良かったと思ったが、彼は焦った表情で一目散に走り去る。

 いくら何でも取り乱しすぎじゃないかと呆れたものの、自分がヤバい事件に遭遇しすぎて感覚が麻痺しているだけかも知れない。

 

「斥流さんは、随分と落ち着いているね!」

「慣れてるから」

 

 私は全く動じずに、黙々とオムライスを処理し続けている。

 焦った表情の飯田君が声をかけても、我関せずであった。

 

 自分は事件に巻き込まれるのは慣れているし、侵入者がヴィランならぶっ飛ばせばいい。

 それにここには教師を務めているプロヒーローが大勢居るので、彼らに任せれば何とかなるはずだ。

 

 やがてマイペースな私はオムライスをようやく食べ終わり、ごちそうさまをして席から立ち上がる。

 そのまま食器を返却しに行くと、緑谷君たちは何とも言えない表情でその様子を見送っていた。

 

 今日も美味しかったと食堂の人に率直な感想を告げたあと、いつも通りに一年A組に帰ろうとすると、唯一の出入り口が人混みに塞がれていて通れない。

 

「わあ、大変」

「今気づいたの!?」

 

 緑谷君が鋭いツッコミを入れるが、私は落ち着いたものだ。

 焦っても仕方ないので取りあえず適当な椅子に座り、何気なく窓の外を眺める。

 するとここで、あることに気づいた。

 

「マスコミが入ってきてる?」

「何だと!? ……本当だ!」

「ええっ! じゃあ、侵入者って!」

「マスコミってこと!?」

 

 私がのんびりしているからか、緑谷君や麗日さんや飯田君も出入り口に向かうのではなく、食堂に留まっていた。

 そして彼らも窓から外を見て、問題の侵入者を発見する。

 

「皆さん! 落ち着いてください!」

 

 マスコミの侵入に気づいた飯田君が、その場で大きな声を出す。

 しかし、混乱は広がるばかりで誰も聞いてくれない。

 

「麗日君! 俺を! 浮かせろ!」

 

 ここで何かを思いついたのか、飯田君は麗日さんにタッチしてもらい宙に浮く。

 

「エンジン! ブースト!」

 

 次に脚部のマフラーを吹かして、唯一の出入り口に回転しながら突っ込んでいく。

 私には何がしたいのかは良くわからないが、大声で叫びながらなのでとても目立つ。

 

「飯田君ー!?」

 

 緑谷君が彼の身を案じるものの、間一髪で壁にぶつかるまえ非常口のランプの上に足を乗せる。

 上手い具合に着地に成功したので、私をホッと息を吐いた。

 

「皆さん! 大丈ー夫っ!」

 

 一瞬にして全員の視線が集中し、彼は足を震わせながらも大声で説明を続ける。

 

「ただのマスコミです! 何もパニックになることはありません!

 大丈夫! ここは雄英! 最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!」

 

 飯田君のおかげで混乱は徐々に収まり、皆は落ち着きを取り戻していく。

 私はその様子を遠くから眺め、自分はそこまで積極的には動かない。

 彼はヒーローらしい素晴らしい機転と判断力だと、とても感心するのだった。

 

 

 

 昼食を終えて教室に戻ったあとは、他の委員決めを執り行うことになっている。

 教卓の前に立って踏み台に足を乗せる私の隣には、八百万(やおよろず)さんが控えていた。

 

 けれど、これから順番に決めていく前にコホンと咳払いをして、一つ意見を言わせてもらう。

 

「委員長は、飯田天哉(いいだてんや)君が相応しい」

「ええっ!?」

 

 すぐ隣の八百万さんが驚くが、構うことなく言葉を続ける。

 

「私はヒーローを目指さないし、積極的に人を導くタイプでもない。

 でも、飯田君は違う。大食堂の混乱を静めたのは、彼。

 格好良かった」

 

 私はヒーローに憧れていないが、あの時の飯田君は少しだけ格好良かった。

 それに堂々と意見を口に出して皆を引っ張っていくのも、彼には向いている。

 

「俺はそれでもいいぜ。斥流ちゃんも、そう言ってるし。

 飯田、食堂で超活躍したしな」

 

 切島鋭児郎(きりしまえいじろう)君だけでなく、上鳴電気(かみなりでんき)君も賛成のようだ。

 

「時間が勿体ない。何でもいいから早く進めろ」

 

 相澤先生が起きて催促するので、私は飯田君をじっと見つめる。

 彼は少し迷ったものの、やがて大きな声を出す。

 

「委員長の指名ならば仕方あるまい!

 以後はこの飯田天哉(いいだてんや)が、委員長の責務を全力で果たすことを約束します!」

 

 ビシッと決める飯田君に、多くの生徒が温かい声援がかける。

 

「任せたぜ! 非常口!」

「非常口! 飯田! しっかりやれよー!」

 

 その様子を見ていると、相変わらず一年A組はノリが良い。

 私はとてもついて行けないが、この雰囲気は嫌いではなかった。

 

 ちなみに隣の八百万(やおよろず)さんが、斥流ちゃんと一緒が良かったと嘆いていた。

 けれど積極性や協調性、義務感が薄い自分にはヒーロー科の委員長は向いてない。

 

 飯田さんに任せたほうが上手く管理できるので、何とか説得して交代を認めてもらうのだった。

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